褒美を貰おう
さあ、これからご褒美を貰うぞ。
シナーノ領主様から欲しい褒美を考えておくようにと言われてたんだけどすっかり忘れてた。どうしようかな。お金は…拾った宝石があるしな。正直欲しいものはないんだよな。
「どうした、何でもよいのだぞ。なんなら王都に屋敷でもどうだ。その…なんだ、スライム隊も呼び寄せて…」
「王様、それは王様へのご褒美かと思われますが」
シナーノ様が言うと部屋が和やかな笑いに包まれる。それで僕の緊張も少し和らぐ。
「あの、すみません。今、僕欲しいものがあまりなくて…」
「なに、そうなのか。となると、どうするか…」
どうしよう。前もって考えて来なかったからみんなを困らせちゃってる。
「ミーノ君、欲しいものではなくて君がやりたいことはありませんか?」
シナーノ様が助け舟を出してくれた。そうか、やりたいことか。それならある。
「僕はテイマーとして冒険をしたいです。まだ強い魔物はテイムできませんが、僕でもテイムできる魔物を探して冒険してみたいです」
「ほう、なるほど。冒険か…そうなると…」
王様は隣に立っている人に耳打ちする。耳打ちされた人がさっと脇にあるテーブルに行き、何かを書いている。そして王様のもとに薄い金属板を持ってくると、王様はそれに指で何かを書き始めた。なんで指なんだ? ペンじゃないのか。
「ではこれを授けよう」
そう言ってさっき指で何か書いていた金属板を僕に見せる。
「これはな、このワコーク王国内の無料馬車券である。これを見せれば国内の街であれば何回でも無料で馬車に乗れるというものだ。余の魔力署名もしておいたから疑われることはないぞ」
うわあ、無料馬車券かあ。これは嬉しいかもしれない。馬車に乗るには結構なお金が要るから、旅をするならたくさんお金を持って歩かないといけない。でも物騒だからそんなお金を持ち歩くなんて嫌だし。これなら…あ、そうだ。
「王様、無料馬車券、とても嬉しいです。ただ、僕が1人で旅をする時にそのような便利なものを持っていると悪い人から襲われてしまうかもしれません。どうにかしてそれを僕しか使えないようにできませんか?」
「ほお、なるほど。ミーノは賢いのだな。まるでシナーノの幼い頃を見ているようだ。よし、ではそうしてやろう」
王様は金属板を再び隣の人に渡すと指示を出す。金属板を渡された人は何度も頷いて王様の話を聞いたあと、テーブルで何かを書き加える。そして再度王様のもとに持ってくると王様はさっきと同じように指で魔力署名をしてくれた。
「よし、できたぞ。ここに『今日の年月日』と『8歳少年テイマーのミーノの使用に限る』と書き加えた。これでミーノ以外には価値のないものになったぞ。これでよいかな?」
なるほど、8歳でテイマーでミーノという名前が揃わないと効果がないか。しかも今の年月日も入れてくれたから9歳になっても10歳になっても僕は使えるんだな。さすが王様だ。こんなことをすぐに思いつけるなんて。
「はい、これならとても安心できます。ありがとうございます」
「よし、ではこれで今日の報告会は終了とする」
ふう、やっと終わった。疲れた~、早く宿に帰ってポヨン枕で横になりたい。
で、僕は今、宿じゃなくて冒険者ギルドにいる。
正直疲れたから早く横になりたかった。でもそうもしていられなくなっちゃった。王城から宿に帰る途中で連絡係としてチユーブの街に置いてきたプチポヨンから連絡があったんだ。洞窟探索をしているプルン分隊が大変なことになってるって。プルン隊が洞窟の中に罠があって閉じ込められちゃったらしいんだ。しかも他の魔物の気配もあってとっても危険な状況らしい。
すぐに戻りたいってシナーノ様に言ったんだけど、シナーノ様はあと二日は王都から離れられないって。そこで冒険者ギルドで護衛を雇って僕だけ街に戻ることになった。馬車よりも冒険者を雇って馬を借りた方が早いからってシナーノ様がそうしてくださった。
王都の冒険者ギルドはとんでもなく大きかった。お目当てのテイマーの冒険者も何人か見かけた。虎を使役している大男の人や、喋る鳥を使役している女の人とか。本当ならゆっくり話を聞いてみたいんだけど、今は無理だ。仕方がない。
受付で依頼を出してお金を払う。お金はシナーノ様が払ってくれた。結構いい額だったらしくって、掲示板に依頼が張り出された途端に何人かの人たちが取り合いをしていた。ギルドの人がその間に入ってくれて、「これまでの実績やギルドへの貢献度を加味して」って言って一つのパーティーを選んでくれた。『ビーゼン』っていう人たちだ。
ビーゼンは若い男女の4人パーティー。
リーダーで弓使いのワックさん、鎧を着た騎士風のジョートさん、魔法使いのコ・ジーマさん、さっきの喋る鳥を肩に載せた女テイマーのワッキさん。弓使いのワックさんとテイマーのワッキさんは双子の兄妹だ。
シナーノ様からギルドに最低限の事情は伝わっていたため、それをさっと確認したビーゼンの人たちは自己紹介もそこそこに出発の準備に入ってくれた。準備は男性陣3人でするみたいで、テイマーのワッキさんが僕と一緒にいて状況の詳細を聞く役目をしてくれた。
僕は自分の街チユーブでプルン分隊とポヨヨン分隊がそれぞれで役割を果たしていることから始めて、洞窟探索をしていたプルン分隊が罠にはまったこと、そしてそこから出られない状況も説明する。ワッキさんは無表情で聞きながら紙にメモしていく。そして全部書き終えるとペンを置き、机につっぷして動かなくなった。
どうしようかとオロオロしてたらお兄さんのワックさんが戻ってきてくれて突っ伏したままのワッキさんを起こしてくれた。起きたワッキさんは僕の肩を掴むとぐっと顔を寄せる。ワッキさん美人だからちょっと照れるんだけど。
「で、まず、なんでスライムをテイムしてるのか。それに50体ってなに? 分隊? 班? で、スライムが分離して遠隔伝達? はあ? はぁぁぁ?」
なんかワッキさんに鬼気迫る顔で詰め寄られてるんだけど、照れるほうが強くて正直怖いとかはない。鼻息をフンフンしていたワッキさん、ワックさんに引き剥がされてそのまま席に座らせられた。
それからそんなに時間が経たないうちにコ・ジーマさんとジョートさんも戻ってきてそのままチユーブに向けて出発となった。馬はビーゼンの4人がそれぞれ1体ずつ。馬を扱えない僕は誰かと一緒に乗ることになったんだけど、そこでワッキさんがすぐに手を上げた。お兄さんのワックさんもそこでは何も言ってくれず、そのまま僕はワッキさんの馬に一緒に乗せられてプルン分隊が待つ街チユーブに向かった。
―――――
ミーノ(テイマー)
従魔:スライム プルン隊(洞窟探索中・罠にはまり中)
ポヨヨン隊(美容サロン手伝い中)
持ち物:赤い宝石・無料馬車券
ビーゼンと出会う。
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