プルン隊救出へ

「さあ、チユーブ街に着いたぞ」


 僕は鳥使いテイマーのワッキさんの馬に乗せられた。後ろに乗るんだと思っていたらワッキさんに抱えられるように前に座らせられた。うう、恥ずかしすぎるんだけど。


 恥ずかしいって何度も思っていたら、ポヨンがそれを察して僕とワッキさんの間に入ってくれた。ポヨンの助けで平常心を取り戻せたと思ったら、それからワッキさんから質問の嵐に遭った。


 僕はスライムをテイムした経緯やポヨンから班分けの提案を受けたことを詳しく教えてあげた。ワッキさんは何度もため息をつきながら『テイマーの常識』を教えてくれた。


 テイマーは魔物に自分の力を示して契約する。契約後は相手を契約で縛るために常に魔力を消費し続ける。もし、魔力切れを起こしてしまうと契約が解除されでしまう。だからテイマーは自らの持つ魔力量によってテイムできる魔物の数に上限が生まれる。通常、テイマーは1〜3体の魔物と契約する。だから僕の50体は異常。


 テイマーの常識を教えてくれた後も、ワッキさんは自身のことを教えてくれた。


 ワッキさんの従魔は喋る鳥が1体と凄く速く飛ぶ鳥が1体、そして爪と嘴が鋭く攻撃用の鳥が1体の3体ということだ。喋る鳥は情報伝達用として凄く苦労してテイムしたらしい。「凄く」って言葉で殺気立った感じがしたらよっぽど苦労したんだと思う。それでポヨンの遠隔伝達の事を聞いて取り乱してしまったみたい。でもそう言いながらもワッキさんはカラカラと笑ってた。始めは変な人だって思ったけど、とっても優しくていい人だった。


 馬での移動はとても速くて、1時間もしないうちに山の麓に到着。ビーゼンの人たちはみんな当たり前のようにそのまま山に入っていく。ワッキさんに安全確認とかしないでいいのか聞くと、この辺の魔物が束になってかかってきても大丈夫らしい。どうやら領主様の護衛の人たちよりもかなり上の冒険者みたい。で、冒険者のランクを聞いたらなんと『銀虎ぎんこ級』だった。


 冒険者の階級は上から『聖竜せいりゅう級』、『銀虎級』、『猛牛もうぎゅう級』、『白狼はくろう級』、『突猪とっちょ級』、『崖鹿がいか級』、『跳兎ちょうと級』の7段階。『跳兎』は見習い。『崖鹿』が冒険者としてのスタート、『白狼』で辺境の街でトップクラス、『猛牛』は一般街でトップクラス、『銀虎』は主要都市でトップクラス、『聖竜』は国内で1パーティーしかいない。これは冒険者ギルドの登録時に聞いた内容。


 若くして銀虎級に至ったビーゼンは王都でも注目の冒険者パーティーだと、ワッキさんが照れながら話してくれた。ちなみに僕はもちろん『跳兎級』、見習いだ。


 凄い人が依頼を受けてくれたんだと思ったら、領主様の提示した依頼額が白狼級の冒険者の月の収入程もあったそうだ。相当な金額を領主様が提示してくれたみたい。感謝してもしきれない。今度、プルン、ポヨヨンどちらかの分隊を領主様の屋敷に派遣しよう。きっと喜んでくれるはず。


 ワッキさんとそんな話をしながら山を走っていると、急に先頭のワックさんが停止した。魔物の鳴き声もないし、ビーゼンのメンバーもそんなに緊張しているようには見えない。っていうか、みんな面倒くさそうに舌打ちしてる。


 見ていると、全員が馬から降りて木の棒を両手に持っている。そして地面の上を棒で何度もなぞるように動かしている。不思議に思っていると、みんなが持っている棒の先に白い何かがくっついている。そしてだんだんそれが大きくなってポヨンよりも大きな白いお団子になった。


 白いお団子が大きくなってきたらそれを捨てて別の棒を取り出す。そして同じ作業を繰り返す。そうやって道を少しずつ進んでいくと、ようやくワックさんが馬に乗って走り始めた。それを見て他のメンバーも馬に乗って走り出す。


 走りながらワッキさんに聞くと、さっきの道一面に蜘蛛の巣が張っていたんだって。その蜘蛛の巣がとても厄介らしくて、一度くっつくとなかなか取れない。切るにもすごい高価な刃物を使わないと切れない上に、何度か使うと切れ味が悪くなって高いお金を払って研ぎに出さないといけなくなる。冒険者泣かせの蜘蛛の巣なんだって。


 でもその蜘蛛自体は小さくてすばしっこくて剣や弓矢では倒せないから、火の魔法で一気に焼き払うのが普通らしい。でも主に生息している場所が山の中だということで、火魔法の後すぐに水魔法で火を消さないと山火事になってしまうらしい。


 だからほとんどの冒険者は退治するんじゃなくて、蜘蛛の巣を注意しながら、発見したらさっきみたいに木の棒でぐるぐる巻きにして捨てていくようだ。


 やっぱり、旅をするといろんな魔物に出会えてワクワクする。って、そんなことを言ったらワッキさんに頭を優しく小突かれた。生意気だって。


 それからも走りに走ってチユーブの街にはなんとその日のうちに到着してしまった。さすが銀虎級冒険者、馬の扱いも、休憩の取り方も、食事も何もかもが効率的だった。腕利き冒険者の凄さを見せつけられてしまった。


 到着後、唯一洞窟に入っていなかったプルンと合流して川の大岩へ急ぐ。大岩はスライムしか入れないから、大岩ごと破壊することになった。


 魔法使いのコ・ジーマさんが長い詠唱の後に大岩に雷を落とすと、岩に無数のひびが入る。そこにジョートさんが大きな剣を叩きつけると、大岩は粉々に砕け散った。残骸をどけると、洞窟につながる道が見つかる。人が十分に通れるほど広い。


 斥候役のワックさんがまず中に入っていく。プルンにも一緒に入ってもらった。ワックさんの斥候の腕はこの国でも三本の指に入るらしい。どんな罠でも見抜いてしまう凄い人なんだって。ワックさんが入ってしばらく経つとプルンだけが出てきた。


 プルンが僕の頭の上に乗っかる。プルンの意思が伝わってくる。うんうん、ワックさんが罠を見つけたらしい。それでその罠がすごく深い落とし穴で、その底には魔物の気配もあると。でも、どうやらワックさん一人で解決できそうだからみんなは宿で休んでてほしいと。


 そのことをみんなに伝えると、ワッキさんが「スライムの情報伝達能力って……」って頭を抱えてそのまま街に帰っていった。他の二人もその後に続いていった。


 僕らの宿は領主館だ。僕の家にも寄ろうかと思ったけど、今日は朝から王様と話したり、長旅をしたりとすごく疲れたから止めとこう。


 領主様の館に行って領主様の手紙を見せると、執事の人が丁寧に部屋に案内してくれた。おいしいジュースとお菓子を貰って食べていたら豪華な食事も出てきた。みんなで食べて僕に用意された部屋でポヨンを枕に眠った。



 ―――――

ミーノ(跳兎級テイマー)

 従魔:スライム プルン隊(洞窟探索中・罠にはまり中)

         ポヨヨン隊(美容サロン手伝い中)  

 持ち物:赤い宝石・無料馬車券

 同行者:ビーゼン(銀虎級)


0317最後尾に現況追加

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