第43話 入国

 俺が戻ると既にホランド達も戦闘を終えていたようだった。死屍累々と共に簀巻きにされ喚く盗賊が5人ほど見える。



「アキ!終わったぞ!」



 頬に血をつけながら笑顔で手を振るホランドは一種のホラーであり、こいつの人となりを知らないと顔が引き攣っていただろう。



「とりあえず……6人か。俺がゴーレムで連れてくよ。」



 そう言い俺は魔法を展開する。殺された馬と、盗賊を引連れるためのゴーレム2体、計3体のゴーレムを生み出す。その後の警戒を怠らないために使用する脳の領域を増やす。悪魔との契約により増加した脳を、今の俺は20%、つまり脳2個分なら負担なく使用できるようになっていた。そのためゴーレム3体程度なら扱えるのだった。



「アキ、お前ゴーレム使うのかなり上手くなったよな…。」



 しみじみとホランドは呟く。それとは反対に、シャウさんが俺の肩を掴むとプルプルと震え出した。



「シャ…シャウさん…?」


「アキさん!!!うちで働きませんか!?!?このゴーレムの練度、何体まで生み出せるんですか!?!?形状は!?!?革命が起きますよ!?!?」



 興奮するシャウさんは、サリマ王国付近に近づくまで延々と続いたのだった。




△ △ △




「よし次!!……おおショルさん!お久しぶりです!……積荷は……なるほど、いつもの魔導書ですね。ところで後ろのソイツらは…?」



 サリマ王国の門兵が荷台の後ろでのびている盗賊に目をやる。ホランドが前に出て説明する。



「俺達は今回の護衛の冒険者だ。こいつらはその道中で襲ってきた盗賊。懸賞金とか確認してくれるか?」



 そう言いながら冒険者の証であるドックタグを見せる。俺も慌てて懐から出す。俺のタグはDランクの銅色。そしてホランドとカティが持つタグは銀色であった。



「ホランドもしかして!?」


「あぁ、俺たちのランクはCだ!」



 ドヤ顔をこれでもかと見せつけるホランドであった。



 盗賊達は門兵達に再度拘束され牢屋へと連れていかれる。これから余罪も含め取り調べを行うそうだ。



「それじゃあ皆さん、今回はありがとうございました!ギルドにはこちらから連絡しておきますのでサリマ王国を楽しんでください!」



 ホランドと俺はお互い頷くと噂のオークション会場へと向かおうとする。するとシャウさんが俺を呼び止めた。



「アキさんは少し時間を頂いても宜しいですか?」


「ええと、一緒の仕事の話はちょっと…。」


「あぁ、その件じゃありませんよ。…ウチの爺様が話したいそうです。2人きりで。」



 突如真剣な表情を見せるシャウ。



「…わかりました。ホランド、今日の夜に冒険者ギルドで落ち合おう。」


「ん?おう、わかったぜ!行くぞカティ!」


「ちょっとホランド!財布は私が持ってるのよ!?」



 2人は瞬く間に走り去っていった。



「では私達の店に来てください。…といいつつ、店までゴーレムでまたお願いできますか?」



 再びシャウさんは砕けた表情に戻った。




△ △ △




 馬型のゴーレムにてサリマ王国城下街を練り歩く。街はかなり賑やかで、至る所で商売が盛んに行われていた。建物も立派なものばかりで、まさに見上げるほどの高さの建造物がズラズラと並ぶ。話を聞くに、それら全てが商いを行っているらしい。


 オークションで有名なこの街、いやこの王国はありとあらゆる物が揃っていると評判なのだ。衣食、さらには他国の土地何かも扱っているらしい。


 そして俺達はショルさんがこの街で経営している店についたのだった。



「私達は色んな国や地方に行き、魔導書を買ってここで売っているんです。…まぁ実際のところ取引の為にほとんど店にはいないんですけどね。」



 シャウさんが苦笑する。

 店は随分と立派なもので、こだわりを節々に感じる装いだった。色合いも落ち着いた白を基調とした店内で、しかしこの世界基準で見れば相当高価なガラス細工や彫刻を壁にあしらっていた。店内は魔導書がズラリと並んである。


 この魔導書というのはとても高価なものであり、この世界に僅かに存在するといわれている「スキルを本にコピーするスキル」を持つ者が、魔法を書き記した物のことを魔導書と呼んでいた。

 そのスキルを持たずとも同様の力を扱えるのだから、高くなるわけで。とりわけショルさんが経営しているこの店では、より高価なスキルを扱っているそうだ。



「アキさんが持っている土魔法の上位までは流石にありませんけどね。…まぁ世間話はここまでにしておいて、こちらへどうぞ。」



 俺達は店の奥へと進み、応接室のような部屋へと案内される。



「それじゃあ爺様…。私は席を外しますので、お2人でどうぞゆっくり。」



 そう言い残すとシャウさんは足早に去っていった。…彼の通訳がないと会話できないんじゃないのか?

 向かい合ってソファーに座り合う俺とショルさん。これは俺が話を切り出した方がいいのか?何て考えていると、先に動いたのはショルさんだった。



「お前さん、持っとるじゃろ。」


「!?…ショルさん、普通に話せたんですね。」


「…まぁな、ああしておくのが色々楽なんじゃ。」



 先程までの年相応といった態度から急変し、ショルさんの目はギラギラと若者のように熱を持っていた。



「ええと、それで持っている、とは?」


「何、この部屋はもうお主とワシ以外会話できん。安心していいぞ。」



 俺の背中に嫌な汗が流れる。俺はこの状況と同じ体験をした覚えがあった。それも最近。



「禁術、といえば話が早いかの?」



 どうして立て続けに禁術を知る高齢者と出会うのか、俺は心の中で天を仰いだ。

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