【ウォール視点】スタンピード③
俺はすでに息が切れ、背中に矢を受けていた。
体中に傷を負い、力があまり入らない。
剣を振る。
「じゃまだああ!」
体温が上がらない。
それでも剣を振る。
俺は短剣ゴブリンに迫った。
短剣ゴブリンは、逃げようとするが、後ろには騎士が居る。
追い詰められ意を決したように突撃してきた。
俺の斬撃をゴブリンは短剣でガードするが、のけぞった。
そのスキに腰を落として横一線!
さらにそこからの連撃!
短剣ゴブリンを討ち取る。
周りを見ると、騎士の消耗も激しい。
俺も動けなくなってきた。
少し、目がかすむ。
「ここで死ぬか。俺はウォール!この国を守る壁!死の瞬間までこの国を守る壁となる!」
「ほ、ほ、ほ!そういきり立つな。少し休まんか」
老兵の一団が現れた。
「ウォール。きつそうじゃな」
「ゼスじいか!」
「わしら引退組が、時間をかせぐでの!」
「無茶だ!死ぬぞ!」
「まず傷を癒せ」
ゼスじいがポーションを差し出す。
「!どこから持って来た!」
ポーションはすべてかき集めたはずだ!
「金持ちは隠し持ってるもんじゃ、脅して奪い取ってやったわい。年の功じゃよ」
俺はポーションを飲み干して戦場に戻ろうとする。
だがすぐに止められた。
「今から回復しますからね。じっとしてくださいな」
「ばあさん、回復魔法はきつくないか?いや、頼む」
俺は治療を受けた。
「ほ、ほ、ほ、素直が一番じゃ。では行くとするかの」
老兵の一団の表情が変わり、前に進む。
俺は直感した。
「ゼスじい、みんな!死ぬ気か!それなら俺も行く!」
ゼスの眼に狂気が宿っていた。
「ばあかもんがあ!若い者が先に死ぬ国に未来などあるかあ!お前が死ぬとしたらワシら全員が死んだ後じゃあ!皆!突撃じゃあ!」
老人の歓声が響く。
「わしらが壁の中に入ったら壁を魔法でふさげ!まず死ぬのはワシら前衛じゃ!」
老兵たちは我先に穴の中へと突撃していった。
後先は考えない常軌を逸した攻撃。
時間を稼ぐだけの駒になりきっていた。
死ぬために壁の中に入っていく老兵。
俺は自然と前に歩き出す。
「駄目ですよ」
俺を止めるばあさんの手が震えていた。
ばあさんがポーションとスタミナポーションを取り出す。
「あなたが前に行かないようにと、隠していました。止まって飲みなさい!足を止めて耐えるのです!ゼスの考えです。あなたは今すぐ死ぬ定めではありません。耐えなさい」
ばあさんの手の震えが大きくなった。
仕組まれていた。
ゼスじいもばあさんも俺の足を止める為、仕組まれている。
俺は2人に恩を返していない。
俺は何もしていない。
俺は守られてばかりで、何も返せていない!
「これが最後の魔法です」
よく見ると腕には呪いの腕輪がつけられていた。
何をする気だ。
「ゼスだけ逝かせません。私も一緒に逝きます」
ばあさんの魔法で俺の体は完全に回復した。
魔法を使った後も俺の体が輝き続ける。
ばあさんが倒れ、呪いの腕輪が砕け、ばあさんが倒れる。
ばあさんの命全てを俺に託したのか。
もう、息が無い。
その顔はやさしくほほえんでいた。
俺はばあさんの目をそっと閉じ、前に進む。
穴は魔法でふさがれていた。
魔法で穴を塞いだ老人たちは狙われ、倒されていく。
ゼスじいはもうこの世にいないだろう。
乱戦状態になっているゴブリンを確実に倒していく。
俺は走らず、歩く。
ゴブリンを倒す為だけに力を使う。
ゴブリンの集団に向かって一直線に歩く。
傷を受けてもすぐに塞がった。
ばあさんの呪いの腕輪はそういう効果なんだろう。
自分の命を捨てて、俺の為に俺を守っている。
剣を横一線に振るう。
3体のゴブリンを倒す。
何度も何度も剣を振る。
何度も何度も傷を受け、すぐ治る。
俺は輝きはばあさんの魂のように思えた。
「ウォール隊長に続け!」
「なだれ込んだゴブリンを一気に殲滅するぞ!」
俺は指揮をせず、とにかくゴブリンを斬った。
俺の輝きが消え、傷が塞がらなくなっても。
何度も何度も何度も何度も斬りつける。
血が足りない。
知った事か。
まだ動く。
俺は剣を振るう。
剣を持つ手が痺れる。
関係ない。
動いて剣を振る。
動いて何度も剣を振る。
それ以外に出来ることは無い。
目がかすむ。
耳が聞こえなくなっていた。
まだ居る。
ゴブリンが居る。
俺は剣を振る。
剣を振った瞬間剣が手から離れる。
手の感覚が無い。
俺はゴブリンに囲まれ、意識が遠くなっていく。
「すまない、遅れた。がんばったな」
体が倒れそうになる俺を、誰かが受け止めた。
俺は意識を失った。
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