第8話 天才。魔女。謎の少女。そして、僕の形を映す瞳

 リスタニアの悪戯?により立ちすくんでしまっていた僕だが、不思議な少女ステラのおかげで、ようやく現実にピントを合わせる事が出来たのであった。


 凡人の僕。

 天才イクイアス。

 魔女リスタニア。

 謎の少女ステラ。

 

 僕はこの凄まじく奇妙で強烈なメンツをようやく認識できたのだった。


―☆☆To Make for World Peaceful☆☆―


 僕のせいで話し合いのスタートは遅れる事になったが、仕切り直す様にして、まずは自己紹介することになったのだが……

 

 未だに僕がこの席に混ざっている事が不思議でならなかったのである。


「改めまして。5大欲求の魔女リスタニアです。この際女神でもいいわよ。お姉さんでもいいです。―――


「…ちッ。…ステラ」


「よろしく」 「…よろ」


 語尾を強調しステラを睨んだリスタニアとそれに対し舌打ちを返したステラ。

 一瞬不穏な空気が漂うが、お互い自己紹介を終えると二人に対しお辞儀をする。

 リスタニアはゆっくりと綺麗な所作でお辞儀をするが、ステラは無表情で首を横に傾けると一瞬だけ頭を下げたのだった。

 

 僕は二人の動作を見ながら少しだけ口元を緩めた。

 可笑しいわけではないが、対照的な所作はお互いの性格を表しているようで、礼節をきちんとわきまえているリスタニアさんと若干反抗期の少女の様な感じがするステラが分かりやすく僕の目に映ったからだった。


「イクイアス・ランバーフィットだ。の愛称でも構わん、好きに呼べ。――得意分野は科学技術やメカトロニクスだ」


 腕組したイクイアスは二人に気圧されないようにか、大きな声で自分の名前を名乗ると、「まかせろ」と言わんばかりに親指を立てるのだった。


 僕にはイクイアスの端正な顔立ちがより引き締まって見えてくる。

 物怖じ無い性格と言うか、自己紹介終わりに見せたポーズと余裕の笑みでもわかる通り、僕にとってイクイアスは魔女と不思議な少女と比べても見劣りしない。彼が機械工学の天才と言う事もあるが、やはり彼自身が持つ絶対の自信故、僕にはそう映ってしまうのだろう。

 僕は感心するように、イクイアスを見つめていた――

 

 ――だが、集中するように瞳を閉じたイクイアスが目を開いた時、説明不足と言わんばかりに彼の本領と悪癖を発揮し始めるのだった。


「ただ!!」


「ただぁ?」 「………」  「…あぁ"ぁ”」


「言わせてもらうが科学と言うのは何も最先端と言う事ではない! 俺自身も最先端のみを好むという訳ではなく、より人に近づけた近代のヒューマノイドロボットより、若干コロコロしている丸いヤツの方が可愛くて好きなんだぞ。俺の好みの話になったが、AIに感情付与と人格形成を行った際もより人間に近い外見に近づけてしまうと既視感に似た愛着と共に危機感、恐怖意識を煽る―――」


 イクイアスは何やら「ベラベラベラベラ」と嗜好や偏好と共に自論を語りだす。

 得意げに瞳は閉じても、彼の口が止まる事は無い。


 イクイアスの止まらない自論を聞き、僕は先程イクイアスからフロウファイルの説明を受けた時の悲劇を思いだしていた。誰かが止めなければ30分くらいは軽く喋りだしそうな雰囲気を醸し出す彼に対し、僕がストップの声を掛けようと思った瞬間だった。 

 

「ストップストップ長い長い。ロボットが好きなのは分かったから…。ユニちゃん話が脱線してるわよ、脱線」


 僕が思うにリスタニアも彼の事を良く知っているのだろう。

 リスタニアは額に手を当てた呆れ顔で首を横に振ると、イクイアスを制止するように声を掛けたのだった。


「はははっ。…愛玩ロボみたいだなっ!!」


「?????」 「………」  「う、うん。…うん?」


 イクイアスは会話をへし折るような謎の言葉をチョイスすると、皆の首を更に横に傾けてしまう。だが、当の本人は会話を崩壊させた事も気にせず尚も嬉しそうに笑い声を出し続けていたのだった。


 僕は首を傾けながら不思議そうにイクイアスを見つめていた。

 いつもの事だがテンションと共に徐々に専門用語を多用し始めた所から、僕には何を言っているのか理解できなかった。チラッと見えたリスタニアの額に手を当て溜息を吐く姿を見れば分かったようなものだが、多分だけど皆も同じ気持ちだと思う。 

 ふと、ステラの姿も視界に映るが、彼女に至っては聞く気がないと言わんばかりに大あくびをしている有様だった。


 僕が思うに、この言動だけでイクイアスの性格を表すには充分すぎると思う。

 要するに―――恐ろしく我が強く、一言いえば物好き。

 凄く変わっているのである。

 彼は学校関係者、学生の間でも天才とは呼ばれているのだが……

 ――時折僕には極限状態の馬鹿にしか見えない時もある。


 ――そして、毎回申し訳ないのだが……

 その、を聞くと、僕はいつもながら寒気すら覚えてしまうのだった。


「…ユニちゃん。…はあー、まあいいわ」


「はははっ―――」


「それより、あなた。まだそんな変な名前を―――」

「―――ユニと言う愛称で良いぞっ!! ははは―――」


 リスタニアの叱咤するような声にも、イクイアスは態度を崩さない。

 気にすることないと言わんばかりにリスタニアに親指を立てると、笑い声を上げるのだった。


「あなたねー。…ややっこしくなるでしょうーが」


「皆も呼びやすい名で好きに呼べ!」


 「何でも良い」と公言するイクイアスのいい加減な言葉に、リスタニアは眉間に寄ったしわを更に深く寄せたのだった。


「…もー、いいわ。私はと言う愛称でしか呼ばないから…」


「ははっ。まあ、ユニはユニだしな」


「…はいはい。―――じゃあ、最後はトラルちゃんね」


 僕にリスタニアは顔を合わせると、自己紹介を催促してきた。

 皆の視線が僕に集まると、少しだけビクッと体が震える。

 どうしても、僕は他者の視線に対し猛烈に嫌悪感を覚えると共に勘繰かんぐる様に体を身構えてしまう。

 他者の視線に対し、生死の境を判断するように視線に死線を乗せて返してしまう。


 ――本当に嫌になる。


「…頑張れトラル」


 僕は嫌な気持ちが顔に出ていたのだろうか?

 ステラは応援するように声を掛けてくると、顔を合わせた僕に対し、首を少しだけ傾けながらじっと見つめてくるのだった。

 

 僕は彼女の言葉に応えるように一度コクっと頷くと、覚悟を決めた様に多少震える唇を開くのだった。

 

「ト、ト、トラル。トラル・ハートネットです。…イクイアスの同級生です。―――じ、自身の過去のせいで、ひ、人が苦手です…」


 僕は唇が震えるせいか酷く言葉が詰まってしまった。そして、他人を視認できないと言う程に、自身の瞳を隠すようにして俯いてしまうのだった。


 僕は人の視線が恐い。

 でも、それ以上に僕は


 『さあ、お前の―――』


 少しだけ僕の頭に聞こえる聞きたくない声を振り切るように頭を数回振った後、僕は少しだけ自身の顔を上げる。

 ただ、僕もここから自身の悪癖を発揮してしまう事になるのだった。


 今までの少ないながらも得た皆の情報を整理するように脳が加速するように情報を精査し始めると、膨大な選択肢を頭に浮かび上がらせる。そして、オーバーフローしそうな情報を選択するように、人の表層を捉えたような視界が映す情報で上書きすると不必要な情報を消失させていく。


 頭の組み立てが終わった僕はあきらめたように重く鈍るような口を開いたのだった。


「イクイアス以外。…み、皆さん。す、素敵な、名前ですね」


「あっ?」 「えっ、えーと?」 「……?」


 僕のイクイアス以外の名前を誉めた発言に、リスタニアとステラは首を傾げると眉を寄せた不思議そうな顔で見つめてくるのだった。


「あ、ありがとうね。トラルちゃん」


「…い、いえ」


 リスタニアは少し困惑した顔を披露しながらも、フォローするように僕に感謝の言葉を伝えてくれるが、僕は自分の発言を思い返した時、恥ずかしさからか一瞬だけ顔を合わせ言葉を返したのだった。


「…私ね。私の名前なんだけどね」


 リスタニアは少し俯てしまったトラルに声を掛けると、想い返すようにして憂いを含んだ瞳で見つめる。


「この名前凄く大事なの。本当に好きなの――」


 リスタニアは言葉一つ一つに感謝の感情を乗せる様に嬉しそうに呟くと、視線を外したトラルの両手を握ったのだった。


「――だから、ありがとう」


「…ステラも。…ステラ好き」


 僕は気づいたら握られていた自身の両手に伝わる体温に驚くようにして顔を上げると、恥ずかしそうにリスタニアに顔を合わせたのだった。それと同時にステラも自身の名前が好きと僕に声を掛けてくれるのだった。


「あ、あ、えぇーと。急に変な事言ってすみません」


「ううん。全然変じゃないわよ。むしろ嬉しい。名前の響きが素敵だと思ってくれたのかしら?」


「い、いえ。ステラと言う星の光を意味する言葉に、リスタニアと言う名前があまりにも綺麗だったのでつい。だって、二人の対の名前は、同じ人、誰かとても大切な人からつけてもらった大事な――」

「――えっ?」


 トラルの発言の際中でリスタニアは驚きの声を漏らすと大きく自身の瞳を見開く。

 そして、驚愕しきったように声を漏らした半開きの口のままトラルの顔を見つめ続けるのだった。


「………」


 僕はリスタニアの異変に気付くと、尚も固まるようにして僕を見つめてくる彼女の漏らした声に自身の発言を止めたのだった。

 

 ―余計な事を言ってしまった。

 僕は無理やり抜いてしまったような人の表層部分を露にした事に、自身の発言は時間経過では消えてくれない事を想い出すのだった。

 だから、僕はいつもは逃げるようにして他者に対し無難な選択肢を繰り返す。

 自分がしたい、やりたいことは選択肢から消え去ると、人に嫌われないように依存するように自壊と他生を選んでしまうはずなのに…


 ――少しだけ、やってしまった事に僕の顔が歪む。


「…ト、トラル・ハートネット………」


 リスタニアの酷く狼狽したような声が僕の耳に届くと、更に自身の顔が歪むのが分かった。


「あ、貴方には! 貴方にはいったい何が見えているの?!!」


「………?」 「…ふっ」


 リスタニアは驚愕したように声を上げるが、ステラは首を少し傾げながら二人の動向を見つめる。

 

 イクイアスは不敵な笑みを顔に浮かばせ、思い迷うような表情をするトラルと顔を合わせると、『GOOD』だと言わんばかりに親指を立てる。そして、未だオロオロするトラルに対し、「大丈夫続けろ」と言わんばかりに自身の顎をクイッと一瞬上に動かし、催促するように合図するのだった。


 僕の目の前で驚愕するように瞳を開いたリスタニア。

 その場の空気のように佇むステラ。

 イクイアスは「話を続けろ」と合図してくるのだが…

 

 本音を言うと僕はこの時どうしていいか分からなかったんだ。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る