【勇者視点】勇者パーティーの失敗続き④

 錬金術師のマインと斥候のシーは、二人でレストランに来ていた。

 勇者パーティー脱退の話し合いの為だ。


 早速マインが切り出す。

「勇者パーティーにこのまま居続けるのは危険だよ」

「私もそう思うかな。それにブレイブが私たちを見る目が怖いかな」

「私もそれは感じてたよ。ベリーが居なくなったから、私たちが襲われる危険が増してるんだよ」


 ベリーが居なくなってから、二人をなめまわすように見てくることが多くなった。



「二人一緒に抜けるのが良いかな」

「そうだよ。ブレイブには黙って脱退の申請書をギルドに出すんだよ。勇者パーティーから消えるように居なくなるのが安全だよ」

「それに勇者パーティーに残っても私たちは下級ジョブってバカにされ続けるかな」


「そうだよ。勇者パーティーに居ても未来は無いんだよ」


 二人は具体的な行動を起こす準備を始めた。





 ◇





【宿屋】

 時刻は昼になっていた。


 ブレイブはまたも怒りに震えていた。


 またウインが英雄だと!

 魔王の国とつるんでアーサー王国と魔王の国の交易路を作った英雄!?

 魔王を助けているのにアーサー王国では英雄扱い!


 英雄!

 許せない!

 そうだ!あの国のやつらは頭がおかしいんだ!

 いや、あの国だけじゃない!この国もクズばかりだ!



 くそ!くそくそくそ!

 みんなが俺の足を引っ張っている!無能どもがああ!


 びりびりと新聞を破り投げ捨てる。


 シー・マイン、あいつらには、体で払ってもらわないと割に合わない!

 あいつらは毎晩俺に奉仕するべきだ。下級ジョブなんだから勇者である俺に奉仕するのは当然だ!


 ガーディーとマリーも俺に意見ばかり言って働きもしない。

 ガーディーは思い込みで判断する頑固者のクズ。

 マリーは自分の事しか考えず、自分に甘いクズ。


 まともなのは結局俺だけだ!俺だけが動いてほかのメンバーは甘い汁ばかり吸っている!

 まずはみんなにガツンと言ってやる!それが俺のやるべきことだ!


  勇者は皆が集まるまで怒りを貯めて過ごした。







【夜の宿屋】

 勇者パーティーが集まってミーティングが開かれた。


「まずは俺から言わせてもらう!お前らいい加減にしろ!役立たずどもが!俺にばかり頼ってないでお前らちゃんと働けよ!!!」


 マインとシーは顔を見合わせて二人こくりと頷いた。

 ガーディーとマリーが怒りだした。


「働いていないのはお前の方だろう!」


「ブレイブ、あんたいい加減にしなさいよ!!こっちはせっかく助けてあげてるのに調子に乗ってるんじゃないわよ!私の回復のおかげでこのパーティーは持ってるのよ」


「ガーディーもマリーもおかしい!お前らは異常だ!」


「はあ!異常なのはあんたの方じゃないのよ!聖女の私に荷物を持たせて何様だと思ってんのよ!あんたが荷物を持つのが普通よ!」

「お前の普通がおかしいって言ってるんだ!」


「男のあんたが荷物を持つのが普通だわ!馬鹿じゃないの!」

「俺は前衛で戦う必要がある。考えてものを言えよ!」

「それにあんた、口先だけで何もできないじゃない!」


「それならお前がやれ!それと話を逸らすな!お前は自分が苦しくなるといつも話を逸らす!そして攻撃を続けるだけで話が進まない!この異常者が!それとガーディーは思い込みが激しすぎる!何かあれば反射的に人のせいにするのをやめろクズどもが!」


「あんたがリーダーじゃないの!」

「また口だけか」


 3人の罵り合いが続く。

 シーとマインは部屋を出る。

 二人は急いで宿屋を出て、姿をくらませた。






【次の日のギルド】


 ギルド員は感情を殺したような淡々とした言い方でブレイブに連絡した。

「シーさんとマインさんは勇者パーティーを脱退しました」


「は?なんだと!どういうことだ!」

「そのままの意味です。シーさんとマインさんは勇者パーティーを脱退しました」

「聞いてないぞ!」


「ギルドに脱退の申請書を出せばパーティーに連絡する必要はありません。それと言えば脱退を認めますか?認めないのもルール違反になるのです」


「シーとマインを今すぐ連れてこい!」

「それは法律違反です。出来ません」

「いいから連れて来いよ!」


 ギルド員は、紙を取り出して勇者の行いを口に出しながらメモを取っていった。


「私が脱退の申請書を出せばパーティーに連絡する必要はないと言った所、勇者ブレイブは、シーとマインを今すぐ連れてこいと怒鳴った。私が法律違反なので出来ないと言うと、いいから連れて来いよとさらに怒鳴ったと。ブレイブさん、この内容で間違いはありませんか?」


 ブレイブは激怒してギルド員の胸倉をつかんだ。

「おい、殺すぞ!」

 手は胸倉から首に移動し、片手で首を絞める。


 ギルド員風情が何マウントを取ろうとしてるんだ!

 お前は俺に意見することは出来ない。

 無能なお前は言われる側の人間だ!

 調子に乗るなよ!



 すると、周囲から声が上がった。


「おい、ブレイブがギルド員に暴行を加えてるぞ!」

「魔道カメラを持ってこい!写真を取ればマスコミに高く売れるぞ!」

「俺聞いていたぞ!ブレイブが法律を破ってギルド員を脅してた!殺すって言ってたぞ!」


「カメラを持ってきたぞおお!このままブレイブがギルド員を殺す気だあああ!ブレイブはお終いだなああああ!」



「ちっ!」

 ブレイブは舌打ちをして逃げるようにギルドを後にした。





 ブレイブが帰った後、ブレイブとギルド員の周りに居た冒険者達はガッツポーズを取った。


 そう、この冒険者たちは、ベリー後援会の一員であり、結託していたのだ。

 常にローテーションを組んでギルドを見張り、勇者の悪行を暴こうとしていた。

 ベリーが居なくなった恨みをブレイブにぶつけていた。




 この後、ブレイブの緊急記者会見が開かれた。

「ギルド員を脅して首を絞め殺そうとしたというのは本当ですか?」

「そんな事実はない」

「しっかりと証拠の写真があるのですが、これはどういう状況でしょうか?」

 マスコミは写真をブレイブに見せた。


「これは違う!」

「どう違うのですか?状況の説明をお願いします。」

「みんな騙されてるんだ!」


「そうではなくて、状況の説明をお願いします!」

「俺の力に嫉妬した奴らが俺をはめようとしてるんだ!!」

「そうではなく!!この写真の状況の説明をしてください!!」


 



 ブレイブの記者会見は散々なものだった。

 マスコミの質問には一切答えず、意味不明な回答しか返さなかった。

 質問には批判を返し、話がかみ合わないと記事に書かれる。

 他の新聞には常に勝ち負けで会話をし、犬をしつけるように人と話をすると書かれた。


 そのほかにも

 ・シーやマインへ暴行しようとした疑い

 ・ベリーを暴行しようとした疑い

 ・ウインをつぶすために画策した疑い

 ・ほかのメンバーへのひどい仕打ち


 様々な疑惑がぶつけられた。





 勇者パーティーはギルドに呼び出された。


 ギルド長は突き放すような冷たい口調で言った。

「君たち勇者パーティーをAランクからBランクへと降格する」

 ギルド長は周りに居る冒険者にわざと聞こえるように大きな声で言った。

 周りでは魔道カメラのシャッター音がする。


 ベリー後援会からの批判を受けないための演出でもあった。


「おかしい!どうかしている!!」

「ブレイブの巻き添えを食って降格か!」

「ブレイブのせいで降格ね!どうしてくれるのよ!」


「俺のせいじゃない!お前らの無能が招いたことだ!」

 こうしていつものののしりあいが始まる。


 ウイン・ベリー・シー・マイン。

 まともなものが居なくなった勇者パーティーに、ののしりあいを止める者はいなかった。


 それをまわりで見ていた冒険者も、勇者パーティーの異常性を多くの者が知る事になった。

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