海路
俺達は数日間エムルの勢力を削り取った。
奴らが法律を犯しているわけではないので罪にはならないが、要注意人物として国の監視を厳しくすることは出来る。
オガの港で俺を見送る魔王はにこやかだった。
「魔王、エムルが居なくなるからって機嫌がいいなおい!」
「何を言っているのだ?皆の出向を笑顔で見送るのは王の務めだ。王たる者不安を顔に出してはいけないのだ!」
お前!エムルが事件を起こした時、顔に出まくっていたじゃないか!
「やっぱり魔王とエムルは親子だ。似ている」
魔王が俺の肩に手を置いた。
「ウイン、人格の否定は良くない。言っていい事と悪い事がある」
魔王がきりっとした顔をして言った。
その『悪い事は言ってはいけませんよ』みたいな教師のような顔はなんなんだ?
その余裕何なんだ?
だが俺は知っている。
最近魔王の機嫌がどんどん良くなり、最近では愛馬のスピードホースに【シュナイズ】と名前を付けて乗馬を楽しんでいる事を。
エムルという厄災を領土外に追い出した事で、安堵と喜びの感情が透けて見える。
魔王だけではなく文官の機嫌も良くなった。
奴らは自らに火の粉が及ぶとセイラを切り捨てるほどエムル対策を徹底している。
エムルが街を出る瞬間ののびのびとしたあの表情は一生忘れないだろう。
だがこいつ、民衆には人気なんだよな。
いつもニコニコとほほ笑み、しぐさも上品ではある。
皆エムルの内面を知らない。
出航の瞬間「エムル様ーがんばってー!」と満面の笑みで港の者が手を振る。
にこやかに手を振り返すエムル。
皆、騙されてるぞ。
船で出航すると、海の香りと強めの風が気持ちいい。
ベリーは風で舞い上がりそうになるスカートを抑え続ける。
ガードが堅いな。
「中に入りましょう。風が強いわ」
「そうだな」
船内に入るとルナはテーブル一杯にスイーツを展開していた。
「ティータイムにしましょう。本日はベリーの好きなイチゴのスイーツですわ。このショートケーキのイチゴはそのまま食べるには酸味が強すぎますが、スイーツと合わせる事で真価を発揮するイチゴですわ。アーサー王国の三大スイーツ店で取り合いになるほど貴重でしたが、量産の目途が付きましたのよ。今から行くヤマトも楽しみですわね。この大陸とは違い、ライスを使ったスイーツが多いのですわ。もちろん小麦のスイーツもありますが、ヤマトに多いもちもちとした食感の新たなスイーツに心が躍りますわね。アーサー王国のスイーツ文化とヤマトのスイーツの融合も期待できますわ」
話長!
しかもルナの口はしゃべるか、スイーツを頬張るかして常に動き続けている。
ルナの背の小ささともぐもぐと口を動かし続けるその動きは小動物を思わせる。
周りの人の目が無くなり、しかもヤマトへの旅でテンションが上がっているのだろう。
それに比ベリーの表情は少し暗い。
「ヤマトと言えばベッドの上で使える48の奥義があるんだ」
「その話は無しだ」
エムルのテンションも高い。
その分ベリーの表情がさえないのが気になる。
「お菓子を食べよう」
「そうですわ。さ、ベリーもどうぞ」
ルナもベリーの様子を察している。
ベリーはショートケーキを食べる。
ベリーは次の日もその次の日も元気が無かった。
風が穏やかな朝、ベリーは外に出て海を見ていた。
「今日は風が吹かないな」
「そうね」
「天気も悪くない」
「そうね」
ベリーは自分の首輪を撫でていた。
ベリーは不安があるといつも首輪を撫でる。
「ベリー、言いたくなければ言わなくていい。でも、何かあれば言ってくれ。助けになれるかもしれない」
「ありがとう。私、昔ヤマトに居たの。でも今は言いたくないわ」
「分かった」
無理に聞き出す気はない。
でも、言いたくなったら言って欲しい。
その時、突風が巻き起った。
ベリーのスカートがめくれ上がる。
「……」
「……」
「今日は良い事があるかもしれな」
「無いわよ!もう!忘れてよ!」
ベリーは俺を軽く何度も叩いてきた。
ベリーは何かを抱えているのかもしれない。
でも、今は気が逸れて良かったのかもしれない。
パンツも見れたし。
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