・第8話:「追跡・暴走ダンプ」
冬の空の下を、核の心臓を持った鋼鉄のトナカイが、2人のサンタクロースを乗せて疾走する。
核融合の動力によって作られた高温・高圧の蒸気がピストンを駆動させ、アイアン・ルドルフの太く大きなタイヤを回転させてアスファルトを蹴り上げさせる。
それは、夜の闇を切り裂く、一筋の赤い閃光だった。
Mr.Xによってあやつられるアイアン・ルドルフは、蒸気機関車のような駆動音をあげながら峠を駆け下る。
赤いサンタクロースの衣装を身にまとった2人を乗せ、赤く塗装された鋼鉄のトナカイは、マッド・クロースによってあやつられている、爆薬を満載したダンプを負って、解き放たれた1本の矢のように走った。
≪通信指令、こちら交機57。〇走を〇追中。〇走は現在、高速道路インターへ向け走行中。ナンバー不明。至急、増援求む! パトカーでは止められそうにない! ≫
≪交機57。こちら通信指令。現時刻を持って緊配を発令。現在、急行可能な全警備車両を手配中。インター入り口に封鎖線を構築中。安全距離を保って追跡されたし≫
≪通信指令、交機57、了解。しかし、〇走は一般車を巻き込みつつなおも暴走中! 早くなんとかしてくれ! ≫
≪交機57、安全距離を保て。くり返す、安全距離を保て! 決して無理はするな! ≫
マッド・クロースのダンプトラックは、すでに峠を下りきり、市街地の中に入り、高速道路のインターに向かって暴走中であるらしかった。
峠道の途中からかすかに見える街の夜景の中に、何台ものパトカーが回転灯を回し、緊急走行しているのがチラリと見える。
クリスマスの夜は、ハチの巣をつついたような大騒ぎになっているようだった。
「Mr.X! マッド・クロースはもう街に入ってるみたい! 警察が追いかけてるけど、止められそうにないらしい! 」
「HoHoー! 」
香夏子が、ジェーンに教わった通りに通信機を操作して伝えると、Mr.Xは「了解! 」と言うようにうなずき、さらにアイアン・ルドルフのアクセルを開いた。
マッド・クロースは、高速道路のインターへと向かっている。
やはり、ヘルマッド・ベアー博士の目論見通り、首都・東京へと向かい、東京スカイツリーを爆破しようとしているのだろう。
警察はすでにマッド・クロースのダンプトラックを追跡し、封鎖線を敷いて対処しようとしている様子だったが、相手は大型のダンプトラックであり、パトカーで道を塞いだだけではどうにもならないかもしれなかった。
それに、あの狂気の天才科学者、ヘルマッド・ベアー博士がしかけたクリスマス粉砕作戦の要となるものだ。
爆薬を満載しているだけではなく、他にもなにかしかけが施されているかもしれない。
その時、遠くの方、ちょうど高速道路のインターがある辺りで、一瞬だけ大きな火柱が上がったのが見えた。
直後、香夏子の耳に、混乱する警察無線が飛び込んで来る。
≪通信指令! こちら交機57! 〇走は封鎖線を突破し高速道路に進入! くり返す、〇走は高速道路に進入! 東京方面へ向かって走行中! ≫
≪交機57、こちら通信指令、了解。引き続き〇走を追跡せよ≫
≪無理だ! 〇走の野郎、しこたま爆弾を積んでやがる! 封鎖線を突破する時に爆弾を落として、爆破していきやがった! 高速道路インターは木っ端微塵だ! 進路を塞がれてこれ以上の追跡は無理だ! ≫
≪交機57、了解した。そのまま事後処理に当たれ。〇走の〇追には高速隊に出動を要請している≫
≪通信指令、こちら交機57。了解した! 事後処理に当たる! ……おい、消火器を出せ! 火を消すぞ! ≫
マッド・クロースは、すでに高速道路へと進入し、東京方面へ向かって暴走中であるらしかった。
その後を追って市街地へと入った香夏子たちの目にも、その暴走の跡が生々しく見えてくる。
マッド・クロースは、峠から高速道路へと続く幹線道路を真っ直ぐ、遮るものはすべてなぎ倒して進んでいったらしい。
通り沿いに何台もの車がぺしゃんこの状態で放置され、あるいは炎上し、街灯や信号機がなぎ倒され、何台ものパトカーや救急車、消防車が出動して救助作業に当たっていた。
その中を、Mr.Xと香夏子を乗せたアイアン・ルドルフは、蒸気ピストンを勇ましく駆動させながら駆け抜けていく。
道路上には事故によって生まれた破片が転がっていたが、アイアン・ルドルフの太いタイヤはそういった障害物程度はなんの問題にもならないらしく、市街地の中の道を時速100キロ以上で走り抜けていった。
しかし、事情を知らない警察からすれば、マッド・クロースを追いかけて疾走する、2人のサンタコスをした人間を乗せたバイクであるアイアン・ルドルフは、マッド・クロースによって暴走するダンプトラックと同じか、それ以上の不審車両だった。
≪通信指令、こちら交機19。暴走中のダンプトラックと同じく、峠から高速道路インターへ向かって暴走中の大型二輪車を発見。乗員は、サンタクロースのコスプレをした男女。これより交機20とともに〇追する≫
≪交機19、通信指令、了解。暴走中のダンプとの関連も予想される。注意して追走されたし≫
≪通信指令、交機19,了解! ≫
そんな無線が香夏子の耳に届いてくるのと同時に、背後で、けたたましいサイレンが鳴り響く。
振り落とされないようにMr.Xに抱き着いたまま香夏子が振り返ると、そこには2台の白バイがいて、勇ましく回転灯を回しながら、アイアン・ルドルフを追跡してきていた。
2台の白バイの姿を見て、香夏子はゾクリ、と背筋を震わせる。
バイカーである香夏子にとって、白バイというのは、あまり良い記憶に結びつかない相手だった。
機動力に富み、パトカーよりもさらに小型であるため事前に発見することが困難で、これまでに白バイの[ネズミ捕り]に引っかかったことは、1度や2度ではない。
しかも、白バイ隊員たちは高度な運転技術を持っている。
追いかけられたら、まず、逃げ切ることはできないのだ。
「けっ、警察!? ……えっと、じぇ、ジェーンさん!! 警察に、あたしたちは味方だって連絡できないの!? 」
≪残念だけれど、無理ね。……サンタコスをした2人は正義のヒーロー・ヒロインですなんて、日本のまじめでお堅い警察は信じちゃくれないわ≫
香夏子はジェーンに助けを求めたが、返って来たのはツレない返事。
「……くぅぅ! Mr.X! こうなりゃ、もう、かっ飛ばせ! 」
「HoーHoーHoー! 」
やけっぱちになった香夏子が叫ぶと、Mr.Xは心得たと言う風にうなずき、アイアン・ルドルフのアクセルを開き、蒸気ピストンの駆動音を響かせながらマシンをさらに加速させた。
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