組織の様子を見てみよう

来る日も来る日も戦闘三昧、そんな日々が続けられるはずがない、たまには休息を取らなければ生き物は潰れてしまう…

今日はXOXO M&Co.とレジスタンスの様子を見ていこう。


「ふぁ〜〜…今日も寝過ぎた…」


MCo.のボスの朝は遅い、いや…11時半はもはや昼だ、そんな彼女にも起きてすぐにやる事がある、それは別空間で寝ている護衛の骸を叩き起す事である。


「ん〜?ここかな〜?」シュ


耳をすまして指を振り下ろす、手には若干の帯電があった為雷の魔法だと思われる、すると空間に穴が開き少し焦げた鬼が姿を表す。


「おはようございま〜す」


「お嬢…あの雷の威力はヤバいって…角が避雷針になって死ぬかと思った…」


「ごめんて〜」


コンコン


扉をノックする音が聞こえるとみるくはそれに応えて部屋に入れる、それはノートパソコンを抱えたゆうであった、骸はそそくさと別空間に逃げる様に再び入ると穴を閉じた


「も〜なんですぐに行ってしまうん?」


「同じ空間に絶世の美女二人は辛い…」


「それよりみるくさん…今日は久しぶりにお仕事があるんですから、はやく支度してくださいね」


「……なんの仕事やったっけ…」


「ッスゥーー…裂け目の調査ですよ」


「あ〜〜〜!」


「ちゃんとした格好で来てくださいね!」


ゆうが出ていくとみるくは寝間着を脱ぎ着替えを始めた、異空間から穴を開け覗いている骸の目を素早く潰すと穴から絶叫が聞こえてくる、指に付いた血を拭き取ると絶叫を聞きながら着替えを続け、スーツに着替え終えるとエレベーターで裂け目のある階へ降りる、裂け目の階へ到着し実験室へ入ると同時に異空間の穴から骸が転げ出てくる。

この実験室には先程のゆうと道具や機械の分野を担当するダークエルフで、先日脱獄してきたテンツクも部下の研究員と共に実験を進めていた。


「どうですか〜テンツクさん」


「ん〜やっぱり濃いめの方がいいですね、人間世界だと魔素はすぐに拡散して消えてしまうんで、それと骸はなんであんな風に?」


「ちょっとな〜もうちょっとで再生終わるはずやから気にせんといてな」


みるくは裂け目に歩み寄り、薄っすらと見える人間世界の様子を観察する、そこには景色だけではなくさまざまな生活の場面が映し出される。


「醜いわぁ…」


「利権にしがみつき私腹を肥やす老害、貧しくなる庶民、荒れる治安に過激化する思想、そして崩壊寸前の星…これ程惑星に打撃を与える醜い生物他に見たことがありません」


「こんなにボロボロになってもまだ人類は地球から搾取しようとしている」


「っあ〜一刻も早く楽にしてやらないとな」


「えぇ…でも私達は十分な魔素が存在する世界じゃないと存在を確立出来ない…だから送り続けるんや…この惑星を救うためになぁ」


魔人や亜人は魔素が十分に満たされた世界じゃないと存在を確立出来ない、要するに人間世界へ行って視認される事はなく、万が一見られたとしても幻覚として判断され、その世界の住人には認識されず触ることもできない、過去に天賦でこの事について要求したが流石の神でも別世界は管轄外らしく断られてしまった。

なので裂け目から魔素を放出し、二酸化炭素を原料として魔素を増殖させる装置を設置したが今だ地球の2割しかカバーできていない。


「骸、もっと穴増やせないのか?」


「増やせないことはないがもう摩天楼内には作れないぜ、数千kmの距離をおいて作らないとただでさえ自然発生する裂け目がもっと増えて人間がどんどん入って来ちまう」


「そんな距離だと魔法陣を乗り継がなきゃいけないですね…骸くんの【無限軌道】は設置しても2日で消えるし…」


「ん〜せや!骸さん!神様殺して天賦で持続時間伸ばしてきて〜」


「了解ッッッ!無限軌道ッッッ」


みるくの命令を受けて骸は空間に穴を開けてどこかへ転移していった。


「待ってる間暇やしお茶でもしましょ〜」


みるくも空間魔法でテーブルと椅子、そして紅茶と茶菓子を用意して作業を中断して振る舞った、みるくは最高幹部同士で雑談している。


「ゆうちゃん今日はどれくらいのサイトとアカウント潰したん?」


「35ですね、何個かは企業のだったんで慰謝料ふんだくってやりましたよ」


「MCo.(うち)に対する根も葉もない陰謀論垂れ流すから…」


「せや〜誰がマイクロチップでマインドコントロールやねん…そんなん使わなくても国民全員の洗脳なんて指パッチンで十分や…お!帰ってきたで」


空間に穴が開き血にまみれた骸が異臭を放ち戻って来た、手には神の血がベットリと付いた双剣の片割れを持っていた、恐らく神から奪い自分仕様に改造させたものだろう、そして剣を穴に吸い込ませ、みるく達に近付くとマスクを外してお菓子を口に放り込んだ


「どうやった?天賦貰えた?」


「ん、5年に伸ばしてきた」


「さすがやな〜!で、誰始末したん?」


「なんか悪臭の神だってさ、切った瞬間血と一緒にくっさいガスが吹き出してきてガスマスクつけてなかったら吐いてたわあれ、あんなもん崇める種族の気がしれないわ」


早めに剣を放り込んだ為臭さは際立っていないがじわじわと臭ってきており、ミルクは顔をしかめて骸が立っている地面に転移の穴を開き、水が満たされた空間に落とすと穴を閉じた、そして数分後には完全に匂いが消え、新しい戦闘服に着替えて来た骸が戻り、研究室の空きスペースに巨大なワープゲートを使った


「わ〜!鬱蒼とした森やな〜!」


「設備とかは後で建てるからさっさと開いちゃって、その間に仮拠点位は作るから」


「じゃあ始めるぞ…」ズ…


腕を振り上げメタル化の魔法と空間の魔法を纏わせる、練度が限界に達すると空手の貫手のように五指を突き出すと、普段から使われる転移の魔法とは違う、空間に亀裂が入り割れたのだ、そして更に割りつつ押し広げると研究室と同じような裂け目が生まれ、更にそれを後3つほど作った。


「疲れた…」


「助かる、これで作業効率も上がる」


「お嬢今日はもういいだろ?」


「ん〜だめ〜」


「くっ…!」


「じゃあ皆さんはもう上がってええで〜お疲れな〜」


いつの間にか仮拠点は完成しており電気まで通っていた、みるくは骸にゆうと一緒に転送させると骸を異空間内に待機させゆうからの報告を受けた。


「ねぎ106さん達のおかげで末端の役に立たない組織はほぼ壊滅、対抗勢力も4割ほど殲滅しました」


「で〜?あの一番大きな組織…レジスタンスやっけ?アレの本拠地は見つかったん?」


「いえ…私の捜索魔法の探知にもかかりませんでした…この都市部の何処かに居るのに見つからないのは恐らくまんじゅう族…それも長生きの個体の隠蔽能力だと考えられます」


「まぁこんな大都市じゃ私や最高幹部さん達の極大魔法で炙り出すこともできんしなぁ…姑息やわぁ…」


「まんじゅうと言えば……生紅葉まんじゅうの予約が取れました」


「なんやて!?ありがとうゆうちゃん!あ〜楽しみや〜ありがとうな〜」


そのとびきりの情報を聞いたみるくは椅子から飛び上がりゆうに詰め寄る、ゆうが予約済みの画面を見せるとみるくは満足そうに再び腰掛けた。


「大変でしたよ…でもみるくさんの力なら職人さんに作ってもらえばいいんじゃないですか?」


「ちがうねんな〜やっぱり勝ち取った物を食べるのが至福なんよ…食べる…お腹すいたな〜ゆうちゃん…ご飯行こか〜」


唐突なみるくの提案にゆうは乗る、旧知の仲のゆうからすればこの程度の唐突な提案は今に始まったことではない。


「またあそこですか?」


「うん、あそこは500年間通い詰めやからな、骸さんご飯行くで〜出ておいで〜」


「おっなら送ろうか?二人だけ?」


「せや〜お願いするで」


骸は二人の近くに穴を開くと待機し、二人は外行きの服に着替えに行った。


(…覗かない様に待機させやがったな…)


そうして着替えて来たみるく達は床に空いた穴に落ちると繁華街の道路に出た、そして少し遅れて戦闘服から甚平に着替えた骸が現れた。


「ここに来るのも久しぶりやな〜」


「久しぶりって…四日前来たばっかりじゃないですか…」


「そうやったっけ?まぁええわ、今日は飲むで〜」


そうして三人は繁華街を闊歩する、しかし絶世の美女二人に声を掛けてくる者は誰一人いない、後ろにガタイが良いどころではない鬼が居るのだから声どころか視線すら送れない、しかもこの世界で最強クラスの三人が一箇所に集まっているのだからあふれるオーラもそれを加速させた。

そうして目当ての店まで付く頃には辺に人気は無く繁華街のど真ん中だと言うのに魔人や亜人の一人もいなくなっていた、その店は少し薄汚い印象を持たせるが排気管から出る匂いと赤ちょうちんがいい雰囲気を出している、骸が扉を開けるとみるく達を先に行かせた。


「マスター久しぶりやな〜元気しとった?」


「おや…こりゃ親分さん!こんな汚い店に今日も酒盛りかい?」


気さくに返事を返すのはこの店のマスター、【鶏松】焼き鳥や唐揚げ等を作らせたら右に出る者はいないこの道3500年の大ベテランのハイエルフの爺さんである、恐らく年齢は5万歳を超えており、初老程度に老けているため一見ハイエルフには見えないが、みるくと真っ向から話せるほど肝が座っている。


「とりあえずいつもの焼き鳥と唐揚げお願いします〜後ビール2つとジンお願いします〜」


「おっさん!チキン南蛮も12人前お願いね!」


「はいよ〜!!腕がなるぜ!」


鶏松は厨房で料理に専念しているとホールのスタッフがドリンクを運んでくる、サイズ感的には違和感はないがこれは魔人だから普通に思えるだけであって人間からみるとこのビールジョッキはピッチャーより大きい、さらにジンが入った瓶も氷が入ったジョッキも更に大きい、そのグラスに瓶の酒を全て注ぐと骸は異空間の収納スペースから人間界の飲み物「マウンテンデュー」を取り出しジンのマウンテンデュー割を作った。


「好きやな〜それ」


「人間は気に入らないがこの飲み物は好きだ、まぁこれを再現して製造してるのは魔界だけど」


「それじゃあ、乾杯と行きましょうか」


「「「乾杯!!」」」


そうして三人はマスターの料理に舌鼓を打ち酒をかっくらい朝まで楽しんだ、他の最高幹部も家に帰り晩酌や趣味、そして夫婦の時間を過ごす者など皆思い思いの時間を過ごした。

しかし、最高幹部が悠々自適な暮らしをする中で末端の構成員は少々苦しい生活をしていた。

場所は移り都市部から少し離れた田舎のボロアパート、そこには4本腕の巨漢の魔人と六つ目の魔人が窓を開け、一本のタバコを根本まで回し吸いしていた。

 

「はぁ〜…金が無い…」


「しょうがねぇさ、人間に出し抜かれて取り逃がした処分で減給、それに吉田の足と骨折の治療費で貯金がごっそり減っちまった」


「あの人間…今度見つけたら絶対ぶっ殺してやる…」


XOXO M&Co.はマフィアだがそこらの企業よりも給料は出るし福利厚生もある、しかし仕事柄怪我も多く組織に入って幹部やリーダーにならなければジリ貧生活からは抜け出せない、この二人も夢を抱いて組織に入ったは良いがやっている仕事はシノギの回収と敵対組織の偵察等で中々派手な事はできていない。


「うちは実力が伴わない仕事や戦闘はさせて貰えないからな…」


「腕っぷしだけじゃなくて、リーダーシップや要領よく仕事できる能力がないとこのまま一生シノギの回収で終わっちまうよ…」


「いや…その前に餓死するかもな」


一応日の当たる場所全てに豆苗を設置しているが体の大きな藤原には到底足りない、現在は豆苗と白米、そして特売の福神漬けでしのぎ先輩の奢りで繋ぐと言う食生活だ、しかしそれもあと数日の事、目前に迫る給料日の日は好きなだけ食べようと言う決意を力に変えて生きていると言っても過言ではない。


「ふふふ…もう少しでこの福神漬け炊き込みご飯生活も終わる…」


「給料日が来るとどうなる?」


「知れたこと……毎日おかずが食べられる!!」


「うおお!!!」


「おおおお!!!」


「肉じゃが!焼き鳥…!そして…」


「「ビール!!」」


「ポテチも…!サラミもだ!」


「おおお!楽しみ過ぎて腹減ってきたぜ!」


しかし二人はまだ気付いていない、米びつに穴が空き底が虫の巣窟になっている事に、水のやりすぎで過半数の豆苗が根腐れを起こしていることに、買い溜めした福神漬けが冷蔵庫を圧迫している事に…

しかしそんな事も知らずに…すくい取る!虫湧き雑菌蔓延る米を!そして気付く!


「ぎゃぁぁぁぁ!?」


驚きの余り尻もちをつき叫び声を上げる吉田に、何事かと駆けつけた藤原も問題の米びつを見ると思わず声が漏れる。


「やべぇよ藤原…米全滅だ…」


「それだけじゃない…米びつもやられている…くっそ…備え付けなんて当てにするんじゃなかった……まさか…!」


嫌な予感を感じ、家中に設置された豆苗を調べるとその予感は的中し、急成長を期待し多めに入れた水が仇となり根腐れを起こし、カビが増殖していた。


「はぁ〜………マジか…」


「残りの食料は缶詰少しに冷凍ご飯が一食分、後は冷蔵庫いっぱいの福神漬け…」


「所持金は二人合わせて900円…米も買えねぇ」


「ううううう……どうしよう…」


「大人しく…給料日まで待とう…そして…今日は…もう寝よう…」


「あぁ…」


激萎えの夜、先程の高揚とは真逆の感情に塗りつぶされながら床につく、吉田は余程ショックだったのか夢で虫だらけの白米とカビだらけの豆苗が器に山盛りに盛られて口に押し込まれる夢を見た。


そして朝を迎え目ざまし時計がけたたましく魔人達を起こす、吉田は目ざまし時計を止めるとキッチンへフラフラと歩き炊飯器の蓋を開けたが、米が全滅していた事を寝ぼけて忘れていたようでゴミ袋で隔離された虫湧き米を見て思い出した。

そして特売の福神漬けを皿に移し、あらかじめ冷凍しておいた最後の白米をレンジで温める。

カーテンを開け部屋に日光を入れるとテレビを付ける、そして今だ爆睡中の藤原を蹴り起こし折り畳みの机を出すと飯の温めが終わり丼に盛り付け机に置き、箸や福神漬け、そして水の入ったコップを置くと二人寝ぼけたまま共手を合わせる。

 

「「いただきます…」」


冷凍ご飯と福神漬けを平らげ、朝の支度を済ませるとアパートを出ていつものスラム街へシノギを回収しに行った、その表情に生はなく、これから給料日までのひもじさに絶望していた。

頑張れ藤原、頑張れ吉田!!


………………


太陽が差し込まない地下世界、そこには普通の街と変わらない程多くの建造物が存在する、その建造物の一つが三人一部屋の巨大アパートである。

その一室でくつろぐ人間が一人、そうこの作品の主人公にして人間界帰還に燃える青年「カイト」である、そんな彼だがこのレジスタンスに所属するに当たって避けては通れない任務を大成功させ、リーダーの村岡からもらった休日を満喫していたところだ。

すると、扉を開けて四人の魔人や亜人、人間が部屋に入ってきた、彼らはカイトと同質の魔人と隣の部屋に住む魔人で、まだ右も左も分からないカイトに色々と教えてくれたこの世界でできた友人たちだ。


「カイト氏!本日はいい話を持ってきたでござるぞ!」


このオタクっぽいメガネをかけたハーフエルフは牛尾、チーズ牛丼と人間界の歴史をこよなく愛する変わり者だ。


「極秘だぜ!」


このチャラいのはゴキブリの魔人の沢渡、学校でゴキブリとイジられたのが原因でグレにグレて退学、行く宛もなくレジスタンスに拾われ改心した、牛尾と同室。


「カーテン…閉めようぜ…鍵も…」


この常に具合悪そうなのがレジスタンスで仲のいい人間の一人ヒロキだ、病弱な為非戦闘員だが、研究熱心で魔法の知識もそこそこある。


「僕緊張してきたよ…」


このデカイのがトロールの田所、人見知りだがとても心優しい怪力の持ち主だ、田所はカイトとヒロキと同室だ。


「それで…その秘密の作戦ってなんだよ、牛尾…」


「聞いて驚くでござる!今日我々は…!女風呂を覗きにいくでござる!」


「な!?なにぃ!?お前正気か!?」


「正気も正気、拙者達は本気でござる」


「まさか…そんなくだらない事に俺を巻き込むつもりじゃ…」


四人はニヤリと笑いほぼ同時に「その通り!!」と叫ぶとカイトは頭を抱え、胃が痛くなってきた。


「頼むカイト!!魔人の俺らじゃデカすぎるしヒロキじゃ体力不足だ!お前の力が必要なんだ!!」


「カイト…お前あっちの世界で高校陸上で優勝経験があるんだろ…」


「その才能を発揮する時でござる!」


「覗きなんかに発揮してたまるか!」


しばらくその部屋は静まり返った、物音一つない空間で牛尾は呟く 


「命…」


「え?」


「我々は命懸けの任務に身を起き常に危険と隣合わせ…いつ死んでもおかしくないでござる…」


「………嘘だな」


「無礼な!!!」


「なんと言おうと、俺は風呂なんか覗かねぇし協力するつもりもない、他を当たるんだな」

 

すると今まで黙っていた田所が口を開く


「カイトくんはいいのかい?女の子の裸を見ずに死ぬのは」


「…別に良いとは言ってねぇよ…」


「なら手段は選んでられないよ!君は今まで人生で女の子の生乳や生尻を拝んだことがあるのかい!?」


「ねぇよ…!でも俺は…!正攻法で女の裸を見たい…!」


「見込みはあるのかい?」


「俺はまだ18だ…その内彼女くらい…」


「甘いな…18年間彼女ができたこともない人間が正攻法で彼女を作れるとは思えねぇ…それに…俺もこっちの世界じゃ女の魔人と一緒に仕事したりするけどよ…まず男として見られてねぇよ…」


「美女の多い魔人や亜人…これらのお身体を見ずに死ぬのは男として余りにも酷…!」


「帰れるとしても魔人の生の裸を見ずに帰るのはもったいないぜ!」


「だが…」


「おっぱいも尻も…見放題だぜ…」


「ッ…!」


「丸見え…丸見えだよ!」


「ッスゥーー……作戦は?」


普段から目にする美女の魔人達に熱いものを覚えていたカイトにとって、四人の女体への未練や最後のダメ押しで決意が崩壊するのは容易かった、5人の男たちは部屋を締め切り布団を被り、作戦会議を始めた。


「作戦はこうでござる、拙者達が監視の目を引いてる間にカイト殿が拙者自作のカメラを仕掛ける、その後我々はカイト殿と合流し一緒に中継を楽しんだ後、カメラを回収するでござる!!」


「俺は念の為途中まで変身装置を使う」


「そんなの持ってたのか!?」


「あぁ、服装も体格も完璧に変身できる…だが服の下はモザイクみたいにぼやけてるからカメラで写ってない部分は再現されないみたいだ」


「普通の変身装置より性能がいいな…でも手作り感あるし…改造品か?」


「スラムには多いって聞くよね、うちも人のこと言えないけど…」


すると牛尾はおもむろに手書きの見取り図のようなものを手渡し説明を続けた。


「レジスタンスの入浴施設はかなり広いし路地も暗いから見つかることはまずないでござろうが、一応隠れられる場所を記しておいたでござる、ご活用を」


「助かる、で…肝心の見張りって誰なんだ?」


「今週はえ〜と…牙狼さんだな」


「牙狼さん!?狼の強者の一人じゃねぇか!」


「消臭剤渡すから…」


「作戦は二日後の夜!皆の者持ち場に付くでござる!」


「「「「応ッッッ!!!」」」」


そうして男達は部屋を飛び出し、世紀の大除き作戦に向けて各々準備を始めたのだった。


地下世界の夜は曖昧だ、日光が差し込まないと言う事は夜空を見上げる事もない、昼夜の感覚が狂わないためにと若干暗くなるが、正直違いがわからないと言う意見が大多数だ。

そんな地下世界を一人行くのはショートヘアスタイルの美女…アスカだ、今までは髪を雑に自分で切りそろえフードや帽子で隠していたのだが、休暇を満喫している際整髪店を通りかかった所をカマっぽい店主に見抜かれ、「女の子の髪は宝物よ!お代はいらないから任せなさい!」と言うことでショートカットにされたのだ。

なかば強制的にカットされたとは言え、中々悪くない、むしろさっぱりしたし動きやすいしでいい事ずくめだ。


「やっぱり髪って大事なんだな…」


すると自分の部屋へ戻ろうとするアスカを二人の女の魔人が呼び止める。


「よっ!か〜のじょ!」


「ヘアースタイルキマってんね〜」


「おぉ!天城に千歳じゃないか!」


この二人は世にも珍しい【自然型】霧の魔人だ、レジスタンスの中では「霧の三姉妹」として名を馳せ、長女の氷室は強者の一人に数えられている。


「氷室さんは今日も任務か?」


「そうだよ〜たまには休んでいいのにね〜」


「今日もこれから出撃だとよ、強者は大変だよな」


「家族に会えないのは…寂しいだろうな…」


そうして3人で歩いていると道端で5人の男が怪しい動きをしているのを目撃した、その中にはよく知る顔も混じっていたが挙動が挙動な為か声をかけるのもはばかられるオーラを醸し出していた。


「あれってアスカの友達のカイトくんだよね?」


「うん…まぁ…いつもはあんなコソコソした奴じゃないんだが…」

  

「あ、散らばった」


遠巻きで見ているとその集団はバラバラに散らばり、肝心のカイトはくらい裏路地へと消えて行った。


「何だったんだろ…」


「そう言えば…この辺りは風呂場があったな…アスカ、一緒に風呂行かないか?」


「いいのか?ボクの体ボロボロだぞ?」


「へ〜きへ〜き〜裸の付き合いだよ〜」 


二人に言い包められ、アスカは風呂場へ入っていった、この風呂場は地下世界の中でもかなり大型の施設で、人間世界で言う所のスーパー銭湯である。

中には浴場は勿論、食堂や仮眠室にちょっとした娯楽施設も揃っている、しかしそこまで巨大だと当然穴があるものだ、そこを自称レジスタンス1の智将牛尾が見つけ、この作戦に至ったのだ。


「牛尾、路地裏に入ったぞ…」


「順調でござるな、ならばそのまま倒し窓のある壁まで走りバレないように確認し、カメラを仕掛けるでござる」


「その後は何処で見るんだ?」


「その場に隠れて見るでござる」


「うん…ん?」


自然な流れすぎて聞き間違いと思いたかった、自室や別の建物ならいざ知らず、その場で隠れて見るとは明らかにリスクが高すぎる。  


「正気か牛尾!」

 

「安心しろ…俺の作った隠密装置でバレやしねぇって」


「そういう事じゃねぇ!なんでその場なんだよ!別の建物とか…俺らの部屋でも…」


「残念ながら最高画質を保つにはこの距離でなければいけないでござる」


「俺急に怖く…」


「カイト殿には特別にVR視点で見せてあげるでござる」


「行こう、楽園はすぐそこだ」


ちょろすぎる、彼ももう正気ではないのだろう、そうしてカメラを手にカイトは変身装置を起動して裏路地へとかけていった、すかさず誰も入れぬように通路を封鎖し四人も後を追う、もう後戻りはできない…目指すは桃源郷…男の夢…女体ひしめく楽園である。


「やるぞ…待ってろよ皆…」


カメラを仕掛けて起動スイッチを押すと通信で仲間を呼ぶ、集合してヒロキが布状の隠密装置を起動すると牛尾はカイトにVRを手渡した。


「皆の者、我々が今からするのは下劣の極み…バレたらレジスタンスでは生きて行けないでござる、逃げるなら今でござるぞ」


「へへ…何いってんだ」


「僕達は仲間じゃないか!」


「死ぬ時は…一緒だぜ…」


牛尾を目に涙を滲ませ、地面にモニターを置いた、カイトも謎の達成感を抱きながらVRゴーグルを頭に装着し、準備は整った。


「いざ…!」


牛尾がカメラと端末をつなぐと、薄暗い空間がモニターの光で照らされた、光の眩さが収まろうとした頃、突然カイトが叫びVRゴーグルをむしり取ったのだ。


「うわぁ!?」


「カイト殿どうしたで…」


牛尾達は思い知る事となるカイトの顔が青ざめた理由を、瞳に光がなくなっていた理由を、イチモツがすっかりしぼんでいた理由を……


「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」


「なんでござるか…!これは…!」


「こりゃひでぇ…!」


「うぅ…なんで…なんで…!」


「ここは…女湯の"はず"だろうが…!!!」


「それがどうして…"男湯"なんだよぉぉ!!」


そこは男湯、男たちが服を脱ぎ去り生まれたままの姿でシャワーを浴びている、5人はそのあられもない姿を直視し、あまつさえカイトはVR視点で網膜に飛び込んできたのだ


「リサーチは完璧のはず…何故突然男湯に…!」


先日のリサーチではこの辞退は予測できないのは当然である、理由は"今日"突然女湯の湯船に亀裂が生じた為、男性メンバーの好意で修理中の間は男女逆転する事となったのだ、気分が高揚し直前のリサーチを怠ってしまったのだ、しかしまだ不幸は続いた


「何だ今の叫び声!」


「窓の外だ!」


「なんだありゃ!?カメラか!?」


「いや〜!覗かれてるわ〜!」


「「「ぶっ殺す!!」」」


先程の叫び声で完全にバレてしまったのだ、5人は証拠を直ちに回収して逃走を測った


「皆の者逃げるでござ…!」


「!?牛尾ぉぉぉ!!!」


そこに立ちはだかったのは強者の一人、狼の牙狼だった、牛尾に当身をかまして気絶させ、カメラを握り潰すと、静かに話し始めた


「…とんでもない事をしたな…ついてこい…」


「…突き出さないのか?」


「覗きは裁かれるべきだが、覗き如きで5人も戦力を失うのは忍びない…これからリーダーに突き出す、リーダーならキツイ任務を押し付けるだけで公表はしないだろう…急げ…」


建物の路地を進み徐々に現場から遠ざかって行く、牙狼のルートでなければ今頃男達によってボッコボコにされて晒し者にされていただろう。


「……めんどくさい事を…起こしやがって…」


そうしていつもの村岡の部屋に放り込まれると、今回の村岡は呆れた様子でこちらを見ていた。


「…そう言う趣味?」


「ちちちげぇよ!」


「まぁそれに関してはどうでも良いんだけどね、男湯であれ女湯であれ覗きは覗き、相応の処分は受けてもらうよ」


カイトは今頃になって深く後悔し、仲間の口車に乗せられた心の弱い自分に嫌気がさした、他の3人も涙を流し気絶している牛尾は牙狼に叩き起こされた。


「ござ!?」


「起きて早々申し訳ないんだけど、覗きにそれを隠蔽する手間とかを合わせて君達に課す処分を言うからよく聞いててね」


「拙者達は…捕まったのでござるな…」


「君達の処分は…XOXO M&Co.の本部への侵入と、そこにある情報課からデータを盗んで来る事だ」


5人はそれを聞いてキョトンとしていた、そして聞き間違いかと思いたかった、なんせ言い渡された処分は敵本陣から盗みを働いて帰ってこいと言う内容だ、死刑宣告ともとれるこの物言いに5人は異議を唱える。


「そんな殺生な!」


「バレたら楽に死ぬより辛い拷問に合わせられるって噂だぜ!?」


「もっと他の処分ないんですか!?」


「死刑宣告…」


「下っ端でも強敵なのに…本部だなんて…」


そうして異議異論を唱える5人に向かって、村岡は普段見せない様な強い目つきで睨みつけて黙らせると、静かに話しだした。


「君たち…自分の今の立場をよく考えてほしい、君たちは今"覗きをして捕まりそうなのを匿ってもらっている"立場だ、もしあの場に居ようものなら徹底的に制裁を加えられ、なおかつ組織内で男色の噂が立ち覗き魔として社会的立場も失う、そんな危うい状況なのに楽な方を選ぼうとするなど…恥を知れ!!」


「うぐ…」


「社会的信用と言うのは…!命を賭してでも守らなければいけない!生き物は社会から弾き出されたら終わりなんだ、だが…俺も鬼じゃない、しっかりサポートもつけるさ」


そう言って無線で誰かを呼び出すと、数分後に扉が開き、冷たい冷気が流れ込んで来た、振り向くとそこには噂に名高い霧の姉妹とカイトの相棒アスカがいた、カイトはとても申し訳なくなり顔を合わせることができなかった


「さぁ、作戦会議を始めようじゃないか」


出来心で起こしてしまった大惨事、けじめをつけるべく命を賭けての大作戦、果たしてカイトとその仲間たちは無事に生還する事ができるのか、それはまだ…誰にもわからない…


【組織の様子を見てみよう】終

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