盾の正体
銀色に光を放つ見事な装飾の盾。
領主様の目の前でポヨンが錆びた盾を綺麗にしたものだ。
でも、あの錆びたボロボロの盾、こんな綺麗な盾だったんだな。宝箱から出たのに錆びた盾だったから正直がっかりしてたんだけど。うん、これは嬉しい。すごく嬉しい。そして領主様も嬉し…ん? なんか様子が変だ。
「こ、この文様、ま、まさか、いやそんなことがあるのか…」
持ってたお茶のカップからお茶が床にこぼれてるのにも気が付かないなんて。さっきまでの領主様とは思えないほどに動揺してる。なんだかちょっと怖い。
「君、これは本当にあの森にあったものですか?」
「え、あ、はい。先ほど申し上げた通りです」
「そうですか。うーん、これは大変なことになってしまいました」
なんか雲行きが怪しくなってきちゃった。あ、そうだ。この盾はもう献上したものなんだし、僕はもう部屋を出て行っても大丈夫…あ、駄目だ。まだ許可証を貰ってない。
「君には申し訳ないですが、このまま少し待っていてくれませんか? もしかすると少し時間がかかるかもしれませんが…」
「あ、はい」
領主様は盾を担ぐとそのまま部屋を出て行ってしまった。もう脱出は諦めたほうが良さそうだ。どうしよう。もしかしてあの盾は見つけちゃいけなかったものだったんじゃ…
も、もしかしてあの森には見つけちゃいけないものがたくさんあって…、あ、ヤバい。今ポヨン隊が森の探索に出ちゃってる。また変なもの見つけちゃったら…どうしよう。森の状況を知りたい。
『わかった~』
え? だれ?
『ポヨンだよ~』
え、ポヨン話せるの?
『ポヨン隊ができたから~』
ポヨン隊ができたことでポヨンの声が聞こえるようになったらしい。まさかスライムがそんなことできるなんて…
ピョン ペト プルプル
僕の思いを感じたポヨンが僕の頭から飛び降りる。そして机の上で震えだした。プルプルもいつもより長めだ。なんだコレ?
僕が注目しているとポヨンの体の下の方からこぶみたいなのが持ち上がる。そしてそのこぶがプルプル震えだす。
ポンッ ペト
へ?
なんか…僕の手の親指の先くらいの塊がポヨンから分離した。
ちょっと、ちょっと、スライムって分離するの? いやいや、もしかしてこれは子供が生まれたということ? はっ、もしかして、こうやってスライムは増えていくの?
『子供じゃないよ〜』
再び頭の上のポヨンから直接頭へのメッセージ。どうやら子供じゃなくて分体ってことらしい。体の一部だけを別にした感じ? っていうか、そっちの方が凄いんだけど。
ポヨンのちっさい方、プチポヨンは勢いよくジャンプして窓から外に飛んでった。ポヨン曰く、あのプチポヨンが森の様子を本体のポヨンに伝えてくれるんだって。
なんか、スライム便利すぎるんだけど。どうなってるの、スライムって。
しばらく待っていると、どうやらプチポヨンから連絡があった様子。残念ながら森では順調に探索作業が続いてるらしい。特に大木の中を重点的に調べてたみたい。でももうすぐ大木は調べ終わるって。で、今のところ発見物は無し。ちょっとホッとする。
そこで領主様が帰ってきた。なんか領主様の後にあの執事の人と使用人の人も次々と部屋に入ってきた。領主様が執事の人に目配せをする。執事の人が一歩前に出る。
「先ほどは大変失礼なことをいたしました。シナーノ様よりその件お許しいただけたとお聞きしていますが、改めてお詫び申し上げます」
そう言って執事の人が深々と頭を下げる。それに続いて使用人の人たちも一斉に頭を下げる。
「あ、あの、大丈夫ですから」
僕があたふたしていると領主様が頭を上げるように言ってくれた。
「では改めてわたしからこの盾の献上に関して君にお礼を申し上げます」
今度は領主様が深々と頭を下げる。それに続いて執事の人と使用人の人たちが再び一斉に頭を下げる。
いやいや、領主様まで。じゃあ、今度はだれが頭を上げさせてくれるの?
心配していると、今度は領主様が頭を上げ、それに続いて全員が頭を上げてくれた。凄くホッとする。
頭をあげた領主様が僕を見て話し出す。
「この盾の事なのですが、これは今の国王様の5代前の国王様の持ち物だった盾なのです。この国を今の領土まで大きくされた英雄王、トキオ王。彼の時代、トキオ王がこの現チユーブ付近に遠征した際、この地の魔物のヌシに一飲みにされたことがありました。もちろん、トキオ王は脱出されたのですが、その魔物の腹から脱出するのにその時持っていた盾が邪魔になったため、盾を魔物の中に置いてきたという逸話が残っているのです。英雄王伝としてもよく聞くお話かとも思いますが…」
あ、そのお話なら母さんがよく読んでくれたから知ってる。
「実は、君が献上してくれたこの盾の文様をトキオ王の使用していた文様と照らし合わせた結果、全く同じものだと判明しました。かの文様は英雄王自らが考案し愛用した文様であり、トキオ王以降は使用が禁じられた文様。つまり、その文様を刻むこの盾はその遠征時にトキオ王が持っていた盾であるということを証明するものです。わたしはこれから急ぎこちらを王都に移送することになります。急ぎ準備を整え明朝に出発する必要があるのですが、発見者の君にもぜひ同行して欲しいのです。お願いできませんか?」
「あ、えっと、急に言われても…母さんに聞いてみないと…」
「大丈夫よ、行ってらっしゃい」
え? 部屋の入り口を見ると門番さんと一緒に母さんが立っている。なんで?
「あまりに帰りが遅いから様子を見に来たのよ。そしてら門番さんが案内してくれたの。大丈夫よ、いってらっしゃい。ちょうど学校も休みだし、いい経験になるわよ」
「こちらのご婦人が君のお母上なのですね。よかった。では決まりということでいいかな?」
「あ、は、はい…」
そうだな、もう森にはスライムはいないし。それ以外の魔物はテイムできる気がしないし。それに王都ならテイマーの冒険者もたくさんいるかもしれないしな。
「はい、じゃあ、ご一緒させていただきます」
なんか、凄いことになってきちゃったな。あの盾が…あ、そうだ。ポヨン、森のポヨン隊に伝えてくれる? またなにか見つかるかもしれないから。
今度は…岩の中でも探そうか。丸い岩じゃなくてトゲトゲした岩。小さな隙間があったらその中を探してみて。あとは…川の中とかも探してみようか。流されないように気を付けてね。
ポヨンからOKの意思が伝わってきた。
―――――
ミーノ(テイマー)
従魔:スライム
ポヨン隊(森の探索中)
英雄王トキオ王の盾を献上する。
王都へ領主様と同行する事になる。
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