【勇者視点】落ちた勇者

 目を覚ますと体中が激痛に襲われる。

「が、あがああ、ぐうがあああああ!!」

「さわぐな、がまんが、ひつようだ」


 グラブの声が聞こえる。

 俺は何度も目を覚まし、激痛で気を失った。

 時間の感覚が曖昧だ。

 移動していたのは覚えている。




 周りにゴブリンが多くなる。

 移動が終わっても激痛と気絶を繰り返す。

 


 いつの間にか激痛は和らぐがそれでも激痛は激痛だ。

「グラブは、どこだ?」


「グラブはいない。出かけた」

 ゴブリンが答える。

 自分の体を見るとゴブリンと同じ緑色に変わっていた。

 俺は、ゴブリンになったのか?

 この俺が?

 勇者であるこの俺が!?


 体が痛い。

「鎮痛剤や薬は無いのか?」

「無い」

 

 大きいゴブリンが俺の前に立った。

「目覚めたか、なら戦え!」

「だれ、だ?」

「俺はバグズ、ここのボスをやっている」

 そう言って魔剣を投げつけてきた。


「命令するな!俺に物を投げるな!見下すなよ!」

 バグズは俺を殴る。


「言う事を聞け!」

「命令、するな!ぐはあ!」

 また殴られる。


 くそ!この俺を殴って許されるわけがない!

 俺を!なぐ……

 俺は何度も殴られ、気を失った。




 目が覚めると、近くにいたゴブリンが慌てて走り去った。

 バグズが現れて俺を殴って気絶させる。

 その後3回同じことを繰り返した。


 体が痛みがなければ、俺は負けない。

 今は体中が痛い!

 体がうまく動かない!




 また目覚めると、バグズの隣にグラブが居た。

「はなしは、きいた。バグズ。まずはぶれいぶに、たべさせろ。そろそろしんで、しまう」


「ふん、まだまだ弱い雑魚が。次から俺の言う事を聞け」

 バグズが立ち去る。


「ぶれいぶ、バグズは、すぐなぐる。さからうな。いまたべるもの、をもってくる」

「俺は、負けない!本調子になりさえすれば誰にも負けない!」

「……まずは、たべろ。ちょうしを、もどせ」


 俺は出された物を食べて眠り、食べて眠った。

 まだ体が痛くてうまく動かない。



「ブレイブ!無様ね!」

 振り返るとマリーがいた。

 体の色は緑色に変わっていたがマリーだ。

 間違いない。


「マリーか。おまえも似たようなものだろ」

「あんたのせいじゃないの!あんたが私を助けないからこうなったのよ!」

「自分の無能を人のせいにするな」


「あんただって魔物になってるじゃないの!」

「ぐふふ、マリー、ゴブリンを産んだばかりだが、元気そうだ」

「ひい!バグズ様!い、いえ、まだ体の具合が悪いです」


「俺と一緒に来い!」

「い、いえ!まだ調子が悪いです!」

「いいから来い!」

 マリーはバグズに体を掴まれて、奥へと消えていった。


 バグズ、マリー。

 まだ調子が悪いが、前よりだいぶ良くなった。

 この調子なら体調が戻るのは数日だ。


 体調が戻ったら、2人とも倒して俺の部下にしてやる。




 ◇




「体調が、戻った」

 やる事は決まっている。


「バグズ!勝負しろ!」

「いいだろう」

 バグズは口角を釣り上げた。



 夜になり、周りにかがり火がつけられ、俺はバグズと対峙した。

 お互いに漆黒の両手剣を構え、お互いに睨み合う。

 周りにはエースゴブリンやマリーの姿もあった。


 

「言っておくが俺は勇者だ!俺の力を見せてやる」

「ふ、ふははははははは!勇者か!お前!自分のステータスを見てみろ!」


 俺は自分のステータスをチェックした。

「奪う者!無い!無い無い無い!勇者の文字が無い!」


「今気づいたか!間抜けがあ!お前の固有スキルもジョブも【奪う者】に変わっている!もうお前は勇者ではない!グラブががっかりしていた!マリーは【闇の聖女】の固有スキルだがお前は勇者の力を失っている。がっかりするのは当然だ!くふふふふ、ふはははははは!その顔、間抜けが!!行動も顔も全部間抜けだ!みんなもこの間抜けを笑ええええええ!」

 

 周りのゴブリンもマリーも俺を笑う。

「けるな」

「ん?なんだ?聞こえんなあ!」

「ふざけるな!お前を絶対に倒してやる!うおおおおお!」


 俺はバグズに斬りかかった。

 バグズの横なぎの斬撃で吹き飛ばされ地面に倒れた。

「弱すぎる。お前は他のエースゴブリンよりも弱い」


「ぐう、がは!弱く、無い!見下すな!俺を、見下すな」

「やる気が失せた。マリー、相手をしてやれ」

「ぎゃはははは!無様ねえ!私を見捨てた罰よ!」


「舐めるなよ!」

「それは私に勝ってから言いなさいよ!ま、無理でしょうけど!」

 マリーは杖を両手で持って構えた。


「マリー!女だからと言って、手加減はしない!」

「は!早くかかってきなさいよ!」

 俺がマリーに斬りかかると、杖ではじかれる。


 何度斬りかかっても杖ではじかれる。

「やっぱ雑魚じゃない!無能のブレイブ、これからは私より下の序列よ」

「絶対に倒す!俺は勇者だ!」

「勇者じゃないでしょーが」


「舐めるな!!」

 俺はマリーに何度も杖で攻撃を受けた。

 剣で受けきれずマリーごときの振った杖で押されるのか!

 俺は勇者だ!

 俺は、つよ、。

 まけな、い……。





 朝日で目を覚ました。

「起きたか。喜べ、お前の序列が決まった。14位だ」

 バグズが訳の分からない事を言う。


「1位以外にあり得ないはずだ」

「やはりお前は間抜けだ!ははははは!俺・グラブ・マリー・そして10体のエースゴブリンの下がお前の序列だ!間抜けなのに14位、良かったなあ。ま・ぬ・け」


「14位はおかしい」

「納得できないなら、定期的に入れ替え戦がある。それで勝ち上がれ。序列が上がれば勝負してやる」

「グラブとマリーが2位と3位なのか?」


「そうだ。グラブは錬金術の要、マリーは回復の要だ。お前は回復要因のマリーにすら勝てない。今のお前はエースゴブリンの誰にも勝てはしない」

「今すぐ入れ替え戦をする」


「無理だ。お前には勝てない」

「舐めるなよ!俺が倒してやる!」

「負けたら、俺の言う事を聞くか?俺に従って魔物を狩り、人を殺してもらう」

「ふ、いいだろう!」





 俺は地面に転がる。

 序列13位のゴブリンに一方的に負けた。

 悔しさで震える。


 俺が14位だと!

 しかもゴブリンの中で14位!

 認めない!


「身に染みただろう。言う事を聞け」

「俺は、俺は強い」

「もういい」

 バグズは俺を蹴り飛ばす。


「従わないなら毎日魔物の群れに投げ飛ばしてやる。ありがたく思えよ」

 俺の首を掴んでバグズが狩りに出かけて行く。


「バグズ、いじめすぎて、ころすな。だいじなせんりょくに、なる」

「そうだったなあ。こんな間抜けでも、序列14位だ。なあ、無能で弱い元雑魚勇者!ぐわははははは!」


 俺はそれからバグズに首を掴まれて魔物の群れに投げ飛ばされるようになった。

 俺が言う事を聞くようになるまで毎日毎日毎日毎日同じように投げ飛ばされる。


 今に見ていろ!

 こいつら全員を俺の部下にしてやる!

 俺が序列1位になってやる!


 そして俺はバグズにおもちゃのように扱われる。

 俺を魔物と戦わせ、俺の無様な姿を見てバグズはゲラゲラと笑う。

 くそ!くそくそくそくそ!

 負けない!

 俺は負けない!

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