ドMのエムル

「ウイン、いつまでも応接室を使い続けるのは良くないんだ。部屋を移動しよう」

 俺たちは、客室へと移動した。



「疲れたんじゃないかい?そのベッドを自由に使って休んでくれて構わないよ。それとも僕が椅子になろうか?」

 俺はベッドを椅子代わりにして腰かけた。エムルの変態発言はスルーだ。


「4年ぶりだね。僕はずっと君に会いたかったんだ」

 そう言って座っている俺に前から抱きついてきた。


「ここまで密着して抱き着かれることはないぞ」

 むにゅっと柔らかい体の感触が伝わってくる。

 気持ちいいが、こいつを褒めるのもむかつく。

 こいつにはやばいものを感じるのだ。


「デイブック民主国ではそうかもしれないね、でもここはディアブロ王国だから文化の違いはあるんだよ。所で、この城には、サウナもあるんだ。汗を流さないかい?それとも食事にするかい?なんなら僕を食べるかい?」


エムルの言葉がおかしい。だがスルーする。

「サウナに入りたい」

「うん。僕が案内するよ」






 サウナで汗を流していた。

「大きいサウナじゃないけど、良い雰囲気だな」


「灯りを控えめにして、高級感を出しているんだよ」

 当然のようにエムルが入ってきた。もちろんタオルは巻かれているが、俺は動揺した。


「え?何で入ってきた!?」

「サウナは大人数で入ることもあるじゃないか。もしかして君はお金持ちで、サウナを一人で独占しないと気が済まないのかい?」


「そうじゃないだろ!男が入ってる時に女は入ってこないんだ!」

「文化の違いが出てしまったね」

 そう言いつつエムルはサウナから出ていく気配が無い。

 俺の横にぴっとりと張り付くように座った。


 俺はこの空気に耐えられなくなり、サウナを出ようとすると、エムルが抱き着いてきた。

「もう出ちゃうのかい?それなら僕も出るよ」


「エムルはサウナに入ったばかりだろ?もう少しゆっくりしたら良い」

「僕は君と一緒にいるよ!」


 結局その後も俺たちは後2サイクル分サウナを楽しんだ。






 サウナを出ると、俺はしばらくぼーっとしていた。

 サウナの後のこの時間は大事だと思うんだ。

 しかし、エムルの柔らかい肌の感触が頭を支配して、サウナ後の余韻を打ち消してしまう。


 エムルはメイド服を着て俺の所にやってくる。

 ただエムルの着ているメイド服は、スカートの丈が異様に短く、全体的に露出が多かった。

 布もうすいな。


「軽装メイド服過ぎる」

「似合うかな?」

 エムルはくるっと一回転する。

 スカートからぎりぎりパンツが見えない程度にスカートが浮く。

 エムル、ギリギリ見えないように計算してるな!


 エムルはスカートが見えるか見えないかのスリルを味わう様に吐息を荒くしていた。

 こいつは、危険だ。

 俺の本能が語り掛けてくる。

 こいつは危険だと。


「水を飲まないかい?」

「もらおう」

 エムルは、俺の腕にぎりぎり胸が当たるか当たらないかの所まで近づいて水を手渡してきた。


「食事の準備が出来ているんだ。良かったら食べてくれないかい?」

「もらう」

 食堂に行くと、俺とエムルをみんなが見ていた。

 遠くで見るだけで決して近づいてこない所にやばさを感じる。


「エムル、その恰好は目立つんじゃないか?」

「覚悟の上だよ!」

「何の覚悟だよ!」


 俺たちが椅子に腰かけて待つと、大きいステーキが運ばれてきた。

「僕が食べさせようか?それともウインが僕に口移しで食べさせてくれるかい?」


「なんの二択だよ!普通に食べよう」

 エムルのメイドプレイは完ぺきだった。欲しいタイミングで水を出してくる。こいつ、性格さえまともだったらかなり有能なんじゃないか?


「ウイン、サウナに入って、水分補給、食事も終わらせたんだ。今日はベッドで寝るだけじゃないかな?」


「すぐには寝ないぞ。城の中を探索してくる」


 俺はそう言ってついて来ようとするエムルから離れる。

 トータルレベル900越え、斥候レベルカンストの力を持つ。

 エムルは完全に俺を見失う。


 意外と人が少ないな。ん?側近のお姉さんか。

「また会ったな。所で聞きたいことがあるんだけど」

 俺が人間族な為か周りに居るみんなは遠くから見るだけで近づいてこない。



 話しかけられたお姉さんは少し驚いた顔をしていた。

「何よ?」

 側近は俺を警戒する。


「ディアブロ王国の人って、男に女が抱き着いてくるのは普通なのか?」

「それはエムル様がらみの質問よね?」

「そうだ」

 側近はしばらく考え込んだ。


「その反応は、エムルが嘘をついたってことで良いか?」

「え?ちがうわよ!」


 俺はため息をついて椅子に腰かけた。

「お姉さん、男の俺は今座っている。女のお姉さんは俺に前からまたがって思いっきり抱きつけるんだよな?」


「え?え?」

 側近の目が明らかに泳ぐ。

「ディアブロ王国では、文化的にそれが普通なんだろ?」


 側近は消え入りそうな声で言った。

「普通じゃないです」

「良く聞こえなかった。もう一回言ってくれないか?」

「抱きつくのは普通じゃないです!!」


「よろしい!では2つ目の質問だ。男と女が一緒のサウナに入るのは普通か?普通だったら、俺とお姉さんは一緒にサウナに入らないとおかしいわけだがどうだろ?答えてくれるな?」


「普通じゃないです!」

「セイラ、質問に答えてくれてうれしい」

 俺はセイラの頭を思いっきり撫でた。


 側近は顔を真っ赤にする。

 お姉さんの周りの女性が側近に声をかける。

「エムル様がこっちをみてるよ」


 エムルが影からこちらを見ていた。


「ウイン、君は素晴らしいよ!はあっ!はあっ!特にセイラへの調教っぷりには光るものを感じるよ。セイラをここまで屈服させて調教しつくすなんて、中々出来る事じゃないよ。」


「調教されてません!調教されてないですからね!!」

「セイラ、最後にもう一つだけ聞きたいんだ」

「な、なんで私だけ!!」


「エムルの服装なんだけど、エムルはパンツを見られたりするのを恥ずかしがるんだけど、なんでパンツが見えそうな服を着てるんだろ?」

「エムル様は、ウインにパンツを見られて恥ずかしくなるのが気持ちいいのよ」

「やっぱりエムルってドMなのか?」


 周囲にいた全員がシンクロするように頷いた。

 すげえ!今までで一番連携が取れた頷きだ。


 エムルは口を開く。

「恥じらいは怖くないんだ。一番恐れるのは、この恥じらいの心が風化してしまう事なんだ」

「なんの話!!」

 セイラはまじまじと俺たちのやり取りを見て言った。


「エムル様とウインは相性が良いと思うわよ。ウインはSだから」

「俺普通だけどな」


「「え?」」

俺以外の全員が驚く。


「んん?」


「すごいよ!無自覚であんなにもセイラを屈服させていたなんて!ウイン!君は才能の塊だよ!」

エムルは身もだえた。


「私は屈服していませんからね!」


 あれ?今日はなんか疲れる。

 俺は部屋に移動した。





「今日は疲れたな。休む」

 そう言って俺は部屋に戻りベッドに倒れこんだ。


 エムルは当然のように俺の隣にもぐりこんできた。

 ここは俺の部屋じゃないのか!?

 そして何事もなかったかのように言葉をつむいだ。


「ウイン。今日はお疲れ様だよ。僕が奴隷のように奉仕しようか?」


 俺はエムルの言葉をスルーして質問を返した。

「エムルって本当にドMなのか?」


「言っている事は分かるよ。メイドプレイは何かをやってあげたいという心、つまりSの属性なんだ。でもある程度SをMに変換することは可能なんだよ。僕はね、ウインに無理やり従わされている妄想をしながらメイドプレイをすることで、Mの快感を得ているんだ。」


「なんの話!!」

エムルは何事もなかったように話を続けた。


「ウイン、僕は君にSのプレイを促すように動いているのも疑問に思ったはずなんだ。相手を自分の意のままに操るのはSの快楽だよ。でも僕がこのまま何もされなければ幸福の果実を得られないんだ。Mの快感を得る為、楽しくもないSのプレイをしなければいけない。これが僕の矛盾でもあり課題でもあるんだ」


「だから何の話!!」


 結局、俺はなかなか寝付けなかった。

 こいつクレイジーすぎる。

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