領主様

「さあ、今日もテイム…じゃなくていろいろ頑張るぞ」


 昨日は森中のスライムをテイムして、ポヨン隊として組織した。そして森にポヨン隊の待機場所を作ろうとポヨン隊に指示を出したら、大木の中から錆びたボロボロの盾が出てきたんだ。


 とりあえず、盾は僕が持っておいて、ポヨン隊には作業を続けてもらう。それでなんとか夕方にはポヨン隊総勢50名の待機場所を確保できた。


 それで僕は元祖ポヨン隊の三人を両肩と頭に載せて街へ帰った。街へ帰ると、街の人が僕たちを見てザワザワしている。でも、これまでと違って鼻の穴を大きくしている人は一人もいない。不思議なこともあるもんだと家に帰るとその理由が分かった。


 僕が家に着くと中から賑やかな声が聞こえてきた。何かと思い、玄関を入るとたくさんの女の人が部屋にギュウギュウに入っていた。


 僕達に気付いた母さんが僕たちを呼ぶので行ってみると、賑やかだった家の中が急に静まり返る。変な気まずさを感じながらも母さんに連れられて部屋の真ん中の椅子に座ると、母さんが僕とポヨン、プルン、ポヨヨンを皆に紹介する。そして僕を見て自分の髪の毛を指差した。


 どうやら母さんは皆の前でポヨンの髪の毛シュワワーンをやって欲しいらしい。なるほど、何となく話が見えてきた。うん、母さんの頼みだ、もちろん受けるよ。


 ポヨンにお願いしてその場で母さんにシュワワーンをやってもらう。


 ポヨンが僕のお願いに応えて母さんの髪の毛全体を覆うように形を変えていくと、部屋の一部から若干悲鳴めいた声も聞こえた。けど、周りの人達がその口を押さえて黙らせていた。


 数分してポヨンの髪の毛シュワワーンが終わった母さんが髪の毛をこれみよがしにかき上げると、艶々のサラッサラの髪の毛が空中に靡く。


 すると部屋中に巻き起こる大歓声。何分もずっと鳴りやまない。母さんが女の人達からもみくちゃにされている。どうやら全員がシュワワーンを要求しているようだ。でも今日はもう遅いからって母さんは皆に帰ってもらった。


 皆が帰ってから僕と母さんとで話をした。どうも母さんはポヨン達と一緒にお店をやりたい様子。『美容サロン』っていうお店だそうだ。さっきのあの様子ならお店を開いてもやっていけるかもしれない。


 ただ、母さん、お店を開くには街の領主様からの許可証が必要なんだよ。学校で習わなかったの?


 

 と言う訳で、今日は森ではなく領主様の屋敷前に並んでいる。朝早くに来たのにもう10人以上が並んでいた。みんな何か手にお土産を持ってきていたから僕も持ってこなくちゃと思って、昨日、大木の中から見つかった錆びた盾を持って戻ってきた。そしたら新たに5人並んでいたので15人待ちになってしまった。


 ただ立ってぼうっと待ち続け、もうすぐお昼だって時間になってようやく屋敷の中に入ることができた。


 これでやっと出店の許可証が貰えると思ったんだけど、違った。やっとのことで入れたと思ったら、領主様の執事だって言う人が僕を見て渋い顔をしてきたんだ。そして僕が持ってきた領主様へのお土産を確認するとさらにひどい顔になった。


 そしていよいよ僕を追い出そうとしだした時、ポヨンがそれを見てさっと僕の頭の上に乗っかる。僕を守るためだ。ちなみにプルンとポヨヨンはここにはいない。森へ行ってそれぞれの分隊を指揮してもらってる。昨日みたいな宝箱が他にないか探してもらっているんだ。


 執事のおじさんは僕の頭の上のポヨンを見ると、門番をしていた大きな男の人を呼んできた。そしてその門番の人がポヨンを荒々しく掴み取ろうと手を伸ばしてきた。


「止めろ!」


 僕はつい大声で叫んでしまった。領主様の館ではくれぐれも失礼のないようにと母さんから言われていたのに。でもポヨンに手を出すことは全体に許せない。


 男の人は少し驚いたようだったけど、構わずにポヨンを掴もうと大きな手を出してきた。僕はポヨンを掴ませるものかとあちこち逃げ回る。すると執事の人が館の中から何人もの使用人を連れて来た。


 僕は懸命に逃げ回ったけど、背中に担いでいた盾が重すぎて捕まってしまった。そして大きな男の人にズボンの後ろを持たれて外に連れて行かれる。


「何事だ、騒がしい」


 玄関を潜ろうとしていた僕と門番の人の後ろから引き締まるような声がした。その声に僕は床に放り出され尻もちをつく。とっさにポヨンがお尻の下に入ってくれたので痛くはなかった。一瞬ポヨンが潰れるんじゃないかと焦ったけど、ポヨンは全く平気そうだった。


 周りが静かだったから見回すと、一人を除いてその場の全員が床に跪いている。そして一人だけ立って僕を見つめている人がいた。二十歳くらいの若い人。その人は僕から執事の人に視線を変えると、事情を説明するように命令した。執事の人が「子供が迷い込んだので追い出そうとした」って適当なことを言ったけど、若い人は僕のもとに来て頭を下げた。そして執事が失礼なことをしたと言ってくれた。全部お見通しだ、この人。すごい。


 僕はその人に連れられて部屋に案内される。


「改めて、わたしはこの街の領主をしているシナーノと言います。先ほどはうちの執事が大変失礼をしました。非常に有能な執事なのですが、たまに人を見かけで判断してしまう癖がありまして。どうか許してやってくれませんか」


 領主様だった。いや、たぶんそうなんだろうなとは思っていたけど、実際にそうだとちょっと緊張する。とりあえず、許すことを伝える。


「そうですか、それはよかった。ところで今日は何の要件でしたか?」


「母さんが美容サロンというお店を開きたくてその許可を貰いに来ました」


「ほう、お母上が。しかし、なぜお母上が申請に来なかったのです?」


「その美容サロンでは僕のテイムしたスライム達が作業をするので、実際にそれを見せる必要があるということで僕が来ました」


「なるほど、ではその頭の上のスライムは君の従魔と言う訳だね。ふむ、名札もついているし本当のようだ。ではその美容サロンというものをここで実演して見せてくれるんだね」


「あ、はい。実演したいので、女の人に協力してもらいたいのですが」


「なるほど、では用意しよう」


 シナーノ領主様が呼び鈴を鳴らすと、一人の女の使用人が入ってきた。さっき僕を捕まえようとした人の一人だ。


「君、そこに座ってくれるか」


 使用人の女の人は訳が分からないといった風にポカンとしていたけど、領主様が再度促すと急いで椅子に座ってくれた。


「じゃあ、ポヨンお願いね」


 ポヨンが使用人の頭の上にピョンと飛び乗る。もちろん使用人は悲鳴を上げたけど、領主様の一声でじっとしてくれた。そしてポヨンの髪の毛シュワワーンが始まる。


 領主様は興味深そうに見入っていたけど、シュワワーンが終わると普通の表情に戻った。逆に使用人の女の人は髪の毛を触りまくって「うそ、うそ」と何度も嬉しそうに繰り返しながら部屋を出て行った。


「なるほど、これはわたしも初めて見ました。これなら店を開いたとてすぐにつぶれることはないですね。いいでしょう、開店を許可します」


 領主様は再び呼び鈴を鳴らしてさっきの女の人を呼ぶと、一言二言伝えて去らせた。


「しかし、その歳ですでにテイマーとして活躍しているとは感心ですね」


 お茶を優雅に啜りながら落ち着いた様子で話す領主様。


「ところで、従魔はそのスライムだけなのですか? 他の魔物はテイムしていないのですか?」


「はい、スライムばかりです」

「スライムばかり? ということは他にもスライムをテイムしているということですか?」

「はい、全部で50体です」

「ブッ」


 優雅にお茶を飲んでいた領主様が飲んでいたお茶を吹き出した。慌ててハンカチで拭きながら僕を見る。


「50体ですか。本当ですか、それは」

「はい、『ポヨン隊』と言います。このポヨンが隊長をしています。ポヨン隊自体は今は分隊長の指揮の下で森で探索活動をしています」

「隊長に分隊長、もしかして班長もいたりするのですか?」

「はい、各分隊に4班があってそれぞれに班長がいます」


 僕はポヨン隊の構成を伝え、この前のポヨン隊の待機場所造りでの出来事を話す。班長から分隊長、隊長と来て僕に情報を伝えてきた事を。


 それを聞いてシナーノ領主様は腕組みをして唸る。


「まさかスライムにそのような知能があったとは。組織として機能するとは本当に『隊』なのですね」


 何度も頷く領主様を見ながら思い出す。そういやお土産を持ってきたんだった。


「領主様、その時に大木の中から宝箱が出てきたんです」

「ほう、大木の中からてすか。それは珍しい。なにが入っていたのです?」

「これです。今日、お土産にと思って持ってきたんです」


 僕は背中に背負っていた錆びた盾を領主様に見せる。


「ほう、これはまたボロ…、いや年季の入った盾ですね」

「そうなんです。なかなかの錆び具合なんですが……あ、ポヨン」


 話の最中にポヨンが急に盾の上に飛び乗った。そしてそのまま形を変えて盾を完全に覆う。それから始まるシュワシュワシュワワーン。数分後、そこには美しい装飾がこれでもかと施してある銀色の綺麗な盾があった。



 ―――――

ミーノ(テイマー)

従魔:スライム

ポヨン隊

 隊長ボヨン

  分隊長プルン(4班長)

  分隊長ボヨヨン(4班長)


 美容サロンの開店許可を貰う。

 ポヨンが盾を綺麗にする。



0316最後尾に現況追加

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