第3話強者の油断

近くからまるで肉が落ちる音が聞こえ液体が垂れる音まで聞こえてきた。


「グアァー!!」


そしてさらに聞こえてきたのは覆面男の苦痛の悲鳴だった。

悲鳴と同時に覆面男は仁志をつかんでいた手を離し仁志は地面に落ちた。

仁志は何が起きたのか目を開けると覆面男の右ひじから右手にかけて何かで切断          されている光景が目に映り込んだ。


覆面男はあまりの痛さに切断された近くを左手で抑えてうずくまった。

仁志の足元に覆面男の右腕から流れる血が向かってきていて仁志は血を避け立ち上がると仁志の右肩から前方にかけて覆面男と似た刃が伸びていた。


仁志は自分から伸びる刃に驚きながらも覆面男からまた逃げ始めた。


「なんなんだよ。なんであいつの腕が無くなったかと思ったら、俺からは変なのが生えてきてるし、いったい何がどうなってるんだよ。」


仁志は無我夢中で走り倉庫から逃げだした。


「くそ、くそ!、くそ!!あいつは能無しじゃなかったのかよ!!よくも俺の手を斬りやがって!!絶対に許さねぇ!!!」


覆面男は切られた右腕を抑えながら近くにあるドラム缶に歩き始めた。

ドラム缶にたどり着くと残った左腕を金槌に変えて、ドラム缶を撒いていたチェーンを何度も何度も叩くと、チェーンが赤色に光り始めた。


熱くなったチェーンを傷口に当て止血をした。


「グゥー!」


覆面男は声を抑えながら痛みを堪えていた。


「あのガキ、絶対に俺がこの手で息の根を止めてやる!」


男は止血が終わると覆面を取り左手を刃に変えて仁志が逃げた方向に歩き始めると男の後ろにいつの間にか黒い影が現れた。


「迎えに来てもらったのに悪いがもう少し待ってくれ。最後に一つ、やり残したことができた。」


男は黒い影に気づき背を向けたまま話し始めた。


「知ってる、見ていたからな。そいつのとこまで飛ばしてやろう。終わったら連絡しろ。」


影の者はそう言うと、男に一つのボタンを放り投げた。

男はボタンを取るとポッケにしまった。


「最後に一つ、油断はするな。あいつなんか、おかしいぞ。」


「何をそんなにビビる必要がある。ただのガキだ。」


「ただのガキにそんな傷を負わされたのにか?」


「ああ、分かったよ。油断しなければいいんだろ。」


覆面男はそう言うと一瞬で姿を消した。

代わりにそこに現れたのは道端に落ちている小さな小さな石ころが現れた。


「全くあの人も何であんな奴を仲間にしたがるのやら。」


影の者もまた姿を消した。


仁志は走っていた。

出来るだけ人目が付かないように、自分に生えている刃を隠すために狭い路地裏を通りながら逃げていた。


しばらく走ると、建物の裏にある空き地にたどり着いた。

仁志は走り疲れて空き地の隅に座り込んだ。


「ハァ、ハァ。ここまでくれば、もう大丈夫だろ。だけど、これどうすればいいんだよ。俺の体から生えてるみたいだし、刺さっているわけでもないし、もうどうすればいいんだよ。」


仁志が頭を抱えて地面にうつむいていると先ほどまで聞いていた声が聞こえてきた。


「見つけたぞ、クソガキ!」


仁志が聞こえてきた声に背筋が凍った。

ゆっくり、顔を前に向けるとそこにいたのは右腕を無くし、左手を刃に変えた男が突然目の前に現れた。


仁志はすぐ立ち上がり逃げ出そうとするが逃げ道は男が立ちはだかって逃げられなかった。


壁を登って逃げようにも高く上ることができない。


「よくも俺を騙して、腕を切り落としてくれたな!!」


男は、先ほどまでと打って変わって頭に血が上っているようで、全身が赤くほんのり光っていた。


左手の刃も赤くなっており刃の部分は白く光り、剣先からは溶けた刃が垂れ落ちていた。


「見ろ、この右腕を。」


男は仁志に止血した部分を向け傷を見せた。


「ひどい傷だよな、お前のおかげでこんな目にあったんだ。お前にはもっと残酷な目に合わせてやろう。」


男はその場をグルグルと歩き出し話し始めた。


「お前には自分から殺してくれというまで拷問し続けてやる。安心しろ、傷は俺の刃ですぐに止血するから失血死する心配はない。そしてお前が殺してくれと懇願したその時にお前の傷を治してもらってもう一度最初から仕切り直しだ。どうだ?楽しそうだろ?」


男は仁志の方を向いて首を横にかしげた。


「ふざけるな!それのどこが楽しいっていうんだよ!なあ、見逃してくれよ。腕をそんなんにしたのは悪かったと思ってる。でも、あれは事故なんだ。俺はあの時まで自分にこんなのがあるなんて知らなかったんだよ。あんたのことは誰にも言わない。なあ、頼むだから見逃してくれ。」


仁志は、男に命乞いをした。


両手を上にあげ自分には攻撃の意志は無いことを見せながら。


「お前は、テレビで殺人現場にいる殺人者が「そんなつもりはなかった。殺すつもりはなかった。」と供述したときにお前はどう思う?ん?そんな言葉を信じるのか?信じられないよな!俺からしてみれば今お前が言った言葉は全て嘘の言葉なんだよ。だから俺はお前を見逃すつもりは無い。」


「なんで俺なんだ、どうして俺がこんな目に合わないといけないんだ。」


仁志は逃げられないと知りその場に泣き崩れた。


「なぜ、お前がこんな目に合ってるかって?運が悪かったからだ。俺が逃げた先にたまたまお前がいた。それがお前の運の尽きってわけだ。諦めろ、泣き言は後でたくさん聞いてやる。今のうちに教えてやる、俺の名前は不骸ふがい九鉄きゅうてつ。これから長い付き合いになるんだ、覚えておくんだな。お前の名前は、まあいい後で聞いてやる。」


不骸は仁志の元へ歩き始めた。

一歩歩くたびに左手から溶けた刃が流れ落ちている。


「もう駄目だ、助かったと思ったのに、さっきとまた同じ目じゃないか。もし俺のこれが能力なら頼むから俺の言うことを聞いてくれ。俺の命を助けてくれ。」


仁志は肩に生えた刃を左手で握りながら目をつぶり願った。

刃を握る手からは血が流れ垂れ始めた。


「なんだ、最後に神頼みか?諦めろ、お前はもう助からん。」


仁志は目を開け左手を見てみるとそこには、自分の刃で切った切り傷しかなかった。


「なんだよ、能力が出ても使えなきゃ意味なんかないじゃないか。」


仁志は、叶わぬ願いに絶望しうつむいた。

もうどうでもいい、どうせ死ぬんだ、だったら最後に悪あがきだ。

仁志は立ち上がり拳を握り不骸に立ち向かった。


「無駄なあがきだ。」


「例え無駄なあがきだったとしても、俺は決して諦めない!!

 ウオォー-!!」


仁志は不骸に向かって拳を握り叫びながら走り出した。

その叫びには、諦めない思い、かすかな希望を信じる思いが込められていた。

向かってくる仁志に対し不骸は左手の刃で仁志から伸びる刃を体に接するギリギリのところで切断した。


切断した後に仁志の腹を足で蹴り飛ばし、仁志は壁に吹き飛ばされた。

切断された刃も体の一部。

仁志にも痛みはあった。

それでも仁志はまた立ち上がり不骸の元に走り出した。

所詮はガキの拳、自分より弱いと信じる不骸はあえて仁志の拳を受けた。

仁志は何の抵抗もしてこない不骸の顔を見ながら歯を噛み締め拳を強く握り不骸の胸めがけて拳を当てた。


「さすがはガキの一撃、痒いだけだ。」


そういう不骸は口元に何かが流れるのを感じ手で拭った。

手で拭ったものは血だった。


「ガキ!今度は何しやがった、離れろ!!」


不骸は仁志を両手でつかみ壁に放り投げた。

仁志は頭から壁にぶつかりそのまま気絶した。

放り投げる瞬間仁志が殴ったあたりに激痛が走った。

殴られた後を見てみると何かが刺さった跡ある。


「確かにあいつは拳で殴ったはず。じゃあ、この傷はいったい。」


何が起きたのかわからない不骸は放り投げた仁志を見ると。

殴った手が刃から手に変わる瞬間を見た。

「あのガキ、ここで殺してやる!!」

不骸は歩き始めるが傷口から大量の血が流れ始めた。

「くそ、こんな傷またすぐ塞いで、」

不骸は、熱くなった刃で傷を塞ごうとするがそれは叶わなかった。

突然不骸は眩暈を起こしその場で倒れてしまった。

不骸は腕を斬られ時、そして胸を貫かれた時の失血で貧血を起こしたのだ。


「くそ!こんなところで、死んでたまるか。」


不骸は朦朧とする意識の中、影の男から渡されたボタンを押した。

すると、不骸は一瞬でその場から姿を消してどこかに消えた。

男が消えると遠くの方からサイレンが聞こえてきた。

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