第20話 決意

 それから俺は衛兵とアルホ侯爵に事情を説明した。侯爵の持つスキルにより尋問はスムーズに終わり、俺はすぐに解放される。しかし、失ったものはあまりにも大きかった。

 侯爵より謝礼の話があったが、全て断らせてもらった。俺が受け取るべきものでは無い。俺は彼女を守れなかったのだから。



「何かあれば頼ってくれ。いつでも待っているよ。」



 泣き腫らし赤くなった目で優しく俺を見つめる。その罪悪感から俺は足早にその場を去ることしか出来なかった。


 瀕死の状態で行った禁術により肉体は再構築され、失った右足はミスリルワームから吸収した。その際にワームのもつ魔核も吸収したようで、今までの禁術とは毛色が違うようだった。


 ミスリルでできた右足を摩る。肉体部分と完全に融合しており、継ぎ目は見当たらない。足自体が俺とは別の魔力を宿しており、別の生き物のような違和感を少し感じる。

 今まで以上に魔力操作が容易になっており、体内の魔力は倍以上に膨れ上がっていた。


 今強くなっても遅い。俺には後悔しか残っていなかった。




△ △ △




 ここ数日、マルトルの街の、端にある酒場で俺は延々と酒を飲み続けていた。禁術で肉体を変化させているからか酔いは一切こず、何も美味しいと感じることが出来なかった。


 横に誰かが座る。構わず飲もうとすると聞き覚えのある声が聞こえた。



「マスターこいつと同じの。……クゥー!?お前こんなの飲んでんの!?」



 ホランドだ。



「すまん、今そういう気分じゃない。」


「じゃあどういう気分なんだ?人を守れなくて悲しいか?」


「お前!!!」



 ホランドの胸倉を掴む。



「あのな。個人で依頼を受けた時点であらゆる最悪は想定すべき、だろ?」


「…そうだけど、そうだけどな!!!まさか!」


「まさか召使いが魔族…か?……そりゃあ想定するのも難しいさ。俺だって予知できないだろう。」


「それなら」


「それならしょうがない、か。そうなんだよ。しょうがないんだ。…今回お前が依頼を受けてようが、受けていまいがお嬢様は結局あの召使いに殺されたんだよ。それで?お前に何が出来たって言うんだ!?」


「……。」


「何も出来ねぇよな。そうなんだよ。人にはな。出来ることと出来ないことがあるんだ。お前は今回何でかは知らねぇけどまた強くなった。けどな、全部を救うことはできなかった。」


「周りのみんな全部助けようなんて、そりゃあちょっと傲慢が過ぎるぜ。」


「でも俺がワームを倒せていれば!!すぐに駆けつけ」


「でもそれは無理だった。」


「ぐっ……。」


「お前が死を悼む気持ちはわかるし、それは止めねぇ。けどな、全部自分のせいだと背負い込むのは違うんだ。あのお嬢様が殺されたのはお前のせいじゃない。魔族、ひいては魔王の仕業だ。」


「……〜〜俺も言いたいことが纏まらねぇ!!つまりな!!もっと強くなろうぜ!!俺も頑張るし!!!なんかあれば俺を頼れ!!俺はお前に救われた!!だから俺もお前を助ける!!以上!!じゃあな!!」



 ホランドはグラスをカウンターに置くと足早に去っていった。


 ホランドなりに俺を慰めに来てくれたんだろう。……情けないな、俺は。


 俺は今回の事を二度と忘れないし、俺の目の届く範囲では引き起こさせない。その為にすることは何か。

 魔王を殺す。あんな事、二度とあってはいけない。その為に俺はもっと強く、全部まるめて救える程の力を得なければいけない。

 俺はマスターに金を払うと酒場を後にする。



 途中申し訳なさそうに酒場にもどり、呑んだ酒のお勘定をコソコソと払うホランドをみて、少し笑った。

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