冒険者訓練場を作るぞ②

「さあ、続けて冒険者訓練場を作るぞ」


 ギルドマスターにポヨンの遠隔情報伝達のことを教えてあげた。なんか困ってるみたいだったから。


 でもそのあとが大変だった。ギルドマスターったらずっと固まってたんだ。目の前で手をヒラヒラさせても、ポヨヨンが頭の上でポヨンポヨンしても動かない。どうしたもんかとワックさんに聞いても「放っておけば戻る」って、自分がプチポヨンの事を詳しく聞きたがるだけだった。


 だからポヨンにお願いしてギルドマスターの顔にへばりついてもらったんだ。そしたらワックさんの時と同じように赤くなって手足をバタバタ。それでゼーゼー言いながらやっと正気に戻ってくれた。


 その後にギルドマスターと一緒にポヨンとプチポヨンの実験だ。ワックさんとプチポヨンがダンジョンに入っていく。プチポヨンはワックさんの懐の中で安全に。


 ギルドマスターとワックさんであらかじめ決めた出来事の数々。それをダンジョン内で順番にワックさんが実行していく。罠だったり、魔物にやられそうになったりって感じ。そして、それをプチポヨンを通してポヨンが確認、僕に伝え、それをギルドマスターが確認する。という流れだ。


 ワックさんがプチポヨンとダンジョンに入ってしばらくすると、ポヨンがダンジョン内の出来事を僕に教えてくれる。それをギルドマスターに伝えるとギルドマスターは紙を見て確認。そして頷く。罠にかかったり、魔物に襲われたり、迷子になったり、4階層に落ちたり…って、ん? 4階層?


 ギルドマスターもキョトン。そりゃそうだ。このダンジョンは4階層なんてない。不思議に思っているとポヨンから続きが伝わってくる。え? 蜘蛛がいっぱいいる?  うわ、それは大変だ。


 僕がギルドマスターにそのことを伝えていると、横でそれを聞いてたワッキさんがダンジョンに飛び込んでいく。ギルドマスターも僕を抱えてダンジョンへ。ジョートさんとコ・ジーマさんは留守番だ。


 初めて入る僕のダンジョン。中は暗くて周りが良く見えない。ギルドマスターが魔法で光の玉を出してくれてよく見えるようになった。


 ポヨンの道案内で僕たちは一気にダンジョンを駆け抜ける。そして3階層の突き当りの壁。ポヨンはその先に落とし穴があるって。僕は両肩にいるカエルたちを見る。2匹とも「お腹空いたから早く行きたい」って。蜘蛛がいるって聞いてるんだね。頼もしい限りだ。


 ギルドマスターが突き当りの壁を少し押すと壁は勢いよく横にぐるりと回転。そして僕らは回転する壁に押し込まれるように壁の向こう側へ。そこにあったのは崩れた床。どうやらここから落ちたらしい。


 迷うことなく飛び降りるワッキさんとギルドマスター、とギルドマスターに抱えられた僕。ふわりとした感覚に「ひゃっ」と声が出る。でもすぐに床に着地した衝撃が伝わってきた。僕の両肩からカエルたちが跳び去っていく。


 ギルドマスターがもう一度光の玉を出す。10歩ほどの距離に大きな蜘蛛の糸でできた玉がもぞもぞ動いている。ポヨンがポヨンポヨンと近寄って糸玉に乗っかるとシュワシュワタイムが始まった。次第に見えてくるワックさんの頭。動いてるから大丈夫そうだ。


 ふと気が付くと僕らの周りにいたはずの蜘蛛はもういなかった。いるのは満足げに口をもぐもぐしているカエルが2匹。もう食べちゃったの? 結構いたよね、蜘蛛…



 ワックさんを救出してダンジョンを出た僕たちは領主館を訪れた。執事さんは笑顔で迎え入れてくれた。豪華な部屋に山盛りのお菓子とジュース。ワックさんが小躍りしている。そしてギルドマスターも。なんだ、ギルドマスターもか。この2人はスライムが懐く資質にあふれているみたい。そんなお菓子のゴミが散乱していく中で会議は始まった。


 僕もお菓子を頬張りながら会議を聞く。難しい言葉は出てこなかったから僕にもよくわかる。みんなが僕にもわかるように話してくれてるみたい。


 議題は2つ。1つはさっきの罠。ダンジョンだから時間が経てば何度でも蜘蛛は出てくるし、罠の壁や床も元通りになっちゃう。だから、あの3階層の突き当りは注意を呼びかけながらも、さらに人の配置が必要だということになった。


 もう1つの議題はプルン分隊がどうやってダンジョン内の出来事を伝えるか。テイムしている僕なら頭に乗せてれば思いが伝わってくるし、ポヨンであればダイレクトメッセージで言葉が伝わってくるんだけど、それ以外の人には伝わらない。それでどうしたものかと考えて出てきたアイデアが「サインを決める」という事。「危険の時は縦に長く伸びる」これがサイン。


 会議が終わり、再びダンジョンに移動する。そこでプルン以外のプルン分隊24名全員がプチ分離体を作り、プチ分隊ができる。そして安全が確保されたダンジョンの天井にプチ部隊が配置される。各部屋と罠に1名ずつ。それでダンジョン内を監視する。各所の冒険者に危険があれば、本体のプルン隊員が担当者に知らせる。危険のサインは「縦に長く伸びる」こと。


 これでダンジョンにかかるか人員は4階層前の回転する壁に1人、監視と救助に2人程、計3人程で済むことになった。


 それだけ分かるとギルドマスターはすぐさま王都に戻って行った。ポヨヨンに「直ぐにまた会えるから」と言い残して。



 その日はビーゼンのメンバーもチユーブの街でゆっくりする事になった。ワックさんがプルンと離れたくないのと、ワッキさんが美容サロンを堪能したいっていうのが理由。


 2人がそれぞれにやりたい事やってる間、僕はジョートさんやコ・ジーマさんとお話をする事にした。鎧騎士とか魔法使いとかってカッコいいから。


 ジョートさんは実は王都の騎士にならないかって誘われてたんだって。だけど、ワックさん、ワッキさんにビーゼンに誘われて冒険者になったらしい。騎士の剣術も使えるし、魔物の攻撃を一人で受け続ける事もできる攻守にわたって凄い人だった。


 コ・ジーマさんも王国の隣にあるガシュウ帝国の出身で帝立魔法学院を2位の成績で卒業した凄い人だった。得意なのは火魔法だけど水と風も使える3属性魔法使い。ダンジョン入り口の岩に使った雷は水と風を同時に使った魔法なんだって。普通の魔法使いは使えるのは1属性だけだから3属性は世界的にもとっても珍しいんだって。


 あんまり活躍してる姿を見てなかったけど、二人共凄い人達。そんな二人を仲間にしたワックさん、ワッキさんは帝国にも名前が知られてるくらい有名な兄妹だそうだ。その兄妹がスライムと遊んだり、スライムに髪の毛を覆われて喜んでる。なんだか変な話だ。


 ジョートさんとコ・ジーマさんにお礼を伝えて僕はポヨンと川に行く。川底のキラキラが気になったから。


 ポヨンを通して見る川底はやっぱりキラキラ光ってる。普通に見たらそんなの見えないのに、不思議だ。


 そんな僕の隣でカエルも覗き込みだした。そして、2匹がピョンと川に飛び込む。カエルが川底を移動して川底の砂が巻き上がる。「何してるんだろ」って見てい

たら、水の中から飛び出してくるカエルたち。その体にはキラキラ光る粉がいっぱい付いていた。




 ―――――

ミーノ(跳兎級テイマー)

 従魔:ポヨン隊(スライム50体)

      プルン分隊(森探索中)

      ポヨヨン分隊(美容サロン手伝い中)  

    カエル2匹


 持ち物:赤い宝石・無料馬車券・チユーブダンジョン

 同行者:ビーゼン(銀虎級)・王都ギルドマスター


0317最後尾に現況追加

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