ただいまスラム街
トラックは今郊外を走っている、最高幹部との戦闘で街は今大混乱だろう、みるくは約束をちゃんと守ったようで追手は来ていない、一人を除いて大きな怪我はなかったが、カイトは胸に何かを受けてしまった、応急処置はしたが早急な治療が急がれるだろう
「カイト…」
「よくやったよ…カイト君もアスカちゃんも、最高幹部に一矢報いたんだから」
「あれは芦田さんの魔法のおかげ…僕は…何もできなかった…」
「それを言うなら拙者達もでござる…」
「まだまだ修行がたりないね…」
「不甲斐ねぇ……」
「皆さんそう気を落とさないでください、相手が悪すぎたんです、さ…そろそろ転送魔法陣ですよ」
運転席からツヨシの励ましの声が聞こえた、トラックは魔法陣の上に停止すると光に包まれ転送され、地下街の車庫に到着した
「早くカイト君を病棟へ!」
「あの…芦田さんは…」
「そろそろ起きるので大丈夫でしょう」
「んがっ」
一応幹部なのだが扱いの雑さに困惑しつつも担架でカイトを病棟に運び込む、医者に見せるとすぐに治療が行われた。
「かなり深くまで異物が侵入している、今から手術を行う!準備!」
「あの!カイトは…!」
「心配するな、先生は腕のいい医者だ、それより早く村岡にデータを私に行こう」
「自然型のお二人さんも万が一がある、核に異常がないか調べていきなさい」
病棟を後にした一行はまっすぐ村岡の部屋に向かった
「戻ったか!」
「はっ!しかと情報を持ってきたでござる!!」
「よくやった〜〜!!ん?カイトはどうした?」
「実は敵からの投擲物を受けてしまい病棟で手術中でござる…」
「それは…後で皆で見舞いにいかないとな」
受け取ったUSBを保管庫にしまうと、村岡は振り向いて感謝の言葉を述べた
「皆ありがとう、正直な所…ダメかと思ってた…仲間を信じきれない俺を許してくれ…しかし…本当にありがとう…」
「リーダー…」
すると突然部屋の扉が勢い良く開く、皆驚いて扉を注視するとそこには病棟に配属されている白衣を着た魔人だった
「リーダー!大変です…!もう私達ではどうしようも…!」
「何があった!!」
「とにかく病棟へ!」
鬼気迫る表情を見て病棟の状況を察した村岡はすぐに部屋を飛び出た、それに続いてアスカ達も続く、病棟につき息を切らしながら白衣の魔人に連れられて集中治療室に入ると、そこには無数の管に繋がれたカイトの姿があった
「な!?カイト!!」
「カイト殿!」
「しっ!静かに!」
「村岡リーダー…来てくれましたか…」
「家永…これは…」
「えぇ…【魔種】…それもかなり上級の…」
そう状況を説明するのは先程まで手術をしていたこの病棟の院長、ダークエルフの家永だ
「魔種…なんだ…それ…」
「そうだな…宿主に寄生し、別の生き物と融合することで宿主をより強力な生き物に進化させ生き残る魔界の寄生生物だ」
「だが融合前は宿主の身体を無理矢理操ろうとして触手を全身に伸ばす、その時に使うエネルギーは宿主から取るから融合前に死ぬことも多いから、政府は魔種の使用を禁じているのだが…」
「えげつねぇ…」
その上、一定期間内に融合することができない場合、魔種は融合を諦め宿主の身体を操って溺死させ、身体を食い尽くすと卵を大量に産んでしまう、過去には川の上流で産卵された卵を下流の村人が飲み、村人全員が魔種に侵され滅んだ記録もあり、魔種は第一級の危険生物として駆除対象になっている
「こいつはついさっき誕生した魔種だが…あっという間に胴体と肘まで触手を伸ばしやがった…少しでも成長を一時的に止める処置が遅ければ脳まで達していただろう…普通の魔種じゃない…」
「なんとか取り除く事はできないのか…?」
村岡の問に家永は首を横に振った、臓器や神経、筋繊維にまで触手が複雑に絡み合い、とても止めている時間内での除去は不可能だという、このレジスタンスで一番腕のいい医者の家永でも魔種の除去は経験にないという。
牛尾達は泣いていた、力を合わせて命がけで死線を乗り越えた仲間と生還を喜ぶ暇すらないのだ、すると先程から難しい顔をしていたアスカはハッと何かを思い出した
「もしかして…あの人なら…」
それを見た村岡はアスカに訪ねた
「私達が来たスラム街に、久保田と言う魔人がいる…その人なら非合法な手術にも慣れてるだろうし…魔種の除去だってできるかもしれない!」
「スラム街か…一応転送魔法陣はあるが…カイトをここから動かすわけには…」
「大丈夫です、連れて来ます!!」
満面の笑みで宣言するアスカに四人も便乗する
「俺も行くぜ!!」
「僕も…!」
「俺…も…!」
「拙者も!」
「駄目だ」
「なんで!!」
家永からドクターストップが出る、それも当然で連戦に次ぐ連戦で4人の体はボロボロだった、これては体が持たない
「なら俺が…」
「ホッパーさんこそ駄目だ!鬼に殴られたんならしばらくは寝ててもらう!」
「不甲斐ねぇ…」
「僕一人で行くよ、スラムの事ならよく知ってる」
アスカの提案に村岡が待ったをかける、村岡は何かトラブルが起こった時のために部下を数名連れて行かせると言った、恐らく最悪の場合久保田を力ずくでも連れてくるつもりなのだろう
「家永、触手はいつまで止めていられる?」
「処置を続けて…約9時間…」
「アスカ…頼んだ…」
「うん…!」
ガラス越しに見えるカイトの痛々しい姿を見て、アスカは覚悟を決めた
(死ぬなよ…カイト…)
アスカはカイトの籠手を腕にはめ、病棟を後にした、そして出発する前に、アスカはある所に寄った…そう親方のいる工房である
「親方!予備の槍くれ!」
「何!?もう使っちまったのか!?」
「それがさ〜いきなり最高幹部に追われちゃって…」
「そりゃ難儀だったな…そういや、カイトが大変なんだって?」
「うん…だから僕はこれからスラム街へ行く…」
「そうか…ほら、持ってけ!小僧を死なせるんじゃねぇぞ!」
「うん!」
工房を後にしたアスカは村岡に教えられた魔法陣の場所に行くと、そこには屈強な魔人が数名、その中には幹部の一人牙狼がいた
「あ、あ〜〜……」
「行くぞ」
「あ、はい」(話しかけづらい!)
重すぎる空気の中アスカは魔法陣の中に入る、既にカイトとの遠征が懐かしく感じるほどの緊張感
(任務って普通はこうなのか…?)
そんなことを思っている内に転送は終了、各々顔を隠して魔法陣を出る、かくいうアスカも以前のスラム暮らし同様口を布で隠し頭にも布を巻く、目以外の露出を抑えることで背の低さ以外は魔人になりすますことができるのだ
「よし、早速久保田の病院へ行くぞ」
「その前に!」
「……なんだ」
「久保田先生には僕が交渉するよ、面識もあるし」
牙狼に対しての突然の物言いに取り巻きの魔人は突っかかる
「てめぇいきなり勝手な事…!」
「待て、こいつの言うことにも一理ある、久保田にとっちゃ俺達は見ず知らずの魔人だ、このガキに任せるほうが得策ってもんだ、無駄な争いもしたくないしな」
「さすが!話がわかる!」
魔法陣のある廃墟を出て病院へ向かう、アスカは騒がしく訳のわからない物が売ってる市場やネオン灯が輝くスラム街懐かしさを覚えつつも歩を進める、するとアスカは突然路地裏に入り込んだ
「おい、病院はこっちだぞ」
「別にそっちから行ってもいいけど、違法風俗とかぼったくりバーの客引きの相手してる暇ないよ」
牙狼はこの先を目を凝らしてよく見ると、確かにわざとらしい作り笑いを浮かべた胡散臭い連中が腰を低く揉み手をして待ち構えている、振り切るには訳ないが関わらないほうが良いだろう、仕方なくアスカの後を追うが、大柄の牙狼や他の魔人達にはかなり狭い
「おい…!別の道はないのか!」
「ここしか知らない!あと下水道!」
「下水は簡便だ…ただでさえこの街は臭うってのに…」
狭い路地やそこに吐き散らされたゲロや野糞、更には放置された死体等に四苦八苦しつつもアスカ達は遂に病院へ辿り着いた
「約束通り、ここからは僕が行ってくる、牙狼さん達はそこら辺で待っててよ」
「いや俺達も部屋の前までは行かせてもらうぞ、邪魔はしないが…手こずったら俺なりの交渉をさせてもらう、いいな?」
「……わかった、そうだ…一つ聞いていいかな」
「何だ」
「なんでそこまでしてカイトを助けようと?」
「知らん、俺はリーダーの命令だから来た、それだけだ」
「ふぅ〜ん…」
そうしてアスカ達は病院の中に入っていく、扉を開けるとそこは外のスラム街とはまた違った雰囲気が漂っている、鼻につく薬品の匂いや血の匂い、薄暗く電球の切れかけた病院内はとても不気味だった
「ご、ゴーストでも出そうですね…」
「ここの患者達には何があっても関わっちゃいけないよ、たいていろくなやつがいないからね」
気味悪がりながら廊下を歩いていると、病衣をまとったひどく痩せ細った老人の魔人が仲間の魔人の一人にぶつかった
「お、おい…!」
「………いか…」
「……は?」
老人は何かをブツブツ呟いている
「薬……売ってくれないか…?」
「じょ、冗談じゃねぇ!俺は売人じゃ…!ぐっ!?」
「なんで持ってねんだよぉぉぉぉぉ!!!」
「ぐぁぁぁ!!」
その老人は仲間の魔人に逆上し、隠し持っていた医療用のメスで仲間の魔人の腹を切り裂いたのだ、突然の出来事でメタル化もできず重傷を負ってしまったのだ
「な!?このクソジジイ!」
他の魔人がその老人に殴りかかろうとした途端、猛烈な速さで駆け寄ってきた一人の魔人にその老人凶器を取り上げられて注射器で何かを打たれてその場に倒れ込んだ
「いやぁ〜〜失敬失敬〜この爺さんヤク中なもんでね」
「お前が…」
「久保田先生!!」
それはアスカとカイトの恩人でありこの病院ただ一人の医者、コモドオオトカゲの魔人の久保田だった
「おお〜〜アスカじゃねぇか〜〜久しぶり〜それより…その患者を運ばねぇとな〜」
「いてぇよ……」
仲間を治療室に運ぶとすぐに傷を消毒、縫合し接着薬を塗り込んだ、もちろん麻酔無しで
「よし!30分もすればくっつくだろ〜ここで寝てな〜」
「治療したのにいてぇ…」
患者を放置して診察室に戻る、診察室にはアスカが椅子に腰掛けており、久保田も自分の椅子にドカッと座り曲がった煙草に火を付けた
「ん〜〜アイツ等がレジスタンスか〜ま、悪い奴らじゃあなさそうだな〜」
「先生、頼みたいことがある」
アスカは椅子から立つと久保田の前に膝をつき、床に頭をこすりつけた
「単刀直入に言う!レジスタンスの基地に来てくれ!」
「無理〜」
しかしそれは無理の一言で一蹴されてしまった
「なんで!?」
「この病院には医者は俺しかいない…俺がいないと薬の調合も手術も診察もできんのさ〜」
「そこをなんとか…!カイトが…カイトが死にそうなんだ…!」
「魔界で人間が死にそうだなんて別に珍しくもない〜悪いが俺はここに来ない奴は患者とは認めな〜い」
口から煙を吐きながらアスカに言い放つ、しかし久保田の言っていることは間違って無いのだ、この病院は本当に手が足りていないしスラム街にはまともな知識を持った医者は久保田しかおらず、看護師をこなせる者もいない、わざわざ人間一人を治療するために大量の入院患者を抱えた病院を留守にするわけにはいかないのだ、更に理由はまだまだある
「知っての通りここの治安は最悪〜、もし俺が留守にすれば強盗にも襲われるし脛に傷がある患者を殺しに来る奴も来るだろう〜、俺に治療されたいなら、まずカイトを連れてきな〜」
「くっ…」
「やはり駄目だったか」
部屋の前で待機していた牙狼が診察室に入ってくる、ただならぬ雰囲気を感じた久保田は椅子から立つ
「こっちは後7時間もないんだ、力ずくにでも連れて行かせてもらうぜ」
「ここは病院だ〜…表に出ようか〜」
「牙狼さん!まだ…!」
「小僧の事助けたいんだろ」
「……うん…」
「なら俺の話をよく聞け」
「ふふ、先に行ってるぜ〜」
作戦会議?を終えたアスカ達は病院の玄関前に出た、久保田は白衣を脱いでおり体を解している、スラム街の住人は耳が早くあっという間に観衆が集まっていた
「喧嘩だ喧嘩だ!病院の久保田が喧嘩するってよ!」
「相手は誰だ!?」
「先生がんばれー!」
「ふふ〜ギャラリーは多い方がいいだろ〜?」
「ふん、とんだエンターテイナーだな」
他愛無い会話だが二人の間には既に間合いの読み合いが始まっていた、会場は熱気の渦、もうこの喧嘩は誰にも止められない。
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