第11話 いきなりの戦闘

 教会で新しく取得したスキルを確認した俺は、その足で昨日薬草を採取した草原に走りながら向かっていた。


 そこで走りながら気がついたのだが、明らかに新スキルを取得する前と後では俺の身体能力に格段の差がある事がわかった。とにかく走るのが凄く速くなって身体的にも余裕なのだ。


 そういえば、前にギルドでスキルの説明を受けた時の講師の言葉が俺の頭の中に蘇ってきた。あの時の講師はこう言っていたはずだ。


『この世界では能力の上昇を称号やスキルによって賄われているケースがほとんどです。基礎的な身体能力は各人によって多少の違いはありますがほぼ同じと考えていいでしょう。でも、スキルや称号を取得する事でそれに相応しいだけの各種能力を得られるのです。スキルのレベルが高くなればそれだけ強大な各種能力を身につけられると言われています』


 つまり、あの時の講師の言葉を俺に当て嵌めると…

 俺は最低限、剣術レベル5のスキルに相応しいだけの各種能力などをスキル取得と同時に手に入れた事になる。


 今、こうやって走っていても以前と違って楽にこなせるのは、俺の身体能力が宝玉を吸収する前と比べて比較にならないほど増大した証明なのだろう。


 試しに走りながら飛び上がってみる。


「とりゃ!」


 すると、俺の体は俺の背の高さ以上にまで飛び上がり、一緒に走っていたコルとマナが走りながら下から俺を見上げていた。


 その高さからでも難なく着地出来た俺は今度は速い動きを試してみる。体を振りながらジグザグに走ったり道端の左右に生えている草を掴んでみたり。

 凄い、凄すぎる! 今までとは比較にならないくらい段違いに速くなってる。それもその動きが普通に苦もなく出来るのだ。


 速い動きを止めてふと前方を見ると、力試しに丁度良さそうな岩が道の脇にあったので今度は自分の力がどれくらい上がったのか試してみよう。


 その岩に近づいていく。

 以前の俺ならこの岩を持ち上げるなんてとてもじゃないけど無理だった。

 さて、今の俺はどうだろうか?


 腰を落とし岩を両手で抱え力を入れていく。


 すると、あっけなく岩は俺の力で持ち上がってしまった。

 しかも、重たいどころか軽く感じるぞ。

 まさか本当に軽い岩だったのかもしれないと思い、そのまま投げてみる。

 俺に投げられた岩は放物線を描いて飛んでいき、『ズシン!』という大きな音を立てて地面に落っこちた。


 それを見て確信した。

 やっぱり俺の身体能力は滅茶苦茶高く強くなっているんだ。


 後は聖魔法の確認だな。

 俺は自分の体に向けて『ヒール』と唱えてみる。

 すると、俺の体から魔力が放出される感覚の後に俺の体全体を白く淡い光が包んだ。体全体が少し暖かくなり、手の甲にあった擦り傷が治ってしまった。使える回数は不明だが、回復薬以外の方法で体力回復や治療が出来るのは大きなアドバンテージだな。


 魔力は使ったが、特に体が疲れるという事はなく体の調子は先程と変わらなかった。行使する時の魔力量や魔力効率の関係で多くの人は数回の使用だけでも魔力量が枯渇してしまう場合が多いと聞いていたが、俺は今のところ大丈夫そうだ。


 今出来る大方の検証はやってみた。

 その結果、全ての能力が軒並み大幅に上昇していた。


 それも、宝玉を見つけてくれたコルとマナのおかげだ。

 ここは改めてしっかりとお礼を言わなくちゃな。


「コル、マナ。おまえらのおかげで俺は強くなった。二匹とも宝玉を見つけてきてくれてありがとうな」


 礼を言うと、二匹はそれくらいどうって事ないさと顎をしゃくって俺に寄り添ってきた。


 ハハ、本当に可愛い奴らだ。


 そうこうしているうちに昨日の草原に到着した。

 薬草はまだたくさんあるから今日も腕が鳴るぜ。


「コル、マナ。遊びながらで構わないからまた今日も周囲のパトロールを頼むぞ」


『『ワウン!』』


 承知したとばかりに返事をして駆け出していく二匹達。

 それを見送った俺は恒例の薬草採取だ。

 一心不乱にせっせと薬草を摘んでいく。


 どれくらいの時間が経っただろうか、遠くの方からコルかマナのどちらかの吠え声が聞こえてきた。周囲のパトロールから一旦帰ってきたようだな。俺は薬草を摘む手を止めて従魔の帰りを待つ事にした。


 ガサガサと音のする方角を見ると、コルとマナが同時に姿を現して俺の方へ駆けてきた。二匹とも嬉しそうな顔で俺に向かって走ってくる。


 あれ? でも何か様子が変だぞ。

 二匹の後ろからもっと大きなドスドスとした足音らしき音が聞こえてくる。


 よく見ると二匹の後方から黒い大きな生き物が続けて走ってくるじゃないか!


 その生き物の姿を見て俺は驚愕する。

 それはダムド周辺地域では上位で強い魔獣と知られているブラッドベアーだった。


「ちょ、待てよ!」


 何でいきなりこんなのが出てくるんだ。

 この魔獣ってもっと奥の方に行かないと出てこない魔獣だろ。

 ここらへんに出現したなんて情報はギルドになかったはずだぞ。


 しかも、コルとマナが俺の方へ向かって来るからブラッドベアーもその二匹を追いかけてこちらへ向かってくる。これ、どうすりゃいいんだよ!?


 どうする、どうする。

 必死になって考えるがすぐには結論が出ない。

 そうだ、とりあえず俺も逃げよう!


 手に持っていた薬草を放り出し、俺もコルやマナと一緒になって逃げ出す。

 身体能力が上がった俺ならすぐに引き離せるかと思ったけど、能力は上昇してもここは結構足場が悪くて、まだこのような場所を速く走るのに慣れていない経験不足な俺よりも林や森に慣れている魔獣のブラッドベアーの走る速度が少しだけ速そうだ。たぶん街道筋に出る前にぎりぎり追いつかれるだろう。


 走りながら後ろを振り返ると、コルとマナが楽しそうに尻尾を振りながら俺の後を付いて来てるけど、この状況で何でそんなに嬉しそうなんだよ!


 えーい! もうこうなったら仕方ない。

 逃げるのを諦めて俺が戦うしかない。


 その場に停止して体をブラッドベアーの方に向け、背中に背負った剣の柄に手をかけ、その剣を鞘から引き抜きながら大声を出す。


「コル、マナ! 俺から離れてろ! コイツは俺が何とかする!」


 どうにか出来るかなんてまるで自信がないけど、こうなったら開き直ってやるしかない。俺の声に反応したコルとマナが左右に分かれて俺の横に回り込んでくる。


 うおっ! 巨大なブラッドベアーが俺に向かって突っ込んでくる。

 怖くて逃げ出したくなるけどここはやるっきゃない。


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