第24話 砂人

 突如現れた謎の男に困惑しつつ、警戒を続けるバン。



「……テメェ、何者だ?」


「……ここどこ?」



 明らかに気の抜けた声に転びそうになるのを抑え、相手を分析する。

 声の調子と外見から15かそこらのガキ、丸腰だが先程の爆発を考えると魔法使いと想定できる。加えて片足が……ありゃ昔見たことあるが魔金属の類だろう。あんなバカ高い物を使って義足を作るくらいだ。恐らくボンボンとみた。



「……ここは生きる砂漠の真ん中でさぁ!貴方様はどちらで?」



 頭の中で弾き出した答えは懐柔であった。そもそも先程の爆発を引き起こせる魔法使いであれば、自分のことをすぐに殺すことが出来る。加えて金持ちの可能性もあるため、バンは目の前の少年の事を道楽で魔法を使用する貴族だと予想づけた。

 実際にバンはそういう貴族を見たことがあった。貴族は有能なスキルや強力なスキルを持つ者を集め、自身の血族と交わらせることでスキルを受け継ごうと考えるものが多く、実際に多くの貴族がそれに成功していた。これは神曰く継承システムと呼ぶらしいが、それをキャラクターであるバン達が知ることは無い。



「……?貴方は?」


「俺ですか!!俺はゾーイと言いまして、ここらを旅しています!」



 偽名を使って取り入る。反応は半々。良くも悪くも関心が薄いようだ。

 少年はちらりとバンより下へと目線を落とす。そこには血塗れの少女が横たわっていた。



「彼女は……?」



 バンの人生の中で、今までで感じたことの無い恐怖が全身を襲う。目の前の、先程まで覇気のなかった少年からまるで騎士団長かのような猛烈な殺気が放たれていた。

 焦るバンは流れるように口からでまかせが溢れ出す。



「こいつは盗賊ですよ!!俺を襲ってきたので返り討ちです。安心してください、俺はこんな盗賊では負けないくらいには強いですよ。どうですか?俺を護衛に雇ってみてはいかがです?貴方様のようにお強い魔法使いであれば必要ないかもしれませんが、いざという時俺は便利ですよ!」


「返り討ちでそんなに執拗に攻撃するんだ。」



 ぎこちなく横たわる少女に目を向けるバン。先程までいたぶる様にナイフで致命傷にならないよう傷をつけていたため誰が見ても拷問されていたようにしか見えなかった。



「違うんです!こいつは……!!」



 バンが言い訳を放つ前に四方八方から岩の触手が現れ四肢に巻き付く。



「クソが!!」



 少年にナイフを投げつけるが、彼は一瞥もすること無く少女の方へ歩みを進める。ナイフが彼の体に近づくと融解し、液状となり地面に吸い込まれていった。



「どっちが悪いかは知らないからちょっと拘束されてて。」



 冷ややかな言葉を最後にゆっくりと触手に首を絞められるバンの意識は途絶えた。



「キサ!!!」



 それと共に武装した、横たわる少女と同じ柄のマントを羽織る集団が現れた。



「貴様か!!!許さぬ!!!」


「うーんと、話を聞いていただいても?」


「問答無用!!」




△ △ △




 悪魔との契約を果たし、空間から抜け出したと思ったら目の前にボロボロの少女とほぼ無傷でナイフを握る男。本来であれば被害者であろう少女だが、俺は前の出来事を知らない。本当に少女が盗賊だった場合も考え、男の意識を失わせ拘束する。


 すると遠くから少女の仲間であろう集団が現れると俺が犯人だと決めつけ襲われていた。

 ……まぁわかるし、俺も同じ状況だったら同じことをするだろう。


 何とか彼らを傷つけないよう、尚且つ拘束するように先程の男同様岩の触手を生み出す。すると彼らのうち1人が動きをとめ、ポツリと語り出した。



「岩を操る力……!?」



 同時に彼ら全員が動きをとめ、俺を凝視する。するとさらに1人が声を上げた。



「あれは!?!?神鉱でできた足!?」



 突如崩れ落ち、俺を拝み始めたではないか。中には涙を流す者もおり、困惑する俺は事情を聞こうと話しかけるも。



「砂人様……。ありがたや……。」



 と、手を合わせるばかり。



「とにかくこの子の手当をしませんか?」


「なんと慈悲深い!!!お前たち、キサを運べ!砂人様、こちらへどうぞ……、そちらの男は?」


「この子と一緒にいた男です。多分彼女を傷つけたのはソイツかな?と。判断がつかないので拘束していたんですが。」


「なんという公平さ!ソイツも運べ!!」



 恐らく集団のリーダーと思われる男性に着いていく。俺より身長は高く、180cm以上あるだろう。顔は凛々しく、俳優と言われても違和感のないほど整っていた。

 彼らの言う拠点への道中、砂人について話を聞くと。



「砂人様は、我ら砂漠の民が信仰する砂神様より力を与えられた、選ばれた者の事をいいます。我らの周囲へと生み出した岩の触手。そして何より貴方様のその右足。」



 男は恍惚の表情で俺の足を見る。



「神鉱によって出来た、その完成された神器!!我らの伝承にある通りです!!」



 彼らの伝承には、【砂神が顕現せし時、砂人と巫女が神より寵愛を賜る】と残されている。

 今担がれて運ばれるあの少女は数百年ぶりに生まれた巫女であるらしく、そこに砂人らしき存在である俺が現れたため、伝承が実現されると喜んでいるそうだ。……なんとも俺に都合がよすぎる。



「見えました!!あそこが我らが拠点でございます!!」



 砂煙の中にテントがちらほらと見えてくる。そのまま迎え入れられた俺はあれよあれよと着替えさせられ、仰々しいローブやら冠やらを着させられると1番大きなテントに連れてこられる。



「おお……砂人様だ……ありがたやありがたや。」



 テント内にいた、老人が俺を拝む。



「こちら我らゴナイ族の長老であるコシです。」


「砂人様、恐らく貴方は今の状況に疑問を抱いているでしょう。故に伝承を最も知る儂がそれにお答え致します……。すまんがキロ、席を外してもらえんか?」


「わかった。」



 テントから出ていくキロ。すると老人の両手から魔法陣が現れ、俺の数倍の速度で魔法が展開されていく。反射的に魔法を構築する俺だが、それより先に老人の魔法が完成する。

 しかし、何も起こらない。



「一体何をしたんだ……?」


「何、儂のスキルによって周りから聞こえなくしただけじゃよ。」



 老猾な笑みを浮かべるコシ。



「儂のスキルは【拒絶魔法】。魔力が届く限り、万物を拒絶することが出来る。今はテント外からの干渉を拒絶させてもらったわい。」


「何が目的だ?」


「だから言うておるじゃろう。疑問に答えると。」


「……じゃあ聞く。砂神とはなんだ?」



 コシは1つ溜息をすると、椅子に深く腰をかける。



「砂神とは文字通り砂の神さ。」


「俺の持っているスキルは地魔法。珍しいとはいえ全くいない訳じゃない。それに彼らの判断基準で言えば土魔法でさえ砂人とみなされるだろう。……けど、あの子、キサは専用のスキルまで持っているんだろう?」



 俺は違和感を口にする。



「あまりにもとんとん拍子すぎる。……改めて聞く。砂神とはなんだ?」


「……まぁそりゃ当然かね。」



 コシは奥から1冊の本を取り出す。かなりの年代物のようで、本の表紙は劣化して崩れており、ページも破れている部分も見られた。コシは数枚ページを捲ると、指をさして俺にみせる。

 そこには巨大なネズミの絵とともにそれについての情報が書き連ねてあった。そして、その情報の、正確には文字には見覚えがあった。



「これは……!!」


「これは儂の祖先から受け継ぎ続けている本。」


「禁術本じゃよ。」

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