・第13話:「クリスマス・スペシャル」

「ギャはァァ! クリスマス粉砕! クリスマス破壊! ああ、憎い、クリスマスが憎いイイイイ!! 」


 マッド・クロースは自身の身体をかきむしるようにしながら叫んだ。


 完全に、正気を失っている。

 ヘルマッド・ベアー博士によって改造人間にさせられ、クリスマス粉砕だけを目指すように操られているマッド・クロースは、口から泡を飛ばし、血走った眼でわめく。


 自分も、あと少しでああなっていたかもしれない。

 そのことを想像した香夏子は、思わず身震いしていた。


「HoーHoーHoー? 」


 そんなマッド・クロースに向かって、Mr.Xは挑発するようにクイックイッと手招きをする。

 さっさと決着をつけようということらしかった。


「ぎゃははは! 死ねェい、サンタクロースぅ! 」


 そのMr.Xの挑発に乗ったマッド・クロースはそう叫ぶと、Mr.Xへと襲いかかった。


 サンタコスのMr.Xと、トナカイコスのマッド・クロースが正面からぶつかり合い、その拳と拳がぶつかり合う。

 強烈な衝突音と共に、衝撃波が吹き荒れ、香夏子は思わず手で顔をかばい、身体を踏ん張った。


 見た目は、もう、ギャグとしか思えないような光景だった。

 筋肉ムキムキのサンタが、二足歩行のトナカイと拳で語り合っている。


 だが、彼らは真剣だったし、香夏子も真剣だった。


 その時、サイレンの音を鳴り響かせながら、何台ものパトカーが駆けつけてきた。

 Mr.Xとマッド・クロースが戦っている場所から少し距離をとって停車したパトカーから、ぞろぞろと警察官たちが降りて来る。


「警察だ、動くな! 抵抗をやめ、ただちに投降しろ! 」


 そして、警察官たちは一斉に銃口を向け、その内の1人が叫んだ。


 すでに、事件は大きくなりすぎている。

 いくつもの県をまたいで広まった騒動は警察組織に深刻な危機感を抱かせ、なにかあれば躊躇(ちゅうちょ)なく発砲することが許可されるほどに事態は切迫しているのだろう。


「ま、待ってくれ! 話を聞いて、お巡りさん!! 」


 パトカーからのヘッドライトが眩しくて思わず顔をそむけていた香夏子だったが、警察官たちが銃口を向けていることに気づいて、咄嗟(とっさ)に両手を広げながらその前に立ちはだかっていた。


 話して信じてもらえるとは思えなかったが、なにもしないわけにはいかなかった。


「あたしたちは! あの変なトナカイ野郎を止めようとしてたんだ! 奴は悪い科学者に洗脳されていて! あのダンプに積み込んだ爆薬で、東京スカイツリーを爆破しようとしてたんだ! それを、あたしらは止めたかったんだよ! だから、あのサンタクロースを、Mr.Xを、撃たないで! 」


 その香夏子の問いかけに、警察官たちは眉をひそめ、お互いの顔を見合わせている。


 信じられないというのは、当然の感想だっただろう。

 警察官たちからすれば、香夏子もMr.Xも、怪人マッド・クロースの仲間だと思えるだろうからだ。


 香夏子が警察官だったとしても、信じるつもりにはなれなかっただろう。

 だから香夏子は、祈ることしかできない。

 香夏子はぎゅっときつく両目をつむり、警察官たちが発砲して来ないよう、自分とMr.Xのことを信じてくれるように祈った。


 そして、その祈りは通じた。

 警察官たちは、香夏子のあまりにも真剣で必死な様子に気圧されたのか、それとも、実際にMr.Xとマッド・クロースが戦っている状況を目にしたからか、発砲を思いとどまって銃口をおろしてくれる。


 銃声が聞こえないことに、恐る恐る目を開いて警察官たちが銃口をおろしてくれたことを確認した香夏子は、ほっとしながら、慌てて後ろを振り返った。


 どうやら、Mr.Xとマッド・クロースとの戦いは、決着がつくようだった。


「がはァ!? ごぼっ!? く、くっそォ……、サンタクロースめェェ!! 」


 Mr.Xから強烈なパンチをもろに下腹部へ受けたマッド・クロースが、反吐を吐きながら憎々しそうにうめく。


 同じヘルマッド・ベアー博士によって改造された改造人間ではあるものの、戦いはMr.Xが優位に立ったようだった。

 それは、その鍛え抜かれた肉体によるものなのか、それとも、しょせんはトナカイではやはり、サンタクロースにはかなわないということなのか。


 マッド・クロースがよろめきながらも反撃しようとくり出して来たパンチを捕らえ、自身の方に引っ張ることで体勢を崩させ、マッド・クロースをアスファルトの上に投げ出したMr.Xは、バッ、と跳躍した。


 そのMr.Xの身体が、まばゆい光に包まれる。

 その背中にはいつの間にか、サンタクロースがプレゼントをたくさん詰め込むのに使う、大きな真っ白い袋のようなものが握られていた。


「クリスマス・スペシャル! 」


 そしてMr.Xは、そう技名を叫びながら、上空から落下しながら、そのプレゼントの袋をマッド・クロースへと叩きつけた。


 叩きつけられた袋が光となって弾け、中からプレゼントの形をした光の粒が飛び散り、そして、Mr.Xが素早くその光の中を駆け抜けて決めポーズをとると、袋を叩きつけられたマッド・クロースを中心に、どかーん、と爆発が巻き起こった。


「ぐぎゃああああああああああっ!?」


 断末魔の声とともに、マッド・クロースはアスファルトの上に沈む。


「メリー・クリスマス! 」


 そんなマッド・クロースの方を振り返り、2本指でピッと敬礼して見せると、Mr.Xは最高の笑顔でそう言った。

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