ドラゴン

 ドラゴンは圧倒的な力を持つ魔物で、災害のような存在だ。

 定期的にドラゴンが村や町を襲い、村や町が消滅する為、中々人口が増えない。

 今もまた、アーサー王国にある一つの村が消滅しようとしていた。


「ドラゴンだああ!ドラゴンがこっちに来るぞ!」

 村人は長老の元に集まっていた。

「長老!どうしたらいい?」


「ドラゴンを倒すことは出来ん。街道の魔物に襲われるのを覚悟で避難するしかないじゃろう。ただ、そうすれば今度はほかの魔物に全員が殺されてしまうかもしれんがの」


「そんな!長老!ほかに方法は無いのか!」

「すまぬ!もう神に祈る事と、わしがおとりになって少しでも時間を稼ぐくらいしか出来ることは無い。本当にすまん」


 勇敢な男が名乗りを上げた。

「俺がドラゴンのおとりになる!みんなは逃げてくれ!」

「いかん!お前は村に必要な人間じゃ!一緒に避難するんじゃ!」


「ごおおおおおおおおおおおお!!」


「ああ!もうこんな近くにドラゴンが!」

「何をしておる!みな避難するんじゃ!」

 村人は避難を開始した。

 長老はドラゴンのおとりになるため、声を上げた。


「こっちじゃ!!わしを殺しにこい!!」

 ドラゴンは長老に目を向けると長老を追った。

 あっという間に追いつかれ、長老は尻尾で吹き飛ばされた。


 長老は力なくつぶやく。

「すまぬ!時間を稼げそうにないのー」

 もう少し若ければ、もう少し、少しだけ時間を稼ぐことが出来たかもしれん。

 何もできない自分が悔しい。

 意識が、ぼやけていく。



 そこに勇敢な村人が現れ、ドラゴンに石を投げつけた。

「こっちだ!俺を狙え!こっちだあ!」

 ドラゴンは勇敢な村人に目を向け、狙いを定めた。


「ごおおおおおおおおおおおお!!」






 避難を開始した村人は、走りつかれ、歩きながら村から避難していく。

 しかしそこで不運にも魔物と遭遇してしまった。

「くそ!!ブラックウルフの群れが50体以上!ボスクラスまでいる」


 男衆を中心におおかみにクワなどで応戦するが、村人はどんどんやられていった。

 戦う意思は折れ、逃げ惑い魔物の餌になり果てていく。





 ◇





【アーサー王視点】

 アーサー王国の王城で王が報告を受けた。

「王様、ドラゴンの襲撃により村が壊滅しました」


「ドラゴンか!生存者は?」


「生存者は確認できませんでした。ドラゴンは南の町に向かっています。

 南の町は人口約1万。小国であるアーサー王国にとって人口の1割に相当する。


「ウォール率いる1000名の精鋭騎士団を討伐に向かわせろ!」

 王は俯いた。

 もしドラゴンを倒せたとしても、1000名の騎士の何人を死なせることになるか!


 ドラゴンを倒せなければ、私は1000の兵を殺すことになる。

 王は祈るように両手を強く合わせた。





 ◇




【ウォール視点】

 騎士隊長のウォールは、渋い顔をしながら南の町へと向かっていた。

 ウォールは20才ほどに見える男で、背が大きく筋肉が発達している。


 副隊長の女性メアがウォールに話を振る。

「ウォール隊長、ドラゴンの討伐、うまく行きますかね?」

 メアは背が小さくウォールと並ぶと子供に見えるが18才の立派な大人で胸も立派だ。


「分からん、だが、倒せなければ、町は焼かれる。やるしかない」

「私、お嫁さんになるのが夢なんですけど、ドラゴンに食べられて死ぬのはいやですよ」

「誰だっていやだ。メアのトータルレベルは今いくつだ?」


「120です」

「120か。俺は160だが、ドラゴン相手なら、今の倍のレベルは欲しいな。後5年遅く来てくれればもう少し強くなっていたんだが」


「全くですよ。私は結婚して騎士を引退できたかもしれないのに」

「村が見えてきたな、準備を始めるぞ」

「はーい」


 騎士が動き出した。




 ◇





「ごおおおおおおおお!」

 ドラゴン威圧の雄たけびを上げる。


「ドラゴンが来たぞ!取り囲め!」

 弓兵と魔法使いが扇状にドラゴンを取り囲む。あまりに密集しすぎると、ブレス攻撃で大きな被害が出る為、程よく兵士同士の距離を取りつつ取り囲んだ。


 弓や魔法でドラゴンを攻撃するが、相手はドラゴンだ。矢の雨や魔法の集中砲火程度で簡単に倒せる相手ではない。


 ドラゴンが扇上に展開した騎士に迫る。

 ドラゴンが尻尾を振り、ブレス攻撃を繰り出すたびに騎士が倒されていく。


 ウォールがおとりになるため、ドラゴンに突撃を仕掛けた。

「うおおおおお!こっちだああ!」

 ウォールの大剣による攻撃で、ドラゴンの肉を切り裂いていく。


 ドラゴンがウォールに背を向ける。

 瞬間、ドラゴンの尻尾がウォールを吹き飛ばした。

「ぐぼおお!」


 メアが兵士に命令を出す。

「ウォール隊長を回復するまでの間にドラゴンをひきつけてください!」


 メアはウォールに回復魔法をかけるが、治癒士のレベルが20しか無いメアは、ウォールを回復するのに時間がかかった。


 騎士がどんどんやられていく。

 魔法による援護も切れ始めた。

 矢の雨もまばらになる。


 ドラゴンの勢いはさらに増しているように見えた。

 ウォールは立ち上がりドラゴンの元へと向かおうとする。


 メアはウォールを全力で止めた。

「そのケガでは無理です。あと少しだけ待ってください。今ドラゴンを倒せるのはウォールさんだけです」


 ウォールは悔しそうに顔をゆがめた。

 何人死んだ?200人以上は死んでいる。

 悔しい!

 力が欲しい!


 後1年だけで良かった。

 俺はもっと強くなれたんだ!


「あと少しです」

 ウォールは手足に力を入れて体の状態を確認した。

「行ける!」

 ウォールは素早く体を起こし、ドラゴンの元へと走った。


「まだ早いです!」

「うおおおおおお!」


 ザン!

 ザン!

 ザン!

 ザン!


 何度も何度も何度も全力で、全速力でドラゴンを斬り付けた。

 1度でも食らえばやられる。

 薄氷の上を渡るような危険を冒しての攻撃。

 後先は考えない!

 全力で攻撃を続けた。


 こいつを倒す!

 この後動けなくなってもいい!

 この時の為に俺はいる! 

「そおこおだああああああ!」

 ウォール渾身の斬撃がドラゴンの顔にヒットする。



 ドラゴンは力を失い倒れた。

「倒した!倒したぞ!俺が倒したああああ!!!」

 歓声が鳴り響いた。

「ウォール隊長!ありがとうございます!」


「ウォール隊長かっこいい!」


 ウォールは地面に倒れ、呼吸を荒くする。

 もう、動けない。

 体が痺れる。

 荒く息を吸って吐く。








 斥候兵の様子がおかしい。

「あああ!そんな!来る!来る!」

「……どうした?分かるように報告しろ!」


 嫌な予感がする。

 


「ドラゴンが5体!こちらに向かっています!」

「5体だと!」

 5体のドラゴンが町に向かって飛んでくるのが見える。

 それは絶望の始まりに見えた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る