第39話 豪傑との戦いの行方

 赤文字合格者が練兵場に集められた理由は各部隊長選抜試験の為だった。

 その中には先日会場で声をかけられたカウンさんの姿も。


「それではこれから予めこちらで決めてきた相手と戦ってもらいます。総当りだと時間がかかりますのでこちらで組み分けして任意で選んだ人と一人三試合を行い、その結果を元に部隊長の人選を決めていく予定です。皆さんから何か質問はありますか?」


 その話を聞いていた一人の男が声を上げた。


「それって強い奴が部隊長になるって事か?」


「そうです。あなた達は自分より弱い人の下で働きたくないという人が多そうですからね。面接と実技試験、推薦状などの情報を考慮してあなた達を候補として選びました。この方法なら概ね納得してくれるのではないでしょうか?」


「なるほど、総当たりでも俺は構わねえが、組分けして三試合もやれば十分そいつの強さはわかるだろう。俺はそれでいいぜ」


「それでは他の方も異議はございませんか?」


 皆、無言だから異議はなさそうだ。

 どうせ勝手に決められても文句は出るだろうしな。


「それでは異議なしと認め、これから試合を行ってもらいます。ルールとしては試合時間は五分間。時間切れは引き分けで気絶するか参ったと言えば負けになります。あと、魔法は使用禁止にさせて頂きます。今回はその人の純粋な武術の強さを重視してますので」


「「「応!」」」


 試験の時に俺は魔法も使用したはずだが、それだけでなく武術の強さもしっかり見てくれていたのかな。試験官も見るところは見てるんだな。


 組分けはここに呼ばれた十二人を三組に分け、四人でその組の頂点を争う方式だ。

 勝ち点制になっていて、勝ちは3点、引き分けは1点、負けは0点。上位の人物が同じ勝ち点で並んだならばそれらの人達でまた戦って一位の人物を決める。全員の勝ち点が一緒で並んだ場合はもう一度初めから再試合らしい。俺は全勝で一気に決めるつもりだ。


 だが、俺が組み入れられた組は……なんとカウンさんが一緒の組だった。

 カウンさんとは最後の第三試合で当たる予定だ。

 お互いに目を合わせ、ニヤリと微笑む俺とカウンさん。


「カウンさん、よろしくお願いします」


「それがしこそよろしく頼む。お互いに良い試合をしようぞ」


 それぞれ練習用で木製の剣先や穂先が丸まって刃がない得意な武器を持ち、最初の対戦相手と向かい合う。今回、俺は槍を手にしていた。各試合区域には審判が置かれていつでも試合を開始出来る体制が整う。


 そこで、同じ組の俺の初戦の相手から声をかけられた。


「おい、あんたは従魔も一緒に戦うのか?」


 そういえばそうだ。従魔も一緒に戦うと俺が有利になるよな。

 ルール上、従魔を使ってはいけないと言われていないけど、後でそいつの実力ではなく従魔の力で勝ったと陰口を言われるのが想像出来る。最初からコルとマナには出番を控えてもらうつもりだったが、改めて言葉にして言っておこう。


「いや、俺の従魔は戦闘に参加しませんよ。戦うのは俺だけです」


「そうか、ならいいんだ」


『コル、マナ。悪いけど今回はおまえ達の出番はなしだ。あっちに行ってそこで待っていてくれ』


『私と弟が出る幕はなさそうですね。あちらで大人しく待っています』

『わかりました主様。見たところ主様に勝てるような人はいなそうなので対戦相手を軽く捻ってきてください』


 まあ、俺は従魔抜きでも負けるつもりはないけどね。でも、おまえらの俺への信頼度は揺るぎないな。


「それでは始め!」


 俺の初戦の相手は剣士の人だ。

 試合開始と同時に俺を攻め立てようとする。さすがにこの場に呼ばれるだけあって一般レベルを超えた鍛え抜かれた強さと速さだが、まだその速さでは俺の槍の間合いの内側に入るのは不可能だ。


「ヤァッ!」


 突いてこようとする剣を槍でいなしながら何度も弾き返し、相手が剣を構え直したところを早業でその剣を叩き落とす。後は相手の喉元に寸止めで槍を突き入れて終了だ。


「ま、参った。俺の負けだ」


 相手は力なくその場に崩れ落ちた。まずは一勝。

 横を見るとカウンさんも丁度試合が終わったところだった。


 そして対戦相手を入れ替えて二試合目。


「ヤァッ!」


 二人目の相手も撃破。今回の相手も常人レベルを上回る鍛え抜かれた強さだったが、俺の攻撃はそれを更に凌駕する圧倒的な強さだった。


「あんた、化け物みたいな強さだな。俺の完敗だ。この強さなら負けても納得だ」


 他人からはそう見えるのだろうか。強さを褒めてくれるその言葉は自信に繋がる。


 少しの休憩の後、とうとう三試合目の時間が来た。対するはカウンさん。

 この前は社交辞令なのか俺を持ち上げてくれていたけど、俺の勘ではカウンさんは今までの対戦相手を更に上回る相当な使い手と見ている。何というか、纏っている雰囲気が半端じゃない。


「カウンさん、どちらが勝っても負けても良い試合をしましょう」


「エリオ殿、戦場での実戦ではないが漢と漢の勝負。腕が鳴るというもの!」


「お互いに用意はよろしいか。それでは始め!」


 審判の掛け声を合図にカウンさんは猛然と槍の連続攻撃を繰り出してきた。

 最初から全力で手加減なしの猛攻ともいえる波状攻撃だ。

 見事な槍捌きで的確に俺の嫌がりそうな部位を狙ってくる。

 しかも緩急織り交ぜてタイミングをずらしながら、俺の受けを惑わせるように槍の動きに変化を付けるという高等技術だ。


「!」


 最初は相手の出方を見ようと受けに回ったが、これほどまでの強さとは。もしかしたら何かの称号持ちなのではないだろうか?


 俺が槍術のスキルを獲得したのがつい最近なので、感覚的に思考と体の動きがまだ完全にリンクしてないようだ。序盤のカウンさんの猛攻にはその思考と体の動きを馴染ませる為の時間が若干必要で受け身に回らざるを得なかった。しかし、それに慣れてきた俺はその猛攻を凌ぎきりカウンさんとの距離を取る事に成功した。


「さすがですな! それがしの猛攻を受けても軸がほとんどブレていない。それも時間が進むに従ってより一層軸がビシッと安定してきて強さを増している。こんな強敵と相まみえる事が出来るなんて武人として最高の誉れですぞ」


「こっちこそカウンさんみたいな人と戦う事が出来て嬉しくて仕方ないですよ」


 またお互いの間合いに入り、槍を打ち合う。

 俺とカウンさんはお互いに木製の武器が悲鳴を上げるほどの打ち合いを続けた。


『カン!カン!カキン!』


 よし、思考と体の動きが噛み合うようになってきた。

 俺は槍の柄を一層強く握りしめ一気に怒涛のような攻撃に転じる。


『カン!カン!カキン!』


 さすがにカウンさんといえども、俺の思考と体の動きが一体となった槍捌きの前では大きな力の差があるようで彼は何も出来ずに必死に防戦するのみだ。申し訳ないがそろそろ勝負を決めさせてもらおう!


「これで決まりだ!」


 俺はカウンさんの槍を巻き飛ばして空中に放り投げる。

 そして、無手になったカウンさんの首元に槍を突きつけた。


「参った! 見事なり!」


 カウンさんが自ら負けを認め、それを見て審判から声がかかる。


「それまで! 勝負あり!」


 お互いに後ろに下がり健闘を称えるかのように軽く礼をする。


「良い勝負でしたカウンさん」


「見事に貴殿に負け申した。最後は圧倒されて何も出来ず手も足も出なかった。ここまで圧倒されると悔しさも何もなく、むしろ清々しい気持ちでいっぱいですな。それがしも腕に覚えがあり誰よりも強いと自負しておりましたが、いとも簡単にその鼻っ柱を打ち砕かれました。それがしはエリオ殿のような強さを持つ者は今まで生きてきて他に知りませんな」


「いや、カウンさんこそ今まで俺が戦った中で一番強かったですよ」


「ワッハッハ、そう言ってもらえると嬉しいですな。失った自信も戻ってきそうです」


 これでこの組では俺が三戦全勝で組の頂点に立ったのか。

 他の組も結果が出たらしく、それぞれその組の頂点が決まったようだ。

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