爆炎と竜神様の伝説

絶えず生態系のサイクルが繰り返される輪廻の森、今この森では異常事態が起こっている、中堅の魔獣が浅い森にまで進出してきているのだ、そしてこの危険極まりない森に挑んでいるのが、仲間の命を救うために来たレジスタンス達だ


「皆ぁ!でかい蛇をとったぞ!!」


「食えるんだろうな!?」


「安心しろ、僕は下水に住んでた蛇を食ってきた女だぞ?こんな野生の蛇なんかスラム街じゃ上物の肉だ」


「……色々……苦労…してきたんだな…」


蛇を捌き、焼き、かぶりつく、やはり野生の蛇は洗剤で洗う必要が無く食べ物もいいのか身も柔らかくなっている、脂も滲み出し十分に美味い、アスカは今まで食ってきた蛇の不味さを思い知った


「氷室殿!美味でござるよ!」


「今行くわ」


一方氷室はカプセルに冷気を再充填していた、一応呼吸のために換気口があるので冷気が少しずつ漏れてしまうのでこうやって定期的に冷気を補充しなければいけないのだ


「お待たせ、人間なのによくこんな大物捕れたわね?」


「僕の槍の腕にかかればイチコロさ!はいどうぞ!」


「ちょ、なんで大きい方なのよ!」


と言いつつも受け取り、苦戦し顔中を油まみれにしながら肉にかじりつく、すると牛尾が氷室に魔獣研究の事について訪ねた


「氷室殿は何故魔獣の研究を?」


「好きなの!子供の頃から!」


氷室は幼い顔をほころばせてそう答える、魔獣の研究はMCo.や組織の息がかかった政府によって制限されている、よって氷室はレジスタンスに入り打倒MCo.を目指しているのだ。

レジスタンスにも魔人種差別撤廃を掲げる者達だけではない、己の目標や野望にMCo.が邪魔でレジスタンスに参加してる者も多い。


「では夢は魔獣博士でござるか!いや〜立派でござる!」


「うん…それもあるけど、一番は妹達が安心して暮らしていけるようにすることかな」


「というと?」


「あの子達はあの組織の幹部にトラウマを抱いている、そうなったのも力がなかった私のせい、だから組織を倒して安心して暮らせる世界を造るの…?」


氷室が口にしたのは妹達への贖罪の言葉だった、空気が徐々に重くなっていくのを感じた牛尾がその雰囲気を断ち切るように話しを切り出す

 

「せ、せっかくだし、皆も組織を打倒したときに何をしたいか言い合おうでござる!」


「お、おう!いいなそれ!」


「ではまず拙者から、拙者は打倒の暁には、封印された歴史をこの目に焼き付けたいですござる!」


「俺は…迷惑かけた家族に楽させてやりてぇ…」


「僕は…よくわかんないや、教官の地獄の訓練が僕の生きがいさ」


「俺は…人間の世界に帰って…姉ちゃんを…安心させてやりてぇ…」


「僕もカイトと人間の世界に帰る、約束したんだ」


焚き火を囲んでお互いの夢や目的を話し合う、そして夜もふけ明日に備えて休もうとした時、真夜中の森の奥から叫び声のようなものが聞こえた


「なんだ?魔獣の喧嘩か?」


「いいえ、声の音から察するにこれは巨竜種の縄張りを誇示する咆哮ね、かなり大きい巨竜が森の奥深くにいるわ」


「見つかったらまずいな…焚き火は消しておこう…」


そうして焚き火を消して、代わる代わる見張りを交代しながら夜を過ごした、幸い夜行性の魔獣に襲われることもなく無事に夜を越した


「今日は二手に分かれましょう、思ったより物資が足りないわ…地図によると森を南に抜けたら村があるらしいわ、人員は…ござる君と虫君でお願い」


「了解でござる!ささ!沢渡殿!早速小生を背負ってほしいでござる!」


「結局俺頼みかよ!」


牛尾が沢渡の背中に乗り森を駆ける、蟲人にとって悪路など関係ない、更に牛尾の魔法による牽制で魔獣を近寄らせずに無事森を抜けることができた


「よし、私達も行くぞ」


「え、待たなくてもいいの?」


「魔法道具の再開の札を持たせといてるから大丈夫」


「いつの間に…」


そうして森の奥に入り込んでいく、カイトのカプセルの影響なのか近くに魔獣が近づいても中々気付かれることがないので捜査は順調に進んでいった


「まずいわね…」


「どうしまたした…?て…これは…」


「前のおっさんよりひでぇ…」


それは以前の魔人のように死亡した魔人達だった、それも一人や二人ではない大量の、しかしかなり腐敗が進んでおり現場はとてつもない悪臭が漂っていた 

 

「おかしいわ…」


「何がですか?」


「魔獣の仕業にしてはマーキングがない…」


魔獣は獲物の死体を放置する際には必ずマーキングを施す、しかしこのあまりにも不自然な光景に氷室は一抹の不安を覚えた


ガサガサ


「うん?なんだろう?」


「!?隠れて…!」


巨木と大地が揺れて木の葉が音を立てる、その巨大な何かの接近に気付いた氷室は、すかさずアスカとヒロキ、そして田所と共に巨木の洞に身を隠す、ここは極めて凶暴な魔獣がひしめく森のほぼ最深部、一瞬の判断が命を落としかねないのだ

一方その頃、牛尾達は目的の村に降りていた


「のどかな村だな〜魔獣の森が近くにあるとは思えんぜ」


「しかし一向に店が見つからないでござるな…おや?」


しかし、しばらく歩いていると道にのぼりが刺さっていたり、電柱に旗が括られていたりと何やら祭りのような雰囲気が強くなってきた


「なんでござろう…やや!そこの御老公!今日は何かあるのでござろうか!」


「あんた達見かけない顔だねぇ…なら知らなくて仕方ない…ここの村では昔から竜神様を祀る行事があってねぇ…今日がその縁日なのさ…」


「なるほど…ところでじいさん、雑貨屋か何か…物を売ってる場所はないか?」


「それならこの道をずぅ〜っと行けば小さな雑貨屋がある…」


「そうか、ありがとなじいさん」


老人に礼を言うと、言われたとおりに道を駆ける、そして本当にずぅ〜っといった場所に雑貨屋と看板が掲げられた店を発見した、あまりにも長かったため流石の沢渡も息を切らしたが、背負われた牛尾そそくさと店の中に入った


「お邪魔するでござる!」


「いらっしゃい!おや、見ない顔だね、観光客かい?」


「まぁそんなもんでござる…中を見させてもらうでござるぞ」


奥から顔を出したのは青肌の亜人の店主、爽やかな雰囲気で牛尾を迎え入れた

店中は中々に品数が多く、食料品以外にも手広く取り扱っているようだ、更にレジには飲み物や軽食なども売っておりさしずめコンビニである


「はぁ…はぁ…このお茶を頼む…」


「はいよ、100円だ」


「はぁ〜…それにしても…竜神様って何なんだ?」


「竜神様はこの村で祀られてる巨大な体を持ち四本脚で森を駆け巡る竜の神様さ、しかし大昔に作った本殿はあそこの森にあるから誰も入れない、せめて縁日くらいはって事でこのお祭り騒ぎさ」


「まぁ立ち入り禁止区域になっちまったしな…」


政府の意向とはいえ村人達にとって特別な場所を奪われるのは浮かばれないだろうと思いながら沢渡は外のベンチに座ろうと店を出ると、汗を流した緑肌で一つ目の魔人とすれ違った


「いや〜!熱いな新田さん!」


「幹事の米さん!祭りはどうした!」


その米(よね)と名乗る男は縁日の幹事を務めており、本来ならここに現れない人物である


「それがよぉ聞いてくれよ、祭り用のガスボンベが次々に爆発してよぉ、こりゃただ事じゃねぇぞって事で急遽中止になっちまったのよ…」


「そりゃ災難だったな…まぁ茶でも飲んでいきなよ」


「おっわりぃな!お茶か…丁度いいぜ」


そう言うと米は懐から饅頭を2つ取り出し、その一つを口に放り込んだ


「見たことない饅頭だな、貰いもんかい?」


「あぁ、こりゃな、ここん来る途中に道案内してやったハーフエルフの観光客に貰ったのよ、何でも都市部のいいとこの銘柄らしいぜ」


「へぇ〜……そういや今丁度ハーフエルフの客が…おいどうしたんだよ!?」


奥に引っ込んでいた牛尾が様子を見てみると、饅頭を食べ終えた米が突然苦しみ出したのだ、脂汗を流し血の気も引いて青い顔をしている


「うぅぅぅぅ……」


「きゅ…救急車!」


「大丈夫でござるか!」


「……える」


「え?」


「中が燃える…体の中でマグマが湧いてるみたいだ…!」


「か…体から湯気が…」


その様子は異常としか言いようがなかった、全身から湯気が立ち上り目や耳、口や鼻体高熱の血液を吹き出す様は明らかに病気のそれではなかった、そして症状がより一層激しくなった頃、最悪の事態が発生した


「へぶ…!!!」


「なっ!?」


「米さ…!!!」


ドゴォ!!!


それは店を吹き飛ばす程の爆発だった、米の体から放たれた衝撃は瓦礫を撒き散らし残骸に発火、その店の跡地はすぐさま火の海となった


「な、なんだぁ!?」


沢渡はこの状況を一瞬理解できなかったが、考えより先に体が動いていた、幸い外で休んでいた沢渡は地面に顔をこする軽傷で済んだ為、急いで瓦礫を退けて中から牛尾と新田を引きずり出した


「二人共息はある…それにしてもなんでいきなり…」


「何事だ!?」


「火事か!?」


すると事態を聞きつけた村人たちが雑貨屋に集まり、水の魔法を使える者が消火作業に取り掛かる、沢渡は重症の新田を預ける為に助けを求めた


「おい!怪我人がいるんだ!助けてくれ!」


「ちくしょう!新田さんの所もやられちまった!」


「何?ここだけじゃないのか!?」


「それより新田さんを!あんたの連れもだ!」


「いや…こいつは軽傷だから大丈夫…面倒かけたな…」


そう言って牛尾を背負うと、森を駆け抜けた時と同じような速度で氷室たちの元へ戻った


「早く…早くこの事を伝えなければ!!」


しばらくすると救助された新田が目を覚ました、しかしまだ意識がもうろうとしておりはっきりと話すことができないようだ


「うぅ…」


「おい!誰にやられた!」


「よ…米…米さ…が…爆発…した…」


「なんだって!?誰にやられた!?」


「都市……ら来た…ハーフエルフ…!饅頭食って…爆発…た…」


途切れ途切れで何が起こったのか説明した新田は再び意識を失った、その証言を聞いた村人達に疑心が生まれる


「ハーフエルフだって…?はっ!さっきの蟲人が連れて行ったの…ハーフエルフの他所者だぞ!」


「そうか…!きっと奴も自分が起こした爆発に巻き込まれたんだ!あの蟲人も奴の仲間だ!」


「見つけ出して殺せ!」


「他所者のハーフエルフをひっ捕らえろ!」


村人達は牛尾を連続爆破事件の犯人と断定してしまった、その情報はすぐさま村全体に拡散され、ハーフエルフ捜索隊が急遽結成された、村と祭事をめちゃくちゃにされた村人達の怒りは相当強く、その捜索範囲は立入禁止区域の森にまで及ぼうとしていた


一方アスカ達は森の安全地帯へ向かっている途中、こちらに近づいてくる人影を見つけた、その人影はやがてその姿を表した


「誰だ!」


「いや〜助かりました〜ちょっと遭難しちゃいましてね〜」


それは中途半端に長く尖った耳にピアスを開けた銀髪のハーフエルフの青年だった

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