第23話 朽ちた古い建物

 ダムドの街を出て西へ西へと向かって旅を続けてからかなりの日数が経過した。


 初日は野宿だったが、次の日を含めて何日か置きに訪れた集落や村で、小さいながらも民宿に泊まる事が出来たのは嬉しかった。普通の家の使っていない部屋やスペースを簡易的に宿の部屋として提供してくれているので、ベッドだけが置いてあるような床が土のままの素泊まりの部屋だったが、屋根があればそれだけでも十分に思えたからだ。


 それに、大きな個体や見た目が怖い従魔は恐れられて宿泊を敬遠されがちだが、我が従魔のコルとマナはパッと見てサイズも見た目も許容範囲で親しみやすく、俺の言う事を反抗せずにしっかりと良く聞く従魔なので、試しに二匹を手で撫でさせてあげるとその賢さと大人しさに皆驚いていた。


 宿を出て今日も旅の途に就く。

 今の季節は暑くもなく寒くもなく、長旅をするには丁度良い季節だ。

 俺が歩いているのは裏街道なので、道の脇には手つかずの自然が大きく広がり、野生の木の実や野いちごなどの食べられる物が豊富にあって、それを摘んだり眺めたりしながら歩いているから長い道中でも飽きが来ない。


 試しに摘んだ野いちごをコルとマナにあげたら、野いちごは食べても平気らしく二匹とも美味しそうに食べていた。


 野草関連はいつでもそこら中で採取出来るので、旅に必要な量はすぐに確保出来る。ただ、肉系統の食材は新鮮な物が徐々になくなってきているのでそろそろ補充したい。


「コル、マナ。今日は途中で道から森の中に入って狩りをするからな」


『『ワオ』』


「それでさ、おまえ達は歩いていて何となく食べられそうな動物が居そうな雰囲気の場所を見つけたらそこへ案内してくれないか」


『ワウ』『ワオッ』


「おう、二匹とも頼もしいな」


 後はコイツらが食料として食べられそうな動物の気配を見つけてくれるのを待ちながら歩いていけば良い。出来れば兎系や鹿系の動物もしくはその系統の魔獣なら良いが、肉が食用になるのなら基本的に何でもいいや。何を見つけるかによってコルとマナのグルメ度がどの程度のものなのかその実力が伺い知れるというものだ。


 探索をコルとマナに任せてのどかな風景を暫くテクテクと歩いていくと、コルとマナが歩みを止めて何かを見つけたのか同時に反応した。


 二匹は同時に振り向き俺の顔を仰ぎ見て「見つけたけどどうするの?」とでも言いたげな表情をして俺の言葉を待っている。


「おまえら獲物になりそうな対象を見つけたのか?」


『『ワウゥ』』


 そうだよという意味合いっぽい返事が返ってきた。


「そうか、よし行こう。コル、マナ。案内してくれ」


 俺の指示を受けた二匹が森の中へ向けて走り出していく。

 その二匹の姿を後ろから追いかけていく俺。


 クソー、走る速度を手加減しながら俺に気遣っていてもこの二匹は速いな。

 二匹とも信頼出来る強さだし、本来なら二匹に狩りまで任せてしまえば勝手に仕留めてくれるのだが、それでは俺の技術の練習にならないので普段は二匹に追い込んでもらい仕留めるのは自分でやるようにしている。


 木々の合間を縫いながら走っていくと、徐々にコルとマナは速度を落とし始めた。獲物に近づいたようなので俺も走る速度を緩め、出来るだけ足音を立てないようにコルとマナの傍に近づく。


 二匹の見ている方向に目を向けると、遠くに大きな角を持った野生の鹿型の動物が地面に顔を近づけて草を食べていた。見た感じだと魔獣なのか動物なのか判別はつかないが、食用の肉にするには充分な大きさだった。


 魔獣と違い動物だと、自発的に人間を襲わない種類がほとんどなので、俺の方に追い込む役割りをしてくれるコルとマナの存在はとてもありがたいものなのだ。


 背中に背負った剣を鞘から引き抜きコルとマナに小さな呟き声で指示を出す。


「あの獲物の追い込みと誘導を頼む」


 指示を受けた二匹は無言で左右に別れ、気づかれずに対象の後ろに回りこむべく音を立てずに走っていく。回り込んだら後は巧みに対象を誘導して俺の方に追い込んでくるのが二匹の役目。そして最後に俺が剣で対象を仕留める役目だ。


 俺も草むらに身を屈めて気配を出来るだけ消せば準備完了だ。

 そうしているうちにコルとマナが対象の向こう側に到着したようだ。


 二匹は存在感を出しながら姿を現して対象を威嚇する。それに気付いて驚いた対象がこちらへ向かって駆け出してきた。同時に従魔の二匹は対象が走っていく方向が俺からズレないように、斜め後方の位置から走る角度を調整しながら俺に向かって追い込んでくる。


 コルとマナの誘導によって脇に逃げる隙も与えられないまま対象はこちらへと真っ直ぐに向かってきた。


 よし、上手いぞ。


『『ワオン!』』


 バトンタッチとばかりにコルとマナが俺に合図を送るのを受けて、俺は一気にその場で立ち上がり、こちらへ向かってくる鹿型の対象に向かってすれ違いざまに剣を摺り上げる。首筋をズバッと俺の一太刀で切断された相手は、そのまま暫く進んだ後に前足から崩れていきながら地面にどっと倒れた。


 俺と従魔達の連携攻撃が見事に決まったな。

 倒した相手の処理をしてマジックバッグの中に収める。

 これで暫くは野宿をしても新鮮な肉に困る事はない。


「コル、マナ。おまえ達のおかげだな」


 二匹を撫でながら褒めてやると、嬉しそうに尻尾を振りながらじゃれついてきた。

 はあ、この幸福感。コイツらの主人として従魔使い冥利に尽きるというものだ。


 そのまま暫く幸せの余韻に浸っていたのだが、何かを察知したのかコルとマナが急に真剣な雰囲気を出して立ち上がり、森の奥の方を見た後に俺の方に振り向いて何かを伝えるように首を振りながらあっちへ行こうよとしきりに促してくる。


「コル、マナ。あっちに何かあるのか?」


 俺の問いに軽く頷くように首を傾け二匹とも走り出していく。


「おい、ちょっと待ってくれ。わかったから先に行くなって」


 速度を落としてくれた従魔に追いつき俺もその方向へ向けて進んでいく。

 そして森の中を走っていくと前方に何かが見えてきた。

 遠くから見ると建物のように見える。何でこんなところに建物が?


 徐々に近づいて行くとその建物の姿が見えてきた。

 そこにあったのは建物には間違いないが、既に朽ちていて壁には蔦が絡みついている廃墟のような古い建物だった。


 コルとマナに案内されて辿り着いた場所には朽ちた古い建物があった。

 ぱっと見た感じだと既に廃墟のようで人が住んでいるようには見えない。長く放置されていたのか、あちこちが今にも崩れそうなほどにぼろぼろになっていて、後はこのまま自然に任して崩れていくのを待っているだけのように見えた。


 暫くの間その建物を眺めて立っていると、何かに気がついたのかコルとマナが建物の方に向けて軽く威嚇の声を上げた。

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