第24話 称号獲得

 コルとマナが軽く威嚇したので何かいるのかなと建物を見ると、扉が壊れて外れた建物の入口から大きな狼型の魔獣が俺達の前に姿を現した。ひと目見ただけでかなりの強さだとわかる雰囲気を全身から醸し出し、辺りを睥睨するように見回したその眼は知性と凶暴さが共存していて、見る者全てを恐れさせるような光を放っていた。


 どうやら俺達はこの廃墟のような朽ちた建物でとんでもない魔獣と鉢合わせしてしまったようだ。


 さすがに魔獣に詳しくない俺でもわかる。

 いきなり出てきたあの魔獣は雰囲気からして相当な強さを持っている。今の俺では単独であの魔獣に勝てるかどうかわからない。そんな脅威を感じて冷や汗が額から頬にかけて流れてきた。どうすればいい。逃げ出すか、それとも戦うべきか。


 俺が必死に考えていると、何を思ったのかコルとマナが狼型の魔獣に向かって歩きながら無造作に近づいていくではないか!


「コル、マナ! 帰ってこい! そいつは危険だ!」


 焦った俺は大声を出して呼び止めようとするが、二匹の従魔は俺の声が聞こえていないかのように歩みを進めてどんどん魔獣との距離が詰まってくる。


 このままではコルとマナといえども危険だ。

 クソッタレ! こうなったら戦うしかないか。

 戦う意思を固めた俺は地面を蹴り、急いでコル達の元へと走り出した。


 走りながら背負った剣を抜いて攻撃の準備に入る。


 間合いまであと少し……


 その時だった。

 狼型の魔獣はこちらから攻撃する意思がないどころか、逆らう気もありませんと言わんばかりに、姿勢を低くして身を縮めながら尻尾を丸めてコルとマナの顔色を上目使いで伺っている。


 はあ、何だこれ?

 一体全体どうなってるの?


 それだけでなく、狼型の魔獣にコル達が顔を寄せて、コル達と狼型の魔獣との間で言葉を交わすように意思疎通をしているようだ。


 よく状況がわからないが、戦いは回避されたみたいで俺もほっと一安心だよ。

 だけど、予期せぬ展開に思考が全然追いついていかない。


 暫くコル達は話し合っていたようだが、ようやく話がついたのか三匹とも立ち上がり俺の方に顔を向けた。そして狼の魔獣は一礼するかのように俺に向かって頭を深く下げ、回れ右をして静かにその場から去っていった。そう、まるでこの朽ちて古びた家の見張りとしての役目は今日限りで終わったとでもいうように。


 それよりも、あんな強そうな魔獣が尻尾を丸めてコルとマナに怯えるような態度をしてたけど、おまえら何者なんだよ?


 大体、コイツらの事は主人の俺でもよくわかってないからなぁ。

 まあ、今はその考えを脇に追いやってとりあえずこの建物の探索でもするか。


「コル、マナ。まだ建物の中に魔獣がいるのか?」


 二匹は同時に首を横に振る。

 どうやらあの一匹だけで他にはいないようだ。まあ、あんな奴がいたら他の魔獣だって恐れてこの建物に近づいてこないよな。


「よし、この建物の中に入ってみよう」


 あちこち朽ちて古びているが、今すぐに崩れそうという訳ではなさそうだ。

 意を決して建物の中に足を踏み入れる。


 中は少しかび臭く、ずっと手入れがされてないようで人が住んでいる気配は全くなさそうだ。この場所は街道から外れた森の中の奥深くにあり、今まで人に見つからずに荒らされた形跡がなかったのか、古い割には家具や調度品がその当時のままであろう場所にそのまま置いてあった。


「こんなところに誰が住んでいたのだろうか?」


 街道からは遠く、俺が通ってきた近くの集落までは半日ほどの距離だ。街を離れて誰かが静かに隠棲してたような感じだな。建物の状態からかなり大昔の家なのだろう。持ち主は何かの用事で出かけた先で亡くなってしまったのだろうか。住む人が居なくなって放置されたまま誰からも忘れ去られてしまったと思える。


 数部屋あった部屋を覗いてみたけど価値のあるような物はなさそうだ。

 武器や防具の類などがあるかなと期待したけどそれもなかった。


 もうこの家に用はないと思い、扉から外に出ていこうとすると、マナが俺のズボンの裾を咥えてまだこの建物から出ていくのは早いというようにその場に引き留められた。もしかしてさっきの魔獣に何か聞いたのかな?


「どうしたんだマナ。まだこの家に何かあるのか?」


『ワウゥ』


 付いて来いという感じで俺の前を歩いて行く。

 向かった先ではコルが壁の一箇所をジッと見ている。

 壁は崩れかけていて穴が空いている。


「コル、穴の空いた壁を見つめてどうしたんだ?」


『ワウッ』


 するとコルは前足を使って壁の穴をガリガリと大きく広げ始めた。


「おい、コル。いくら何でも壁を壊しちゃ駄目だろ」


 注意するけどコルは一向に止める気配はない。

 見る見るうちに壁の穴は広げられてしまい、その奥は空洞になっていた。

 どうやら壁は二重構造になっていて中にはちょっとした空間があるようだ。

 コルが壁を壊すのを止めて穴の中を見ろというように顎をしゃくる。


「そこに何かあるんだな」


 コルに促されて壁の穴に近づき中を覗いて見ると、そこには鉄で作られた持ち手のある箱が置いてあった。コルが壁の穴を広げてくれたのでその箱を取り出せそうだ。俺は壁の穴の中に手を突っ込んで持ち手を掴み、持ち上げて穴から鉄の箱を取り出して床に置いた。


 取り出した鉄の箱を観察してみると、装飾も何もない無骨なただの箱で一見すると大事な物が入っているようには見えない。留め金があるからこれを外せば開くのかな?


「とりあえず開けてみるか」


 見た感じでは罠とかなさそうだ。俺は留め金を外して鉄の箱の蓋を開く。そして箱の中にあった物を見て驚いた。


「こ、これは!」


 そう、鉄の箱の中に収められていた物は金色に輝く宝玉だったのだ。

 それも一つだけでなく二つもある! 確か聞いた話によると金色の玉は赤い玉より上位の超レア玉だったような。


 俺は震える手で箱の中から二つの玉を左右の手で掴み上げ、眩く光り輝く玉を見ながら感動に打ち震えていた。


 またもやコルとマナが宝玉を見つけてくれたのだ。

 コイツらはただの野良犬どころか俺にとって超優秀な従魔じゃないか!

 二匹を見ると、俺の為に何かをするのはまるで当然かのように俺を見上げている。


「コル、マナ。ありがとうな」


 コルとマナに礼を言う。


『『ワウッ』』


 ハハ。礼には及ばないってか。


 そうだ、この玉がどんな物なのか確かめておかないと。力を吸収するかどうかも判断しないといけないからな。元の持ち主にも断っておこう。


「大昔にこの家に住んでいた人よ。この玉は俺が使わせて貰うよ」


 まず、左手に持った玉を胸に近づける。

 力をくれと念じると前にスキルを獲得した時と同じ荘厳な声が聞こえてきた。


『この玉の力、称号【武の達人】の力をお主は欲するか? 答えよ』


 おお、この玉に封じられていたのは称号だったのか!


 この称号の効果は、今持っている武術系のスキルにレベル4の効果を上乗せして、尚且つスキルを持っていなくても他の武術系スキルがレベル4と同等の力を発揮出来るらしい。今は持っていない武術系スキルを新たに獲得すれば、最初の説明と同じようにレベル4の効果がそのスキルに上乗せされる。


 凄い、この称号の効果はとにかく凄い。

 レベルの上乗せだけでなく、持っていない武術系スキルもレベル4と同等の効果が発揮されるのか。なら、今現在槍術や体術のスキルがなくてもレベル4相当の技量が備わるという事か。


 これは当然この玉の力を吸収するべきだ。しないという選択肢はない。


「はい、この玉の力が欲しいです」


 お決まりのやり取りをした後に、玉の力は俺の体に吸収された。

 感動が冷めやらないうちに次の玉も早速胸に近づけてみる。


 先程と同じく荘厳な声が聞こえてきた。

 今度はどんな効果がある玉なんだろうか?


『この玉の力、称号【統治統率者】の力をお主は欲するか? 答えよ』


 おお、これも何やら凄そうな称号だ!

 えーと、称号【統治統率者】とは、魅力やカリスマが上がり称号の持ち主に敵意を持たない者が影響下になりやすく、持ち主の仲間や影響下にある者達の能力や士気を上昇させる効果がある。これは支配下の魔獣にも適用される。しかも統治や統率についての知識や判断力。人としての高位の品格や風格も備わるとな。


 こっちも破格の効果があるとんでもない称号だな。

 高度な知識や判断力の獲得に加えて周りにも能力上昇効果があるのか。

 コルとマナにも適用されるならこの称号も当然吸収するべきだ。


「はい、この玉の力が欲しいです」


 またさっきと同じやり取りを経てこの玉の力は俺にしっかりと吸収された。


「よし、やった!」


 狩りのついでの寄り道でこんなとんでもない幸運が舞い込んでくるなんて思いもよらなかった。俺は興奮してその場で飛び上がって喜んだのだった。

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