魔獣使い
アスカ達は安全地帯へ戻っていた、すると葉をかき分けこちらへ向かってくる人の気配を察知し臨戦態勢に入りアスカは顔を隠すが、そこから出てきたのは牛尾とは違うハーフエルフの青年だった
「よかった〜!やっと人に会えた!」
「一般人…?」
「何故こんな所に…」
無害そうな雰囲気を出しているがここは政府の定めた立入禁止区域、一般人がこんなところに居ること自体ありえないのだ
「それが…肝試しで仲間と来たのですがはぐれてしまいまして…」
「……そう、なら人がいる場所まで送ってあげるわよ」
「ほんとですか!?あ、そうだ…ここに来る途中まで誰かと会いませんでした…?」
「僕らは死体しか見てないよ…」
「それに素人がここで生きてるだけで奇跡よ、MCo.の社員潜んでるし他の仲間はみんな死んだと思っていいわ」
氷室から森の厳しさを聞かされた青年は酷く落ち込んだ
「そうですか…MCo…死体…残念だなぁ…せめて最後の姿は…見たかったなぁ…」
「……行くわよ」
青年を連れて森の安全地帯へ向かうアスカ達、すると青年は突然自己紹介をし始めた
「あ!僕佐藤って言います!見ての通りハーフエルフです!」
「いきなり自己紹介なんて変な人だなぁ…」
「そのカプセルには何が入ってるんです!?」
「い…言えねぇよ…さっき合ったばかりの奴なんかに…」(なんだこいつ…妙に馴れ馴れしいな…)
やかましい程に質問攻めをしてくる佐藤に内心うんざりしながら森を進む、そろそろ安全地帯に入り、このまま森を抜けられると言うところてで氷室が突然足を止めて全員をかがませた
「え?何してるんですか?」
「君もかがむんだよ!」
「いたか!?」
「いやここにはいない!」
「おい!あっちで捕まえたらしいぞ!」
(何だと!?もしかして牛尾が…)
そうして身を隠しているうちに村人達はその場から姿を消した
「氷室さん!助けに行きましょうよ!」
「ダメよ」
「なんで!?」
「アスカ、推測だけで作戦を決めるのは良くないことよ、もし助けに行ったとして垢の他だったらどうするの?」
「そ…それは…」
「彼らもレジスタンス、危険を承知で行動してるわ…でも、あの子達なら必ず帰ってくるわ」
氷室の言葉にアスカはぐうの音も出ない、そして氷室は別の安全地帯へ向かった
一方、牛尾の応急処置をし、すぐにでも森へ戻りたい沢渡だったが、既に森の周りには村人達が大勢集まっており、戻れずにいた
「別に強行突破は可能だ…しかし一般人を森に引き込みかねない…それだけは避けなければ…ん?なんだあれは…」
村人達が何かを準備している、遠目ではよく見えず望遠鏡で見てると、それは古来よる伝わる処刑方、火炙りの準備だった
「!?ばか…!こんなところで生物を炙ったら魔獣が寄ってくるだろうが…!」
長い間森に入れず、しかしそのおかげで魔獣の脅威に触れずに済んでいたが、それが裏目に出ようとしていた、そして村人が見つけ出したのであろう犯人?のハーフエルフが今、私刑執行されそうになっている
「てめぇら…MCo.に手ェ出してただで済むと思うなよ…」
「黙れ!てめぇこそ村で散々好き放題暴れやがって!ぶっ殺してやる!縛りつけろ!」
太い丸太に縛り付けられ、足元には大量の焚き木が置かれる、その周りで村人達はニヤニヤと笑っていた
「てめぇら…呪ってやる…」
「ふん、どこまでその威勢が持つかな、吠え面かくなよ!」
「じゃあお前もだ…」
「え?」
「炎天・火達磨!」
「ぎゃぁぁぁぁ!!」
「誰だ!?」
リーダー格の村人背後に突如として現れ、直後に炎上させたこの自然型の魔人を沢渡は知っていた、凛々しい声にパンツスーツ姿で高く括った燃え盛る炎のポニーテール、そしてでかい尻、そう営業部部長の「焔」である
「なんだこのアマ!?」
「関係ねぇ!仲間が殺されたんだ!この女も…」
村人達がギャーギャーと騒いでると、焔は森に向かって一言叫ぶ
「鏖殺!!!」
「「応ッッ!!」」
その声に応えて、森からは焔の部下達が一斉に飛び出す、そして沢渡が瞬き2つする間に大勢いた村人達を宣言通り殲滅してしまったのだ
「部長〜〜〜」
「私がついていながらすまなかった…上司失格だな…」
「そんな事ないッスよ!」
「そうですよ部長!」
「元気だしてください!」
ハーフエルフの名は長野と言うようで、彼は焔の落ち込んでる様子を見てフォローするが、それに便乗して4本腕の魔人藤原と六つ目の吉田もフォローに回った
「ふん!」
「「痛い!」」
しかし焔は藤原と吉田の頭に軽く拳を振り下ろした
「私はお前ら二人に新人の長野を守るように言ったはずだが…?」
「あばばばばばば……」
「まぁ…長野は無事だったし、今回は見逃してやる、だが次はないと思え…!」
「はい!肝に銘じます!!」
「爆弾魔のハーフエルフめ…私の部下を危険にさらしおって…目のもの見せてやる…」
MCo.のおかげと言ってはあれだが、経緯はともあれこれで沢渡も森へ入れるようになった、後は全速力でアスカ達の元へ戻るだけだ
安全地帯に到着したアスカ達は、再会の札を確認し牛尾達の安否を確認した、結果札は反応しこちらに向かってきている事を示していた
「ちゃんと反応してるわ…」
「よかった…」
「大切な人なんですか?」
「うん…あ!?」
「ん?」
佐藤の問いかけに答えかけた田所は余りに突然の出来事と安全地帯での油断で反応が遅れてしまった、なんと佐藤の真上から巨大な猿の魔獣が彼めがけて降ってきたのだ、田所につられて他の者も猿の存在に気が付いた
「何!?」
「なんでこんな所に…!」
「なんだ猿か……英雄虫ヘラクレス…!!」
猿の接近に気が付いた佐藤は、アスカが槍を投げるより早く、氷室が魔法を使うより早く、ノータイムでその技を発動させた
「ホキャァァァ!?」
「ギィィイ!!」
召喚された巨大なカブトムシは、ハサミを思わせる巨大な角で猿を後ろにあった巨木もろとも挟み込み拘束した、猿は拳を振り下ろして抵抗するが、分厚く硬い甲殻には全く効果がない
「殺す必要はない、ぶっ飛ばせ!」
その命令通り襲ってきた猿を思い切り投げ飛ばした、するとそのカブトムシは姿を消してしまった
「すごいわね…あなた魔獣使いだったのね」
「あんなに大きいヘラクレス初めて見たよ…」
「使役するのに苦労しましたよ〜」
魔獣使いだった事実とその眷属魔獣の大きさ強さに感心する二人とは別に、人間のアスカとヒロキの反応は違っていた
「僕らの世界のヘラクレスオオカブトって…」
「あぁ…デカくて…手のひらより…ちょっとでかいくらいの…サイズ…」
「それにしてもあんなに強力な魔獣だと、制約も大きいんじゃない?」
「えぇ…彼に私の命令を聞かせる代わりに、召喚中は魔法を使えないんですよね」
「それはもったいないわね…」
通常、魔獣使いは自身の魔法で眷属を強化しつつ戦うのがセオリーだが、あれほど強力な魔獣ならそれも必要ないのかもしれない
「それにしても何故安全地帯にあんなのが?」
「きっとこの騒ぎとさっきやり過ごした魔獣のせいで森の均衡が崩れてるんだわ…早くなんとかしないと…」
「……僕も協力しますよ」
佐藤が突然こんなことを言い出した、元々ここから抜け出すために来たのではないかと返すと「皆さんを見て自分も覚悟が決まった、これは仲間の敵討ちも目的にしている」と言った
「そう…でも皆、これだけは約束して、もし命の危険を察したらすぐにでも逃げなさい」
ガサガサ
「ん?」
「あ」
氷室が言い終わるとほぼ同時に草陰から出てきたのは、部下を引き連れ先頭を歩いていた焔であった、氷室も焔もまさかこんな近くにいまいと思っていたのか心底驚いた
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
「ちょ!逃げるわよ!」
氷室も焔もまさかこんな近くにいまいと思っていたのか心底驚いた、しかしその直後、その衝撃を塗りつぶすかのような出来事がおこる
ドッドッドッドッダンッ!ドズン!
「ガギャァァァァァ!!!」
「次はなんだ!?」
「えぇぇぇ!?何でここに!?」
「さっき…やり過ごしたはず…!」
小山かと見紛う程の巨躯に巨木のように太い手足、、そして丸太のように太く剣のように鋭い牙とかぎ爪、更に全身を覆う黒い隆起した甲殻と鱗、そう…この四足歩行の巨竜こそがこの森の生態系を崩し、村人達から竜神と崇められている存在
「殲滅竜タイラント…!!」
「巨竜種!!部長!目標があっちから来ちまいましたよ!どうします!?」
「怯むな!たかが魔獣!私に任せろ!」
「俺達もやるぜ!」
「…!!やめなさい!」
焔を筆頭に果敢に自分の最高威力の魔法を放つ魔人達、そして焔は飛び上がり、タイラントの脳天めがけて自身の最高威力の魔法を放った
「天をも焦がす災害の炎!地獄門から持ち出された刑罰の大火!!獄炎紅焔!!」
全身の炎が燃え盛り、文字通り紅蓮の炎の塊が出現する、部下達の一斉攻撃に合わせての奥義炸裂、着地した焔はニヤリと口角を上げ、爆煙の中を見つめていた
「やったか!?」
「当たり前だ!部長の奥義を食らって無事でいたやつなん
ゴオッ
瞬きする間に起こった出来事だった、爆煙の中から焔の部隊めがけて一直線に何か放出された、その何かは射線上の物体を全て削り取りながら一直線に森の果てまで飛んでいった
「な…!?」
「グルルル……」
結論から言うと、タイラントにはかすり傷程度の傷しかついていなかった、甲殻が多少焦げて数か所についていた怪我もみるみる再生している、焔の部下たちは今の謎の攻撃で半数以上が姿を消した
「な…何が…起こったんだ…?」
「だからやめなさいと言ったでしょう…!貴方達!」
「うえ!?はい!」
焔と同様にその場で魂が抜けていた生き残りの4本腕の魔人に氷室が指示を飛ばす
「その娘を連れて早く逃げなさい!アスカ達も!私が時間を稼ぐ!振り返らずに逃げなさい!」
敵の指示だが藤原は素直に従った、彼の本能が氷室に従ったほうが確実に生き残れると確信していたからだ、そしてアスカ達も一目散に逃げ出した、氷室以外の魔人や人間全てが、タイラントの生物としての強さに恐れていた
「ゴルァァァァ!!」
「噂通りの執着心ね、でも今はお預けよ」
氷室は知っていた、タイラントは狙った獲物はどんなに距離が離れようと、痕跡を消そうと、その底無しのスタミナと探索能力で見つけ出す、狙いは恐らくカプセルに入ったカイト…ではなく魔種だろう、今この竜と戦っている暇はない、氷室は魔法の口上を唱え始める
「雪よふれふれ猛吹雪、垂れて固まれつらら針、寝るな起きろと友の声、起きた時には極楽か……寒立」
「カ…!?」
その魔法の威力は受けたタイラントが一番理解していた、体の末端から力が失われ、いずれは全身が動かなくなり意識を失った、止めを刺すなら今だが氷室はアスカ達の後を追った
「寒立は足止めに特化したせいで私が対象に危害を加えると効力が失われてしまう制約がある…皆無事だといいけど…」
森の中には殲滅竜と正体不明の爆弾魔、外には怒れる村人達、不幸にも殲滅竜の獲物になってしまったレジスタンスと何か目的があるMCo.、あらゆる勢力が入り乱れるこの場所でアスカ達は生き残れるのか、佐藤は何者なのか、今は誰にもわからない
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