本性表したね
佐藤の独断専行に違和感を感じた氷室達はタイラントが凍結されている場所に急いだ、罠が無いか神経を研ぎ澄まし、発見次第処理する、その工程は奇しくも合流しようと氷室達に向かっている沢渡達と同じであった、そうして茂みから抜けると、そこには氷漬けにされて微動だにしないタイラントの姿があった、しかし先行したはずの佐藤の姿は無かった。
「まだ沢渡は来てないようだね」
「それにしてもデカイな…」
「大きさと甲殻の変形具合から察するに、おそらく200年は生きた個体ね」
氷室は辺りを見回すと、昨日話せなかったタイラントの生態について話し始めた。
「もし、この子を追い詰めたとしても油断しちゃだめよ」
「なんで?」
「タイラントは追い詰められると…」
「あれ〜?もう来たんですか〜?仲間を待ってると思ったのに」
氷室の言葉を遮るように、尺に触る声色で問いかけるハーフエルフが姿を表す、そう佐藤である、氷室はあからさまに舌打ちをして解説を中断した。
「いるならとっとと姿表しなさいよ」
「声が聞こえたんで戻ってきちゃいましたよで、何の話を?」
「あんたには関係ないわよ」
相変わらず誰よりも冷たい態度で佐藤の対応をする氷室、そして佐藤は表情一つ変えずに氷室に提案を申し出る。
「この氷とっとと溶かしちゃいませんか?」
「は?アンタ何言ってんの?私の話聞いてた?」
「お仲間さんまだ来ないんでしょ?札が反応してるって言うけど魔獣に食われたのが反応してるだけなんじゃないですか?」
「アンタいい加減にしなさいよ…」
氷室の白い肌に青筋が走る、氷室だけではない、寝食をともにしているアスカや田所、ヒロキも明らかに表情が変わった。
「いい顔するじゃないですか…そっちのが好きですよ」
一方その頃、沢渡は必死に氷室の元へ向かっていた、罠の少ない遠回りで来ていたが、どんなルートでも大量の罠が見つかるようになった、おそらく敵も近くにいるのだろうと踏んでいる。
そして札が一層強く反応した、これは半径200m以内に札の片割れがある反応である。
「近い!急ぐぞ!」
「ぐお…!」
沢渡は一気に加速した、仲間がいる、頼もしい強者もついている、その安堵の気持ちがいけなかった、ほんの一瞬気が緩んでしまったのだ。
グッ!
「あ!?しまっ…!!」
「沢渡殿!」
触覚の反応が鈍り、反応が遅れ、罠の起爆糸を思い切り引っ張ってしまったのだ、次の瞬間にはおぞましい生物由来の爆発物が白い光が放ち、二人を包み込んだ。
「しくっっ……たぁ!!」
「勘弁してほしいでござる!!」
無事…ではなかった、爆発の瞬間に二人はお互いをメタル化で硬化、メタル化の重ねがけでなんとか体の欠損は免れたが、全身に傷を負ってしまった、しかし止まるわけにはいかない、一刻も早く脅威を伝えなければ、その思いが沢渡の足を動かした、背負われている牛尾は迷った、強壮(スタミナ)の魔法を使えばもっと早く行けるだろうと、しかしこれ以上負荷をかけると沢渡が壊れかねない、牛尾は自分の不甲斐なさを恥じた、そうして走っていると、段々と開けた場所が見えてきた、微かに冷たい空気も感じる、沢渡は最後の力を振り絞って森を抜けた。
「なんだ…!?ここは……」
沢渡の意識はここで途切れた、背中から転げ落ちた牛尾は必死に辺りを見回した、どうか近くに居てくれ、そんな思いで目の前の氷漬けの竜の事など目にもとめずに、それは案外近くで、焦って見落としてしまっていたのだ、仲間と…なぜか大勢の魔人だった。
「アスカ殿!!氷室殿!!助けてほしいでござる!!」
牛尾は仲間達に向かって叫んだ、自分では動けない沢渡は限界、牛尾ももう心細くて仕方なかったのだ。
「牛尾…牛尾じゃないか!!と…沢渡!?何があった!!」
アスカ達は急いで牛尾達の元へ駆け寄った、二人とも重症ではないがひどい怪我だ。
「だれか回復系の魔法を使える者は?」
「攻撃に全振りしてるから無理!」
「なら返事するな!」
「あ…自分できます!」
おどおどしながらも長野が手を上げる、そうして慣れた手付きで回復の魔法をかけ始めた。
「若いのによくやるわね〜」
「田所、回復魔法ってすごいの?」
「10代〜20代前半辺りで使えるのは相当練習しないとまず無理だね」
「へへ…チンピラ時代よく先輩にやらされてたんで…」
「すげぇだろ俺の後輩!初めて知ったわ」
「資料見ろバカ」
なぜか敵であるMCo.の社員がいるのが気になったが、わけあって今は共闘しているとのこと、そんな雰囲気に和んだのか、牛尾は例の村で起きた爆発事件のことについて話した始めた。
「物資調達の為に村に降りたところ…祭り事があったのでござるが…火を使う屋台のガスボンベを爆発させるという悪質な事件が頻発していたでござる…その時は悪質なイタズラかと思っていたでござるが…ある雑貨屋で村人の魔人が突然爆発したんでござる!」
「爆発…森にあった罠と同じだ」
「他に情報は?」
「もう村中大騒ぎで…拙者達が犯人だと思った村人がハーフエルフ狩りを始めたんでござる」
「だから僕捕まったのか」
「そうして潜伏していると、爆発に巻き込まれた村人の方が来てくれたんでござる、その方は遺言士で、爆発した村人の遺言を届けてくれたんでござるよ」
「遺言というのは」
「犯人と思われる魔人の特徴でござる…」
全員が息を呑んだ、牛尾が今まさに言葉を発しようと口を開いたその瞬間、その静寂を打ち破るかのように、空気を読まないハーフエルフが乱入してきた。
「皆さんどうしました〜^^??」
「あ」
「ん?」
銀髪の耳にピアスを空けたハーフエルフ、その姿は新田氏が言っていた特徴そのままの姿だった。
「こ、こいつでござる!村で事件を起こし村人を爆殺した張本人!」
目を見開いて指を指し、全員に伝わるように牛尾は叫んだ、その言葉に瞬時に反応し、振り向いたのは氷室とアスカと焔だけだった、しかしその反応よりも早く、佐藤は大量の札を空中にばら撒いていた、そしてその顔は心底楽しそうで無邪気な顔だった。
「お前ら備えろ!召喚獣が来るぞ!」
ばらまかれた札を見た焔の言葉に反応した部下と田所達は防御体制をとる、そしてその言葉通り、ばらまかれた札からは大量の虫型召喚獣が召喚された。
「あはははは!!まさか村でやってきた事を伝えに来るやつがいるとはな!まぁいいや!お前ら全員ぶっ殺す予定だったし!楽しくヤろうぜ!!」
「えぇ…ほんとにね!!」シュッ
大量の虫が顕現する中、氷室は手で印を結び、タイラントの寒立を解除した。
みるみるうちに体の氷は溶け始め、意識を取り戻したタイラントが咆哮をあげる。
「ガアァァァァ!!」
「ひぃぃ!!」
「あぁ…お前ほんと…こんな素敵なこと…最高…」
「うわ…アンタマジで最低…」
「チッ!」
怯える社員達、タイラントに食われる虫、顕現する英雄虫ヘラクレス、燃え盛る焔と冷気を纏う氷室、槍の矛先を向けるアスカ、その混沌とした空間の中、佐藤は恍惚の表情を浮かべながら、ズボンに下劣なテントをおっ勃てていた。
魔界遭難記 MGRay @metarugia
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