カイト魔人化計画
病棟の手術室で、恐らく世界最難関魔種の除去手術が行われている、一瞬も気が抜けない程の緊張感が張り詰めている手術室内は器具が触れる音と心電図の音だけが鳴っていた
「カイト大丈夫かな…」
「カイト殿ぉ〜…」
手術室の前ではアスカと四人の戦友がカイトの無事を祈っていた、既に手術開始から四時間が経過しており、もう神に祈るしかやることがない
「筋繊維と除去可能な触手の除去は完了…これから休眠の魔法と念の為に停滞の呪印も刻〜む…」
魔法は触れることなくかけることができるが、呪印は魔種本体に刻まなければならない、そのため久保田はこの作業に一番時間と集中力を使った、そのかいあってか手術は無事成功した
「まっず!都市部の連中はいつもこんな薄い煙草吸ってんのか〜い?」
「正規品だから…それより、カイトの容態は?」
「休眠の魔法と呪印を施した〜、恐らく一週間はもつだろ〜う…ただ、環境や体調によっても魔種の休眠期間と侵攻は変わってくる、なるべく寒い環境に置くといいだろ〜」
今後の処置については問題ないが、根本の問題がまだ残っている、それは魔種と融合する魔獣である、村岡はその事についても久保田に聞いてみた所、あの魔種は超弩級の危険魔獣でもない限り融合することはないという
「成長が早いくせに選り好みするとは…とんだ問題児だな…」
「ただし、その分融合したときに得られる恩恵は大きいだろ〜、あ…もちろん野生の魔獣だ、誰かの眷属獣を奪うのは魔界のルールに反するからな〜」
「そうなれば…あそこしかないな…」
村岡は久保田に法外な報酬を渋々渡して見送ると、指定した転送魔法陣の場所に数人の魔人と人間を呼び出した
「来たな」
呼び出したのは、アスカにヒロキにツヨシ、牛尾に沢渡に田所だ
「って…まだ一人来てないな…」
「リーダー、あと一人とは?」
「まぁ待ってろ」
すると辺りに冷気がほとばしる、蒸し暑かった室温が嘘のように下がり、まるで大型の冷蔵庫に入っているようだった、そしてここにいる者たちは知っている、この現象は自然型の魔人特有の現象だと
「お前達は初めてだろうから紹介しよう、我がレジスタンスで3本の指に入る実力者!霧の三姉妹が長女でありこのレジスタンスでは魔獣の研究をしている、吹雪の氷室だ!」
一斉に後ろを振り向く一行、しかし肝心の氷室とやらが見当たらない、しかし冷気は感じる、周りを見渡していると足元から怒気を帯びた声が聞こえた
「ちょっとあんた達!私はここよ!ここ!下向きなさい!」
「え!?ちっちゃ!子供!?」
「失礼ね!私は24よ!」
それは魔人と言うにはあまりにも小さかった、小さく低く軽く…そして貧相すぎた、それは正に幼女だった
「うぅ…リーダー!」
「はいはい…」
村岡はしぶしぶ氷室を肩車すると、その幼女は一行に向けて発言する
「今回指揮を取る氷室よ!人間が入ったカプセルに私の冷気を補充する役割も担うから!あと…次私のこと小さいとか言ったら氷漬けにするかね!」
「は、はい!!」
(寒い…)「そろそろ降ろすぞ」
そうして氷室を降ろした村岡は、特殊なカプセルに入れられたカイトを運んできた
「日光を入れないように外からは確認できないようにしてあるし気密性も高いから内部の温度も下がりにくい、隠密の呪印も彫ったから外敵からも見つかりにくいだが少し重量があるから田所が運ぶといいだろう」
「あのリーダー…一つ質問を」
「なんだ?」
「拙僧たち…魔種の融合のタイミングについてよくわかっていないでござる…ご教授願いたいでござる」
「そうだったな…悪いかった、簡単に言えば弱らせてからそのカプセルを開放すればいい、そうすれば魔種が勝手に融合してくれると久保田から聞いた」
「なるほど…それでどのような魔獣を」
「うん、超弩級の危険魔獣でなければいけないそうだ」
その言葉を聞いた魔人達は驚愕と落胆の声を上げる、人間組にはよくわかっていなかったが、超弩級危険魔獣とは一般的には巨龍やクラーケン等の災害レベルの強さを持つ魔獣を指し、並の魔人程度では太刀打ちできないが、そのために同じく災害レベルの強さを持つ氷室がこの作戦に参加した、目には目をというやつである
「今回も大変危険な任務だが…健闘を祈る!」
「ほらあんた達!早く魔法陣に入りなさい!」
カイトや荷物を背負い魔法陣に次々と入り込むアスカ達、光に包まれ村岡の見送りを見届けると、次の瞬間にはまたしても廃墟に転送された
「うお…うっそうとしてますね…」
「森だからね」
「森!?」
「ここは元々ヤクザの隠れ家だったらしいんだけど、魔獣が多すぎて出入りが面倒だから捨てられたみたいなのよ、私達にとったら好都合だけどね」
「そう!ここは危険生物渦巻く立ち入り禁止区域の輪廻の森よ!」
「氷室殿!そこにはツルが!」
「え?」
足元をよく見ず階段を降りたせいで太いツルに足を取られてそのまま転落してしまった、アスカはとっさに助けようとしたがもう遅く、氷室の体は中を舞っていた
「ぶべ!」
「何!?」
「大丈夫ですか!?」
「い"だい"よ"ぉ"ぉ"ぉ"!!………よし大丈夫よ」
まるで幼児のように泣きじゃくる氷室だったが、唐突にいつもの冷静な彼女の姿に戻った、アスカはその豹変ぶりに驚いたが魔人3人や魔人に詳しいヒロキ達の反応は違っていた
「氷室殿!自然型の貴殿がなぜ気体しないのでござるか!?貴殿の能力なら自動的に切り替わるはずでは…」
「しょうがないでしょ、私は代償で自動変形ができないんだから」
本来自然型の魔人は普段は実体化している、しかし体に危険が迫った場合、本人の死角からの攻撃も自動的に体を自然物化することで回避することが可能になっているのだ
「なるほど…ならその小柄な体は攻撃を避けやすくするための戦略と言うわけでござるな!」
「…………そうよ!」
(絶対違うな…)
「さぁ!とっとと森に行くわよ!魔獣狩りよ!」
そうして意気揚々と森へ駆り出すアスカ一行、途中魔獣の痕跡や簡単なサバイバル術を復習しながら森に深く潜っていく
「全然大した魔獣が見つからないでござるな…」
「ん…!?おい…!誰か倒れているぞ…!」
望遠鏡で周囲を見渡していたヒロキが怪我人を見つけたと言う、死体なら構わないが生きているならとその怪我人の元へ近付いた
「うっ…!これはひどい…」
「ぶふぅぅ……だずげで…だずげで…」
そこにいたのは瀕死の重傷を負った三つ目の魔人だった、望遠鏡ではよく見えなかったが、臓物が溢れ出ております目も2つ潰れており残りの目ももはや何も見えていないようだった、足も骨が露出するほどズタズタに傷つけられており、唯一動く肘から先をぶらぶらと動かして助けを求めていたのだ
「だずげで…だれが…死にだくねぇよ…」
「こんな森の奥深くでは…もう助からないでござる…」
するとアスカが彼の元に近寄り膝をつく
「だ…れ…」
「大丈夫…もう大丈夫だから…」
「…………そう…じゃあ…俺は…少し……寝る…」
自分の運命を悟ったのか彼は動きを止めて目を閉じた、アスカは胸と頭にかけて強烈な電撃を一撃を放った、もう彼は呼吸もせず心臓も動いていなかった
「この人はどうします?」
「うん…ここに置いていこう、そうすればこの人は森の一部になる…ん?」
氷室は動かなくなった彼の体を見てあることに気がついた、それは服についた見覚えのあるバッジだった、⌘の形を模したMCo.の社員の証である
「警戒したほうがよさそうね、この森にいるのは私達だけではないみたいよ」
「ん?うわっ!!」
全員で周囲を警戒していたが、突然田所の体が宙に浮かぶ、釣り上げられた魚のように一気に引き上げられたのだ
「うわぁぁ!!なんだこいつは!!」
「プレデタースパイダー!!メダル化なさい!最高硬度よ!」
「ギギギギ!!」ガゴ!
「うぉぉぉ!?」
とっさの指示でメダル化した田所だったがプレデタースパイダーの強力な牙と咬合力の前では長く持たないだろう、しかし田所は想像もできないような増援で窮地に一生を得た
「ぶしゃぁぁ!!」
「ギギャァァァ!!」
「今度はなんだ…!」
「あれは影蟒蛇(シャドースネーク)!?なんでこんな浅い森に!?」
巨大なウワバミがプレデタースパイダーを丸呑みにしたのだ、抵抗に移行したクモの口から田所が落ちてくる
「なんですかあの蛇は!」
「とにかく逃げるわよ!巻き添え食らったらタダじゃ済まないわ!」
そうしてカイト入のカプセルを担いで全速力でその場から離れた、氷室の話によるとあの蛇は本来もっと深い森に生息しているらしい、森は深くなるほど魔獣の強さも増して行く、そうして森の秩序が保たれているのでこれは異常事態なのだ
「どうやら…私達の目当ての魔獣は見つかりそうね…MCo.が動くわけだわ…」
「もうこの森に安全な場所は無いってことですね…」
中堅魔獣が追いやられ、MCo.が動き出すほどの魔獣がこの森に跋扈している、アスカ達はより一層気を引き締め、カイトの魔人化計画に覚悟を決めた……
森に響くは暴竜の咆哮
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます