【ルナ視点】スイーツジャック

 私達はアーサー王国の王都に帰還した。


 結局私はレベル100に到達出来なかった。

 未開地の魔物はほぼ他の3人が討伐し、私は寝ている事が多かった。

 戦闘に参加しても他の3人のように早く魔物を倒せない。


 でも、いいのですわ。

 ウインのストレージには大量の最高級のお菓子素材が入っています。

 これでお菓子業界の未来は変わりますわ。


「英雄ウインが帰還したぞ!」

「みんな並べ!出迎えるぞ!」

「ぼくもならぶーー!」

 ウインが王都の門をくぐると国民からはパレードのように迎えられた。


 すぐに宿屋にチェックインした。

 わたくし達は重鎮のような対応を受け、過剰なほどのサービスを受けた。



「ウイン、わたくしはすぐにお父様への報告と、素材の受け渡しに行きたいのですわ」

「そうだな。カニをみんなに配りたい」

「エビも配れるわね」

「そうだな」

「早く素材の受け渡しに行きますわよ」




 お父様とホープ大臣はウインの出した素材を見てあわただしく動きだした。

「これだけの量があれば、一気に食料不足を解消できますぞ!それまでに農地開拓を終わらせれば食料生産も軌道に乗ります!」

「だが、カニとエビの料理はアーサー王国になじみが無い」


「レシピはここにありますわ」

 私は紙を取り出す。


「すぐにシェフを呼べ!」

「シェフに作ってもらいますぞ!」

 お父様とホープ大臣は同時に叫び、笑った。


 ウインの力で食料不足が解決し、周りが笑顔になった。

 ウインの力で国は良くなっている。

 ウインがいなければ無いパイを少しずつ分配するしかなかった。


 だがウインはパイの数を増やした。

 更に未開地の魔物の脅威すら解決した。

 お父様とホープ大臣の笑顔にはプレッシャーから解放された安心感が大きいように思う。

 私は素材を市場に流す采配を一任された。




 ◇




 私はその後、魔物の素材を市場や他の都市に引き渡した。特にカニはアーサー王国、ディアブロ王国に料理のレシピとともに分配した。ウインの意向を汲んでの事だった。


「ふう。お菓子の素材以外は分配し終わりましたね。ここからです」

 ルナは王都にあるスイーツ店の代表者をすべて招集した。三大スイーツ店のパティシエと経営者が前に座り、その後ろには他のスイーツ店の関係者がずらりと並んでいた。


「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。連絡してあったハニービーのはちみつ・シュガートレント・ビックぴよの卵、この3つの分配を行います!」


 ざわざわざわ


 私は3つの素材を皆の前に出す。


 おおおおおおお!

 歓声が響く。

「この素材の分配方法ですが、ウイン一行の為にスイーツの提供をお願いしたいのです。ウイン一行が出発するまで3日の猶予があります。それまでにたくさんのスイーツを供給出来たスイーツ店に多く素材を提供します」


「うちは1000ホールのケーキを出す!」

「うちは1500だ!」

「3000!」



 さらにルナの快進撃は続いた。

 大人向けのスイーツの販路拡大、スイーツコロシアムの企画立案、スイーツ孤児院プロジェクトの推進。

 スイーツ業界の活性化と、スイーツの売り上げの5%を孤児院に寄付するプロジェクトにより孤児院の資金不足は解消された。




 3日後

「ふう!やり遂げました。これで心置きなくディアブロ王国の外周探索に動き出せます!」


「ルナ、大丈夫か?」

「はい!私は満足です!」

「いや、新聞見たか?」


「なにかありましたか?」

「ルナの記事が載ってるんだ」

「見せてください!」

 私は新聞に目を凝らした。



「これは!!」

 新聞の見出しに、『スイーツ姫のスイーツジャック!!』という記事が面白おかしく書かれていた。

 スイーツ店では3日間ルナに渡すスイーツを作り続けた。そのことによってその間スイーツ店は一斉休業したのだ。


「こ、こんなはずでは!私は魔物の肉もカニもお肉も大量に売却しています!なぜスイーツの記事だけが取り上げられるのですか!?」


 実際にアーサー王国がデイブックからの大量の移民を受け入れたことで、一時的に食料不足になっていた。ウイン一行のおかげで大量の肉が供給され、アーサー王国の問題を救っていたのだが、ルナのスイーツ記事の方が新聞の売れ行きが良くなるのだ。


「ちゃんと書かれているだろ」

「一行で済ませていますわ!それ以外は全部わたくしのスイーツ姫を強調する記事が書かれていますのよ!抗議が必要ですわね!」

「もう出発の時間だ」





 スイーツ姫の件がルナにばれてから、マスコミもスイーツ店もタガが外れた。

 スイーツ姫を前面に押し出した売り上げアップを行うようになったのだ。

 そしてもちろん、ルナが出発するタイミングを見計らうようにルナの面白記事を投下する。

 ディアブロ王国に旅立てばルナの記事が連載される事はすでに決まっているのだ。





「さあ、ディアブロ王国に行くぞ!」

「そんな!もう少し!ここに居ましょう!このままではまた私の変なイメージが定着してしまいます」

 俺はルナを抱えて王都を出発した。





 ◇




 王城では王・ウォール・ホープ大臣で会議が続く。

 大量の食料供給で市場の微調整が何度も重ねられる。


「ウイン一行のおかげで嬉しい悲鳴が聞こえてくる」

「そうですな。少し休憩にしましょう。ルナ王女が考案したスイーツを用意してあります」


 そこには、

 スイーツ姫のはちみつレモン

 スイーツ姫のはちみつシャーベット

 スイーツ姫の異次元シュークリーム

 スイーツ姫のビタープリンが並んでいた。


 三大スイーツ店はこぞってルナ王女を連想させる名前を使い、売り上げを競い、オリジナリティのある商品を出し合うスイーツ業界の戦国時代の幕が開けていた。


「おお!スイーツ姫シリーズか!」

「はい。甘いものが苦手なウォールにもこのはちみつレモンとビタープリンは食べられるはずです」

 ウォールがはちみつレモンとビタープリンに口をつけた。


「これは!旨い!」

 はちみつレモンは甘みを抑えられており、酸味が良い刺激になって飲みやすい。

 さらにビタープリンはカラメルを多めにし、苦みが強めで甘さ控えめだ。甘いものが苦手なウォールにもおいしく食べることが出来た。


「さすがはルナたん!もっとも功績が大きいのはウイン殿だがな」

「その通りです。聞けばこのビタープリンもウイン殿が作ったものだとか。さらにこの短期間で大量の魔物の肉の供給が出来たのもウイン殿抜きでは考えられませんでした」


「私も同じ考えです。おそらく、死に物狂いで我々の為に戦ったのでしょう」


 実際は違っていた。ウインはキャンプ気分で楽しみながら魔物狩りをしていた。

 ウイン一行は笑顔でいることが多い探索だった。


「ルナたんとウイン一行の記事で、新聞社は一か月はネタに困らないだろう」

 実際にその後毎日のようにウインとルナの記事が新聞を彩り、新聞の売り上げは爆増した。


「我々も頑張るとしましょう。これからさらにデイブックからの移民が流入しますぞ。住居の建築、区画整理、犯罪の未然防止、やる事は山積みですぞ」

 ホープ大臣の目に光が宿る。


 

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