冒険者訓練場を作るぞ①
「さあ、今日は冒険者訓練場を作るぞ」
今日は朝からやる気満々のギルドマスターが忙しく動き回ってた。
僕達が朝食を食べている間も、何度もやって来てダンジョンの事を聞いてくるんだ。「部屋はどんな大きさか」とか「罠の規模はどんなだ」とか「どの部屋になんの魔物がいるか」とか。
それを見に行くのが今回の現地調査のはずなんだけど。そこまで聞いた後で行く必要あるのかなって不思議に思ってる間に出発の時間になった。
今回はギルドマスターがいるから馬車かと思ったら、ギルドマスターも馬に乗るそうだ。なんかギルドの女の職員さんに付きまとわれて怒られてる。あれって間違いなく反対されてるんだよね。大丈夫かな…
女の職員さんを振り払うようにして馬に乗って駆け出すギルドマスター、それに続きビーゼンも出発する。綺麗になった山を越え、村も素通りしてお昼過ぎにはチユーブに到着した。
で、今はなぜか美容サロンにいる。
なぜって? ギルドマスターが美容サロンのことを聞きかじって急に「行きたい」って言い出したからだ。ワックさんとワッキさんは「また始まったよ」ってブツブツ言いながらギルドマスターについて美容サロンに向かった。
時刻が昼過ぎってこともあって、母さんの美容サロンはそれほど込んではなかった。この時間は石細工で行列整理する時間でもないからね。すぐに入れるんだ。
ギルドマスターは大銅貨を一枚払って椅子に座る。なぜかポヨヨン分隊長が直々にシュワシュワするようだ。もしかしてギルドマスターが偉い人だと気が付いたのか。ポヨヨンなかなかやるじゃないか。
ポヨヨンがギルドマスターの頭の上に乗っかると、ギルドマスターはちょっと嬉しそう。なんかこの人少しワックさんに似てる気がする。
ポヨヨンがギルドマスターの長い髪の毛の隅々まで覆っていく。そして始まるシュワシュワシュワワーン。数分して髪の毛から離れて丸くなったポヨヨンがギルドマスターの膝の上に乗っかる。
ギルドマスターは自分の髪を何度も何度もフワフワ触っては「おおーっ」って感心してる。次のお客さんが待ってるから早く席を空けてほしいんだけど。ポヨヨンもギルドマスターの膝の上から降りようとしない。どうやらポヨヨン公認の長時間サロンらしい。
満足したのかとってもいい笑顔で店を出るギルドマスター。その頭にはなぜかポヨヨン分隊長。プルン分隊長を頭に乗せたワックさんと並んで歩いて行く。後姿だけ見てたらとても銀虎級冒険者と王国のギルドマスターとは思えない威厳のなさだ。ワッキさんが「やれやれ」って顔してる。
てくてく歩いてダンジョンまで移動する。あれだけ急いでチユーブまで来たのは何だったんだろう。でもギルドマスターもワックさんもなんか幸せそうだから、ま、いいか。
ワックさんの後についてギルドマスターがダンジョンに入っていく。プルンとポヨヨンは入り口で待機。ダンジョン内の魔物がいくら弱いといっても、この2名はスライムだ。なにかあったらいけないとワックさんたちが置いてった。
しばらくして二人が出てくる。ギルドマスターは満面の笑みだ。どうやら僕のダンジョンがお眼鏡に叶ったようだ。出てくるとギルドマスターは大きな紙を広げる。そこにはダンジョンの地図が書かれてあった。
階層は全部で3階層。部屋は1階層に7つ、2階層に6つ、3階層に6つの19部屋で、罠は落とし穴1つ、モンスターハウス1つ、ミミック1つ、毒1つ、落石1つの計5個だ。
モンスターハウスっていうのは魔物がうじゃうじゃいる部屋に閉じ込められる罠。ミミックは宝箱に偽装した魔物がワクワクして宝箱を開ける冒険者を襲う魔物。あとはプルン分隊がかかった深い落とし穴に、踏むと毒が噴き出す罠、人の頭くらいの石がゴロゴロ落ちてくる罠。
魔物は部屋に現れて、その部屋からは出ない。通路は安全地帯だそうだ。地図には部屋ごとになんの魔物が何匹でるかが全部書かれている。あのわずかな時間でこんな細かいところまで調べ上げるなんて、さすがはギルドマスターだ。まあ、今はポヨヨンを頭に乗せてご満悦な顔してるけど。
ギルドマスターとワックさんはダンジョンから出てきてからずっと話し込んでいる。頭に分隊長たちを乗せたままで。僕は暇だからポヨン隊長を川に浮かべて川底探索だ。またきれいな石でも落ちてないかなって思って。あれ? なんか川底がキラキラしてる。でも石とかじゃないな。川底全体がキラキラしてる。なんだろこれ。
僕が川底に見入っていると、ワックさんから大声が。
「マジかよ。そんな金ねえだろ。帝立訓練校じゃあるまいし」
「いや、こんな条件が揃ったダンジョンは王国内どころか帝国の広大な領地を探しても見つからないぞ。ここは勝負をかけたい」
なんか、ワックさんとギルドマスターが口論してるみたい。なんの事だろ。
そんな僕の思いを察してか、ポヨンからダイレクトメッセージ。「ギルドマスターがダンジョン内の全ての部屋に見守り役を置くって言ってる」だって。なんでわかるんだろって思ったら、いつの間にかプチポヨンがプルンの上にいた。小さすぎて見えてなかった。
よくわからないけど、部屋の様子がわかればいいだけならポヨンみたいに分離してもらったらいいのに…
「部屋の様子がわからないことには新人冒険者の安全が保てないだろう。実際に現況唯一の訓練用ダンジョンを所持している帝国ではそうしてるんだ。こっちもやらなきゃ総本部から許可が降りない。この際金がかかるのは仕方がないんだ。どこかかの予算を削減してでもやらないと…」
ギルドマスターが渋い顔で腕組みをしている。
なんだ、部屋の様子がわかればいいのか。なら解決だな。
僕がギルドマスターのところに行ってスライムの分離体であるプチポヨンを紹介して説明すると、時が止まったみたいに固まった。
―――――
ミーノ(跳兎級テイマー)
従魔:ポヨン隊(スライム50体)
プルン分隊(森探索中)
ポヨヨン分隊(美容サロン手伝い中)
カエル2匹
持ち物:赤い宝石・無料馬車券・チユーブダンジョン
同行者:ビーゼン(銀虎級)・王都ギルドマスター
0317最後尾に現況追加
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