特別勲章授与式②

 あれ? 王様とシナーノ様だ。なんで冒険者ギルドに来たんだ?


 僕が凄く不思議に思っていると、僕が座っている壇上にギルドマスターが現れる。その肩には橙色に光るポヨヨンがプルンプルン揺れてる。どうやら無事に強くなったらしい。でも何を取り込んだんだろう。あとでギルドマスターに聞いてみようかな。


「ええ、本日は冒険者ギルド、ワコーク王国エリア本部主催の特別勲章授与式にご来場いただき誠にありがとうございます。この授与式には冒険者ギルド総本部に加え、ここワコーク王国直々の後援を頂いております。そして、なんと只今、ワコーク王国国王、エード国王様並びに第四王子でありチユーブ領主、シナーノ様がお越しになられました。どうぞ盛大な拍手でお迎えください」


 会場が拍手に包まれるなか、左右を凄く強そうなおじさんたちに守られながら王様とシナーノ様が一番前の列に座る。


「ではこれより、冒険者ミーノ殿の特別勲章授与式を執り行います」


 会場からパラパラと拍手が起こる。


「では、ミーノ殿こちらへ」


 僕が立ち上がり、ギルドマスターの元に歩いて行くと会場がザワザワ。何となく「お前かよ」って雰囲気が伝わってくる。もしかして並んで座ってた母さんが勲章を受けると思ってなのかな。


 母さんの方を振り返ると、すごく堂々した姿勢と笑顔だ。ああ、こりゃ間違えられるのもわかる。


「ではこの度のミーノ殿の冒険者ギルドへの貢献内容をお伝え…」

「ちょっと待ったぁぁぁ」


 会場からひときわ大きなだみ声があがると、何人かの冒険者がその場で立ち上がる。そして壇上に向けて歩いてきた。


「あの、タンタンバさん、国王様の御前ですのでそのような物言いは…」


 ギルドマスターが引きつった笑顔で歩いてくる人たちを制止する。でもその人たちは止まらない。そして最後尾には大きな虎もついて来た。うん、あの人、前に冒険者ギルドで見たことがあるぞ。話を聞きたいって思ってた虎のテイマーの人だ。


「あの、聞こえてますか、タンタンバさん。ここは国王様の御前…」

「よい」


 ギルドマスターの言葉を遮るようによく通る声が会場に響く。


「え、あ、まあ、国王様がそう言われるのでしたら…」


 どうやら国王様はタンタンバさんの登壇を気にしないということらしい。会場中が静まり返る中を壇上に上がる虎のテイマーさんと仲間の冒険者たち。


「おいおいおい、こんなガキが国王様の前で特別勲章だと? よお、みんなこんなことがあっていいと思うかよ」


 虎のテイマーさんが会場に向かってそう言うと、会場からは「そうだそうだ」の大合唱が始まる。それを聞いた虎のテイマーさん、スタスタと僕に近寄ってくる。それを見てワックさんとギルドマスターの元にいたプルンとポヨヨンが僕に飛び乗ってくる。守ろうとしてくれてるんだね。ありがとう。


「おいおいおい、こりゃスライムじゃねえか。お前、テイマーかよ。しかしスライムのテイマーとはなあ、ワッハッハッハ。ヒー、駄目だ、腹がよじれる」


 会場からもドッと笑い声が沸き起こる。僕への拍手の30倍くらいの笑いだ。


「よう、スライムテイマーの坊主、この勲章なんだけどもさ、辞退してくれねえかな。ここにきている冒険者は毎日命懸けで魔物と戦ってるんだ。そんな奴らを差し置いて、坊主みたいなのが特別勲章なんて貰っちまったらやってられねえんだよ」


 会場がさらに盛り上がる。


 僕がどう返していいかわからないでいると、ポヨンからダイレクトメッセージ。


『やっつけてもいい?』


 え? やっつける? そんな、駄目だよ。気持ちはありがたいけど、危ないから止めておこう。僕なら大丈夫だから。勲章を辞退したらいいだけだし。


『ミスリルスライムだから平気だよ~』


 そんな僕の思いを感じたのかポヨンが飄々と返してくる。プルンとポヨヨンからもやる気満々の気配が伝わってくる。そっか、三人とも強くなったんだね。そっか。じゃあ、やってみる? でも無茶しないでね? 怪我しないことが条件だよ。


『うん、わかった~』


 仕方ない、ここはポヨン達の気持ちを尊重しよう。


「おじさん、じゃあ、同じテイマー同士勝負しよう」


 僕がそう言うと会場が一瞬で静まり返る。そして再び笑いの渦が巻き起こる。


「ウワッハッハッハ。坊主、こんな壇上で笑わせるな」


 あれ、駄目だ。全然本気にしてないや。どうしよ。


『虎よりも強いのに~』


 え、そうなの? 強いの?


『うん』


 そうなんだ。じゃあ、そう言ってみようか。


「あの、その虎よりも僕のスライム隊の方が強いですよ」


「……ヒ、ヒーヒッヒッヒ、やめてくれ、スライムの方が強い? イーヒッヒッヒ、腹がよじれる、よじれる」


 なんか会場中が笑い転げてる。そこまでポヨン達を笑われると正直腹が立つな。


『そこの虎くらいなら何匹でも大丈夫だよ~』


「…そこの虎くらいなら何匹でも大丈夫ですよ」


「あ? なんだと?」


 あ、虎テイマーのおじさんの顔が一瞬で変わった。ものすごい圧力だ。これが殺気って言うやつなのかな。でも、ポヨン達の方が強いんだよね?


『うん、大丈夫。見てて~』


 ポヨンからのダイレクトメッセージと同時に、ポヨヨンが橙鎧に、プルンが黒盾に、そしてポヨンがミスリルナイフに変化して僕の体に装着する。


 ポヨン達が変化したのを見てやっと会場の笑いが止んだ。そしておじさんの後ろから従魔の虎が静かに前に出てくる。


「ガオオオオオ」


 会場中に響き渡る虎の威嚇声。その声に会場が盛り上がる。


「はい、ちょーっと待った。そこまで。君たち、ここを何処だと思ってるんですか? 王様の御前ですよ? なにを勝手に戦闘を始めようとしてるんですか」


 ギルドマスターが笑顔で僕たちの勝負に割って入る。でも、なんかこめかみに青筋が立ってる。これ、もしかして相当怒ってる? もしかしてやりすぎちゃった?


「よい」


 そこに再び響く国王様の声。ギルドマスターが驚きの表情で国王様を見る。でも、すぐにいつもの表情に戻る。


「ふう、国王様が承知されるのでしたら仕方ないですね。では、ギルドマスターのわたくしが見届けます。これより特別勲章授与式を一時中断し、跳兎級ミーノ殿と猛牛級タンタンバ殿の勝負を開始します」


 ギルドマスターの勝負開始の声と同時に虎が僕に飛びかかる。するとプルンの黒盾が勝手に動く。そして虎の前足の一撃を受け流す。


 虎が前のめりにバランスを崩したところにボヨヨンの橙鎧が勝手に動く。虎のお尻にに体当たりを食らわすと、虎は「キャンッ」と悲鳴を上げる。


 構え直して再び前足を振りかぶる虎に今度はポヨンのミスリルナイフが動き出す。振り下ろされる前足に向かって横に一薙ぎ。


 そこで虎の動きがピタリと止まる。少し遅れて何かが「コロンコロン」と音をたてて床に落っこちた。




 ―――――

ミーノ

職業:テイマー

階級:跳兎級

従魔:ポヨン隊(スライム50体)

    プルン分隊(森探索中)

    ポヨヨン分隊(美容サロン手伝い中)  

   ケロン隊(カエル113体)

     

持ち物:赤い宝石・無料馬車券・チユーブダンジョン・白い布・白い網


0318最後尾に現況追加






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