天才、魔女、そして、何者でもない彼女
第5話 常識と言っても、人が決めた事には変わりなく
「これから、魔女に会う」
唐突に告げられたイクイアスの目的に―――
その異質な言葉に―――
僕は大きく見開いた眼で彼を見つめる事しか出来なかった。
―☆To Make for World Peaceful☆―
―う、嘘はついてない。
―本心というのもわかる。
―だ、だけど、あまりにも突拍子もないと言うか…
―――理解が追い付かない。
この科学が発展した世界。
その最先端の都市に住む、僕。
だから、機械工学の天才と呼ばれる彼から伝えられた言葉に異質さが増していく。
『魔女』
御伽噺。空想の産物。
確かに現実史で登場する言葉ではあるが、それはあくまで比喩。
単語の持つ意味はもちろん分かるのだが、魔女に会うと言ったイクイアスの真意は全くわからない。
確かに現代でも、才色美な美しい女性などに使ったりもする言葉だが……
僕には、イクイアスの言っている魔女が、そういう人のことでは決して無いと断定できる。
凄く歪で、ありえないことだが…
いわゆるアニメや漫画に出てくる創作物の、超自然的な力を行使する魔女の事を、彼は言っているのだ。
世界を網羅する通信網。
電子デバイス。電子媒体。
ましてや、AIロボットと共に生活するのが当たり前の僕らの時代。
大昔の人が今の僕達の生活を見た際に、「魔法みたいだ…」と比喩するのは分かる。年月が築いた物質文明に驚くのは当たり前の事だろう…
―――だけど!! 逆は絶対にない!
露呈し確立された文明に、魔女も魔法も存在しない。
世界の一般常識だ。
聡明なイクイアスから出た、少しだけ頭が悪く見えてくる言葉に、僕は若干眩暈にも似た症状に襲われる。
僕は少しだけ項垂れるように下げた頭に手を添えると、イクイアスに真意を問いかけるのだった。
「…本音なのは分かる。僕には分かるんだ!」
「ああ、だろうな。…お前なら、これだけで真意にすら近づけると思っている」
真剣な眼差しで見つめながら、僕を過剰評価してくるイクイアスだが、異質な単語が邪魔してくるせいか、この後起こるであろう事が現実味を帯びてこない。
僕は必死に体裁を整える様に、一区切りの間を空けると言葉を返したのだった。
「本気で言っている事は分かるんだ! ――だけど、信じられないと言うのが僕の見解だよ」
「だろうな。いきなり言われたら、ゲームかアニメ。間違いなくそうなるだろう。それが普通だぞ」
腕を組みながら、軽く言い放つイクイアスは諭す様に僕に言葉を返すと、次に僕が発する言葉を待ち構える様に佇む。
「…あえて聞く。お前が言っている魔女は、非科学的な魔法を行使する人。 …って事でいいよな?」
「もちろん、そうだぞ。一般的に言えば非科学要素の塊。空想の産物の事だ」
僕の質問を、イクイアスは間髪入れずに頷き肯定する。
その表情に嘘はなく、迷いもない。
彼の態度は言葉の節々まで全肯定するように、自身の誇りと自信を乗せてくるのだった。
異質を装おう偽装した言葉と真実を証明する彼の態度。
間に挟まれた僕は、よほど猜疑心溢れる顔を披露していたのだろう。
イクイアスは固まる僕に微笑すると、言葉を続けるのだった。
「そんな顔するな、トラル。科学は常識にとらわれるなとは言うが、それが普通の人の見解だぞ。魔女はいない、魔法は無い。年端もいかぬ子供ではあるまいし、いきなり信じるのは難しいと思うぞ」
「あ、ああ…」
イクイアスは自分の見解も述べながら、僕のとる態度が普通だと優しく伝えてくると、小さく頷き返した僕に対し、「うん」と大きく頷き、会話を続けるのだった。
「魔女、魔法は無いと言った。ただ、それは世界の常識ではなく、一般論の解なんだぞ。魔女が存在するか、否か! 世間に広く認められると考えられる論の解は、否! だが、必ずしも数字の多い答えが正解ではないんだ」
「あ、ああ。う、うん」
人差し指を目の前に立てながら、凄くまともに聞こえる持論を語るイクイアスに、僕は少したじろくように言葉を詰まらせる。
常識、非常識、誰がどういう風に決めたのか、言われてみればよく分からない。
僕の持ち合わせている自論だって、多数解ではないし、正解でもない。
気持ちが揺らぐと、彼の自信に後押しされるように、少しだけ常識と言うものが分からなくなってくる。
考えるようにして押し黙った僕に対し、イクイアスは注目しろと言わんばかりに右手の人差し指を立てるのだった。
「一言だけ、付け加えさせてくれ」
そう言うとイクイアスはもったいぶるように自身の瞳を閉じ、少しだけ間を作った。
二人だけしかいない空間の音が止まって数秒後、彼は自身の瞳を開くのと同時に口を開くのだった。
「お前なら会えばわかる。必ずわかる。例え、魔法を見なくても分かってしまうんだよ、トラル」
迷うことなく断定された言葉には、イクイアスの本心しか映らない。
自信に満ちた言葉と、口角を緩めた微笑みを見せてくる彼に、僕はぎこちなく引き攣った笑顔を返すのが精いっぱいだった。
この時代。この世界で自分を魔女と名乗る。いや、名乗ることができる。
それだけで異質。いや、異常なんだ。
今のご時世、歴史の教科書に載っていた魔女狩りなんて存在しないとは思うが…
その名を平然と名乗る事は、普通はしないだろう。
現実からピントが外れていくようなセリフに、僕は少しだけ頭を抱える。
でも、ふと考えた時、異常という言葉で片付くのなら、僕の目の前にいるイクイアスも異質であり異常なんだ。
満点塗れのテストの点数、数値だけの学力で見ても異常さがわかるのだが、テストの解答に、自身の理論を唱えるような奴だ。
とにかく科学技術や機械工学に対し、彼は異常性を発揮するのだが、彼の言った『こんなの応用しているだけで、所詮ただの公式だぞ。目新しさがない露呈した事実。それだけだ』という言葉に全てが詰まっているだろう。
要は露呈した事実なら、全部理解できると言っているようなもので、普通の人は、それができないのだ。そして、普通と違う彼には、それが分からない。
高校生ながら、フロウを継ぐ人物と評される彼に、つけられた称号は天才。
天才イクイアス。誰もがこう呼ぶ。
少しだけ彼が偉ぶっている様に聞こえるかもしれないが、それは断じてない。
天才以上に、僕にとっては凄くいい奴。
凄く変わってはいるけど、いい奴なんだ。
だから、彼の周りには人が集まる。
魔女と言う異質な言葉を吐く彼だが、彼を想い返した時、僕には信じる一択しか浮かばないのであった。
僕は少しだけ息を漏らすようにして微笑むと、イクイアスに問いかけるのだった。
「ふふ。見たことがあるって事で良いよな?」
「ああ。昔は良く会っていたぞ」
優しく微笑みながら、親指を自身満々に立てるイクイアスの姿が、凄く印象に残った出来事だった。
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