制約と代償、そして天賦

大量のガラス片が散らばる毒蜘蛛のアジト

そこにいた全ての魔人、人間は戦闘態勢に入っていた。


「血祭りに上げたる…」


「糸一本触れられると思うな…」


「行け!こんなバッタモン解体せい!」


幹部蜘蛛が命令を出すと数人の蜘蛛が口や分離した腹の先から糸を噴出する。

しかしホッパーは足の張力を解き放つと、まるでロケットの様なスタートダッシュで飛び出して全ての糸を避け、一番近くにいた蜘蛛を蹴り飛ばし壁に叩きつけ、壁を蹴り敵を蹴るそれを繰り返す様はまるでスーパーボールの様だった。


「ひぃぃ!手に終えねぇ!」


「く…流石蜘蛛…甲殻が硬い…」


「逃げようぜ叔父貴!」


すると幹部の蜘蛛は部下を殴り飛ばしこう言い放つ。


「バカ野郎!こんな事が本家に知られたら…俺ら全員ケジメだぞ!こうなったらしょうがない…【制約】を使え!」


それを聞いた蜘蛛たちはざわついた、するとすぐさま根性のある蜘蛛が数名ホッパーの前に出てきて能書きを叫んだ。


「制約ッッ!!異形形態時間の延長!条件は一週間、人型形態への変化不可ッ!」


「まずい…!」


すると宣言した蜘蛛たちの体はみるみる巨大化し、二足歩行だった足は分離した腹と一体化して六本足になり、腕には縞模様が現れ口周りの牙も巨大化して、蜘蛛の体に人型の上半身が合体した様な姿になった。


「お前ら、これは非常〜にマズイぞ、制約によって強化された魔人が四人、それにまだピンピンしてる蜘蛛野郎共がウジャウジャいやがる」 


「じゃあどうすんだよ…」


「安心しろ、制約なんか足元にも及ばない…【代償】を払ったら俺がここにいる」


「何が代償じゃ!時代は制約じゃて!行けお前ら!まずは人間どもからだ!」


「うっしゃぁぁ!!」


そうして異形の魔人が3人に襲いかかる、しかしそれは以外な人物によって止められることとなる。


ドドドッ!

「ぐぇぇ!」


「危ない危ない…いきなり来たからビックリしましたよ…」ジャラ…


それはツヨシの仕業だった、一瞬のうちにホルスターから拳銃を抜き4体の巨大化した魔人を撃ち落としたのだ、そしてその一瞬で六発全てを撃ちきり、リロードまで終えている。


「早…撃ち…?」


「これが人間の可能性、制約した魔人だって怖くありません」


「ん…だがこいつ等は俺が相手しよう、雑魚は任せたぞ」


「やっちまえ!」 


下っ端共も遅れて飛びかかる、さっきの蜘蛛達が見えていなかったのかと言う程の学習能力の無さに少々呆れたが、人間もなめられたものだ。

さっきと同じ様に、ツヨシが撃ち落とし二人は制約により威力を落として反動を軽減した大砲でふっ飛ばす。


「弱い…!MCo.の連中とは比べ物にならない…!」


「何しとるんじゃ!魔法を使え魔法を!いくら人間でもなめてかかると痛い目をみるぞ!」


「う、うす!」ズズ…


そしてようやく魔法を発動させる、ツヨシは間髪入れずに蜘蛛たちの手を撃ち抜き数人の魔法を中断させる、しかし他の蜘蛛は腹の先から糸を噴出しカイトとアスカを捕えると、その糸にメタル化の魔法をかけて強化した。


「捕まえたぜクソ人間!」


「観念しな!」

 

「ふん…やはり喧嘩はいっちょ前でも戦いは素人だな!タイミングが遅すぎる!」ズバッ!


「全くだ!」ボウッ!


「何!?」


メタル化された糸とは言え、名工ドワーフの槍の切れ味には及ばず切断され、カイトの方は炎の右腕で焼き切った。


「嘘だろ…」


「鋼鉄の糸だぞ…」


「こんな事言うのもなんだけど…とてもMCo.の傘下とは思えないね!」ボッ!


「あぶね!?」


間一髪で槍を脇の腕を含め六本の腕で掴み取る、そして油断して隙が生まれた瞬間、ワイヤーを巻き取りアスカの体ごと引き寄せ、強烈な飛び蹴りを食らわせた。


「がへ!?」


「あっけな!」


アスカの靴底には鋼鉄のプレートが仕込んである、全体重を乗せた鋼鉄の飛び蹴りを食らった蜘蛛は血を吐いて痙攣している。


「くっそぉ〜!良くも兄弟を!」


「糸巻きにして吊るしてやるぜ!」

ビュッ!


二人がかりによる糸の噴射、しかしそれは見てからかわせるような遅い噴射であり、カイトは糸束を横から掴むと左腕から電気を放電して見せた


「しばらく気絶してもらうぜ」


「やっ…!早く糸を切れ!」


だが糸を切るのが間に合わず、放電した腕に糸を握られ蜘蛛達は感電してしまう、どんなに強度が強かろうと生物から出ている以上糸は大量の水分を含んでいる、電気を分散するアースもない為蜘蛛達はもろに電撃を食らうこととなった。


「とりあえず2人ぃ!」


「つえぇ…この人間達つえぇぞ…」


「や、やってられっか!」


すると一人の魔人が糸を張って逃げ出す、それに続いて戦意喪失した者たちも文字通り蜘蛛の子を散らすよう逃げ出した。


「ばっか…!逃げんな!」


「兄貴達は制約で強化されてるからいいけどよぉ!俺らは"まだ"制約できないし!何人でかかっても敵わなかったし、逃げるしかないっスよ!!!」


「腰抜け共が…」


「まぁ数は減りましたしこちらが有利ですね」


(あの早撃ちの人間は厄介だ…見た所弾丸は魔法が込められているな…そうだ…)


するとの蜘蛛は口をモゴモゴさせて何か仕掛けようとした、他の蜘蛛もそれに備えて先端に糸の塊がついた糸を引っ張り出し、メタル化で先端の糸塊を硬化させ振り回している。


「ぷっ!」

 

「何!?」


「ツヨシッ!」


「何だこれは…!」


それは粘着性の糸玉だった、ホルスターと手をガッチリと捉えておりこれでは銃を抜く事ができない。


「先手を撃つならまずお前だ!そして!次の俺達の作戦はもう既に実行している!」


「そうらッ!」


「なッ!?」ビシィ!


「ホッパーさん!」


糸塊のついた糸はホッパーの四肢に絡みつき、それぞれ一本づつを蜘蛛達が握っている、糸を切る選択肢もあるが、異形形態になった者のメタル化のした糸を断ち切ったり焼き切れるとは思えない、それに電気を流したらホッパーにも感電してしまう。

そんな事を尻目に蜘蛛達は完全にホッパーを追い詰めた木になっていた。


「へへへ…一歩も動けまい…!」


「いくらお前の第二の腕を出したとしても!この糸を引きちぎるのは不可能!」


「メタル化の糸と異形形態の我らの腕力!ジェット機だって止めてみせるぜ!」


「貧弱な人間は指を加えてリーダーが引き千切られるのをみてるんだなぁ!ハハハハッッッ!!」


「ホッパーさぁぁんッッッ!!」


するとホッパーは落ち着いた様子で話し始める。


「落ち着け小僧、四方から糸で拘束されている時は、1方向の糸の張りをなくせば良いんだ。」


「この状況でか!腕引き千切ってやるぜ!」


そう言うと蜘蛛は更に力を込めると、ホッパーは第二の腕を出して縛られている腕を内側に引き寄せる。


「覚えておけ!今から使う技は同じ様な状況で大きな利点を生む!」


「ごちゃごちゃうる…せぇ!」グイッ!


「それが悪手なんだよ…」ビシ!


「何ッ!?ぐわっ!?」

ドサッ


すると突然蜘蛛の一人が盛大に転んだのだ、理由は簡単、ホッパーが右腕の力を抜いて糸の緊張を一瞬解いたのだ、そうすると後ろへ引かれていた力が一気に開放され、綱引きの様に転んだのだ。


「バカ!何してんだ!」


「ぐぅ…すまね…え!?」ブオッ


「ふんッ!」


次にホッパーがとった行動は、腕に巻き付いた糸を逆に利用し、先程転んだ蜘蛛を引っ張り上げたのだ、そしてそのまま鎖分銅の様に右腕の蜘蛛を左腕を拘束している蜘蛛にぶつけ、両腕の自由を取り戻した。


「なんて…腕力…」


「せ…制約して巨大化した魔人を…いとも簡単に…」


そしてホッパーは先程とは違い、純粋な足の力で糸を引いて蜘蛛達の姿勢を崩すと、手を地面について逆立ちの姿勢をとった、そして仲間たちにこう叫んだ。


「伏せろッ!」


「はっ…はい!」バッ


咄嗟に頭を抑えてうつ伏せに伏せる、すると自分の頭の上を何かが風を切って通り過ぎたのだ、恐る恐る見てみるとその光景にカイトとアスカは息を飲んだ。


「うっそ…」


「ひぃぃ〜〜〜!!」


「勘弁してくれ〜〜!!」


なんとホッパーがブレイクダンスの様に逆立ち姿勢で足を広げて回っており、足の糸を掴んでいる体重300キロは越そうと言う巨大蜘蛛をブンブンと振り回しているのだ、当の蜘蛛達は絶叫を響かせながら回り続けている。

部屋は魔人仕様な為異様に広く、巨大な蜘蛛を振り回すスペースは十分にあった。


「は…はやくこの状況から逃れなければ…!」


回転はどんどん加速して蜘蛛の残像が円のように残るようになっていく、見ている方も凄まじいが、されている方はさぞかし辛いだろう、遠心力で末端に血液が集まる痛みとそれを振り回される激痛は筆舌に尽くしがたい。


「そ…そうだ!糸を切れば…!糸を切れば開放される!」


「!?だめだ兄弟!糸を切っちゃあいけない!!」


「待ってろ兄弟…!今こいつをぶっ殺してたすけてやるからな!」ザクッ


「あ〜あ…」


「へ?」ドゴッ!


回転の遠心力により生じた圧倒的パワーは十分な速度保ったまま300キロを超える魔人を軽々とぶっ飛ばし、鉄筋コンクリートの壁に半身をめり込ませた。


「バカ野郎…!」


「うぅ…」


「はっ!兄弟!…兄弟!?」


気を失っていた2人の蜘蛛もこの状況には困惑し呆然と立ち尽くした、しかしそれが仇となり、一巡してきた兄弟蜘蛛に激突し、二人はリタイアする事となったが、最後の一人…すなわち回されていた蜘蛛が立ち上がった。


「ぐっ…!て…!てめぇら…!生きては…!」


「もういいだろう、そんなにボロボロになって…もう勝ち目は無い、魔法もろくに発動できていないじゃないか」


「せめて…!最後の悪あがきじゃ!兄弟の仇ッ!」


「わからず屋めッ!」ドッ


針のような脚に毒の魔法をかけて一矢報いようとしたが、あえなく腹を蹴られて気を失ってしまった。


「中々骨のある奴だ…敵なのがもったいない…後は…」


「ヒッ…!たっ!助けてくれ!金ならいくらでも!」

 

物陰で震えていた幹部蜘蛛は部下達の安全を差し置いて自分の保身に走り出し、土下座までし始めた。  


「いや…金が目的じゃないし…」


「やっぱり中途半端な位に就くと腐っちゃうんですかね〜?」


「どうする?ホッパーさん」


「(電流)流せば?」


「なんか適当になってませんか…?」


そして言われた通りに放電すると、5秒としない内に幹部蜘蛛は痙攣して気絶した、あまりにも弱い…


「弱ッ!」

 

「よし!任務完了!これでしばらく毒蜘蛛一派は活動できなくなったろ」


任務は終わり四人は蜘蛛の巣を降りて再び車に乗り込んだ、するとホッパーが初任務達成祝と言って近くの馴染みの店に連れて行ってくれるとの事、そこは魔人の店主が経営しているらしいが人間に対して敵対心はないとの事だ。


「はえ〜魔界にもこんな田舎があるんですね〜」


「都市部が発展しまくってるだけで、地方はこんなもんさ」


車を走らせていると広大な田んぼや畑にぽつんと家が建っている景色が続く、景色を楽しんでいると車が減速し駐車場に駐車した、時間は3時半…昼時でもなければ夕飯時でもない為か、単に繁盛してないだけか車は一台も駐車していない、車を降りたアスカがあたりを見回している店の看板には【山賊】と書いてあった。


「すごい名前…」


「お〜いアスカ〜早く入ってこいよ〜」


アスカが色々と見ていると男達はもう店の中に入っており、急いで後を追った。


「おっ、相変わらず空いてんな〜大将」


「うるせぇ化け物…って今日は人間連れかい…なら個室使いな、万が一客が来たら大騒ぎだぜ」


ホッパーが大将と呼んだのはこの【山賊】の店主、松村である。

カウンターの裏から出てきた彼はとても大きく、目を引くのは額から伸びた日本の短めの角だ。


「ん?角が気になるかい?」


「え…は、はい!」


「元気がいいねぇ!俺は鬼人だから角が生えてるのさ、ほら…座敷はこっちだぜ、水はセルフサービスだ」


座敷に案内されると掘りごたつ席だったが穴が異様に深く、また足が宙ぶらりんになってしまいそうだ。


「水持って来ますね〜」


「ボクも手伝うよ」


二人が水を取りに行ってくれている間にお品書きをざっと見ておく、ホッパーはもう決まっている様で端末で報告のメールを送っている。


(ラーメンにカレーにカツ丼に定食…洋食も和食も中華も一通り揃ってる…大衆食堂みたいなメニューだな…)


「おまたせ〜」


「ん…悪…でか!?」


「何が?」  


「ホッパーさんのコップッスよ!」


小型種族用のコップは人間世界と同じ位だった為、違和感は無かったが…大型種族用のコップはもはやピッチャーサイズだ。


(しかし…これ見てよかった…この世界のサイズは何もかも大きい…!アメリカンサイズが少なく見える程に!うっかり通常サイズのラーメンを頼もう物なら、特大すり鉢サイズが来かねない…)


「ふふふ…大丈夫ですよ、この世界のお店はお客さんのサイズに合わせて作ってくれますから」


「ふ〜ん…人間と違って、身長差も著しいからね〜…あ、ボク唐揚げ定食にしよ〜」


「色々ありますね〜私はこのごま味噌チャーシューメン、バターとコーントッピングにします」


「じゃあ俺は…油淋鶏丼で」


「決まりだな、大将〜!」


「決まったか〜?」


「油淋鶏丼と唐揚げ定食、ごま味噌チャーシューにバターとコーンのトッピング…後はいつものと餃子4つ、先に餃子持ってきてくれ」


「唐揚げ定食のご飯特盛でね〜!」


「はいよ〜ちょっと待ってな〜」


注文を受けた大将が奥に下がる、カイトは沈黙に耐えられないタイプな為、料理を待ってる間にホッパーについて色々聞いてみることにした。


「ホッパーさんって…なんでいつもマスク被ってるんですか?なんか食べる時もマスク外さないし…」


「……俺は…【代償持ち】だからな…素顔を見たら皆が怖がる、代償持ちの顔はすげぇぞ?あの制約蜘蛛の比じゃないくらい異形寄りだ」


「と言うことはその…」


「顔バッタなの!?」


「バカ!もっとオブラートってもんを…」


「ふッ…まぁその通りだ、見ろこの腕…虫だろ?」


「ええ…まぁ…」


「カイト、レジスタンスにいる代償持ちは皆望んでこの姿になったんだ、だからこの姿を哀れんだり気を使うような事はするな、そう言う意識が無意識の差別に繋がるんだ、普通に接しろ…仲間なんだからな」


「は、はい!」


「わかりゃいいんだよ、俺は顔が虫過ぎて自分で見てもちょっとキモいからマスクしてるだけだけどな」


【特徴的な外見を持った人はコンプレックスを持っているもの】そんな人間世界でついた認識をカイトは改める事なる、魔界は人間世界とは比べ物にならない程多様性に富んでいる、この様な懐の深い世界を人間の物差しで勝手に図ろうなど失礼というものだ。


「あ、そうだホッパーさん…」


「芦田」


「え?」


「俺の本名だよ、いちいちホッパーじゃ言いにくいだろ?」


「あ…!芦田さん!」


「おうよ」


「へ〜ホッパーさんって芦田さんって言うんですね〜」


「ツヨシのおっさん知らなかったの?」


「レジスタンスの皆の中ではホッパーで定着しちゃってますからね」


「じゃあ俺の本名知ってるのって…同期とリーダーと一部だけ…」


「そうなりますね…」


表情はわからないが、芦田からは少し悲しげな雰囲気が漂った。

そうしていると大将が餃子4皿を持ってきてくれた、数分しか経っていないがこれも魔法による調理の為か、魔界生活が長い二人はあまり驚かなかった。

しかし驚くべき点はそこだけではなかった。


「でかい…ざっと見ても15センチ以上は確実にあるぞ!」


「人間目線だとやっぱりでかいか〜?」

パクッ


魔人の芦田は一口で頬張るが、人間はそうはいかない、大きく口を開けまるでハンバーガーを頬張るようにかぶりつく、すると口いっぱいに温かい肉汁が流れ込む、次に感じたのが強烈な肉と野菜の旨味だ、レジスタンスでの食事も悪くないがこれ程までに一口で肉の旨味を感じられる食べ物久しぶりだった。


「何これ美味すぎ…!?」


「こんなに美味いの久しぶりだ…!」


そこからはもう止まらない、一口食べるごとに脳が快楽物質をとめどなく放出する、感覚的には食べても食べても腹が減っていく感覚に近い。

素晴らしいのはあんだけではない、皮も蒸して焼いてある、焼き目はパリッと皮はモチっと、そして酢と醤油とラー油で作られた餃子だれをつけるともう犯罪級だ、薬でも入っているのかと疑う程に。


「いい〜〜食べっぷりですね〜」


「だな、若者がいっぱい食べる姿は元気が出る」


「おっ、そんなにうまそうに食ってくれる客久しぶりだぜ」


そうしていると大将が自分達の料理を運んできてくれた。  


「大将さん!この餃子すっっごく美味いッス!」


「ボクこんな料理食べたのニ、三年ぶりだよ…」


「はは!嬉しいねぇ、この田舎もすっかり若いのが減っちまった…まぁ腹一杯食って行ってくれや」


いつの間にか料理が自分達の前に置かれている、人間に合わせられているとはいえかなりの量だが、この店の料理ならいくらでも食べられそうだ。


「芦田さんは何を頼んだんですか?」


「ん?イナゴの天丼」


「へ〜!すごいですね〜!」(考えないようにしよう)


餃子を食べ終えると本命に手を付ける、やはりこれも犯罪級に美味い、油淋鶏の食欲増進作用のあるネギダレは白米が無限に胃袋に入るし唐揚げもにんにくが良く効いていて丼に入っている米が一瞬で消えた。


「大将!ご飯おかわり!」


「はいよ〜」


「ラーメンも野菜とお肉たっぷりで美味しいですよ」


そうして食べ進めていると店の扉が開き、一人の客がカウンターに座った。


「いらっしゃい、ここじゃ見ないね…初めて来たの?」


「えぇ、ちょっと仕事で」


「その手の入墨…珍しい形してるね〜」


「ふふふ…そうでしょう、ネギトロ丼の特盛をお願いします」


「はいよ〜」


カイトは座敷の入口側に座っていた為、その魔人の姿を見る事ができた。

種族は魚系で大きな背びれと片側に3つのエラがあり、上唇が少し尖っているのでカジキと推定、例の入墨は右手の手の甲にあり⌘の様な形をしていた。


(カジキがネギトロ丼か…)


その魔人は巨大すり鉢程ありそうなネギトロ丼をあっという間に食べ終わると会計を済ませて店を出ていった。


「早いな〜」


「何がだ?」


「いや、今入ってきたカジキの魔人がですね」


「ん?何?カジキだと?」


「はい、それがどうかしたんですか?」


すると芦田は紙を取り出し、それに何かを書いてカイトに見せた。


「もしかしてこんなマークがなかったか?」


「ッ!」


見せられたそれは確かに例の入墨だった、しかしカウンターは見えないはずの位置にいるはずなのに何故カジキの魔人と言っただけで特定できたのか疑問が残るが、芦田が続きを話す。


「このマークはXOXO M&Co.最高幹部だけが彫っているマークだ、カジキと言っていたのはおそらく【ねぎ106】と言う幹部だろう」


「しかしなんでそんな魔人がこんな所に…」


「さぁな…だが…これは報告案件だな…

大将!お勘定!」


そうして満腹と困惑で変な気分になりながら転送装置まで車を走らせ、そのまま地下世界へ帰還した。

村岡に毒蜘蛛を殲滅した事や最高幹部を確認した事を報告した後、村岡に制約や代償について聞いてみることにした。


「ほぅ…その質問からして制約した魔人と遭遇したね」


「はい、俺達もっとこの世界について知りたいんです、お願いします!」


「いいよ、どうせ遅かれ早かれ説明する事になるしね〜」


村岡はまた物置から色々と引っ張り出して机に広げ、説明を始めた。


「まずは制約について説明しようね、まず制約は【魔法にかける制約】と【肉体にかける制約】の2つがある、前者は君の魔法道具みたいに威力を落として汎用性を出したり、他に使える魔法を封じて本命の魔法を強化する制約、このタイプの制約はいつでも解除する事ができる」


「じゃあこの魔法道具も使い捨てに戻せるってことか…」


「そういう事、そして後者は一定期間体の何かを封じる事で一部を強化したり、何らかの形態を維持す制約、このタイプは期間が終わるまで解除できないのが特徴だね」


「…ん?そういえば…」


「他に聞きたい事でも?」


ある程度説明を聞いてアスカは毒蜘蛛との戦闘で下っ端が「自分達はまだ制約できない」と言っていた事を伝えると、村岡は更に詳しく説明し始めた。


「これね〜…そもそも制約とか代償は【魔界のルール】に干渉する力なんだ、だからある程度の年齢や魔法の種類を扱えないと発動できないんだ」


「だからスラムの魔人達は制約してそうな魔人がいなかったのか…」  


制約の説明が終わり代償の説明に切り替わる、代償と言えば芦田についても聞いておきたい所だ。


「代償は制約より条件がかなり重いけどその代わりリターンも大きい、タイプは制約と同じだ。」


「じゃあ、芦田さんの代償って…」


「そう肉体の代償だ、長くなりそうだなら冷蔵庫から好きなの取っていいよ」


制約の説明図をしまい今度は代償の説明図を取り出している、その間に冷蔵庫からありがたく炭酸飲料とサラミとチーズを取り出した。


「おまたせ〜お〜容赦ないね」


戻ってきた村岡が芦田の代償について説明する、彼の代償は「通常形態の放棄による常時異形形態と身体能力の強化」そしてレジスタンスの強者は皆何かしらの代償を払っていると言う事も。


「牙狼も肉体の代償者だ、他にも1属性以外の全てを切り捨てた者や感情を遮断した者もいる、私も代償を払って魔法を強化したよ…」


「そんな代償まで…」


「それと、ここから話す事は君達が知らなくてはならない事だ」


村岡の深刻な表情に二人の食べ物を摘む手が止まる、そして村岡はゆっくりと話し始めた。


…………


場所は変わって摩天楼、今日もボスのみるくはリビングルームで飲み仲間の女性最高幹部達とその部下たちとでくつろいでいると、ある話題について話し始めた。


「【天賦】…ですか?」


「えぇ…制約でも代償でもない…何も失わずに強大な力を手に入れる事ができる最も効率がいい手段ですよ」


「それってゆうさんとか最高幹部さん達が持ってるやつですよね?どうやって発動させたんですか?」


「ん〜私から説明してもいいけど…あ!骸さ〜ん!骸さんってば!」


すると空間にポッカリと穴が空くと、そこからみるく直属の護衛、骸が顔を出す。


「天賦の発動条件教えてあげて下さい、私が説明すると長いので」


「ほ〜ん…説明ねぇ…神を殺す」


そう一言だけ言い残すと料理の大皿を2、3皿かっさらって再び空間の穴に帰っていった。


「神を殺す…!やっぱり本当に殺っちゃってたんですね!?」


「そらそうよ〜最高幹部さん達は大体ころして天賦貰ってるで」


「その天賦ってどんのものが手に入るんですか!?」


「う〜ん…そうやなぁ…やった神のランクによって変わるけど…大体なんでも叶うで、魔法を最大強化して派生も全部開放したり、神の武器とかそれにちなんだ技とか…」


「すご〜い!でもなんで貰えるんですか?仲間殺した相手に…」


みるくはふふんと笑いグラスを傾けるとその質問に答えた。


「そら自分は殺されたくないからやんな」


「えっ…そんな理由…」


するとさっきまで黙って飲んでいたゆうが話し始める。


「でも結構当たり前のことじゃない?自分だけは助かりたいって気持ち」


「そう考えるとたしかに…」


「位の高い神ほど、あっさり殺された時の天賦はすごいですよ〜」


「MCo.の中でみるくさんを除いて一番殺してるのが、さっき出てきた骸くんだよ」


「あの人ってそんなに凄い人なんですか!?」


「私より弱い人に護衛任せられるわけ無いやん!せめて同じ位の強さじゃないと」


そう笑いながら言うと、そろそろ酔いも回って来たのでゆう以外のメンバーを骸に転送させると誰かに連絡を繋いだ、少し待っていると次第に声が聞こえるようになり、姿も映るようになると、そこにはカジキの魔人…つまりねぎ106の姿があった。


「みるくさん、言われた通り毒蜘蛛の残党と役立たずの構成員は一人を残して全員"溶かし"ました、話し聞きます?」


「いえぇ…私はもう眠いので…ねぎ106さんに任せますと…」


「あ〜はいはい、わかりましたみるくさん、おやすみなさいです」


「あ…切れた」


通話は切れたが話は続く、残されたのは制約によって巨大化した蜘蛛の一人で残り全員は蜘蛛の巣から滴り落ちる液体と化しており、下にはレイピアの様な剣を持ったねぎ106と蜘蛛がいた。


「あんた…何をした…」


「驚いたろ、冥土の土産に教えるとこれは俺の魔法、あらゆる物を液状化できるんだ、俺達最高幹部は時々こう言う役立たずの組織を潰して行ってるのさ」

 

「何故…俺だけ残した…」  


「何、簡単な理由だ…逃げた半グレ共は今何処にいる」


「あいつらはもう関係ない!殺すならはやく殺せ!」


「関係あるんだなそれが、役立たずのくせにMCo.の名前を使われると困るんだ、わかってくれよ〜」


「……戦闘中に逃げたから知らん…」


そうしてしばらく沈黙が続きねぎ106が辺りを見回すと蜘蛛の首筋に剣先を突き刺すとそこから去って行った、剣はいつの間にか何処かに消えていた。


(ばかめ!背中ががら空きだぜ!)バッ!


しかし、飛び上がったはずなのにすぐに地面に落ちてしまった、何かがおかしいと思い自分の身体を見てみると末端からみるみる溶けていき手首や足の節も無くなっていくのを見た


「な…なんだ…これ…!」


するとねぎ106は足を止めて振り向き、最後の言葉をかけた。


「溶解は既に始まっている…」


「あ…うぁ…」


1分ほどで全身が溶けて蜘蛛は完全に溶けて地面に染み込んだ、張り巡らせれていた蜘蛛の巣も全て液状化し、森は元の姿に戻った。

これが天賦によってねぎ106が身につけた液状化の魔法【水葬】である。

………


「これが…【天賦】だ、わかったかい?」


「神殺しにそんな理由が…」


「レジスタンスではしないの?神殺し…」


「神の強さは異次元だ、昔神殺ししようとした仲間が誰一人帰ってこなかった…」


席を立ち上がり二人に背を向けていたが、その背中は少し悲しそうだった…村岡は初任務だから疲れただろうと四日間の休日をくれた、ここはリーダーのお言葉に甘えてゆっくり休ませて貰うとしよう………

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