王子

 俺はアーサー王国の円卓会議室に座っている。

 左右にはエムルとルナが座り、その横にはアーサー王、そして魔王ガルゴンも座る。

 重役のみが集まり会議が開かれているが、常に俺に視線が集まる。


「なあ、俺って今すぐ結婚する必要あるのか?アーサー王はまだ良いとして、魔王ガルゴン!エムルを押し付けることが出来てうれしそうだなおい!」


「ふ、言いがかりはやめてもらおう。父として娘の幸福を笑顔で見守る。ごく自然かつ合理的な判断だ。娘を送り出し幸せな家庭を願いつつ笑顔で見送る。私は理想の父そのものと言っていい」

 魔王のどや顔がむかつく。


 ホープ大臣も結婚を後押しする。

「ウイン殿はすでにデイブックに目を付けられていると見るのが自然でしょう。そうなればデイブックはマスコミギルドの力で圧力をかけ、ウイン殿を手元に置きたがるはずです。どんな手でも使ってくるでしょうな」


「俺は気にしないけどな。もうあの国には戻らないし」

「ウイン殿、魔の森に逃げる際に殺されかけましたのではありませんか?その時にマスコミギルドのフェイクニュースで先導されたベリー後援会も居たのでは?」


 ベリーの顔が曇った。

「ベリーのせいじゃないから、ベリー、気にするな」

「そ、そうね」

 ベリーの顔は暗いままだ。


 確かに2つの勢力が俺を狙って殺そうとしているのを感じた。

 正面から殺そうとしてくるのがベリー後援会で、裏で殺そうとしてきたのが勇者ブレイブの手先だろう。


 ホープ大臣もベリーが暗くなった表情の変化を見逃さない。

「ウイン殿、今私が少し話をしただけでベリー殿の表情が暗くなりました」

「そうだな」


「私がマスコミなら、もっとベリー殿の心を傷つける事が出来ます。マスコミギルドはそういう事をしてくるでしょう」

「つまり、周りの人間を不幸にする嫌がらせを仕掛けて来るって事か?」


「その可能性もありますな。それ以外にどんな手を使ってくるか想像しきれません。ですから、ウイン殿にはアーサー王国のルナ様、そしてディアブロ王国のエムル様と結婚し、両国の王子になって貰う事で、両国の人間であることをアピールし、相手の打てる手を減らしたいのです」


 デイブックは魔王の居るディアブロ王国を悪者にしているが、同時にアーサー王国を悪者にする可能性は低いだろう。

 それをやってしまうとディアブロ王国とアーサー王国の2か国を敵に回す事になる。

 デイブックにとって二正面作戦は悪手だ。


「両国の王子だからデイブックが俺を取り込もうとするのはルール違反だよねって形に持って行きたいのか?」

「それもありますが、両国がデイブックの嫌がらせに抗議して介入できる口実にもなります。そして、両国はウイン殿を守る正当な理由も得ることが出来ます。そこまでいけば、次の段階に進めます」


「次の段階?」

「デイブックの善良な人民をアーサー王国に移民させるよう促します」

「家や食料は足りているのか?」

「食料の備蓄は過剰にあります。家はもう少しで国内の需要を満たします。それより問題は造船の方でしょうな。その話は我々で取り組む問題です。今の問題はウイン殿の結婚です。形だけでも構いません」


 魔王ガルゴンが慌てだす。

「あ、愛の無い結婚は良くない!こういうのは遊びでやる事ではないのである。ないのであーる!!」

 うろたえすぎだろ!

 どんだけエムルを遠くに追いやりたいんだ!


「その通りだよ!押し倒すウインと成す術も無く力でねじ伏せられる僕。はあ、はあ、そしてパズルのピースがかみ合うようにうまい具合に行くのさ」


 エムルの妄想が怖い。

 話を何か省略したよな?

 頭の中だけで処理しすぎなんだよ。


「わたくしはすぐに結婚したいですわ!」

「分かった」

「了承の意を、しかと受け取った」

「魔王ガルゴン!丸め込みたくて必至だな!」


 この親子、揃って厄介すぎる。


「ベリーなんだけど結婚……」

 俺が言い終わる前にホープ大臣の顔が曇る。

 ホープ大臣のそこまで曇った顔を初めて見た。


「その、ベリー殿は、ベリー後援会にバレないよう情報をデイブックに与えないよう動いていました。公式にベリー殿と結婚するとなると……その、さすがに情報がデイブックに伝わる恐れがあります」


 ホープ大臣が言いたいことは分かる。

 デイブックから移民の受け入れを進める今の状況でベリー後援会がアーサー王国に移民してくれば、ベリーの結婚は問題が発生する。

 最悪俺を殺そうとする者が出てくるだろう。


「私はいいわ。結婚は後でいいわよ」

「ベリー殿、すいません。私の力不足です」

「いいわよ。ホープ大臣はベリー後援会から私とウインを守ってくれているわ」

「次回は必ずベリー殿の結婚式を行いましょう」

「そうね」


「1つ気になるのは、俺は王子になっても内政とか分からないから、役に立てないと思う」

「そこは問題無い。ディアブロ王国では戦闘を期待している。序列も2位のままだ」


「ウイン君、ルナが幸せになってくれればいいんだ。アーサー王国に序列は無いが、特権なら与えられる」

「アーサー王、ルナを幸せに出来るか分かりませんが、出来る事はやって行きます。出来るだけ特権を使わず、負担をかけないようにします」

「わたくしはウインと結婚出来れば幸せですわ」


「ウイン殿、すぐに結婚式を行いましょう」

「今!?」

「今です!」

「早くない!」


「デイブック民主国はマスコミギルドの勢力が強く」

 俺はホープ大臣が早口で話し出すのを止める。

「ほ、ホープ大臣、言いたいことは分かった。デイブックが危ないから早く手を打ちたいんだよな?すぐやろう」


「すぐに始めます。3人はすぐに着替える為別室へ!」

 ホープ大臣。

 結婚の段取りを終わらせていたんだな。

 先読みしすぎだろ。




 俺はすぐに着替え、エムルとルナはウエディングドレスに着替えていた。

 エムルもルナもとてもきれいで、俺達は魔道カメラで写真を取られつつ式を終えた。

 結婚式というより結婚記者会見だった。

 マスコミの取材を受け、新聞用の写真を取られる簡易的な式となった。




「俺はベリーと話をしてくる」

 すぐに着替え始めた。


「そうですわね。ベリーの元気が無かったですわ」

「早く行ってくるんだ」

 俺はベリーの元へと走った。



 ベリーは城の庭園で花を見ていた。

「ベリー!」

「ウイン、もう結婚式は終わったの?」

「ああ、すぐに終わらせてきた」

「私に気を使ってくれたの?」


「元気がなさそうで、気になった」

「そう、気にしなくて良かったのよ」


 俺は知っている。

 不安になるとベリーは自分の首輪を撫でる。

 何度も首輪を撫でていたベリー。


 いや、その動作を見なくても顔を見れば分かる。

 ベリーは分かりやすい。

 俺は、ベリーを抱きしめた。


「ベリー、次はベリーと結婚式をあげたい」

 ベリーが俺に身を任せた。

「結婚式よりも、結婚出来ればいいわ」


「ウインくーん!!早く来て!!!」

 メアが走ってきた。


「どうした!?」

 慌て方から何かとんでもないことが起きたのを察した。


「名前持ちの魔物と遭遇して、ウォール隊長が皆を逃がす為に一人残ったんです!このままじゃウォール隊長が殺されちゃいます!!」


「すぐに向かう!」

 俺は走ってメアが指差した方向に向かう。

 ベリーをちらっと見ると、首輪を撫でていた。








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