第42話 盗賊
馬車に揺られ、ホランドの皮鎧の金具がカチャカチャと音を立てる。窓から香る草の匂いが新しい土地の予感を伝えてくる。
荷台の端々には監視カメラのようなゴーレムが4体四方を監視しており、うつる景色全ての情報が脳に送られてくる。
旅の共は5人。俺とホランド、カティの護衛3人に、商人のショルさんとその孫シャウさんだ。
ショルさんは齢70は越えていそうなベテランで、瞼は弛み目も開いているのか分からない。声も枯れており時折何を話しているのかわからない。その為か、孫のシャウさんが通訳しているのだった。
「サリマ王国まではあとどれくらいなんですか?」
ホランドがショルさんに尋ねる。ショルさんは皺が刻まれた手を添えシャウさんの耳元で何かを話す。まるで何かが擦れるような、僅かな音。それを聞きシャウさんは頷くと俺達をみる。
「あと1時間程度です、ここらへんは盗賊が出るらしいので、注意をお願いします。」
盗賊。この世界にも盗みを生業にする輩は存在していた。特にスキルという超常の力があるためか、盗賊も容易く捕まることはなく、年間で多大な被害がでている。
盗賊と聞き、俺とホランド、カティはそれぞれ警戒を強める。
そんな俺達を他所に馬車は相も変わらずカタカタと進んでいく。そして予想していた展開が訪れる。
遥か前方から高速で矢が飛来し、荷台を引く馬の眼球に突き刺さったのだ。
馬は悲鳴をあげ暴れ出す。突然の揺れに馬車全体に緊張が走る。
「アキ、前を見ろ!」
再び矢が飛んでくる。俺は土壁を生み出しそれを防ぐ。しかし同時に後方から武装した集団が姿を現す。装備は鉄鎧や薄い獣の皮など統一感はないが、全員どこか血で汚れた後がある。盗賊だ。
「アキ!ショルさん達を隠せ!俺はコイツらと戦う!カティは援護!」
ホランドの掛け声と共に俺とカティは動き出す。
馬車全体を岩壁で多い、シェルターの様にする。その上で地魔法にて矢の飛来した方向を探知。すると遥か数km先に動きを感知した。
「おいおい何て精度だ…。」
恐らく遠投関係のスキルだろう。俺が探知したのを知ってか知らずか移動しながら俺に向かって矢を放つ。矢は俺の足や頭を正確に狙ってきておりそれを何とかいなしながら近づいていく。
ホランドとカティは盗賊達を危なげなく対処しているようだった。カティのもつ感覚魔法により通常の数倍の五感になったホランドは最早目が数十個付いているような反応をみせ、四方から襲いかかる盗賊を切り倒していく。カティも自身に狙いを定める盗賊の視界を奪うと短剣で急所を切りつけていった。
俺は目の前にいる弓使いと相対する。背中には大量の矢がストックされており、今も弓を番えている。相手のスキルの正確な情報がないため、ここで策なく接敵するのは危険すぎる。まずは手始めとばかりに相手の足場を液状に変化させる。
僅かな地面の変化に気づいたのか、魔力の動きに気づいたのか、盗賊は即座に後方へ移動し弓を放つ。その速度は今までの遠投とは訳が違い、数倍の速度であったが、既に生み出していた土壁によりそれを防ぐ。
盗賊は顔色変えず2発、3発と打ち放つ。既に展開していた魔法によりそれを防ぐが、状況は膠着しつつあった。
そこで俺は練習していたとある作戦を実行する。
魔法にて特大の土煙を起こした。
△ △ △
盗賊ケリテは突然巻き起こった土煙に動揺すること無く次の矢を準備する。彼の持つスキル【約束された行末】は所謂オートエイムとホーミングが彼の投げる物全てに適応されるスキルであった。
ケリテは元々幼少期から村でも随一の弓使いであったが、スキルを手に入れてから周りからの目線が変わったことに気づいていた。
ケリテは無き父のために弓の努力を惜しまず、スキルなど無くても的を外さぬ腕前であったが、スキルによりそれが必然になった為かどんな高度な技を行おうが全てスキルのおかげと揶揄されるようになったのだ。
ケリテはそれが我慢ならなかった。自らの努力が、全てこのスキルのおかげとなったことに。神を恨んだが通じることはなく。ケリテは早々に村をでた。その後冒険者として街を転々としていたが、小さい頃から燻っていた承認欲求は徐々に形を帯び、集団での協調性を欠いていった。
行き着いた先は雇われ盗賊であった。
しかしそんなケリテでもひとつポリシーがあるとすれば「人を殺さない」ことであった。
あらゆる部位を遥か遠くから打つことの出来るケリテだからこそ、頭を狙ってはいるが正確には頭スレスレの場所を狙い、衝撃で昏倒させる、といった神業的芸当が可能だった。
今目の前にしている男も強さを感じるが自分が対処できない相手ではない。
最早スキルを頼ることに何の抵抗も持たないケリテは土煙の中スキルが反応した方向へ矢を放つ。相手は土魔法か、それに類する物のためゴーレムなどの変わり身の可能性もある。しかしスキルが生命だと反応している為に迷うことなく狙ったのだった。
土煙越しでも明確に脚に矢が刺さったのを確認できる。これで無力化出来ただろう。
矢を構えつつ近寄るとそこには砕けたゴーレムが横たわっていた。
そんな馬鹿な!?焦るケリテは後方を振り向くがそこで記憶が途切れた。
△ △ △
俺は目の前で気絶する盗賊を見下ろす。何とか作戦が上手くいったようだ。
俺がやったのは簡単で、俺の形のゴーレムを生み出し、その中にファイが入るというものだ。
旅の途中小さなゴーレムで試したのだが、ファイ、いや恐らく精霊全般にいえるのだろうが、人形などの物質に入り込むことでそれを動かすことが出来るようだ。
憑依に近いそれは精霊に肉体を持たせられるようで、ファイはとても気に入っていた。
相手のスキルがオートエイムか、それに近いものであることは分かっており、それが生き物、俺に対して適応されていることも先程の1戦でわかった。
そのため、ファイの憑依したゴーレムが生き物扱いになるか微妙なところであったが成功したようだ。
俺は背負っている矢と弓を壊し、手足を鉄の鎖と手錠を使って拘束する。こいつをどうするか、ホランド達と話そう。俺は盗賊を抱えるとホランド達の元へと向かった。
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