異変
野宿生活の朝は早い、日の光が僅かに森を照らす頃にはレジスタンスメンバーは既に起きており、朝の支度を始めていた、その音に起こされたMCo.の魔人が文句を垂れる。
「やかましい!まだ朝の五時半だぞ!」
「うっさいわねチンピラ風情が!あんた達こそ、いつまで寝てるつもり?今日は決戦よ!朝のご飯くらい支度なさい!それとも今までお母さんにしてもらってたからできないのかしら?」
「こんのメスガキがぁ…」
「まぁ落ち着けよ」
朝っぱらから顔を真っ赤にする同僚を吉田が制止する、吉田も早起きして朝の支度をするのが日課となっているのだが、野宿なんて初めてだから何をしたら良いのかわからないのである、偉そうな顔をしてこれだ。
「よし長野!とりあえず火をおこしなさい」
「魔法を使ってもよろしいでしょうか!」
「だめだ!こういうのは雰囲気が大事なのだ、藤原を見てみろ、鬼の形相だ」
「うわっ」
長野も思わず声を漏らすほどの顔つきであった、叩き起こされた不快感と眠気を耐える表情がまさしく鬼の形相だった、見かねた焔がため息を1つついて自身の炎を飛ばして着火した
「遊びじゃないんだぞ、少しは慎め」
「はい!すいません!!」
「かと言って私も何をすればいいかよくわからない…教えてくれないか?氷室よ」
「ふぅん…まぁいいでしょう」
こうして、作戦で手を組んで行動する予行演習のように、共同で食事を作ることになったレジスタンスとMCo.だった、そして焔は「人間もいるが、手は出すな」と部下に釘を刺した
「それで、何を作るんだ?」
「人間が多いからカレーかちゃんこ鍋風の汁物になりそうね…」
「朝から…カレーは…重い…」
「文句言わないの、じゃあ皆、食べられそうな食材を採取してきてちょうだい」
氷室の指示が気に食わないのか、長野にいいところを見せたいのか、藤原がレジスタンスの強者相手に反発する
「へっ!敵の言うことなんか聞けるかよ!」
「素直に聞け、藤原」
「……ッ!がってん!」
「えぇ…」
焔からの命令では藤原も聞かざるを得ない、こいつは何がしたかったのかと長野の顔にしっかり出てしまうほど情けない男、藤原。
そしてアスカが先頭に立ち食材採取へ向かう、田所が抱えてるカイトは拠点に置き、氷室が冷気を入れ替える。
「……こいつめ…」
そして佐藤は爆睡していた
「で?俺達は何をすればいいわけ?」
「とりあえず食べられそうな食材採ってきて、動物でもいいよ」
そんな説明も聞かずに藤原が何かを見つけたみたいだ。
「おい!めっちゃいい感じのキノコみつけだぞ!」
それは真っ赤な色と枝分かれしたサンゴのような実に毒々しい毒キノコであった。
「完全毒キノコじゃねぇかバカ」
「食べられるもの探そうよバカ」
「バ〜カ!!」
アスカ、田所に続いて何故か吉田の追撃を受ける藤原は迷わず吉田の胸ぐらを掴み長野が制止している、すると先輩か同僚らしき魔人がめぼしいキノコを見つけたようで、躊躇なく引きちぎる、しかし菌類を引きちぎる音とは明らかに違うバツンとした音を聞いた次の瞬間、空気を揺らす爆音と共に彼の上半身はこの世界で肉片となった。
「なんだ!?」
「爆…発…!?」
音の方向へ目を向ける、しかしそこにはもう魔人の下半身しか存在していなかった、そして時間差で宙を待っていた肉片と血液が雨のように降り注ぐ。
「う、うわぁぁぁぁ!!」
「見るな長野!おい!どうすんだよ!」
錯乱する長野をなだめながら藤原がアスカに問いかける、降り注ぐ血と肉塊の中でアスカは思考を巡らせる。
(まずい…!このままじゃ魔獣達が寄ってくる…!匂いを洗い流す水場は近くにないしそもそもこんな森の水場は安全なのか!?いや…水場は必要ない…!)
「誰か水の魔法を使えるやつはいるか!」
その言葉に数人の魔人が名乗り出た、アスカはありったけの水を放出するように言うと、魔人達は滝のような水量の水を放出した。
「とりあえず匂いと肉片は洗い流す!」
「流石だアスごぼぼぼぼ!!」
「ヒロキくん!耐えられないなら言ってくれないと!」
危うく溺れかけたヒロキを田所が救い出す、そしてこの一大事を知らせる為に再会の札で戻ろうと全速力で走っていると、前衛を務めていた魔人が爆発した。
「ど、どうなってんだ!?」
「!?これ…は…!」
するとヒロキが草陰からあるものを見つけ出した、それはバスケットボール大の卵のような物でその一部からは、目を凝らさなければ見えないような、とても細く透明な糸がピンと張られていた。
「よく見つけたな…」
「研究所では…もっと小さいものも…扱う…」
「よし!さっさと処理しちまおう!」
そう言って藤田は足につけていたナイフを抜いて糸を切ろうとする。
「バッカ野郎!!」
その軽率な行動にアスカは怒りを露わにして藤田を蹴り飛ばした。
「なにすんだ!」
「正体不明の爆発物の処理をこんな至近距離でやんなんで頭沸いてんじゃないか!?」
「じゃあこれどうすんだよ!放置しとくにはあまりにも危険だぞ!」
「考えがある!」
爆発物の処理と言うと、とても繊細で緊張感のあるものを思い浮かべるだろう、実際そうなのだが、最終的な処理となると全て同じ結末をたどるものだ。
そして森にもう一つの爆音が轟いた。
「糸に慎重に紐をかけて遠くから爆破…大雑把というか大胆というか」
「有効ならよし!」
そうしてアスカ達は森中を爆破しながら氷室の元へと戻って行った。
一方氷室は焔とその部下数人と共に拠点でアスカ達の帰りを待っていた、ある時間から森が突然騒がしくなってきたので少し警戒はしているが。
「何この音…魔獣でもこんなことしないわよ…」
「もしかしてまた私の部下が何かしたのか…」
はぁ……
とほぼ同時にため息をつくと、穴の奥から耳障りな声を発して銀髪のハーフエルフが姿を表した。
「美女にため息は似合いませんよっと」
「隣に座ろうとするな」メラ…
「あっち!厳しいな〜」
焔に追い払われると今度は氷室の方をチラチラと見ていたが、強めの威嚇を受けて地べたに座った。
「いやー!遅いですね!」
「何もしないあんたがよく言うわ」
(ハーフエルフ…まさかな…)
「戻りましたぁぁ!!」
「おかえ…りぃぃ!?」
氷室が目にしたのは血と臓物にまみれたアスカ一行だった、そしてその背後には巨大な魔獣の死骸が転がっていた。
「何が…?」
「はい!謎の生物由来の爆発物を処理しながら帰還していたらいつの間にか獲れていました!!」
「え?あ、そうなんだ…すごいわね…」
焔はその光景に言葉を失っていたが、帰還した者の人数を数えると、数が足りないことに気がついた
「藤原、二人ほど足りないが…」
「部長、それが…」
藤原が言い淀んでいると、佐藤が穴が出ていき、獲物の亡骸を観察してた。
「おぉ、おぉ…すごいねぇ!こいつは危険度準二級の魔獣ブヒーモスだ、どうやら爆発によるショック死だね!こいつ体デカいくせに無駄に敏感で繊細だからね!」
「チッ…空気読めやバカエルフが…」
「早速解体しよう!」
空気を読まないひょうひょうとした態度の佐藤の態度にあからさまに機嫌を悪くしながらも、藤原は焔に報告する。
「天然のトラップ…知っているか氷室」
「マインスパイダー…地雷蜘蛛の習性ね、でもこの大陸には生息してないはず…」
「外から持ち込まれたとかか?」
「危険度も高いし、普通のハンターとか無法者がどうにかできる生物じゃないはず…まぁ魔界は何が起こるかわかんないし、可能性は否定できないわね」
しばらく森の異変について話していると、長野が駆け寄り食事の支度ができたことを伝える、そうして外に出ると、ブヒーモスとやらの姿はなくなっていたおり巨大寸胴2本分しかなくなっていた。
「あれ…?」
「おい、もっとあっただろ」
氷室と焔に問い詰められると、吉田が話し始めた。
「実は解体の途中で内蔵が破れちまいまして…」
「あぁ…なるほど」
直前まで生きていた生物の処理は難しい、血抜きに皮剥ぎ、そして内容物の処理だ、野生下ではどんな病原菌を持っているかわからないそんな糞便まみれの肉をどうこうできる時間はもうないということで、最低限の可食部しか残らなかったとの事だ。
「で、例の汚物肉は?」
「佐藤とか言うハーフエルフがどっかに持って行きましたよ」
「そのまま魔獣に襲われて死なないかしら」
「ん…?え!?」
思わず呪詛を漏らす氷室に耳を疑うアスカだったが、周りがあまりにも反応しないので、魔界ではこれが普通なのだろうと勝手に納得した。
………
「どうなっているでござるかこの森ら…!来た時と比べて様子が違いすぎるでござる!」
牛尾を背負って最速で氷室の元へ戻ろうとしていた、しかし沢渡の触覚は森の異変に気がついていた。
「爆発する謎の物体に細く硬い鋭い糸…これでは全速力で走り抜けられない…」
「いや沢渡殿、拙者が硬空にて罠を破壊するでござる、糸の方は沢渡の触覚をもって避けて行けばよろしい、拙者の見立てでは最短ルートが最も罠の密集が激しいでござる、多少遠回りでも構わぬ!いざ!」
「了解!」
牛尾の予想は正しかった、外周を大きく回って徐々にだが確実に氷室に近づいていた、罠の数もさっきのルートより断然少ない。
「しかし何なんだこの罠は!」
「わからぬ!しかし魔法や魔具の類ではないでござる!」
「まさか例のハーフエルフの仕業か!?」
「十中八九そうでござろう!村の爆発事件といい、爆発する罠といい、共通点が多いでござる!おそらく召喚獣の類かと!」
糸を避け、罠を破壊しながら疾走する、だんだんと近づき札の引きも更に強くなると、それに呼応するように氷室の札も強く反応した。
「この反応…近い…!」
「まさか沢渡達!?無事だったんだ…」
アスカ達は食事を済ませてタイラントが氷漬けにされている場所へ向かっている。
「戦力は多い方が良い、合流してからむかいましょう…ってどこ行くのよ!」
「先に行きます、氷漬けのタイラントなんてこの先の人生で拝めるかわかりませんからね」
「待ちなさ…!もう…!」
氷室の制止も無視して佐藤が先を急ぎタイラントの元へ行ってしまった、氷室からすれば寒立の効果で死んでくれれば良いのだが、掴みどころが無く不気味な佐藤の勝手な行動には危機感を覚えていた。
「追うわよ」
「でも近くに沢渡が…」
「いいから!アイツ何かヤバいのよ、アンタ達も薄々気付いてたでしょ?」
「まぁ…確かに初めて会ったときとは大分雰囲気変わったよね…」
「とにかく追いつくわよ、爆弾の件といい、アイツが一人になるとろくなことがない」
氷室達は急ぎ足でタイラントの元へ向かった、一方で佐藤は既にタイラントの目の前に立ち尽くしていた。
「素晴らしい…流石特級の名を冠する魔獣…凍ってる立ち姿すら雄大…」
ゆっくりと外周を周り細部まで舐め回すように目に焼き付ける、手には怪しげな札を持っており、指で挟んでひらひらと弄んでいる、そして再びタイラントの正面に立った時、佐藤の顔には凶悪な笑みが張り付いていた。
「やっぱり呼んで良かった……さぁ…40年振りの再戦といこうじゃないか…今の俺には頼もしい仲間もいるしなぁ…!」
魔力を込めて手放したその札は、空中で魔法陣を展開、そしてそこから現れたのは、腹が赤黒く脈動する巨大な蜘蛛だった。
「ステージ作りといこうじゃないか…」
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