第36話 覚醒※
※あまり好きな表現ではありませんが直接的な虐め描写、並びに性的暴行がメインの回となります。不快になられる方は読み飛ばしてください。次の回で軽いあらすじを載せます。
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自分の席が無くなっていた。
バケツで泥水をかけられた。
制服を切り刻まれた。
なんで私がこんな目にあっているのか、という思いだけが積もり積もっていく。心の奥深くで憎しみがマグマのように熱を持ち、今か今かと吐き出されるのを待ち構えている。
虐められ続けても尚ミレーナが学園に通い続けるのは一重に親への孝行のためであった。
自分を学園に送り出した時の自慢げな顔、最後まで私を心配した姿。学園では落ちこぼれであり虐められてすらいる、なんて知られたらどれだけ心労をかけるか容易に想像できた。
でもそんな思いも徐々に、形が揺らいでいく。それほどまでにここ最近のミレーナに対する虐めは苛烈さを増し、とうに虐め、と称される限度を上回っていた。
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「あー、なんかイライラする……。スカッとすること出来ねぇかな?」
「ねぇ、私にいい考えがあるんだけど。」
「なんだ?」
「あの落ちこぼれいんじゃん。アイツ。」
「ああ、お前が虐めてるアイツ?てか女子ってコエーわ。陰湿陰湿。」
責め立てるような口ぶりであるが、その実、様子を見て笑っていた。
現在の虐めの主犯であるマリー、そしてその恋人であるルサンは人の居なくなった教室にて乳繰りあいながら学園でも腫れ物扱いのとある少女について話す。
「アンタの友達の……サルマンだっけ?アイツ、ミレーナの顔が好きって話してたじゃない。」
「そうだったか?よく覚えてんな。」
「ねぇ、アイツ拉致って犯させない?」
「はぁ?お前マジで言ってんの?」
「何、拒否るわけ?」
「いや、拒否とかじゃなくてそれはやっちゃいけないだろ。……正直なところ、お前らの虐めも度が過ぎてるし、見るに堪えない。いい加減やめたらどうだ?何も得られ…………そうだな、いい考えじゃんそれ!」
突如糸が切れたように下を向くルサン。口からは無制御にたらりと涎が落ち、制服のズボンを汚す。一瞬で意識を取り戻したのか口を拭い、興奮したように同意し始める。
その様子に満足気なマリーは捲し立てる。
「…………でしょ?!ルサンならそう言ってくれると思った!なら早く連絡してよ!アイツが泣き叫ぶ姿を早くみたいわ!」
「待ってろ、今サルマンに精霊飛ばすから……。いやどうせならサルマン以外にも人呼ぶか!俺の後輩で女を知らねぇやつがいるし、練習台になってもらおう!」
「いいわねいいわね!」
学生という年齢でありながら、他人の一生を簡単に壊しかねない事柄をまるでその場の雰囲気で計画する男女。その目は一見正気のようであるが互いに焦点はあっておらず、何かに取り憑かれた、まるでそう行動が決められたかのように言葉を発していた。
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ミレーナはボロボロになった制服の代わりに簡素な服を買い、街の外れへと向かう。
この制服を着て見せた時、両親はとても喜んでいたな、と心にチクリと何かが刺さる。彼女は何もしていないはずだが、彼女の周りの琴線に触れたのか行動はエスカレートしていく。
自分の使えないスキルを思い浮かべ、歩きながら溜息をつく。
このスキルさえ使えればきっと学園でも普通の生活ができるはずなのに。そうすれば両親に大手を振って会いに行けるのに。とても恋しい気持ちでいっぱいだった。
変わって数日前に出会った同い年くらいの少年について思い馳せる。
自分が暴漢に襲われた時に颯爽と現れ助けてくれた、あの冴えない少年。
その顔立ちとは裏腹に明らかに高価な金属製の義足を持ち、顔以外のほとんどは手袋やローブで覆われていた、何かアンバランスな少年。
救いの手が差し伸べられずに数年経つミレーナにとって、彼はまさしく白馬の王子であった。
精霊についてもっと勉強して、彼に教えてあげたい。もっと彼について知りたい。考えるほど頭の中はあの少年、アキのことで溢れていく。思わず赤面するミレーナだった。
襲われた時の事も考え、今日は人通りの多いところを通って早く帰ろう。そう考えていると目の前に誰かが立ちはだかる。
その姿は彼女が嫌という程見知った姿であった。
「……マリー……ちゃん。」
「ミレーナ、こんばんわ。……少し話さない?」
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「本当に、今までごめんなさい。」
突然マリーは頭を下げる。
「マリーちゃん!?」
「私、貴方に本当に酷いことをしてきた。謝りたいの。ごめんなさい。」
それは予想外、予想外過ぎる出来事であった。いつも私を虐めるリーダーだった、精霊科でもトップクラスのマリーちゃんが、突然私に今までの虐めについて謝罪してきたのだ。
「私、目が覚めたの。貴方の制服を破るとか、子供じみたことをして。どうか許してくれない?」
そう上目遣いでマリーは話す。
怒りの矛先が潰えるような、肩透かしを感じる。
ここで本来であれば怒るべきなのだろうが、ミレーナには出来なかった。
それは今までの事を棚に上げようとするマリーの身勝手さに対する怒りより、これからは普通の生活が送れるかもしれないという安堵が勝ったからだ。 加えてアキの存在も大きいだろう。実際に話した時間は僅かではあったが、あの瞬間が、彼女にとってはもう何時間という濃密なものに感じていたのだった。
「それで、今日私の友達も貴方に会いたいって言ってるの……。来てくれる?」
「う、うん。いいよ……。マリー……ちゃん。」
「ちゃんなんて要らないよ!私達友達でしょ?マリーでいいわ!」
「……うん!マリー!」
突然周りがひらけ、明るくなったかのように感じた。これが自分の望んでいた生活。友達に学園。……そして好きな人。恋バナをして、夜遅くまで遊んで、勉強して。
そんな年相応な日常が待っているんだ!
ミレーナはマリーの後を疑うことなく着いていく。
着いた先は路地裏にひっそりと立つ廃屋にも見える建物であった。
「マリー、ここは……?」
「……私の友達、実は貧乏なの。……やっぱり嫌かな?」
「ううん!大丈夫!私も貧乏だったから!」
「そう!それじゃ入って!」
マリーに促され扉をあけ中に入る。部屋は物が余りなく、閑散とした印象であった。照明の類はなく、部屋の奥までしっかり見通すことが出来ない。
「マリー、それで友達は?」
ミレーナがマリーに問いかける。
返答はなく、ただガチャりと無機質な鍵のかかる音が耳に響く。次に人の足音。ゆっくりと1人、2人、3人と近寄ってくる。
「マリー?……マリー!?」
「やっぱり顔はいいよなぁ……それじゃ体はどうだろうな!!」
下卑た顔をした青年がミレーナに覆い被さる。その力はまだ年頃である彼女が抵抗するには強く、抗うことが出来ない。
「先輩あんまりベタベタにしないでくださいよ……?」
「おうよ!おい!魔道具つけとけ!」
暗闇に少し慣れたのか部屋の中が見えてくる。そこは人が住んでいるとは到底言えない老朽化した場所であり、自分を見下ろす幾人もの男達の笑顔が目に飛び込んでいた。
△ △ △
曲がった腕の感覚はなく、今も男達の荒い息がきこえる。
まるで耳栓をしているかのように、目隠しされているかのように、頭も、目も耳も何かに覆われたような、ぼやけている。
かすかな視界に、ふわりと淡く光る何かが見えた。それは自分の下半身を貪る男の周りを旋回していた。
後悔も、怒りも、憎しみも、それを凌駕する強烈な飢餓感が突如ミレーナを襲う。
ミレーナは思わずその光る何かに無事な手を伸ばし、口に放り込むと思い切り噛み砕いた。
瞬間、彼女の中で確かにカチリと音がした。
△ △ △
「……何なのよこれ!?!?アンタ何したのよ!?!?」
マリーは目の前の状況に未だ理解が置いていていなかった。
気に食わない落ちこぼれの泣き叫ぶ姿を見たいがために、彼女は彼氏の知り合いである素行の悪い者達を嗾けミレーナを襲わせた。
彼女の期待通り、とてもいい表情をしていると満足していたのだが、突然ミレーナが猿のように発情していたサルマンが使役する精霊に手を伸ばすとそれを口に放り込んだのだ。
するとミレーナの体から信じられないほどの圧が生まれ、サルマンの体が弾け飛んだではないか。
ミレーナのような、スキルも使えない落ちこぼれが何をしたのか、彼女は不気味で、怖くて仕方がなかった。
「何をしたかって聞いてんのよ!」
マリーが金切り声を上げると、後ろで驚いていたサルマンの後輩の頭部が弾け飛ぶ。脳漿がマリーの頬に付着する。
悲鳴をあげるマリーには目もくれず、ミレーナはその後輩が使役していた精霊を握ると口に放り込み、また咀嚼しだした。口が動く度に、ミレーナから感じる圧が増していく。
「時が来るまで…。私のスキルの条件…かぁ。なるほどなぁ。」
独り言を空に向かって呟くミレーナは明らかにマリーを意識すらしておらず、その姿が恐怖でいっぱいだった彼女を憤怒で塗りつぶしていく。
「アンタ!!!許さないわ!!スターライト!!アイツを殺しなさい!!」
マリーが呼びかけるとその両手から陣が現れ、そこから狼の精霊が姿を現す。
スターライトはマリーが使役する精霊の中で最も強く、速い存在だった。このスターライトは5匹のゴブリンを瞬殺する程で、自慢の一体を呼び出し確実にミレーナを殺すつもりであった。
人間は精霊に触れられず、精霊は人間に触れられる。
圧倒的アドバンテージにより、ミレーナを嬲り殺してやろうと考えていたマリーであったが、興奮のため大事な現実を認識できていなかった。
ミレーナは突撃してきたスターライトの顔面は片手で掴むと、そのまま握りつぶした。
本来内蔵などが無いとされる精霊から頭蓋が、脳が、眼球が飛び出る。
ミレーナが精霊を喰らった時、生身の手で握っていたことを、マリーは考えていなかった。
まるで死骸に叢るハイエナのように、死したスターライトの四肢を噛みつき喰らうミレーナは、明らかに常軌を逸していた。
出血が無いためか見た目はそこまで汚らしくないが、その表情が、最早人の目ではない。
マリーは思わず腰が抜け、その場にへたりこんでしまう。
「ねぇマリー。」
「ヒィッ!?!?」
「……いいわ、私が馬鹿だったの。でもね、アンタの方が大馬鹿なの。死んで当然よね?」
「ヒッ……い……いや……。助けて……。」
マリーへ向けたミレーナの笑顔は、かつて彼女が村にいた頃よく親へと向けていた満面なものだった。
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