魔王の娘
挨拶するエムルは、見た目、しぐさ、すべてが洗練されていて、カリスマ性すら感じた。
エムル、レベル103 固有スキル魔王。
斥候スキルで簡易的に能力を読み取れるが、詳細は分からない。
「4年前にセイラと一緒にいた、熊の時の子で合ってる?」
「そうだよ!覚えていてくれてうれしいよ!ウイン!」
そう言ってエムルは、当然のように俺の隣に座り、腕に絡みついた。
「ん?」
「どうしたんだい?すぐにアーサー王国へ行く話し合いをしようじゃないか」」
「エムル、普通魔王側に座るんじゃないか?それとエムルが同行するのか?てっきり俺が手紙を届けるとかそういうのだと思ってたぞ」
「ウイン、僕たちは一緒にアーサー王国に行くんだ!親交は深めておくべきだよ!それに君が居れば僕が居てもきっと大丈夫さ」
魔王は俺から目を逸らしながら言った。
「アーサー王国へ行く準備はこちらで進めておく。二人は気にせずくつろいでいてくれ」
魔王は何で俺から目を逸らした?
なぜ急に早口になって話をすぐに終わらせた?
俺は嫌な予感がしていた。
エムルは俺を覗き込むようにして話を始めるが、距離が異様に近い。
「それにしてもウインは素晴らしいよ。僕がどうあらがっても抵抗できない力を感じたよ!君はさっき魔族の僕が同行するとアーサー王国の人が警戒するかもしれないと思っていたよね?僕を奴隷にすればいいよ。そうすればアーサー王国のみんなも安心して交渉できるのさ」
エムルの吐息が「はあっ!はあっ!」と激しくなる。
「もしかして馬鹿にしてない?俺馬鹿にされてるよな?」
「違うんだ!!僕は賞賛しているんだよ!」
「魔王、後ろのお姉さんでもいい、説明を求めます!」
どちらも俺から目を逸らした。
「ウイン、説明が長くて分かりにくくなってしまったね。結論を言うよ。ウイン、僕を奴隷にしてほしい!」
「ん?ん?どういう事?」
「聞こえなかったかな?僕を奴隷にしてほしいんだ」
「そっちじゃない!言葉は聞こえてるけど、意味が分からなかったんだ!」
「僕は降参するよ!僕の心と体を差し出すから、僕を奴隷にしてほしいんだよ!魔王の娘は英雄に心も体も奪われるのが王道だよ!英雄は性欲を持て余して女を押し倒すのが王道だよ!押し倒される運命の魔王の娘!強力な性欲を秘めた英雄!点と点がつながって線になったよね?」
「いやちょっと、よく理解できなかった。アーサー王国に行くのはエムルじゃなくてそこの後ろのお姉さんに変えて欲しい」
魔王は俺から目を逸らしたまま言った。
「エムルは、外交の場ではしっかりと役目を果たす!大丈夫だ」
「見た目はかなり良い」
「エムルの笑顔は外交時に相手を安心させることが出来る」
「それにエムルは魔王の娘だ。相手に誠意を見せる必要がある」
あれ?魔王の様子がおかしいぞ、なんか頭をフル回転させて絞り出すようにエムルの事を褒めている感じがする。
「2人共さっきから何で目を逸らしてる?俺にやばいものを押し付けようとしてない?これ押し付けだよな!?」
「「違うって!」」
二人の口調がさっきと違う。……わざとらしく感じる。
そこにエムルが割って入ってきた。
「ウインと僕たちは文化的な壁があるようだね」
「これを文化的な壁で済ませるのか!」
エムルに俺の目が向いている隙に後ろのお姉さんが無言で部屋を出ようとした。
俺素早く押さえつけて一緒のソファーに座らせた。
「に・げ・る・な!」
「ひいいい!」
「ウイン、僕を奴隷にしたら、2人一緒に奴隷に出来るんだよ!」
「エムル様!勝手に決めないでください!」
「私は公務の時間だ!後は若い3人にお任せしよう」
そう言って魔王は出て行った。
その動きは異常なほどにスムーズだった。
残像が見える。
スキルを使っているな!
「魔王様!置いていかないで下さい!」
ちょっとかわいそうになってきたので側近を解放した。
「し、失礼しました!」
走ってこの部屋を後にする。
エムル、こいつ大丈夫か?なにかとてつもなくやばいものを感じるんだが。
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