報告するぞ

「さあ、今日は報告に行くぞ」


 3泊して王都に到着した領主様御一行。


 昨日は山越えをしたんだけど、さすがに山は一味違った。狂暴な犬の魔物が出てきたんだ。それも5匹以上の群れで。怖かったけど、護衛の冒険者の人達が魔物を一匹ずつ群れからおびき出しては冷静に仕留めていった。なんでも元冒険者なんだって。腕を買われて領主様の専属護衛になった人たちだった。冒険者ってやっぱりすごい!


 そんなのが7回あって、僕は大丈夫だって分かってても緊張でぐったりしちゃった。領主様はさすがで、涼しい顔で護衛の人からの報告を聞いては紙に何かを書いていた。


 

 それでやっと山を越えることが出来てほっと一息。山の麓でみんなで休憩していた時に、僕、また小川を見つけちゃって。今度は領主様に行き先を伝えてから遊びに言ったんだ。ついて来てくれた護衛の人の見守りの中、ポヨンと小川の川底を見て楽しんだ。本当に綺麗だった。


 で、一頻ひとしきり堪能したからもう帰ろうと思った時だった。なにか川底に光るものがコロコロ転がっていたんだ。川の流れでどんどん流されていってしまうそれを僕が追いかけていると、ポヨンが細く腕を伸ばしてそっと取ってくれた。手に取って見ると、川底を転がっていたのは真っ赤な石、親指の先、そうそう、プチポヨンくらいの真っ赤な色をした宝石だった。そばにいた護衛の人がその宝石を見て、目をまん丸にして驚いてた。


 馬車に戻って領主様にもその宝石を見せたら、「この宝石には家が一軒買えてしまうほどの価値がある」って言われた。「そんな高価なものを持っていたくない」って言ったら領主様が預かってくれるって。凄くホッとした。そして僕らは山の麓を出発して、王都へ入って宿を取ったんだ。


 領主様はその日のうちに王城に行って王様への謁見を申し込みに行った。僕は僕でテイマーの冒険者を探しに行きたかったんだけど、護衛の人が「夜はガラの悪い冒険者がいるから明るい時の方がいい」って教えてくれたから、その日は宿でそのまま寝ることにした。それで朝起きたらポヨンの隣に領主様が寝ていた。



 で、今は王城の前にいる。領主様と二人だ。


 案内の人が来てくれたので、その後について王城に入る。因みに僕の今着ている服は領主様が手配してくれた服だ。領主様の館で執事の人に体中を計られて一日で作ってもらったオーダーメイド。これ貰っちゃっていいんだって。なんだかどこかの商家の跡取りみたいで凄くかっこいい。あ、そうそう、ポヨンはいつもの頭の上じゃなくて今日は肩の上だ。ちゃんと名札もつけてるよ。


 で、領主様と一緒に王の間に入ったんだけどなんか凄いんだ。豪華な赤い絨毯の脇にズラズラっと並んだたくさんの人たちがいて、右側にはキラキラした鎧を来た人達、左側にブカブカの服を着た人達が一斉に僕たちを見てきたんだ。


 僕、もうすごく怖くなっちゃって、チラッと隣の領主様を見たら深々と頭を下げていた。それを見て、ハッとする。そういや頭を下げるって言われていたっけ。僕も急いで頭を下げる。


 そしたら奥の方から誰かが拍手を始めたんだ。拍手がどんどん増えてきたところでピタッと止まった。一体何なんだろうと思っていると、領主様が僕の肩をポンポン叩く。見ると領主様はもう頭を上げていた。そして赤い絨毯の上を進んでいく。僕も慌てて一緒に入っていく。


 部屋の奥には5段くらいの階段があってその上に金ピカの椅子。座っているのは王冠を被って赤に金の刺繍の入ったマントを羽織った精悍な顔つきの人。そう、たぶんこの国の王様だと思う、その人がいた。王様って太っててニコニコしてるって何となく思ってたけど、そうじゃなかった。体格はいたって普通だ。


 そんなことを思っていると、隣の領主様から頭を下げるようにと服を引っ張られる。慌てて頭を下げると目の前から笑い声。


「よいよい、まだ8歳の子供だ。頭を上げて顔を見せてくれ」


 それを聞いて僕たちは頭を上げる。王様はニコニコ笑っていた。あ、やっぱり王様ってニコニコなんだ。


「シナーノよ、久々であるな。健やかであったか」


「はい、父上、なかなかお伺いできず申し訳ございません」


 え? 息子? シナーノ様は王様の息子? ってことは王子様って事?


「よいよい、シナーノがチユーブの街をしっかりと治めておることは余の耳にも入ってきておる。まあ、私的な話は後でゆっくりとするとしよう。その少年がトキオ王の盾を発見した者か?」


「はい、こちらの少年ミーノが使役しているスライムが森の大木の幹の中から発見いたしました。なんでも宝箱に入っていたとのことです」


 シナーノ様が王子様だってことを知って頭の中がグルグル回っている時にシナーノ様が僕に話を振ってくる。いやいや、ごめんなさい。ちょっと無理です。


「ほう、色々気になる点があるが、まずはミーノ、よくやってくれたな」


 王様が優しい声色で僕に向かって話しかけてくれたことで、僕の頭のグルグルも少し収まってきた。良かった。


「あ、はい。でも発見したのも盾を綺麗にしたのも僕ではなくポヨン隊がやった事です」


「ん? なんだそのポヨン隊とは」


 王様が興味津々といった感じで聞いてきてくれたから、僕はこれまでのポヨン隊の働きを伝えた。時々、シナーノ様からも説明してくれて無事に伝えることができた。シナーノ様に感謝だけど、でも王子様だってことはちゃんと教えておいてほしかった。


「ふう…スライムの50体という数も数だが組織化まで可能とは。マグン将軍は知っておったか?」


 王様が聞くと、一番近くにいた鎧のおじさんが一歩前に出る。


「いえ、スライムはテイム不可能と言われている魔物で、使役した記録はわたくしも読んだ記憶がございません。まして大量テイムに組織化などと」


「ん? 使役不可能とな。それほど強いようには見えぬがのう」


「いえ、強いのではなく弱すぎるのです。スライムはテイムできるまでに弱らせるとそのまま死んでしまうのです。かと言って体が自在に変化するので捕縛も叶わず、わたくしもそちらのミーノ殿の肩にスライムが乗っているを見て驚いています」


 部屋中の人たちの視線が僕の肩にいるポヨンに注がれる。ポヨンは「なになに?」って感じでプルンプルン揺れている。ポヨンには緊張とかないみたい。なんかうらやましい。


「王様、今日はスライムの話ではなくトキオ王の盾のご報告です」


 シナーノ様が話を戻してくれたおかげで皆の視線がポヨンから王様へと変わった。


「おお、そうであったな。ではトキオ王の盾を持ってまいれ」


 王様の呼び声に反応して後ろのドアが開かれる。そして4人の人が赤い板の上に立てられた盾をゆっくりと運び込んできた。はじめ部屋は静まり返っていたけど途中から耳を塞ぎたくなるほどの大歓声に変わった。


 盾が王様の前まで来ると王様が手を上げる。すると部屋がまた静かになった。


「皆の者、かの英雄王、トキオ王の失われた盾がこの王城に戻った。これよりこのワコーク王国は更なる発展を遂げるであろう」


 盾が高々と掲げられて、部屋中の人たちが両手を上げて何度も歓声を上げる。何度も何度もそれが続いてやっと終わった。もう耳がジンジンして大変だ。


「それではテイマーのミーノよ、褒美の話をするとしよう。何か欲しいものはあるか?」


 あ、そうだった。忘れてた。




 ―――――

ミーノ(テイマー)

 従魔:スライム プルン隊(洞窟探索中)

         ポヨヨン隊(美容サロン手伝い中)  


 持ち物:赤い宝石


0317最後尾に現況追加


 

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