【勇者視点】逃走


 勇者パーティーの宿屋で勇者ブレイブは邪悪な笑みを浮かべていた。

 やっとあいつを追放できた。

 あいつは無能のくせにベリーと仲良くしてて邪魔だったんだ。

 寄生虫のあいつさえいなければ、このパーティーはもっと上を目指せる。ベリーも俺の物になる。

 くくくく、良くなる未来しかない。

 ウインを追放した今、後はあいつに死んでもらうだけだ。

 そろそろ時間だな。


 コンコン、「入るぞ」


「入れ」


 ブレイブの部屋に、ガラの悪そうな男が入ってきた。

「ウインを殺す件だが、全員で20人を集めた。心配なのは、武器で応戦されたら、こっちも死人が出るかもしれねえ」


「心配はいらん。武器と有り金は奪ってある。銀行口座も凍結されて使えないよう手を回した。決行が早ければ早いほど楽に殺せる!」


「へっへっへ、それなら安心だ。早めに取り掛かるぜ」

 ガラの悪そうな男は部屋を後にした。






【ベリー視点】

 廊下に偶然ベリーがいた。

 ガラの悪そうな男がブレイブの部屋から出てきたのを見て、不自然に思った。

 ブレイブは、いつも他の人を部屋に入れない。

 ウインを追放したタイミングでいかにも悪そうな顔の男を部屋に入れた。

 



 ベリーは直感的に思った。

 ブレイブはウインを殺そうとしている!

 ウインを探さないと!








【ウイン視点】

 金と装備を奪われたウインは銀行口座に向かっていた。

 その時後ろから声がかかった。

「やっと見つけた!」


 ベリーだった。


「ウイン、聞いて!ブレイブがあなたを暗殺しようとしてるわ!ほかにも色々手を回していると思う。今すぐ逃げて!」


「え?そこまでするか?……ちょっと銀行に行ってからな。逃げるにしても金がないんだ」


「分かったけど、なるべく人のいる場所に居てね!私は町の警備に話をしてみる」

 俺はその時はそこまで気にせず銀行に向かった。









 銀行に行くと、口座が凍結されていた。

 しかも店員の態度がやたらと悪い。

 こっちから質問をすると、

「はあ!知らねーよ!」と喧嘩を売るような言葉が返ってくる始末だった。


 俺はピンと来て、急いで今日の新聞を確認した。

 内容を確認すると、ばっちり俺のフェイクニュースの記事が書かれていた。

 ざっくり言うと、


・ベリーやマリーへのセクハラ

・無能が勇者パーティーに寄生している

・パーティーの金をちょろまかした


 そんな内容だった。

 ブレイブか、まさかここまでするとは……

 全部ベリーの言う通りだった。

 俺が甘かった。






 ふと気づくと、俺を取り囲む気配に気づいた。


 人ごみに紛れようとするが、周りの目を気にせず、冒険者たちが武器を構えて追ってきていた。

 目には殺意が宿っていた。

「ウイン!待てやこらああ!!」

「ウイン!そこを動くなあああ!」




 町の人が見ているのに俺を殺そうとするか?あいつらおかしいぞ!

 普通人がいないタイミングで殺そうとするだろ?



 逃げないと殺される! 

 俺は駆けだした。

 町の防壁を超えて森を目指した。


 その時右肩に矢を受け、俺は転倒した。

 幸い矢の傷は浅い。

 矢を引き抜いて逃げようとするが、体がだるい。


 後ろから声が聞こえる

「おい、あいつ毒が効いてるぞ!一気に囲め!」


 俺は動かなくなってくる体に鞭を打ち、走り続けた。

 囲まれたら俺は殺される。

 死への恐怖が、痛みを麻痺させていた。

 丸一日西へと走り続けた。


 俺は、追っ手を撒き、解毒薬を作るため森の中に入り、薬草を採取した。

 錬金術で解毒薬をを作り、傷口に塗ると、気持ちの良い感覚が体を包んだ。


 大丈夫、効いている。毒は……抜ける。

 日が落ちて、暗くなってきた。

 俺は力尽きるように森の中で眠りについた。





 日が落ち、夜になっていたが、俺は感知スキルの反応で目を覚ました。

 追手が居る!!

「こんなところまで追ってくるのか!!」

 俺は気配を消してさらに西へと逃げた。


「ウインだ!いたぞ!!殺せ!!」


「くっそ、見つかった!」

 俺は走るペースを速めて全力で逃げ出す。




 何日も逃げる中で俺は確信した。

 この国デイブック民主国に居たら殺される!国を出るしかない!


 俺は国の西にある魔の森の近くまで逃げ延びるが、それでも敵の気配がした。まだ追って来るのか!!





「魔の森に入ろう!あそこなら、人は来ない。人は怖がって入ってこない。」









【魔の森】

「今俺は丸腰だ。武器やポーション、テントも必要だ。」



「・・・・・敵の気配、狼か!囲まれている。」

 俺は5体の狼に囲まれていた。武器があれば苦戦することは無いが、今の俺は丸腰だ。


「うおおおおお!」

 俺は叫び、威嚇しながら1体の狼と距離を詰めて殴り飛ばした。

 その隣にいる狼も殴り飛ばした。

 3体目を蹴り飛ばしたところで、俺は2体の狼に両足を噛みつかれた。


 近くにあった石を持って、何度も狼を殴り続ける。


 俺に噛みついてきた狼が動かなくなると、残り3体の狼にとどめをさした。


「今度は魔物に殺されるのか!」

 俺は絶望していた。




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