第22話 旅立ち

 ドイルさんと別れた後、泊まっていた宿を引き払い俺はこのダムドの街から旅立つべく街の出口に向かっていた。今日は朝から良く晴れて空気も清々しく感じる。絶好の旅立ち日和と言えよう。俺の脇を歩いているコルとマナも心なしか浮き浮きとして弾みながら歩いているように見える。


「コル、マナ。これからもよろしくな」


『『ワオン!』』


 うん、二匹とも元気な返事だ。俺もおまえ達の主人として嬉しいぞ。


 街の門まで来ると、今日の当番なのだろうか衛兵のホルトさんがそこに立っていた。そうだ、この街で色々と世話になったホルトさんにも旅立ちの挨拶をしていかなきゃな。


「ホルトさんこんちは」


 俺の挨拶に気がついたホルトさんもこちらに顔を向けて笑顔で挨拶を返してきた。


「よう、エリオじゃないか」


「ホルトさん。実は俺、今からこの街を引き払って出ていくとこなんですよ」


 俺の言葉に最初は何を言ってるのか意味が掴めなかったホルトさんだが、俺の真剣な眼差しを見て冗談ではないと確信したようだ。神妙な面持ちで俺に向かって話し始めた。


「……そうなのか、エリオはこの街を出ていくのか。そいつは随分と寂しくなるな。でも、エリオ本人が決めた事だからな。私は喜んで君の旅立ちを見送らせてもらうぞ。何かの機会があったらいつかまたこのダムドの街へ来てくれよ。その従魔もせっかく仲間になったのだから大切にするんだぞ」


「はい、ありがとうございます。ホルトさんにもお世話になりました。またいつか」


「おう、またなエリオ」


 最後はお互いに笑顔で手を振り俺は門を出ていく。そうして色々な思い出が詰まったダムドの街に俺は別れを告げたのだった。


 ◇◇◇


 さて、俺のこれからだが。

 とりあえず、今まで行った事のない場所に行きたいと思っている。

 子供の頃から親父に連れられて各地を転々としていたが、既に親父はいないし今度は俺一人の旅だ。


「一人旅か。この先どうなることやら」


『『わう?』』


「いや、ごめんよ」


 そうだ、今の俺は一人じゃない。コルとマナという可愛い従魔が一緒だったっけ。わかったから俺にガツンと体当たりしてくんなよ。おまえらの体当たりは地味に痛いんだよ。


 話が逸れたので元に戻すが、どこを目的地にするのかは決めないで行こうと思ってる。そもそも力を身に付けた俺に何が出来るのか、俺はこの先どういう方向に進むべきなのか。今までのような冒険者だけでなく他にどんな可能性があるのか。今すぐ答えが出る訳でもないし、見聞を広めて俺という存在がこの世界でどういう形で必要とされているのか少しでも知りたいのだ。


 以前の俺は底辺で力もなく、日々の生活を毎日食い繋げれば御の字くらいにしか考えていなかった。将来への漠然とした不安がいつも付きまとっていた。ただ、俺は自分の境遇を他のせいにはしたくなかったので、自分以外の全てを恨んで自暴自棄になったりはしなかった。


 そのおかげかどうかわからないが、これといったスキルがない底辺の俺でも神の慈悲なのかただの偶然なのか知らないが、全てを諦めなかった俺に予想外の幸運が舞い込んできたのかもしれないな。


 本当に人生とは何が起こるかわからないものだ。

 自分が経験したからこそしみじみとそう思う俺であった。


 それでとりあえずの行き先だが、ダムドの街から西の方角へ向かおうと思う。

 東の方角は俺が過去に住んでいた事があるので行く方角からは外した。

 西の方角にはほとんど知識がなく、俺にとっては未知の地域なので凄く興味がある。


 なにせダムドの街はこの国の中では特徴もない田舎の辺境にある小さな街なので、他の地域の詳しい情報があまり入って来ない。そういう情報を知ってそうな商人とは付き合いがなかったし、ダムドには他の街から遠征して来る冒険者や傭兵もほとんどいなかったので、俺が知る得る情報自体が少なかったのだ。


 そういう訳で、西方には大きな大国があるくらいは何となく知っていたのでそっち方面を目指してみようかと思う。ハハ、我ながら適当だなぁ。


 街を出る際に旅に必要なテントや毛布などの必需品は新たに仕入れてきた。

 街道や山道の途中に街や村が必ずしもあるとは限らないので、そんな時は野宿もしなくちゃいけない。


 食い物は途中で野生の動物などの狩りをしながら行けば何とかなるだろう。

 蓄えが尽きたら最悪の場合は従魔のコルとマナに獲物を獲ってきてもらえばいい。

 あと、自嘲する訳ではないが俺は底辺だったおかげで野草関係には詳しいからな。道中に食べられる野草はいっぱいあるだろうから贅沢をしなければ食い物には困りはしないはずだ。


 そんな風に考えながら歩いていたら早速道端に食べられる野草を見つけた。

 ここは薬草拾いの本領発揮といくか。でも、そんな称号だけは欲しくないぞ。


「コル、マナ。ちょっとだけ待っていてくれ」


 二匹にそう言って道の脇の草むらに入っていく。

 思った通りキュバという名の野草だ。これは炒めても煮込んでも美味しい野草なので採取出来るのはありがたい。手持ちの肉と一緒に煮込んでスープにしよう。


 充分な量のキュバが採れたので適当なところで切り上げて道を先に進む。

 少しの間だったのでコルとマナも寝そべりながら大人しく待っていてくれた。

 俺が歩いている道は裏街道なので道は細く、人の行き交う姿をほとんど見ない。

 ここまで歩いてきてすれ違ったのは地元の木こりらしき一人だけだ。


 途中で家が数軒しかない小さな集落があったが、山から木を切り出す人達でも住んでいるのだろうか。丸太がいっぱい積んであった。


 もし、俺が火事で焼けた家を建て直していたらあの丸太のどれかが俺の家の柱になっていたのだろうか。うん、確かにあの丸太は太くて真っ直ぐだし柱にするには良さそうだ。


 まだ日が高いので何度か休憩しながら道なりにどんどん進んでいく。

 夕方までに泊まれそうな村や集落が見つかればいいけど、なければないで野宿するだけだ。コルとマナもいるし、元々一人で暮らしていたから寂しいという気持ちはないのでこういう旅も悪くない。


 結局、その後は街や村は見つからなかったが、日が暮れる前に水場を発見したので今夜はここを野宿の場所とする。


 そこらへんに転がっていた石で竈を作り、さっき摘んでおいたキュバと軽く焼いた肉を、水から沸かしたお湯が湯気を立てている鍋に入れ、灰汁を取りながら煮込んでいく。コルとマナの分は先に深めの木の皿に焼いただけの肉をよそっておき、鍋の方は仕上げに香辛料と香り付けの香草を入れてひと煮立ち。さあ、出来上がりだ。


 熱々の肉入りスープを木の皿によそり、俺の分は街で買っておいた小さな木の台の上に置く。そして先によそっておいたコルとマナの分の肉を二匹の前に置く。


「よし、肉とキュバのスープが出来たぞ。おまえ達はこっちをお食べ」


『『わう!』』


 基本的にコイツらは何でも食う雑食らしく、しかも極めて少食なものだからほとんど手間がかからない。細かく気を使わなくて済むから楽な従魔だよ。


 食べ終わって片付けたら眠くなってきた。

 そろそろ明日に備えて眠るとしよう。

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