魔神無双

今回収監されている幹部は3人

それぞれが違う刑務所に投獄されているが、その刑務所がある場所の環境がとにかく過酷


一つ目は大気圏付近を、飛行する飛行船の天空刑務所

周りには獰猛で屈強な眷属獣を配置し、並の生物なら即死の高度で飛んでいて、ここにはダークエルフの幹部が収監されている。

2つ目は冥界に存在する最も規模が広い冥界監獄、囚人の中には亡者や既に死んでいる者も多く、千年単位で懲役刑を食らっているものも多い、ここには半獣人の幹部がいる。

そして最後に地獄の最下層、コキュートスに存在するブリザードプリズン、神話級の罪を犯した者が投獄される究極の刑務所、生身で外に出ようものなら一瞬で細胞の全てを凍らされてしまうと言う、そしてここには鬼の幹部がいる。


しかしこの過酷極まる刑務所でも、今脱獄使用とする者が3名、そう前述の最高幹部3名である


「遂にきたか…一番乗りは俺かな、錠の鍵はもう作ってあるし」ガチャ


錠を外し足枷も外す、いとも簡単に外しているがこの鍵穴は常に形を変えている特別製の拘束具なのだが、彼は獄中で手に入れた道具だけで鍵を開けたのだ

そして熱の魔法で極厚の扉に穴を空け腕を通して鍵を開ける、もちろんこの扉も鍵以外で開けると更に厳重に閉まるようになっている


「なんだ、刑務所で一番厳しい場所の癖に呆気ない」


ドゴッ!


顔スレスレで魔弾が飛んでくる、のんびり鍵を外している内にバレてしまったようだ

看守は銃を構えて何やら叫んでいるが彼には関係ない、立ちはだかる者は例え看守であろうと容赦はしない


「かなり集まってるな…まともに戦ったらタイムロスだ、なら一気に片付けるしかあるまいて」バン!


そう言って壁に拳をめり込ませ、そこにある送電用のケーブルを掴む、そのケーブルに魔法を施した

するとケーブルの銅線が壁を突き破って看守達の身体を貫き、時間差で電流を流し込む事で看守を無力化した、そしてこの感電により

飛行船前方全てのプロペラがダウン、これにより飛行船は緊急着陸を余儀なくされ、空でしか活動できない眷属獣は引っ込められ、更に看守の殆どは緊急降下中に無力化された為、彼の脱獄はあっけなく終わった


「今行きますよ、ボス」


摩天楼では魔法の鏡にそれぞれの幹部の脱獄映像が流れている、ハイエルフの美女は朝早く…と言うより徹夜してこの光景を見ていた


「一番早く出たのはやっぱりテンツクさんですねぇ」


「準備に事欠きませんからね」


「それになんでも作っちゃう」


「他の二人はどうやろか…」


「……寝てますね」


「二度寝やねぇ」


少し待っていると、真ん中の冥界監獄の鏡に動きがあった、モゾモゾと起きてきた、寝起きの半獣人の毛はとてもボサボサで、部屋にくしなどない為自分の爪で毛をとかしていた


「随分とのんびりしてますね…」


「それだけ余裕があるって事やね」


するとその半獣人はドアノブに手をかけると、簡単に扉は開き部屋を出ていった


「鍵かかってないやんか…って、まぁそうなるとは思ってたけど」


鏡の中の男は看守のいる廊下を堂々と歩き、自分の荷物がある部屋まで行き着替えて部屋から出ると、高級そうなスーツに見を包み手にはジュラルミンケースを持って監獄を闊歩する、そして門まで行き門番よ獄卒のポケットに札束をねじ込むと、空からヘリが降りてきてそのヘリに乗り込み、その半獣人は去っていった

このなんとも呆気ない脱獄にかかった時間は約5分、金にモノを言わせた脱獄である


そして最後にブリザードプリズン、鬼の幹部は相変わらず寝ているが、その風貌は正しく囚人だ、手枷と足枷が付けられ首や腰にも鎖が繋がれている、しかしその鎖の向きは不自然だった、それぞれが違う方向へ伸びている

その鎖を見てこの刑務所の新人刑務官は先輩に問う


「先輩…この牢屋って…」


「あぁ、ここはMCo.の幹部が収監されてるんだ、種族が鬼だからとてつもない怪力を持っていて、鎖の先には超重量の複合金属の鉄球が付いてる」


「でも鎖の伸び方変じゃないですか?」


「それは…」


「それは私が説明しよう」


横からこの刑務所の署長が口を挟む


「この牢屋は、名だたる賢者達の手によって、部屋の中心から外側にかけて普通の15倍の重力が発生するように魔法がかけられているのだ!だから鎖が四方八方に伸びている、だから流石の百戦錬磨の鬼と言えども…」


「へ…へ〜…ん?はっ!署長!あの鬼立ってますよ!?」


「なんだと!?」


先程まで跪いて寝ていた鬼が腕と足を広げて立ち上がっていた、その様子もハイエルフ達は魔鏡でしっかり見ていた


「やっと起きたわ」


「でも環境的に一番遅く来そうですね」


「いや、あの人の魔法なら一瞬や」


牢屋の中で鬼は不自由ながら関節を鳴らし、呼吸を整えている

刑務所内は大騒ぎ、普段はピクリとも動かない囚人が突然あの重力下で立ち上がったのだ、そして窓から見ていた刑務官達は更に衝撃的な物を見るとことなる


「ふぅ〜〜…シュッ!」


「な!?」


「有り得ない…!重さ数十トンに及ぶ重り付きの手枷をつけ超重力がかけられている状態で腕を寄せている…!」


そして腕を近づけ手枷に手をかける、それを見た署長は鼻で笑った

 

「バカめ!それはオリハルコンが混ぜられた特殊合金製の枷だ!そう簡単に取れるものか!」


しかし鬼の取った行動は手で枷を押さえつけると、首を振りかぶり力を溜め、頭突きの要領で首を振り下ろした、すると額に生えた漆黒の一本角が手枷を砕き、右腕の手枷が外れたのだ。

外れた手枷の重しは、引っ張られていた為重力で加速し壁に叩きつけられ刑務所を大きく揺らした


「ば…!化け物め…!」


再び角で左手の枷も砕き、両手が自由になった所で両腕をメタル化させたが、その色がおかしかった、普通のメタル化より黒いのだ


「署長!奴のメタル化、黒いです!」


「見ればわかる!あれが奴のメタル化…ここは危険だ!全員退避!」


署長の指示により刑務官の9割は脱出した、実際その判断は正しかった、メタル化した腕は全身につけられた枷をいとも簡単に砕き重りを解き放った、そして超重力の空間を余裕しゃくしゃくで歩き扉を開けて牢屋を脱出した

すると出た廊下には武装した刑務官が大勢いた


「なんだ、見送りでもしてくれるのかい、俺は早く服を着替えたいんだが」


「一応アンタは服役中だ、俺らもそれなりの対応させてもらうぜ…」

  

言い返した署長の体は僅かに震えていた、もちろん他の刑務官も全員だ。


「虚勢張るくらいなら失せろ…ここにいる奴等全員原型のない挽肉にだってできるぜ」


「そうか…動いたら撃…!」


それは一瞬だった、署長が言い終わる前に彼の頭部は木っ端微塵に砕かれ、その遺体は足を掴まれ奴の手にあった


「どうだ、この狭い廊下で200キロはある肉塊を振り回してもいいな」


「う…!」


刑務官は動くことができなかった、何人かは失禁すらしていたと言う、そんな頼りない刑務官を他所に、着替え終えた鬼は魔法を使った


「今行くぜお嬢…」  


それは空間移動の魔法、空間に作られた円状のゲートはハイエルフのいる摩天楼の一室に繋がり、コキュートスから一瞬で摩天楼まで移動し、一番乗りはこの鬼となった。

他の二人も僅差で到着し、ハイエルフはそれを微笑ましく向かえた


「おかえりなさい、テンツクさん、けいごさん、骸さん」


横からダークエルフ、半獣人、鬼の順番で名前を呼ぶ。

 

「久しぶりですね〜ボス。」


「何ヶ月もあえなくてめっちゃ辛かったですよ…」


「お嬢!久しぶり!寂しかったぞ〜!」


「せやろな〜私も直属の護衛さんいなくて寂しかったで〜骸さん。」


「お嬢様、皆に話す事があったのでは?」


「そうやった…皆座って〜」


そう言って彼女はマイクの電源をつけた、理由は幹部が全員揃っていないが全員に聞かせるためだ


「あ〜聞こえますか?え〜私XOXO M&Co.ボス【みるく】は本日をもって刑務所へ幹部を収監する契約を破棄し、敵対組織の撲滅に尽力する事をちかいます!」


「お!ついにやるか!」


「これでしばらくは万全の戦力で挑めるな」


そう美しいハイエルフ彼女の名は【みるく】本名かどうか定かではないが、皆そう呼んでいる。

この組織の名前のMはミルクのM、つまりXOXO M(ミルク)&Co.と言うことだ


「ゆうちゃん!早速この事を政府に伝えてください!そして連絡先はブロックや!」


ゆうと呼ばれている同じくハイエルフの情報伝達能力は凄まじく、またたく間に世界中の政府やマスコミ、SNSに至るまでこの事を広めた


「お嬢〜派手にやるじゃねぇか」


「さぁ!皆もう離れる事もなくなったし、ご飯行きましょ〜、骸さんゲート繋いで〜」


その指示に応じて骸が巨大なゲートを開き、みるくは大勢の幹部を引き連れて摩天楼から去った。


………………


「何!?それは本当かい牙狼」


「間違いない、ニュースや号外…それにMwitter(マイッター)でもトレンドだ」


「ん…これは緊急招集だな…」


スピーカーが繋がれ村岡の声が地下空間に響き渡る、レジスタンス達は中央の広場に集まった、無論先日仮加入したカイトとアスカもいる。

高台に上がった村岡は、マイクを手にして話し始めた。


「皆、悪い知らせが2つある…一つは、もうMCo.の戦力が減らない事」


1つ目の知らせを聴いただけで会場はざわついたが、牙狼が一声吠えると落ち着き、再び村岡は話し始める


「えっと…2つ目は、奴等本腰を入れて俺達敵対組織を潰しに来るらしい、だからこれからの戦いはより一層激しくなるだろうから、皆これに備えてくれ…だが気に病む事はない、何故なら俺達は最強のレジスタンスだからな!」


「おおおおおおおッッッ!!」


「おぉ…!凄いな…あの人…」


「こんなに大勢の多種多様な人種をたった一つのスピーチで鼓舞するなんて…」


二人は村岡の底知れぬ力に圧倒され、そして確信した、【彼なら本当にやってしまう】と

そして二人は武器を作ったり修理する工房を訪ねた、ここには剛田と呼ばれているドワーフの亜人が勤めており、レジスタンスの武器の殆どは彼が作っている、初めて訪れた時も快く受け入れてくれたとてもいい親方だ


「お!来たか小僧共!もうできとるそ!」


「知らせを聞いて来たけど…本当にもうできたのか…」


「おうよ!ドワーフ職人ならこんなもんよ!」


渡されたのはワイヤーで繋がれた手槍、実はアスカの下水生活で培われた投槍の腕を親方が見抜き、アスカを連れ去って制作し調整した武器なのだ


「投げるときは軽く、引くときは強く、要は釣り竿みたいなもんさ、軽く投げてみな」


土嚢が積まれた試し打ち場に連れて行かれる、しかし手渡された物は槍とは言えない程短い筒だったが、アスカは直に理解できた


「おぉ!これ折りたたみ式の槍なのか!」


槍を軽く降ると刃と柄が飛び出す、アスカは下水道で見せたような構えを取ると、血管が浮き出すほどの力を貯めて槍を放った。


「ふんッ!!」ドッ!


「流石人間、投擲の威力は眼を見張るものがあるわい」


「親方の槍がいいんだよ、こんな分厚い土嚢も貫通してる」


「これなら貧弱なメタル化した魔人の腕程度なら貫けるだろうよ」


「なるほど…!ありがとう親方!」


「次はお前だ小僧、ほれ」


手渡されたのは久保田先生から貰った使い捨ての魔法道具が取り付けられた篭手だった


「その魔法道具作ったの久保田っていうらしいな、わしも名前は耳にした事があるが…これは中々の魔法道具ぞ、本来は強力な使い捨ての魔法道具だが、威力を抑える制約で半永久的に使える効果を得たぞ」


「制約…?」


「あ〜詳しいことは村岡に聞いとくれ、試してみろ」


親方の説明によると、4つの属性魔法が使える篭手らしい、片腕二種類ずつで親指の付け根部分のボタンを押す事で入れ替わると言う


「まずは右腕の炎から行くか、腕を前に突き出すように伸ばしてみな」


「わかっ…おわ!?」ボォ!


言われた通りに腕を伸ばすと手のひらから液体状の炎が噴射された、腕を引っ込めるとすぐに噴射は止まったが残った液体はしばらく燃えていた


「凄いじゃろ!でも本来の威力はこんなものではないぞ!それと、噴射する前に手を握るようにしてから腕を伸ばすと、手の中でチャージされて火球が形成される、手を開くと発射されて着弾地点に炎をばらまくことができるんじゃ!」


「なるほど…左は何なんだ?」


「左は雷と光の魔法じゃな、右のもう一つは爆発、どちらも握れば着弾地点に魔法をばら撒く!しかし爆発は危険じゃから思い切り握らなければチャージされんし、それ以外じゃ機能せん」


「おぉ!凄い武器を手に入れたぞ!ありがとう親方!」


「おうよ!武器のことならまかせとけ!」


すると試し撃ち場の扉を開けて、一人のマスクを被った魔人が入って来た。

その魔人はバッタの魔人で、皆からは【ホッパー】と呼ばれていた強者の一人だ。


「ここに居たか…新人共、リーダーが呼んでる、付いてこい」


「あ、はい!」


そうして外に出るとホッパーはおもむろに二人を掴み、カイトは脇に、アスカを肩に担いだ


「ちょ!?ホッパーさんなにするんですか!」


「急ぎの用らしいからな、口を閉じてないと舌噛むぞ」


「まさか…」


「いくぞ…」グググ……ボッ!!


「ぐお!?」


バッタ特有の逆関節から生み出される跳躍力は地下世界の建物を飛び越し、超高速で移動している、途中勢いをつけるため着地するのだが上から突然降りてくるため大騒ぎになっていた、そして程なくして村岡のいる建物につき、ホッパーは騒ぎを収めてにさっさといなくなった。

建物に入ると村岡の他に、人間一人がいた


「あ…村岡さん、来たようですよ」


「お!来たね〜、それが剛田の新しい武器か!なかなかいいね〜!それで要件なんだけど、君達に初めての任務を頼みたいんだ」


「うん…え?」


突然告げられた任務依頼にカイトは一瞬困惑した。


「だから任務だよ、まさか時が来るまでのんびりできるとは思ってないよね?」


「覚悟はしてたけどね〜で、何をすればいいの?」


「アスカは話が早いね!任務は君達二人とさっき連れてきてもらったホッパーに、ここにいるツヨシと一緒に遂行してもらう」


村岡から仲間の紹介がされた、彼の名はツヨシ、二人と同じく裂け目から都市部に転移し駆除隊に襲われていた所をレジスタンスに保護されたと言う


「よろしくお願いします、ツヨシです」


「こちらこそよろしくお願いします!カイトって言います!」


「ボクはアスカ、おじさんよろしくね〜」


久しぶりの人間との接触とツヨシの物腰の柔らかい雰囲気で二人の任務への緊張は少し緩み、村岡は再び説明を続けた。


「君達の任務はMCo.傘下の暴力団

【毒蜘蛛】を潰す事、コイツ等は蜘蛛系の魔人で構成されていて人間どころか魔人にも差別意識を持ってるから俺達の仲間にはなりそうもないから…ん〜〜まぁ再起不能にしよう」


「殺しはしないんだね」


「あぁ、俺達は殺人集団でもテロ組織でもない、こいつ等は善良な魔人や亜人を拉致して薬物を売りつけるれっきとした反社会的勢力だ、売上がMCo.の資金源となっている、力を取り戻した奴等にこれ以上好き勝手にさせてはいけない、早速出発してくれ」


「はい、わかりました…行こうか二人共」


「「あ…はい!」」


二人は装備を整えツヨシの案内で【出口】と呼ばれる場所に連れていかれ、そこでホッパーとも合流した。

そこには二人も見た事のある魔法陣が書かれていた


「なぁアスカ…これってもしかして…」


「転移の魔法陣だね」


「お!よく知ってますね〜流石脱走者」


「早く来い、置いてくぞ」


前回の魔法陣同様、扉を締めて合図を送ると発光し、次の瞬間には別の魔法陣へ飛んでいた。

扉を出るとそこは薄暗い洞窟だった、そしてホッパーが先頭に行く


「ついてこい、ここは迷路の様に入り組んでいて所々に罠もある、大柄の魔人でも即死するようなやつがな。」

  

「ひえ…」


「離れないでくださいね」


そうして洞窟を出るとそこは鬱蒼とした森、するとホッパーはカモフラージュの魔法がされたら車を引っ張り出し乗り込むように言う、しかし車の大きさは魔人仕様であり乗り込むのにも苦労し座っても足が宙ぶらりんになり中々落ち着かなかった。

そして例の毒蜘蛛のアジトの近くに車を停める、高さが結構あるので降りるのにも勇気がいる、帰りにまたこれに乗らなければ行けないと思うと任務中だと言うのに憂鬱になって来た。


「止まれ」


ホッパーが3人を止める、そして草むらに身を潜めるとある方向に指を指した。


「なんだぁありゃ!?」


「……ッッ!!」


それは蜘蛛の巣、それもただの蜘蛛の巣ではない、周りの木に纏わりつき蜘蛛の巣を描きその上に建物が建っているのだ。


「どうなってんだ…」


「聞いたことがある…普通の蜘蛛の糸でも鉛筆位の太さがあればジェット機も止められる強度があるって…」


「蜘蛛の魔人の糸はお前等の世界の鉛筆じゃ収まらん、それも蜘蛛の巣の上に建物があるなんざ珍しい事じゃない…近くには誰もいないらしい、行くぞ」


巣の周りには見張りらしい者はいなかったので草むらから出る、しかし建物に近づくほど蜘蛛の糸が増え、建物の下に来た頃には殆どの木は蜘蛛の糸だらけで真っ白だった。


「これどうやって登ればいいんだ…」


「簡単だ、普通に…渡って行く」


そう言ってホッパーは蜘蛛糸を掴み、階段の様に登って行った、3人も後を追うが途中粘性の糸にかかったり突然切れたり等のトラブルもあり中々手こずったが、無事巣の頂上までたどり着いた。


「………おかしい、こんなに近づいているのに見張りの一人もいやしねぇ」


「もしかして…全員留守とか?」


「いや、その可能性は薄い…あれを見ろ」


「な…!?なんであんな所に…!」


「死体……」


建物の近くに山積みに放置されていたのは死体、それも魔人や人間の物だ、どれも何処かが欠損しておりものによってはズタズタでまともに顔がわからないものもある、建物に近づくほど死臭が強くなっていく。


「ぐぇ…下水道の腐臭とはまた違う匂いだ…」


「いつまでも見てんじゃねぇぞ、壁に寄れ…そこは窓から見られるかも知れん」


死体から離れ壁に密着する、ホッパーは懐から潜望鏡の様な道具を取り出して窓から中を覗いた。


「何やってんだあいつら…」


「どうしました?」


「見てみろ…」


そう言ってホッパーはカイトに潜望鏡を渡す、同じく室内を見たカイトはホッパーの様に困惑した、そしてアスカとツヨシも確認し状況を整理した。


「なんか飲んでますね…」


「色的にコーヒーだね、蜘蛛はコーヒーで酔っ払うとは言うけど魔人も酔うとは…」


「でも飲んでるの服装的に偉そうな奴ばっか」


「万が一があるからな、だが向こうから戦力を減らしてくれるならありがたい…カイト、窓を割ったら篭手の爆発を室内にぶちこめ」


「は、はい!」


「アスカさん、私達は離れて待機しよう」


「りょ〜かい!」


カイトは篭手の属性を入れ替え、チャージを始めた

そんな時でも中で蜘蛛達はコーヒーを浴びるように飲んでいた


「やっぱり豆から挽いたブルーマウンテンはうまいのぉ!」


「いやキリマンジャロもいける!」


「一番はコスタリカじゃろ!」


「ん〜〜やっぱりトップバリューじゃ!」


バリン!!


ホッパーの前蹴りで窓枠ごと粉砕され、破片がそこら中に飛び散った、幹部らしき蜘蛛達も流石に気付いたがヨイドレ状態だった為か一瞬判断が遅れた


「なんじゃワレ!?」


「くらえ蜘蛛共!」ボッ!

ドバァァァンッッ!!


球は着弾と同時に破裂し強烈な衝撃波を放ち建物全ての窓ガラスを粉砕した、幹部蜘蛛は一人を残して全員気絶、部下達も部屋には集まりつつあった。

そしてレジスタンス一行は、ホッパーが邪魔な壁を蹴り砕き既に室内に入っていた。

そして満身創痍の幹部蜘蛛が息も絶え絶えに口を開く。


「誰じゃ…何が目的じゃ…」


「カチコミ」


ホッパーは短く答えると部下達がドアをぶち破り到着した


「な、何スかこれ?!」


「カチコミじゃ…とっとと始末せんかい!」

  

「返り討ちにするぞ…お前ら準備しろ…」


そう言ってホッパーは身体を沈めて足に張力をかけ、自分達も武器を構えて臨戦態勢をとった。


「誰か知らんが血祭りにしたる…」


「糸一本触れられると思うな…」


戦闘開始である。

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