【元勇者視点】奪う者

 俺は最強の勇者だ。

 俺は勇者パーティーで英雄としてリーダーを務めてきた。

 俺は特別な人間だ。



「だが何故毎日魔物の群れに投げ込まれるんだ!」

 俺はゴブリンキングのバグズに毎日魔物の群れに投げ込まれていた。


「ふはははは!悪いのは弱いお前だ!お前が弱いから鍛えてやっている」

「俺は強い!それに投げられなくても魔物と闘う!」

「よそ見するな!囲まれているぞ!」


「魔物の群れに投げ込まれたからだ!ぐ、おりゃああ!」

 俺は森の中でアサルトボアの群れに投げ込まれ、囲まれながら戦う。


「お前はまだ弱い。必死で戦え。死ぬぞ!」

 そう言いながらバグズはアサルトボアを倒していく。


 俺は剣を振ってアサルトボアを倒していく。

「ふ、俺だって、このくらい余裕だ」

「アサルトボアが減った。今の内に自慢のスキルを使ったらどうだ?」


「ぐ、ドレイン!」

 ドレインのスキルで生命力を対象から吸い取ることが出来る。

 生命力の吸い取りに失敗する事が多い上に、成功してもわずかに傷が治り、わずかに疲れが取れ、わずかに魔力が回復するだけだ。

 唯一のメリットは遠くにいる対象にも使える事だ。


 アサルトボアにドレインが成功してわずかに傷が治るが、アサルトボアが俺を睨みつけた。

 俺に向かって突撃を開始し、後ろに居たアサルトボアも俺をターゲットにした。


「ぐう!まずい!」

 俺は後ろに走る。

「また逃げるか」

「ち、違う!間合いを取っているだけだ!」

 俺は大木によじ登る。


「ドレイン!ドレイン!ドレイン!ドレイン!ドレイン!ドレイン!」

 木の上からドレインを何度も使う。


「ふははははははは!間抜けらしい戦い方だ!」

「ち、違う!これは作戦だ!ドレイン!ドレイン!ドレイン!ドレイン!ドレイン!ドレイン!」

 アサルトボアが連続でドレインを受けて倒れていく。


「ドレインだけでアサルトボアを倒したか。次から木の上で戦わせてやろうか?間抜けにぴったりの戦いだ」

「間抜けじゃない!ドレイン!ドレイン!ドレイン!ドレイン!ドレイン!ドレイン!」


 バグズは斥候のゴブリンと話をしている。

 何を話しているか聞き取れない。

 バグズが帰っていく。


「おい!どこに行く!」

「帰る!」

「お!俺を置いていくな!」

「なんだ?助けて欲しいのか?木に登って戦うのが作戦なんだろ?」


「助けは必要ないが、一緒に戦ってもいい」

「助けは要らないか。なら帰る」

「おい待て!本当に帰るのか!おい!」


 俺はその後、ドレインでアサルトボアを倒し続けた。






「ドレイン!ドレイン!や、やっと全滅させた」

 がさがさと音がする。

 

 斥候ゴブリンが出てくるが後ろからアサルトボアの群れがついてくる。

 斥候ゴブリンは気配を消して俺にアサルトボアのターゲットを押し付ける。

 まさか!ずっと俺を戦わせる気か!

 俺はその日から魔物の群れに投げ飛ばされる事は無くなったが、動けなくなるまで木の上でドレインを使って魔物を倒す事になった。




 ◇




 ついに待ちに待ったこの日が来た。

 俺のレベルは上がった。

 たくさんの魔物を狩った。

 ここから俺の英雄伝説が始まる。


 今は序列14位の不遇扱いだが、皆に真の実力を見せる。


 序列13位のエースゴブリンと俺が武器を構えて対峙する。




 ……俺は地面に転がっていた。

 

 バグズが見下したように俺を見た。

 その目をやめろ!

「また負けたか!間抜けが!」


「やっぱりブレイブは無能ね!ぎゃはははははは!」

 マリーも俺をバカにするように笑う。

 周りのゴブリンも皆俺を笑う。


「俺は間抜けじゃない!絶対に上に行く!」

「そうか!ならば鍛えてやろう!ありがたく思えよ!がはははははは!」

 バグズが俺の首を掴んで魔物狩りへと向かう。


 俺が一番になる!

 絶対にみんなを跪かせてやる!




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