【アーサー王視点】スタンピード④

 防壁の上でアーサー王は絶望していた。

 ゴブリン達が移動を始めた。


 最初は何をしたいのか分からなかった。

 だがゴブリンの陣の形と兵の報告で分かった。

 奴らはこの王都にある残り3つの門にゴブリンを配置した。


 不安で顔が引きつるのを感じ、王の役割に徹するように真顔に戻す。

 我らを完全に包囲し、逃げ道すら塞いだのだ。


 南門になだれ込んだ大量のゴブリン。

 こちら側の魔法攻撃が止んだこと。

 こちらの底を読み、我らを余裕で倒せるとゴブリンキングが判断したのだ。


 つまり、これからゴブリン達の真の総攻撃が始まる。

 ゴブリンが南の門に集まって来る。

 北・東・西の門はゴブリンが配置され逃げることも出来ない。


 打つ手がない。

 ガルゴン殿が肩に手を置く。


「1回だけ、ブラックホールを使う。これで最後だ」

 魔力ポーションで魔力が回復したか。


「皆の者!ブラックホールの使用後、真の総力戦が始まる。すべてを使い切れ!」


 兵の元気が無い。

 当然だ。

 巻き返せるほどの力がこちらに無いのだ。


 鼓舞する力が無い。

 力が無い。

 両手を握りしめ、悔しさに震える。


 


 ゴブリンが陣を組み直し、後ろには精鋭のゴブリンとゴブリンキングが控えていた。


「ぐおおおおおおおおおおお!!」

 ゴブリンの叫びと共にゴブリンが南門になだれ込む。


「ブラックホール!」

 その瞬間魔王がブラックホールを使用し、一気に敵の数を減らす。

 だがまだ火力が足りない。


 皆が力を振り絞って魔法を放つ。

 矢を放つ。

 だが火力が足りない。


 ゴブリンキングは、魔王が膝をついたのを見て、口角を釣り上げていた。

「ぐおおおおおおおおお!」


 ゴブリンキングの雄たけびでゴブリンの勢いが増す。




「やあ、待たせたね。……ブラックホール!」

 魔王より小さいが、ブラックホールがゴブリンを飲み込む。


 エムルか!

「ウインが来たのか!」

「攻撃してから答えるよサイクロン!サイクロン!」


 エムルがゴブリンをなぎ倒していく。

 流石に予想外の攻撃だったのか、敵の動きが混乱した。


 エムルの魔力量が異常だ。

 恐らく何かスキルを持っているのだろう。

 エムルは魔王よりレベルは低いはずだが、魔力の量が多い。




「はあ、はあ、ウインは今この下、門で戦っているよ」

「ウインが来たか!皆の者!英雄だ!英雄が間に合ったのだ!!」


 やっと皆を鼓舞出来る!

 鼓舞できる理由が見つかった!

 間に合ったのだ!


「報告します!ウイン殿がゴブリンの侵入を押し返すように戦っています。打ち漏らした敵を後ろに居るベリー殿が倒しております!」


 後ろを振り向く。

 ゴブリンがなだれ込んだ割には王都の中が静かすぎる。

 ドゴン!


 防壁の振動を感じた。

 下が騒がしい。

 この防壁は持つか?


 いや、どうでもいい!

 ゴブリンさえ倒せれば防壁は後で作り直せる。


 ドゴン!どごん!どごごん!

 なだれ込んだゴブリンが風魔法で防壁の外に吹き飛ばされていた。

 

 防壁の外に風魔法が発生し、ゴブリンが斬り刻まれる。

 防壁の外にウインが現れる。


 ウインの通った後のゴブリンが倒れていく。

 動きが見えなかった。

 恐らくショートソードで斬ったのだ。


「ハイウインド!ハイウインド!ハイウインド!」

 ウインが手を前にかざして風の刃を飛ばす。


 あまりの威力で後方のゴブリンすべてを切断しつつ倒していた。

「威力が桁違いだ!」


 魔王より魔力が高いのか!

 しかも同時に2つの魔法を使っている!

 二重詠唱か!


 正確にはオールラウンダーのジョブで習得できるマルチタスクのスキルだった。

 剣で戦いながら魔法を使うなど、物理的に不可能な事以外は同時並行で行うことが出来る。





 ◇




【ウイン視点】

 俺は王都の外に出て魔法を乱射した。


「まとまってて倒しやすい!風魔法の餌食じゃないか!サイクロン!サイクロン!サイクロン!」


 剣を振りつつ魔法攻撃を放ち、雑魚を倒していく。


 大きいゴブリンが怒鳴ってきた。

「貴様ああ!何者だあああ!」


 俺は無視して雑魚を倒していく。

「サイクロン!サイクロン!サイクロン!」

 竜巻がゴブリンの陣を破壊するように大量の敵を薙ぎ払っていく。


 こんなに一気に倒せたのは初めてかもしれない。

 もっと数を減らそう。

「サイクロン!サイクロン!サイクロン!」


 しかもこいつら疲れてね?

 動きが悪すぎる。

 矢も打ち尽くしたのか矢も魔法もあんまり飛んでこない。

 大量に倒すチャンスだ。


 俺は一気に移動してゴブリンの集団に風魔法を放つ。

「まとまると魔法の餌食だ!ハイウインド!ハイウインド!」

 一気に中級魔法でゴブリンを倒す。


 ゴブリンは散開し始める。

「距離を取れば剣の餌食だ!」

 俺は剣でゴブリンを斬り刻んでいった。


 ゴブリンが混乱し始める。

「時間を与えるのも良くない。サイクロン!」

 大魔法でゴブリンをなぎ倒す。


「無視するなああ!勝手に移動するなああ!」

 俺は2メートルほどのでかいゴブリンを無視する。

 ゴブリンって嘘かひどい言葉しか言わないよね。

 

 話しても何にもならない。

 でかいゴブリンが剣で俺に斬りかかるが、周りのゴブリン事斬りつけてくる。


 俺は適当にいなしながら周りのゴブリンを倒す。

「ハイウインド!」

 風の刃が飛び、直線状にいたゴブリンがバタバタと倒れる。


「ウイン殿!気を付けるのだ!それはゴブリンキング!」

 ゴブリンキングか、そう言われれば、今まで会った魔物の中で一番強い気がする。


「そうだ、俺様はゴブリンキング、【バグズ】様だ!」

【名前持ち】の魔物。

 名前持ちの魔物は魔物の到達点。

 大ボスだ。



「今は忙しい。後にしてくれ」

 俺はバグズと距離を取ってゴブリンを倒していく。


「お前ら!攻撃を中止しろ!」

 ゴブリンが俺とバグズを囲むように輪になって離れる。


 俺が動きを止めると、バグズは口角を釣り上げて俺と対峙した。

「これで、俺から逃げる口実は無くなった。最も貴様は俺に一方的に倒されるだけの存在だ」


 だが、バグズの後ろにゴブリンが割って入る。

「俺、俺にやらせろ」

 ザシュ!


 バグズは割って入ったゴブリンを切り捨てた。

「俺の話を遮るな。だが、こいつと闘いたい馬鹿はいるか!?」


 5体のゴブリンが前に出た。

 恐らく全員エースだろう。

 短剣や斧、槍と様々な近接武器を持っており、俺に目を向ける。


「いいだろう。馬鹿ども。戦ってみるがいい」

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