ウインと勇者

 アーサー王国の王都に着く。


 街の外では、ボロボロになった勇者と聖騎士が数十人の騎士に囲まれ揉めている。


 俺は奴らを無視して防壁の門を通ろうとしたが、勇者ブレイブが俺に向かって叫んだ。

「おい!ウイン!何で無能のウインが何のチェックも無く王都の中に入れるんだ!なぜ英雄で勇者の俺が騎士に囲まれている!?おかしいだろーがああ!」


 ガーディーも怒鳴る。

「力が無いウインはずる賢い手を使って国に取り入ったに違いない!」


 相変わらずだな。

 何日もボロボロになるまで睡眠時間を削って逃げて、まだ怒鳴れるほど余裕なのか?

 いや、追い詰められて余裕が無いから怒鳴っているのか。


「貴様!ウイン殿をバカにするな!」

「魔物を押し付けた卑怯者の癖に!英雄ウイン様をバカにするな!」

「今ここで殺した方がこの国の為だ!!武器を構えろ!!」

 騎士が武器を構える。


「無能どもが!勇者の力を見せてやる!」

「力の差も分からんか!}

 勇者ブレイブと聖騎士ガーディーも武器を構えた。


 まずい!あの2人はボロボロとはいえレアジョブの勇者と聖騎士だ。

 騎士と勇者達が衝突してあの2人だけが死ぬのはいいが、国の為を思って頑張る騎士に犠牲が出るのは駄目だ。


「待て!一旦止まってくれ!」

 俺は双方を止めに入った。


 だがその横から兵士の男が入ってくる。

「ま、待ってください!英雄ウイン・ベリーと勇者ブレイブ・聖騎士ガーディーのバトルコロシアムの戦いで決着をつけるよう命令を受けております。一旦ブレイブ・ガーディー両名を王都の中に入れるようにと」


 騎士が兵士の男を睨みつけた。

「それはどなたからの命令だ?」

「ホープ大臣からです」

「ウォール様やメア様の命令でも、他の100人隊長の命令でもないのだな?」

「そうなります」


「内政のトップであるホープ大臣は我ら直属の上司ではない。命令を聞く筋合いはない」

 内政と騎士団で指揮系統が違うんだよな。

 ここはルナが言えば止まるだろう。

 ルナは王女だ。

 ルナが言えば済む話。


 だが、兵士、数名の騎士、そしてルナや他の者も何故か俺を見た。

 ……おれか!?


「皆の怒りも分かるがお互い武器を納めてくれ。ホープ大臣は意味の無い命令は出さない人間だ」

「ふ、俺には逆らえないよな」

「小心者か!」

 ブレイブとガーディーの言葉に再び騎士達が武器を構える。


「なんだ!?殺されたいのか!!この勇者ブレイブに歯向かうのか!!!」


 あいつら馬鹿なのか?

 この状況で騎士を挑発して死ぬと思わないのか?

 いや、馬鹿だよな。

 馬鹿だった。


「抑えてくれ、騎士が本気で殺しに行ったらブレイブもガーディーも死んでしまうだろう」

「貴様!つけあがるなよ!!」

「無能の癖に、俺を見下すなよ!!」


 ブレイブとガーディーの敵意を俺が集める。

 2人が俺に向かって走ってくるが、俺は手招きをしつつステップを踏んで門の中に入っていく。


「ほら遅い!早く走れ!」

 更に挑発すると2人は走って追って来た。


 門の中に入ると、ホープ大臣が居り、そのサイドにウォールとメアが居た。

 100を超える兵士が列を組む。

 更に俺とブレイブ、ガーディーの周りの半径10メートル以外を埋め尽くすように国民が密集している。

 門の外からは騎士と兵士、ベリー達も中に入って俺達は完全に囲まれた。


 国民が勇者を非難する。

「お前のせいで父さんがゴブリンに殺された!お前が死ねばよかったんだ!」

「私は恋人を殺された!人殺しいい!」

 非難お声が大きくなり誰が何を言っているか分からなくなる。

 

 分かる事はブレイブとガーディーに対する皆の敵意。

 ブレイブとガーディーの顔を見て確信した。

 こいつら、自分がどう思われているか今知ったんだ。


 デイブックの新聞では情報が管理されこの国の実情が伝わっていなかった。

 ブレイブとガーディーは怒鳴りながら周りに向かって何かを叫ぶが、何を言っているか聞こえない。

 ブレイブ・ガーディー、そして俺に魔道カメラがカシャカシャと音を立てて光が点滅する。

 10分ほどその状態が続いた。



 ホープ大臣が魔道マイクを構える。

「皆の気持ちはよく分かります!しかし、英雄ウインは弱った者を一方的に嬲り殺すような卑劣な真似を許さないでしょう!そこで3日間勇者ブレイブと聖騎士ガーディーに十分な休息と食事を摂らせ、その上で3日後にバトルコロシアムの開始をする事を宣言いたします!!!!」


 いや?ブレイブとガーディーなら今から殴ってもいいぞ?

 クズにまともな対応をしても駄目だ。

 悪にはまともな対応は無意味だと学んだ。


 まあ、殴らないけど。

 ブレイブはプライドが高い。

 大勢の前で倒れるブレイブは見ものだ。

 ブレイブのプライドをバッキバキにへし折る。

 ホープ大臣の思惑に乗ろう。

 


 歓声が鳴り響き鳴り止まない。



「お静かに!!」

 大臣の声で皆静かになるが、ブレイブだけはうるさい。


「俺はこいつなんかに負けない!簡単に倒せる!!」

「どうやらブレイブは噂通りの異常者のようです。話を続けます。コロシアムへの入場料の設定はまだ未定ですが、コロシアムの前ではバトル祭りの屋台やその他のイベントも同時開催されます。開催日までに皆働き、お金を貯め、そして多くの者で参加しましょう。恐らく1万人分の座席だけでは足りず、立ち見のお客様も出るかと思います。皆さん、3日後の祭りを存分に楽しんでスカッとしましょう。以上です」


 そう言ってホープ大臣は後ろに控えた文官に指示を飛ばしつつ王城に戻って行った。


 ブレイブとガーディーは兵士に案内され、宿屋に向かう。

 2人とも何か言っていたが聞き取れない。

 罵倒していたんだろう。


 国民から激励が送られるが何を言っているか分からない。

 俺達は門の外に出る。


 騎士と兵士がにこにこしながら俺に声をかけてくる。

「ウイン殿の活躍、楽しみにしています」

「みたいなー。俺もコロシアムに行きたい!」


 俺は手を振って魔物狩りに戻るが、更に兵士と騎士は話し込む。

「俺バトルの日に仕事なんだ!見たいな~」

「はははは!俺はばっちり休みだ!10万ゴールドまでなら出す!特等席に座るぜ!」

「バトルマニアめ、だがブレイブが地面とキスをする瞬間は見たい」


「それは新聞で見れるだろ?」

「ここ3日間の新聞のチェックは必須だよな」

「新聞は7日分は必須だろ」

「うおっほん!そろそろ仕事に戻ろうか!」

 上司が手を叩いて話を切り上げている。

 クモの子を散らすように皆が仕事に戻っていった。



「静かになった」

「ウイン、大変ね。人前に出るの、好きじゃないわよね?」

「ベリー、何を言っているんだ?俺とベリーVSブレイブ・ガーディーの戦いだ。ベリーも出るんだが?」


 ベリーが固まった。

 ベリーの頬をつんつんするがしばらく動きが止まっている。


 その日魔物狩りに戻った俺達だが、バトルの日までベリーの元気は無かった。


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