絶望

 騎士達の希望は完全に断たれていた。

 兵士は攻撃を諦め、逃げ惑うばかりとなる。

 その騎士の後ろからドラゴンが殺しにくる。


 最強のウォールが最大限のリスクを冒し、全員一丸となってやっと1体のドラゴンを討伐した。

 皆余力はない。

 その状態で5体のドラゴンが蹂躙を始めたのだ。


 騎士は戦う者ではなく、ドラゴンに食われる餌となり果てていた。

 ウォールは死ぬ覚悟を決めた。

「メア、出来るだけ多くの者を避難させてくれ。俺がおとりになる」


「無理ですよ!ドラゴン5体ですよ!おとりにもなれません。一緒に逃げるんです」

「一体だけでも俺が倒す!」

「無理です!もうろくに動けないでしょう!」


 そうこうしている内に、騎士の数は半分以下まで減っていた。





 ◇





 ドラゴンと騎士の戦い前日。

 アーサー王国王城。


「ドラゴンか。倒せば良いんじゃないのか?」


 ルナは意を決したように話しだした。

「……この国には、十分にドラゴンに対抗できるだけの戦力はありません。精鋭騎士団1000人で討伐に向かっても全滅する可能性があります。ですが、その精鋭騎士団がドラゴンの討伐に向かいました」


「俺行ってきてもいいか?」

「そうだよ!ウインなら簡単に倒せるんだよ!」

「失敗したら、闇の森に逃げるから迷惑にはならないと思う」


「分かりました。お願いします。どうかこの国を救ってください。道は大通りを南に進むだけなので迷うことは無いと思います」


「行って来る」

「僕も行くよ!」

「エムルを肩で担いで走ることになるけど、大丈夫か?具合悪くなるぞ?」


「大丈夫さ!むしろご褒美だよ!」

 こうしてウインとエムルは南へと向かった。





 二人を見送るルナは、固有スキル【魔眼】の持ち主だった。


 魔眼の能力は、見た者の本質を完全ではないにしろ見抜く力がある。

 ウインの人柄と力を見抜き、ウインに託した。


 ウイン様、お願いします。この恩は私のすべてを持って返します。

 ですからどうか、みんなの命を救ってください。






 ◇





 ウインはエムルを担いでダッシュしていた。

「エムル、大丈夫か?」

 エムルを見るとぐったりとしている。


「エムル、時間が無いから置いていくぞ」


 するとエムルはウインの服を掴んだ。

「おんぶ」

「おんぶに変えるか、ただ、今から更に本気で走る。転んだ時に受け身を取れないと、最悪死ぬぞ?」

「それで頼むよ」


「加速する!」

 俺は手加減せず速度を増して走った。




 ◇





 ルナは王に面会を求めた。

 あっという間に王との面会が始まる。

 アーサー王は優秀な男であったが、娘のルナを溺愛しており、ルナにはとても甘い。

「ルナたん、どうしたんだい。」


「ディアブロ王国からの使者、ウイン様とエムル様に、ドラゴン討伐の援軍をお願いしました」

 ルナは、金髪の髪と、青色の瞳を持ち、白い動きやすそうなドレスを身にまとっていた。

 その美貌から、国民には天使と呼ばれている。


「今から援軍を呼びに行くのかな?」


「ウイン様とエムル様が援軍です。ウイン様はおそらくウォールを簡単に倒せる能力を持っています」

「ウイン君の年がルナたんの一個上で、エムル君の年がルナたんと同じだったね?」


「そうですね。若いですが、魔眼で確認した所、強い力を感じました。ウォールを簡単に倒せる力を秘めています」


 王も異常な速度で南へと向かったと使者の報告は受けていた。

「なるほど、強いのは分かったけど、今からだと間に合うか分からないね」


「そうですね。私がすぐにお願いすれば良かったのですが、もしディアブロ王国からの使者に何かあったらと思うと……すぐに決断できませんでした」

 ディアブロ王国からの使者が死亡しようものなら、両国間の大きな問題になりかねない。

 しかもエムルは姫だ。

 慎重になるのも無理からぬことだ。



「責任の話は無しにしよう。今はウイン君たちが、ドラゴンを倒してくれるのを祈るしかないよ。終わってから考えよう」

「父様、お疲れではないですか?顔色が優れません」

「ルナたん、心配してくれてありがとう。少し休むよ」

「ええ、お時間を取らせてしまいました。ゆっくりお休みください」





 ◇




 アーサー王国南の町は危機を迎えていた。

 ウォールとメアも絶望と疲労で動きが悪くなる。

「くそ!どうしようもできないのか!」

「短い人生でした。逃げることも出来そうにないです」



 その時、ものすごい勢いで何かが近づいてきた。

 ものすごい突風と、砂埃。

 目をやるとそこには、幼さの残る青年と、寝ころぶ魔族の姿があった。








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