白い布とカエルの卵

「さあ、カエルをテイムするぞ」



 昨日はカエルの卵に蜘蛛が群がっていてビックリしたけど、カエルの親子が全部食べちゃった。


 ひと段落着いたところで僕はポヨンが蜘蛛の糸を防いだ時にできた『白い布』が気になって色々調べてみた。


 まず、棒で触ってみる。棒にはくっつかない。それで今度は手で引っ張ってみたらビヨーンと伸びた。手を離すと元に戻る。


 尖った石で叩いてみる。全然傷がつかない。とっても丈夫そう。


 とりあえず、持って帰ろうかなって思ってたらポヨンが僕の頭をツンツン。カエルもケロケロ鳴いている。


 見てみると、カエルの卵がかえり始めていた。卵の中から小さな黒いのが出て来ると次々に光り出す。そして光と共に大きくなってカエルの姿になっていく。


 次々とカエルが生まれて川辺が埋まっていく。そして増えなくなった時には辺り一面黄緑色の絨毯になった。僕の握り拳くらいのカエルが1、2、3、4、…100匹以上。もう数えられない。


 お母さんカエルがケロケロ鳴き始める。


 続いて2匹も鳴き始める。


 一面のカエルが鳴き始める。


 ケロケロケロ。みんな揃ってケロケロケロ。ケロケロしてたら光り出す。光る黄緑の絨毯の真ん中で、たくさんのカエルの思いが伝わってくる。


 みんなの思いが伝わって、僕らは一緒に繋がった。




「よし、じゃあ、みんなに名前を付けるよ」


 お母さんカエルから名前を付けてほしいと催促されて、全員に名前を付ける。


 100匹以上もどうやって? 大丈夫、もう経験してるから。


「よし、じゃあ、お母さん、君はケロン。お母さんを隊長に任命する。よいか?」


 僕が敬礼ポーズで任命するとケロンはピョンとその場で跳ねる。


「ではケロン隊長のもと、分隊長としてケロリン、ケロロンを任命する。よいか?」


 同じく敬礼ポーズで任命すると、初めにテイムした二匹、ケロリンとケロロンはそろってピョン。


「よし、では生まれたばかりの君たちを任命する。

 まずは、ケロリン分隊の班長としてケロリラ、ケロリリ、ケロリル、ケロリレ、ケロリロ。

 ケロリラ班の班員としてケロリララ、ケロリラリ、ケロリラル、ケロリラレ、ケロリラロ。

 ケロリリ班の班員としてケロリリラ、ケロリリリ、ケロリリル、ケロリリレ、ケロリリロ。

 …

 …

 次にケロロン分隊の班長としてケロロラ、ケロロリ、ケロロロ、ケロロレ、ケロロロ

 ケロロラ班の班員としてケロロララ、ケロロラリ、ケロロラル、ケロロラレ、ケロロラロ。

 ケロロリ班の班員としてケロロリラ、ケロロリリ、ケロロリル、ケロロリレ、ケロロリロ。

 …

 …

 えっと、これでケロリン分隊30名とケロロン分隊30名が名前と任命が終わったんだよな。残りは…ちょっと待ってね」


 任命されたカエルたちは、それぞれの隊と班に分かれて並んでいってくれた。そして、並んでないカエルがまだまだたくさん。どうしようかな…


「えっと、君たちの中で分隊長をやりたいものはいるか?」


 シーンとする中、3匹のカエルが前にピョンと飛び跳ねた。


「じゃあ、君たちを分隊長としてケロラン、ケロルン、ケロレンを任命する。

 また、ケロラン分隊班長として、ケロララ、ケロラル、ケロラロ

 ケロララ班の班員としてケロラララ、ケロララリ、ケロララレ、ケロララロ ……

 ……

 以上、総勢、113名、君たちはこれよりケロン隊として活躍してくれたまえ」


「ケロケロケロ」



 ポヨンとケロンを両肩に乗せ、ケロン隊を引き連れて馬車に戻る。新たに111名が増えて御者の人が目をまん丸にしているその前を続々と馬車に乗り込むケロン隊。乗り切れない隊員は馬車の横に引っ付いている。赤い馬車だったのが、黄緑のまだら模様になっちゃった。


 それでも御者の人は嫌な顔一つせずにチユーブに向かってくれた。


 チユーブに着いたのは夕方だった。ケロン隊を見てワッキさんが悲鳴のような歓声を上げて抱きついてきて何度も頬ずりをしてきた。今回もよっぽど嬉しかったみたい。でも恥ずかしいから早く離してほしい。


 カラン カラン カラカラカラン


 ワッキさんがやっと離してくれたと思ったら、今度は後ろで何かが落ちる音がした。振り返るとギルドマスターが大量の名札を持って、いや半分落として立ち尽くしていた。


「また増えたの?……」


 そう言い残してギルドマスターは馬に乗って街を出て行った。


 ギルドマスターが残していった名札をワックさんが拾って袋に入れてくれた。ポヨン隊全員の名札を持ってきてくれたんだって。僕を驚かせようと楽しみにしていたらしい。なんか悪いことをしちゃった。でもあと113個必要なんだけど。


 ワックさんに相談すると、ワッキさんの喋る鳥で伝えてくれるって。


 よかった。


 その日はケロン隊は全員川に移動して、僕とビーゼンは領主館に泊まった。



 次の日の朝、ワッキさんの喋る鳥が王都に飛んでいった。そしてお昼前に戻ってきた。その足には手紙が添えてあった。ギルドマスターからだった。


「ミーノ君へ。今回、ギルドへの多大な貢献を心から感謝します。その貢献に報いるためにギルドから特別な勲章を授与させていただくことになりました。つきましてはご家族とポヨヨン分隊長を連れて王都までお越しください」


 勲章だって。家族とポヨヨン? ダンジョンで活躍しているのはプルン隊なんだけど。よし、プルンも連れて行こう。


 ワックさんがその手紙を横から見ていて、「チッ」って舌打ちしてた。「俺もプルンと一緒に行くぞ」って意気込んでたから、たぶん僕と同じ気持ちなんだろう。


 美容サロンに行って母さんにそのことを伝えると「あら、やだ」って言って家の中からきれいな服を出し始めた。もう行くことが決まったらしい。お店はどうするのかって聞いたら、「働きたいって人がいるから任せちゃう」らしい。


 出発は明日の朝に決まった。


 だから今日はケロン隊と川でミスリル集めだ。もうワッキさんがキラキラした目でずっと見つめてくるからね。


 ケロン隊113名を引き連れて川に移動。到着と同時に隊長のケロンの「ケロケロケーロ」の号令で一斉に川に飛び込んでいく。川が水飛沫ですごいことになってるんだけど。


 しばらくバシャバシャと川面が波立っていたけど、それが収まり始めるとピョンピョンとキラキラしたカエルが水から飛び出してくる。日光に当たってキラッキラ。とっても綺麗だ。


 そんな風に勢いよく飛び出してきたケロン隊だけど、砂の上に着地。足にはべっとり砂が付いてしまった。これではミスリルに砂が混じってしまう。


「これは失敗だな」


 どうするか…そうだ、あの白い布を使おう。

 白い布を川面に浮かべると、そこにケロン隊が川面から飛び出してくる。


 白い布の上でカエルたちがすっちゃかめっちゃかだ。でもそのおかげで体に着いたキラキラ、ミスリルが白い布の上にたまっていく。でもその上でごちゃごちゃしているうちにまたミスリルがケロン隊員にくっついてしまう。


「これも駄目だな」


 どうしようかと考えていると、ポヨンが川辺に置いてあったもう一枚の白い布に覆いかぶさる。そしてシュワシュワが始まった。


「ちょ、ポヨン、それ使うから!」


 そんな僕の声にもお構いなく、ポヨンはシュワシュワを続ける。そしてシュワシュワが終わってポヨンが僕に乗っかる。見ると白い布だったものは目の細かい網になっていた。


「ああ、なるほど。さすがポヨン隊長」


 僕が褒めるとポヨンがプルンと震える。まんざらでもないって感じだ。


 ポヨンが白い布を網にしたのは多分こういうことだ。


 川辺に穴を掘る。その穴の上に弛ませた白い布を敷く。そして今度は穴を覆うように網をかぶせて周りを石で固定する。この網の上でカエルがもみくちゃになればミスリルは網から下に落ちる。白い布にはミスリルの粉が溜まる。


 ポヨンは賢い。最近特にそう思う。


 ケロン隊はケロンの号令の下、順番に網の上に飛び込んでもみくちゃに。だんだん体のキラキラが取れて黄緑色に戻っていく。ある程度戻ったらケロンの号令で水に戻る。


 それを次々と繰り返すうちに穴の中がミスリルで半分ほど埋まって来た。ちょうどあたりも暗くなり始めたから、今日の作業はここまでにしよう。


 集めたミスリルを見てワッキさんがピョンピョン飛び跳ねる。何度も僕のほっぺにキスをしてくるからポヨンに間に入ってもらった。


 夜の領主館ではミスリルの話でもちきりだった。今日集めたミスリルだけで立派なナイフが作れるんだって。ミスリル製の武器は値段が高いことで有名だ。もしかして僕がミスリルを装備する時が来るのかな。全然信じられない。でも僕が全身ミスリルを装備したら、悪い人から見たら歩く宝箱に見えるだろうな。うん、やっぱりやめとこう。


 テーブルの上に山になったミスリルの粉を見ながら皆で食事をしている中、僕の頭の上のポヨンが急にポヨヨンって飛び降りた。降りた先はミスリルの粉の上。


「おおおい、なにやってんだ!」


 ワックさんの慌てた叫び声が響き、ワッキさんが口をあんぐり開けて固まる中、ポヨンはミスリルの粉を全部取り込んでしまった。





 ―――――

ミーノ

職業:テイマー

階級:跳兎級

従魔:ポヨン隊(スライム50名)

   ケロン隊(カエル5分隊113名) new!

持ち物:赤い宝石・無料馬車券・チユーブダンジョン・白い布・白い網・ミスリル粉 new!



0318最後尾に現況追加

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る