【勇者視点】勇者の逆襲

 俺は追っ手に追われ、傷を負っていた。

「くそ!しつこい奴らだ!何度も何度も奇襲をかけてくる!」


 最強の俺とは言え、何度も奇襲をかけられれば厳しい。

 何度も人を殺し、経験値を手に入れレベルアップを重ねる位連戦していた。

 森に逃げると今度は魔物に襲われる。

 魔力も尽きた。

 ブレイブタイムのスキルもさっき使い、今はクールタイム中で使えない。


 俺は森の茂みに隠れ、横になる。


「ほお、ここに、いたか」

「誰だ!」

「おれは、グラブ、だ。おまえを、たすけに、きた」

「お前、魔物か!ゴブリンだな!」


「そうだが、それに、なにか、もんだいでも、あ、るのか?ぶっしをもって、きたがいらないか?」

 グラブが大きな袋を俺に投げる。


「しょくりょう、ぽーしょん、まものかのきせき、いろいろある」

「魔物化の輝石?なんだそれは?」

「そのまま、のいみだ。それをのんで、まものになることを、うけいれれば、まものになれる」


「そんなものは要らん!」

「だが、しにかけたときに、つかえば、しなずに、すむ」

「要らん」

「つかわないなら、それでいい、だが、もっていれば、つづけてしえんを、おくろう」


「持っているだけでゴブリンの支援を受けられる、か。この食料やポーションは安全なのか?」

「たべて、ためしてみれ、ば、いい。ゆうしゃなら、じょうたいいじょうを、まほうで、なおせる」


 しばらく食べていない。

 体が冷える。

 力が出ない。

 空腹に抗えない。


 俺は食料を口に入れると、雪崩が決壊するようにがつがつと食べ始めた。

 おかしなものが入っていても、魔法で治せる。


 魔力ポーションも飲む。

 魔力が回復していくのが分かる。




「しょくじも、ぽーしょんも、もんだい、ない。ごぶりんのせっこうのじょうほうも、だせる」

「信用してやる。魔物化の輝石を持っているだけでいいんだな!俺が殺したい奴らの情報をよこせ!」


「わかった」





【ベリー後援会のグレン視点】

 グレンは皆を集めて宴会を開く。


 たくさんのごちそうが運ばれ、大きなホールに集まる。


「本日は皆に集まってもらい感謝する。まだガーディーとブレイブは健在だが、ブレイブが打ち取られるのは時間の問題だろう!ブレイブが打ち取られれば、ベリー後援会の活動は無くなり解散となるが、同志の絆は永遠に不滅だ!今日は楽しんでくれ!」


「うう、ベリーさえいればもっと良かった!ブレイブのせいでベリーが居ない!アーサー王国に居る情報も入ってこない。皆の絆はあっても、悲しすぎる」

 涙を流す会員をグレンが抱きしめた。


「もっと、もっと早く我らが気付き、動いていれば、くう!!」

 グレンも涙を流した。

 ベリーは今行方不明だ。


 アーサー王国は危険地帯で、国の危機が迫っていると新聞記事で読んだ。

 しかもベリーがアーサー王国にたどり着いた情報が入ってこない。


 冒険者だけでアーサー王国に向かう議論もあったが、結局ブレイブ打倒の為力を使う事で団結した。


 バッキャアア!!!

 突然ホールのドアが破壊される。

 そこにテロリストブレイブが居た。


「本当にここに集まっていたか!俺を罠に嵌めたお前ら!皆殺しにしてやる!俺の経験値になれえええええええ!ブレイブタイムううううううううう!」


 この日ベリー後援会は壊滅した。





【ブレイブ視点】


「次はアオールの居るマスコミギルドか」

 俺はマスコミギルドの前に来ていた。

 陽動としてゴブリンの部隊が小規模な事件を起こし、警備を分散させている。


 俺はマスコミギルドに入り、動いている者全員を殺していった。

 そしてアオールのいる部屋に入る。


 アオールは俺を見ると悲鳴を上げた。

「ぎょええええええ!!!」

 慌てて逃げようとする。


 後ろから尻を蹴り飛ばす。

「ぎひいい……な、何が目的なのだね?」

「ふ、お前の命だ!お前のせいで俺はテロリスト扱いされている!あのふざけたブレスレットで俺を罠に嵌めて!帰ってきた俺をテロリストに仕立て上げた!」


「ガーディー!助けるのだ!」

「ん?ガーディーが居るのか?」


 横の部屋から酔っぱらったガーディーが現れる。

「テロリストブレイブか」

「ガーディー!!!貴様もおおお!殺そうと思っていたああああ!」


「俺よりレベルの低いお前がか?」

「強がるなよ!鎧を着ていないだろ!?雑魚の為に鎧を着るまで待っていてやろうかああ?雑魚のガーディーいいいいい!」


「ふん、笑わせるな。お前など剣と盾だけで十分だ!」

 ガーディーが大楯と剣を構えた。


「ガーディー、酔っぱらいすぎておかしくなったか?勇者であるこの俺に鎧もつけず、酔ったまま勝てるわけないだろうがよおおおおお!」


 俺はガーディーに剣を振り下ろす。

 ガーディーは大楯で防ぐが、お前の動きは分かっている。


 俺は素早く横に移動してガーディーの腕を斬りつけた。

「言っていなかったが、俺は魔剣を持っている。生命力を奪う代わりに最高の切れ味を持つ」

「ふん、勇者ではなく、盗賊と名乗ったらどうだ?テロリスト!」


 ガーディーが盾で突撃してくるが、俺は躱しつつガーディーに斬りつける。


「聖騎士の癖に2回も直撃を受けるか。さっきお前は俺のレベルが低いと言ったが、俺はたくさんの魔物も人も殺してきた。おまえよりレベルはアップしている!聖騎士が勇者に勝てると思うなよ!……アオールが逃げたか!逃がさん!1人も逃がさんぞおおおお!」


 俺は急いでアオールを追いかける。

 アオールは護衛の後ろに隠れるが、護衛を切り捨てる。


「わ、私を守るのだああ!」

 7人の護衛が現れるがすべて倒してやる!!




 アオールを守ろうとする者は俺の敵だ。

 護衛を全て倒すと更にアオールが逃げている。

「ち、逃げるのだけはうまい」

 俺は後ろからアオールを斬りつけ、アオールの息の根を止めた。



 後ろからガチャガチャと音がする。

 ガーディーか。

 ガーディーは鎧を着こみ、さっきまで酔って赤くなっていた顔から普段の顔に変わっていた。

 酔いを状態異常解除の魔法かポーションで治したか。


「ガーディーいいいい!やっと俺を見下すのを辞めたか!やっと俺の方が強いと認めたか!思い込み野郎のお前も正しい判断が出来るんだな!!」

「ふん、本気を出せば貴様などすぐに倒せる!」


「じゃあ死ねよ!」

 俺はガーディーに向かって剣を振りかぶり近づく。

「キングガード!」


「そうだよなあ!弱いお前は切り札を使うしかないよなあ!」

「5分以内にお前を倒すのは簡単だ」


「やってみろよ!!」

 俺はガーディーから逃げ出す。

「逃げるなあ!ブレイブ!」

 俺はマスコミギルドを出て街の外へと走り去る。


 後ろからはガーディーが追ってくる。

「待てええ!無能が!雑魚があ!待てええ!」

 振り返って斬り殺したくなる衝動を抑えて俺は森に向かって逃げる。




 ガーディーを包む光が消えた。

「キングガードの効果が切れたか。お前、俺に殺される事を分かっているのか?」

「殺されるのはお前だ!無能の雑魚!」


 殺す!

 確実に殺す!

 絶対に殺す!

 俺を見下すなよ!


「ブレイブタイム!」

 俺はガーディーの周りを周りながら何度も何度も何度も斬撃を繰り出し、ガーディーを斬り刻む。


 ガーディーが倒れると剣を突き立てた。

「馬鹿が、お前の方が弱い勘違いの無能だ。だから死ぬんだ」

 

 ベリー後援会、マスコミギルドのアオール、ガーディーも殺した。

 次はウインだ。

 俺は口角を釣り上げた。


「楽しそうだな」

 振り向くと白いスーツの男が剣を持って立っていた。

勇者だ配を感じなかった。

「いつからそこに居た!?」

「さっき来た。気づかなかったか。それよりも、何かを訪ねる時は、まず自分が名乗るべきではないか?テロリストのブレイブ君」


「名前を知ってるんじゃねーか!何者だ!」

「ヘイトだ。まあもっとも、これから死ぬ君に話す意味は無いと思うがね」

「は!?俺は勇者だぞ!」

「ファイナルスラッシュ!」


 胸に違和感を感じ、自分に目を向けると、左胸から右腹にかけて斜めに切り裂かれ、血が噴き出していた。


「あ、があ」

 俺は倒れこむ。


「ふむ、その傷では助からない。最期に言っておくが私も勇者、いや、私が真の勇者だ。聞こえているかどうかわからんがね。それでは失礼する」


 ヘイトが走り去った。

「が、ハイヒール!ハイヒール!」

 駄目だ!傷が、塞がらない。

 体が動かくなてくる。

 死にたくない!


 魔物化の輝石!

 これを飲み込んで、俺は魔物になる!

 生き延びてやる!


 飲み込んだ輝石から魔力が流れ込むとさっき斬られた何倍もの激痛が全身を蝕む。

「あ、があああああいぎぎぎぎ」

 俺は、意識を失った。






 【グラブ視点】

 

 2体のゴブリンがブレイブを引きずって森まで連れてきた。

「指示通り、ヘイト、ブレイブにぶつけた」


「このきず、へいと、か。さすがバグズをたおす、ばけもの」

「うまくいった。こいつ、仲間になる」

「すぐに、きかんだ。ながいすると、へいとに、ころされる」

 

 これでブレイブもバグズの陣営に組み込める。

 後は、他の名前持ちに話をつける。

 俺も話は得意ではないが、バグズでは気が短すぎる。


 俺以上に交渉は苦手だろう。

 これから忙しくなる。

 まずはデイブックの更に南の拠点にこれを運ぶ。


「てったいの、しじをつたえろ」


 グラブ率いる斥候部隊はブレイブを運びつつバグズの元へと帰還していった。















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