エード王
コロンコロンと壇上に何かが落ちる音。
そんな小さな音が静まり返る会場に響く。まるで時間が止まった世界でそれだけが動いているみたい。
「クワーオ」
虎が小さく鳴くと会場の止まった時間が動き出した。会場の人たちの視線が僕に集中しているのが分かる。
「クワーオ」
虎はもう一度寂しそうに鳴くとテイマーのおじさんの後ろに隠れてしまった。
落ちている小さなものを拾うと…虎の爪? かな、コレ。そんな疑問にポヨンが答えてくる
「そうだよ~」
なんかポヨンが虎の爪3本を一度に切り落としたみたい。そりゃ虎も隠れるよな。痛くなかったかな。
虎が隠れちゃってから会場のざわつきがだんだんと大きくってきた。みんな何が起こったのかわからないみたい。
「えー、説明いたしますと、ミーノ殿の従魔のスライムがナイフに変形し、タンタンバ殿の従魔の虎の爪を3本切り落としたということです。一振りで」
ギルドマスターが会場に向かって説明する。どんどん大きくなるざわつきが、だんだんと歓声へと変わっていく。何人かの人は拍手もしてくれてる。
「じょ、冗談じゃねえぞ。こんなことがあってたまるかよ。そ、そうだ。お前、ビーゼンと仲良くしてるらいいじゃねえか。どこからか手助けしてもらったんだな。そうだろ。正直に言え、このクソ坊主」
「違うよ。ギルドマスターさんが説明した通り、僕の従魔のスライムが虎さんの爪を切ったんだ」
「んな訳あるか、おい、てめえら、このスライムを潰すぞ。イナーバ、お前の魔法で焼き尽くせ」
テイマーのおじさんが後ろの細長いお兄さんに指示すると、お兄さんが持っている杖をかざす。
「ブレイズ」
お兄さんの杖から燃える紐が何本も伸びてくる。僕の上と左右正面から炎の紐が生きてるみたいに向かってくる。それを見てポヨンがビヨーンと伸びる。これはクモの糸から僕を守った時のやつだ。そして炎の紐の2本がポヨンによって弾かれる。残り5本がプルンとポヨヨンを狙う。今度はプルンが盾を振るって2本の炎を弾く。ポヨヨンが僕の頭から跳ね飛んで1本を弾く。でも残り2本が行き場をなくして僕に向かってきた。
目の前に炎の紐が2本。クネクネと読めない動きで同時に飛んでくる。「あ、僕死ぬのかな」って、変な気持ちになったその瞬間、僕の目の前に赤い影が現れる。
「ハッ」
よく通る声が響くと炎の紐は消し飛んだ。
「そこまで。双方武器を収めよ」
ワコーク王国国王、エード王様が怖い顔でタンタンバさんを睨む。タンタンバさん、膝がガクガクし出したと思ったらその場で膝をついて前のめりに倒れちゃった。口からなにか泡みたいなのが出てる。
「この国王エード、後援者として、本日の特別勲章授与式の閉式を希望する」
エード王様がそう言うと、ギルドマスターが慌てて会場に向かって「閉式しまーす」と叫ぶ。会場はしばらく静まり返っていたけど、状況が分かってくると徐々に人が会場を出て行った。
会場に誰もいなくなると、ギルドマスターが王様に土下座をする。王様はギルドマスターを起こすとにこやかな顔に戻った。
「よいよい、予想の範囲内だ。それよりギルドマスター、どうであろう。この続きは王城で儂らだけで行うというのは」
そう言うと、エード王はニンマリ笑う。
「は、はい、承知いたしました」
ギルドマスターが深々とお辞儀をした。
王城に入ると、僕たちは前回来た時と同じ、広間に入った。そこにはゴツゴツした鎧を着たおじさん一人とエード王、シナーノ王子そして僕とギルドマスターの5人だけ。ちょっと寂しい。
「さて、ミーノ、先程のスライムの形容変化について詳しく聞かせて貰えるのかな?」
エード王がキラキラした目で僕を見つめる。隣のゴツゴツした人は…えっと。
「マグン将軍もよく聞くとよいぞ。これは軍事に一大革命が起きるやもしれん」
あ、そうそう、マグン将軍だ。
「王様、スライムの形容変化とはどういうことでしょうか?」
「マグン将軍、この少年テイマー、ミーノのスライムが組織化されていたことは知っているであろう。今度はそのスライムが武器やら防具やらに形を変えて例のタンタンバの虎の従魔をやり込めおったのだ」
「んな、なんと。スライムが武器に変形ですと? しかもあのタンタンバの虎めを。それは本当でございますか?」
「ああ、本当だ。さっきこの目で見てきたのだからな。これ以上この情報を露出させるのは得策ではないと思い特別勲章授与式を閉式させてきたところだ」
この王様、そんなことであの授与式を止めさせたのか。折角母さんが見たこともない服を着て楽しみにしてたのに。
「あ、あの国王様、ミーノ殿の特別勲章は今後は…」
ギルドマスターが心配そう。たしか冒険者ギルド本部もなんとかって言ってたし、いろいろ大変そうだ。
「おお、その件は申し訳なかったのう。だがな、今回の特別勲章授与式に関しては、あのタンタンバの言葉、あれはあ奴だけの思いでもなかろう。ミーノの勲章授与に関しては多くの冒険者が同じ思いを抱いておるのも事実。そのことはギルドマスターもわかっておるのであろう? 今回はミーノの貢献度が破格であったことでギルド本部も許可したのであろうが、このままではミーノが他の冒険者からの嫉妬を受けるのは必然であった」
「はい、それはわたくしの落ち度です。ギルドマスターともあろう立場の人間が待望の新人冒険者訓練ダンジョンの発見で舞い上がっておりました。本部もこれで新人冒険者の生存率を飛躍的に上げることが出来るとのことでの特別処遇でした」
「なるほどのう。確かに近年の新人冒険者の致死率が急激に増えておることは儂も知っておる。魔物が狂暴化しておることもな。ふむ、ではこうしてはどうかのう。とりあえず、今回はミーノの『強さ』も証明できたこともある、この際ミーノを『白狼級』へ昇格させては? そしてこれから先のこととして、ギルドへの多大な貢献が認められた冒険者には特別勲章が授与されることとしては」
「なるほど、それでしたら、無理をして格上の魔物に挑戦して命を落とすよりも、ミーノ殿のように魔物と戦う以外の面で貢献する道も開かれます。それは本部も容易に承認するかと思われます」
「では、今回の件はそのように。で、この話はこれで終わりじゃ」
そう言って難しそうな顔からキラキラした目に代わる国王様。その視線は僕を…じゃなくてポヨンとプルンとポヨヨンの間を行ったり来たり。
そんな王様の期待を感じたからかポヨンからダイレクトメッセージ。
「いろいろやってもいい?」だって。もちろん、いいさ。思う存分王様を楽しませてあげて。
僕が心でそう思うと、ポヨンは勢いよく飛び上がる。高い天井に届きそう。なんかポヨンの能力がすごく高くなってる気がする。前はしゃがんだ僕の頭に飛び乗るのが精いっぱいだったのに。
ポヨンは天井付近まで飛び上がると、前後左右四方向に細い紐みたいなものを伸ばす。僕の身長よりも長い紐だ。そしてそれが天井付近でグルングルンと回転し出す。
回転はどんどん速くなって、音だけ残して紐は見えなくなった。
そして数秒後、天井から吊り下げられてる豪華な金色の飾りが下から少しずつなくなっていき、部屋には金色に光る紙吹雪が舞い散った。
―――――
ミーノ
職業:テイマー
階級:跳兎級
従魔:ポヨン隊(スライム50体)
プルン分隊(森探索中)
ポヨヨン分隊(美容サロン手伝い中)
ケロン隊(カエル113体)
持ち物:赤い宝石・無料馬車券・チユーブダンジョン・白い布・白い網
0318最後尾に現況追加
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