手を組もう

アスカ達は一目散に逃げているうちに小さな洞窟を発見し、そこに身を隠していた、MCo.の魔人、それもスラム街で撃退したあの二人組も一緒だが


「やい」


「なんだよ」


「なんで敵のお前らも僕らについてきてんだよ」


「え〜?な…流れで…?」


帰ってきたのは曖昧な答えだ、しかし藤原も状況が飲み込めていないのかこちらに敵意を向けている様子はない

そうしているうちに再会の札を辿って氷室が追いついた


「皆無事?…ではないわね」


レジスタンス組は無傷だったが、MCo.の社員達はタイラントの攻撃やその余波により体を欠損していたり多少なりとも傷を負っていた、そして氷室の姿を見た吉田が反応する


「このガキ…写真で見たことがあるぜ、確かレジスタンス最強格の吹雪の…ひっ!」 


「ガキじゃない、私は24よ」


「っはぁ…強い…」


子供扱いした吉田を一瞬氷漬けにして解凍する、だが吉田はこの出来事で実力の差を思い知った


「ところで、そこの炎の子大丈夫?」


洞窟の隅でうつむいて動かないのは部長の焔だった、普段燃え盛る髪の炎は弱々しく今にも消えそうな火力だ


「私は…上司失格だ…部下をあんなに…」


「そりゃあ残念だったわね、ま…自分の無知を恥じるのね」


「お、おい!そんなに言わなくても…部長!気にすること無いッスよ!」


「いえ、存分に気にするべき事よ、そもそもあなた達はなんでこんな森に?」


「最高幹部…けいご氏の命令でこの森に出現した超弩級危険魔獣の捕獲案件で…」


「その割にはあんた達の装備随分お粗末ね?魔獣のチェックは?森の下調べは?」


「……してない…」


その返事を聞いた氷室は心底呆れた様子でその辺に腰掛ける


「あんたバカなんじゃないの?」


「てめぇ…!言わせておけば…!」


「待て!その人の言う通りだ…私は傲っていたんだ…今思えば、部長に就任したのも、多くの仕事を貰えたのも、結局は兄の威を借りていただけ…それを自分の実力だと思い込んで…うぅ…ほんとに私は…」  


激情した藤原を制して焔は更に炎を弱々しくした、すると氷室は焔に向かってある提案をした


「ねぇ、私達と組まない?」


「な!?突然何言い出しやがる!レジスタンスとなんか…!」


「……聞こう」


「あんた達も私達もあのタイラントが目的でしょ?でもあんた達は奴に関する知識を何一つ持っていない、でも私は奴の生態も能力もわかる、どう?名誉挽回と行こうじゃない」


「その話……」


一瞬炎が燃え盛る、怒らせてしまったかと空気がピリついたが、焔の炎が再び轟々と燃え盛り、氷室の手を取った


「乗った!!」


「じゃあ早速作戦会議といきましょう」


氷室は作戦を練る前にまずタイラントの生態等を説明した、タイラントは非常に執念深い竜で一度狙った獲物は例え海を超えても追っていくという、その生態故、超長距離移動を可能にする無尽蔵のスタミナと短期間に周りの環境に適応する能力を持っている。


「そこはわかったが…なぜ私達の魔法が効かなかったんだ?」


「タイラントの甲殻は黒かったでしょ?あれば度重なる魔法攻撃で魔素が甲殻に沈着したから、色が黒いのもありとあらゆる属性の魔法を受けたからね、だからタイラントは魔法に対する非常に強い耐性があるの」


「あの先輩達を吹き飛ばしたのは?」


「通称カウンターリボルト、攻撃で受けた魔法攻撃の魔素を体内で無属性化し蓄積、それを圧縮して吐き出すって訳、威力は見た通りね、だからやめなさいと言ったのに…」


「ところでタイラントはどうしたんです?」


「私の秘技で止めてきた」


「へぇ〜…強いんですねぇ…」


氷室の返答にヒロキがタイラントが他の魔獣に襲われるのではと質問したが、寒立は足止めに特化した縛りで、魔法を解くまでは外敵に強力な冷気を浴びせて身を護る仕様になっている、次にどうやってダメージを与えるかの問題に当たった


「どうする?殴るか?」


「藤原よ、お前はアレを殴ってどうにかできるか?」


「無理だな」


打撃は自分の体重の三倍以上の相手には効果がないと言われている、しかし今いる戦力はほぼ魔法攻撃が攻撃手段の魔人ばかりだ、するとヒロキが自分の荷物を漁って何かを取り出した


「これが…使えるかも…」


「これは…爆弾?」


それは楔形の爆弾だった、戦力外を自覚していたヒロキが密かに開発したもので、本人によれば岩位なら木っ端微塵にできるとのこと


「でもこれだけじゃ…」


「これは…ダメージを…与える為の爆弾じゃ…ない」


「というと?」


「要は…厄介なのは甲殻だろ…?だから少し傷をつけて…そこにこいつを刺し込めば…」


「甲殻をふっ飛ばして生身をぶっ叩くってこと!」


「なるほどね…良い考えかもしれないわ…」


そうして甲殻を剥がしてダメージを与え、佐藤の魔獣でスタミナを削いという方針で作戦は練られた、そして最後にタイラント最大の生態を説明しようと思ったが、明日の事を考えてその日は夜を迎えるとすぐに眠りにつき、作戦の直前での解説することになった。

一方その頃、沢渡は未だ森の外にいた。


「あいつらと鉢合わせになるわけにはいかないからな…牛尾、大丈夫か?」


「拙者はもうダメみたいでござる…」


「なら大丈夫だな」


牛尾は冗談を言える程度には回復しており、後は夜明けと共に森に入るだけだった、物陰でじっと待っていると草をかき分ける音が耳に入り、沢渡は指先にメタル化を集中させた

しかし草をかき分け姿を表した者に沢渡は見覚えがあった


「あんたは…」


「探したぜ…」


それは爆破された雑貨屋の店主である新田だった、松葉杖をつき全身に包帯を巻いた痛々しい姿だが、付き添いの者の姿は見えない


「あんた伝えたいことがあるんだ…米さんの…遺言だ…」


「米さん…?あの人なら拙者が一番近くにいたでござるが何も聞かなかったでござるぞ…?」


「俺は遺言士の仕事もしててな…残留した魂から話を聞けるんだ…」


痛む体を地面に座らせ、新田は沢渡達に遺言を伝える、その内容は自分の死因と思われるまんじゅうの主だ


「米さんによると、そいつはハーフエルフ、更に銀髪で耳にはピアスをつけていたらしい」


「だから村人達はハーフエルフを…」


「あのときは俺も上手く話せなくてハーフエルフとしか言えなかった…そのせいで君の仲間も狙われる事に…」


「いや、あんたに責任はない、もし俺がそのハーフエルフを見つけたらふん縛ってあんたらの前に連れてきてやる…」


沢渡は牛尾を背負って森へ向かおうとする


「森へ行くのか?気をつけるんだ、あそこには何がいるかわからない、それに…さっきの見ただろ?」


「あぁ…」


森の外にいた沢渡だったが、タイラントが放ったカウンターリボルトは森の外まで突き抜けていた、その余波で村人達が数人跡形もなく吹き飛ばされた為、いよいよ竜神様の祟りだと村は大騒ぎになっている


「魔獣が森の外まで出てくるかもしれない!とっとと帰りな!」


「あぁ、頼んだぞ…!」


沢渡は再会の札を頼りに再び森へ入った


夜もふけた深夜、焔は洞窟を出て星を見ていた、そこに氷室が隣に座る


「良いのか、隣なんかに座って、一応私達は敵同士だぞ」


「私強いから大丈夫、それにあんたにその気が無い事くらいわかってるわよ」


「お前は凄いな…頭も回るし部下から信頼されてる」


「信頼ならあんただって」


「心の底から私を信頼してくれてるのは極僅かだ…ほとんどは兄にコネを作ろうと私に寄ってきた者達だ」


そう語る焔の顔は少し寂しそうだった、その顔を見た氷室は一言だけつぶやいた


「…人を見る目だけはあるみたいね」


「だけとはなんだ」


そこから二人の会話は無かった、ただ呆然と天を仰ぎ星を見つめて魔獣達の咆哮に耳を傾ける、敵同士で座っていた二人だが、とてもリラックスしていた、しかしこのような空間に理解できる言語が入ると途端にストレスに変わることを二人は思い知った


「お二人さん楽しそうですねぇ!」


佐藤だった


「…寝るかぁ」


「明日もあるしね…」


「おや?つれないですねぇ」


二人はこの佐藤を一切信用していない、いくら強力な魔獣使いとはいえこんな森に一人でいて無事なのもおかしいしタイラントと対峙したときも何故か嬉しそうにしていたのを二人は見ていたのだ、そして焔が佐藤に声を低くして言い放つ


「いいか、私はお前を信用していない、私の部下には近づくんじゃないぞ」


「は〜い、気の強い女性って素敵だと思いませんか?氷室さん」


「正直あんたとは作戦時以外話したくない、話しかけないで」


「ひ〜きっつ」


その場に佐藤を残して氷室も洞窟の入口付近に座り目を閉じた、そうしているとこの日に起こったことが脳内に溢れる、今日は色々ありすぎた…多すぎる情報量が氷室を眠りへと誘う。


「やはり強者の魔人は一味ちがいますねぇ…」


そうつぶやくと佐藤は二人の座っていた場所の間に座り込み、二人の跡をなで始める


「なるほど…!自然型はやっぱり体温がちがいますねぇ…!人肌ならすぐになくなってしまう痕跡が、炎の魔人なら暖かく氷なら冷たい…!」


佐藤はしばらく座った形跡を触り続け、ひとしきり満足すると独り言をつぶやいた


「これ実質美女のケツ触ってるみたいなもんでしょ…それにしても炎の人の痕跡でかいなぁ…ケツデカ魔人エッッ!!」


周りに誰もいないのをいいことに最低な言葉を口に出し続ける、魔獣も寝静まり月明かりが雲に隠れ、本当の闇が森を覆い尽くす時まで、佐藤はニチャリと音がしそうな顔で笑っていた。

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